年代順に見るスズラン香水図鑑
スズランの香りは、ローズと草とレモンのあいだのどこかにあたる素晴らしく複雑で繊細な香りだが、名前のもとになったユリを思わせる、少しかすれた官能的な白さがともなっている。
ルカ・トゥリン
〝幸福の再来〟を花言葉に持つスズラン(鈴蘭)は、英語ではリリー・オブ・ザ・バレー、フランス語ではミュゲと呼びます。4月から5月に開花する花であり、フランスにおいて、5月1日は「スズランの日」として大切な人にスズランを贈る習慣があります。
イブがエデンの園から追放された時に、流した涙から生まれたと言われるスズランには、花と草と根の全てに有毒物質を持ちます。更にあまりに小さく繊細な為に精油の抽出が難しく、天然香料を使えないため、ほとんどのスズランの香りは、ヒドロキシシトロネラールという合成香料によって作られています。
時代によって、調香師によって、テーマによって、同じ〝スズランがメイン〟でも、見せる表情も様々です。そんな色々なスズランの香水について年代順にご紹介させて頂きたいと思います。
クラシックなスズラン(~1970年代まで)
不明
スズラン(サンタ・マリア・ノヴェッラ)
・フレッシュ/摘み取ったばかりの野生の鈴蘭
・神聖なる/厳かさ/『聖母マリアの涙』
・心を洗い清めてくれるハーブ石鹸のような
・肌を透かして心に咲くスズラン
1847年
リリー オブ ザ バレー(フローリス)
・優しく心に染み入るスズランの音色
・春を呼ぶ大自然の演奏会
・時代を超え愛され続けている鈴蘭の香り
1908年
ミュゲ(ゲラン)
・寄り添うゲルリナーデ
・フレッシュグリーン/花の精
・13個のベルが鳴るように〝幸せを呼ぶ〟
1936年
ミュゲ デ ボワ(コティ)
・フリージアのみずみずしさ
・もっとも自然のスズランに近い香り
・シャネルN°19を生み出した調香師の鈴蘭
1952年
ミュゲ ド ボヌール(キャロン)
・幸福の白いスズランを胸に咲かせる
・スズランの歴史的三大名香のひとつ
1956年
ディオリシモ(クリスチャン・ディオール)
・スズランが呼び覚ます感情を表現した香り
・エドモン・ルドニツカの名香
・世界でいちばん有名なスズランの香り
・ダイアナ妃がロイヤルウエディングで着用
1976年
リリー オブ ザ バレー (ペンハリガン)
・清らか/フレッシュグリーン/明るい
・ダイアナ妃の最愛のスズラン
・フレデリック・マルの最愛のスズラン
80年代のスズランの香り
1987年
プチサンボン(タルティーヌ ショコラ/ジバンシィ)
・背伸びをした少女の証し
・無邪気さ/清らかで澄み渡る鐘の音色
・イメージは『時をかける少女』
1988年
ジェシカ マクリントック(ジェシカ・マクリントック)
・ファストフードのような安定感
・永遠に色褪せないソーピィな香り
・全米でもっとも人気のあるスズラン
1989年
オダリスク(ニコライ)
・乳白色の肌から匂い立つスズラン
・スズランとジャスミンのフローラルシプレ
・向こうから歩いてくるクールビューティー
・アングルの「グランド・オダリスク」
90年代のスズランの香り
1995年
プレジャーズ(エスティ・ローダー)
・早朝の雨上がりの庭園/涙のあとの笑顔
・鈴蘭と白い花々をムスクでラッピング
・ピンクペッパーがはじめて使われた香り
・皇帝アルベルト・モリヤスのスズラン
1997年
エンヴィ(グッチ)
・美しい人工の光のファンタジー
・打倒「プレジャーズ」/グッチの幻の名香
・トム・フォードがはじめて作った香水
1999年
アクア アレゴリア ハーバフレスカ(ゲラン)
・TRPM8を刺激してくれる
・裸足で朝露に濡れる草原を駆ける
・マチルド・ローラン様の作品
・ハーブに癒され、安らぐスズラン
2000年~2010年のスズランの香り
2000年
リリー(コム・デ・ギャルソン)
・クリーミーな花々と共鳴し合う鈴の音
・グリーンすぎないスズラン
・大正浪漫溢れる〝鈴蘭の香り〟
2001年
ル ミュゲ(グタール)
・心まで温まる、やさしい余韻
・冷たくない温かいスズラン
・『レ ソリフローレ』コレクション
2009年
アクア ユニヴェルサリス(メゾン・フランシス・クルジャン)
・宇宙一の水=万能の水
・素肌と洗いたてのシャツの間にある清潔感
・レモンでもスズランでもムスクでもない
・スズランと高級石鹸の駆け引き
ミュゲ ブラン(ヴァン クリーフ&アーペル)
・鉄の意志を貫く、真の気品に満ちた
・そっとあなたの頬を撫でてくれるスズラン
・自然ではなく、ハイジュエリーの鈴蘭
2010年
カリヨン プール アン アンジュ 天使のカリヨン(タウアー・パフューム)
・トロピカル/クリーミー/レザー
・神聖さ/突然、悪魔が横切る/死臭
・天使と悪魔の二面性を持つスズランの香り
・空前絶後の傑作〝唯一無二のスズラン〟
2011年~2015年のスズランの香り
2012年
コロラトゥーラ(メゾン・フランシス・クルジャン)
・オペラの歌唱法「コロラトゥーラ」
・全世界100個限定/約20万円
・史上初の天然のスズラン(水蒸気蒸留法)
L.I.L.Y(リリー)(ステラ・マッカートニー)
・ペリゴール産トリュフの天然エキスを使用
・スズランが持つ白と黒の二面性
・ジャック・キャヴァリエのスズラン
2013年
インフロレセンス(バイレード)
・土臭さや木の香りは一切なし
・スズランと白い花々の開花する瞬間
・真っ白に燃え尽きていく夢の世界の花々
2015年
クリスタルブルーム スノー(ジル・スチュアート)
・透明感/大人の可憐さ/清らかさ
・イリスとムスクが生み出す雪景色
・再び春が訪れることを伝えてくれる鈴蘭
ミュウミュウ オードパルファム(ミュウミュウ)
・さらに、意外性のあるスズラン
・アキガラウッドを史上初めて使用した香り
・イメージは、アイコンバッグ「マテラッセ」
・ミュウミュウのファーストフレグランス
ミュゲ ド ロジーヌ(パルファン・ロジーヌ パリ)
・ローズガーデンに咲くスズラン
・スズランの香りに興味のない人にも
・国民的アイドル級スズラン
2016年~2020年のスズランの香り
2016年
アポジェ(ルイ・ヴィトン)
・心に静けさが宿る瞬間=絶頂
・二酸化炭素抽出によるローズとジャスミン
・キャヴァリエが日本人女性に捧げた鈴蘭
・ルイ・ヴィトンのスズランの香り
イエス アイ ドゥー 甘い謎(エタ リーブル ド オランジェ)
・マシュマロの甘さ/ジューシーな洋ナシ
・スズランの花束を持った乙女
・思春期のスズラン
ミュゲ ポースレン(エルメス)
・冷ややかさと軽やかさ
・繊細な美しさとしなやかな官能
・隠し味:バンブーノート
・伝統的な鈴蘭の香りの作り方を一切拒絶
・スズランの持つ毒性まで組み込む
・初代エルメス調香師の最後のエルメッセンス
2017年
ミュウミュウ ロー ブルー(ミュウミュウ)
・甘やかされ、育てられた美しい鈴蘭
・シトラスとフルーツは一切存在しない
・ラグジュアリーホテルの庭園に咲くスズラン
2018年
エッセンス レア(ウビガン)
・フローラル・アルデヒド/シプレ
・きらめくような緑の息吹=シプレ
・シャネルNo.5に対抗して生み出された香り
・ジャン=クロード・エレナのデビュー作
ジェイド888(エルメティカ)
・どこまでも洗練された、隙のない女性の横顔
・大音響ではなく、静かに清らかに永く続く
・肌に上品に寄り添うスズラン
パリ ビアリッツ(シャネル)
・潮風とシトラスを浴びる凛とした鈴蘭
・スポーティなマドモアゼル
・シャネル唯一のスズランの香り
ミュウミュウ ロー ロゼ(ミュウミュウ)
・ブラックカラントとのデュオ
・キュートに磨き上げられてゆくスズラン
・〝夢のようなお城〟にご招待された鈴蘭
ラッキー(クリスチャン・ディオール)
・美しさと脆さの境界線で静かに佇む
・鈴蘭の生っぽさが、凛と香る
・『21世紀のディオール』のスズランの香り
2019年
スプリングタイム イン ア パーク(メゾン マルジェラ)
・洋ナシ/フルーティ/みずみずしさ
・スズラン・ジャスミン・ローズのブーケ
・ルイ・ヴィトンの調香師の〝魔法のムスク〟
・天国で天使が一人誕生すると鳴るベルの音
2020年
すずらん2020(武蔵野ワークス)
・贅沢な〝普通のスズラン〟
・生活に寄り添ってくれる、白い鈴の音
・日本人による日本人のための鈴蘭
ベルベット ミュゲ(ドルチェ&ガッバーナ)
・クリーミーなマグノリア
・スズランの中に潜む官能性
・「キリアン」の調香師が生み出すスズラン
最新のスズランの香り
2021年
シンセティック ジャングル(フレデリック・マル)
・身も心も血液もグリーンに乗っ取られる
・スズラン版シャネル「No.19」
・合成香料で生み出されたジャングル
・グリーンの魔術師=アン・フリッポ
ミュゲ ド ボンヌール(キャロン)
・フレッシュ/グリーン/フルーティ
・洋ナシとスズランのシャーベット
・1952年のオリジナルとは全く違う香り
リリー&マグノリアブロッサム(モルトンブラウン)
・クリーミーで甘やかなマグノリア
・躍動する春/みずみずしさ/喜び
・コーンウォールの自然
リリー オブ ザ バレー(アクア・ディ・パルマ)
・フレッシュ/ジューシーグリーン
・スズランと柑橘が春の訪れを伝えてくれる
・イタリアの太陽に愛されたスズラン
2022年
ジャスト ブルーム(ヴァルモン)
・非常に珍しいスズランの香り
・纏う女性たちが花開くように
・雪解け水の鈴蘭と太陽のガーデニア