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【フレデリック マル】シンセティック ジャングル(アン・フリッポ)

アン・フリッポ
©FREDERIC MALLE
アン・フリッポフレデリック・マルブランド調香師香りの美学
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シンセティック ジャングル

原名:Synthetic Jungle
種類:オード・パルファム
ブランド:フレデリック・マル
調香師:アン・フリッポ
発表年:2021年
対象性別:ユニセックス
価格:30ml/18,150円、50ml/23,650円、100ml/34,100円

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「合成香料で生み出されたジャングル」

©FREDERIC MALLE

私は、自然が作ったものはすべて、人間が作ったものよりも優れているという考え方が大嫌いなんです。合成香料は安いが、天然香料は高くて良いという、無知な考えも大嫌いです。そもそも合成香料を使わない良い調香師など存在しません。

現代の香水は19世紀末から合成香料を使っています。それ以前のオーデコロンや香水は、はっきり言って面白みがありません。良い香水はすべて合成香料を使っています。逆説的ですが、合成香料によって、自然の香りをよりよく捉えることができるのです。

例えば、良いスズラン、ヒヤシンス、カーネーションは合成でなければならないのです。

フレデリック・マル

天然香料を使うと、古い香水の香りになってしまうというパラドックスがあります。だから、私たちが知っている自然を再現するには、合成香料が必要なのです。香水が面白くなったのは、化学が登場した瞬間からです。

フレデリック・マル

2019年に発売されたジャン=クロード・エレナによる「ローズ & キュイール」を最後に新作リリースが途切れていたフレデリック・マルが、2021年(日本では11月24日に発売)に、2年ぶりに出した新作が「シンセティック ジャングル」です。アン・フリッポにより調香されました。

「シンセティック ジャングル」とは、「合成香料で生み出されたジャングル」という意味です。ハイエンドな価格帯の香水が、絶対に付けたくない単語のひとつそれは〝シンセティック(合成)〟です。そして、このネーミング・センスこそがまさにフレデリック・マルの真骨頂とも言えるのです。

私のパレットは、400くらいの香料があるのですが、天然と合成の両方でできています。もし、合成香料を使わなかったら、私は仕事ができません。例えば、スズランの香りは、抽出や蒸留では得られません。合成香料を使って再現するしかないのです。そして、バラのような花の香りを引き立たせる場合も、私たちは合成香料に頼っているのです。

アン・フリッポ

グリーンの魔術師=アン・フリッポ初登場

フレデリック・マルとアン・フリッポ ©FREDERIC MALLE

匂い(a smell)と香水(a perfume)はまったく違うものです。花(a flower)とフレグランス(a fragrance)の違いと同じです。上質なフレグランスは、肌につけるのではなく、自分の中から出てくるような感覚でなければならないのです。

フレデリック・マル

フレデリック・マルの長年の夢は、本格的なグリーン・パフュームを作ることでした。しかし、それを依頼できる人になかなか出会えませんでした。やがて、マルは、ドミニク・ロピオンにより紹介されたアン・フリッポこそが、世界中のあらゆる調香師の中で植物(森林の香り、樹液の香りを含むあらゆる緑の香り)について詳しいことを知るのでした。

マルは常々、シャネル「No.19」(1970)とエスティ・ローダーの「プライベート コレクション」(1973)のようなグリーン・パフュームの古典的な作品の精神を、モダン・パフュームとして蘇らせたいと考えていました。

そのためアンに「プライベート コレクション」を土台にして新作を生み出していこうと提案したのでした。かくして、今となってはこの香りの中に存在するおばあさん臭い要素を、200種類ある配合の中から削ぎ落とし、5,6種類の成分(バジル、ガルバナム、ヒヤシンスなど)のみ残し、スズラン、ジャスミン、ブラックカラントを大量に加えたのでした。

すべてが可能でしたが、私はグリーンを中心にフローラルを構成したいと思いました。そして、スズランを選びました。

アン・フリッポ

ちなみにフレデリック・マルにおいてグリーンが強調されたフレグランスは存在しないわけではありませんでした。グリーンフルーティーな「ル パルファム ドゥ テレーズ」(2000)とグリーンシプレの「フレンチ ラバー」(2007、「ミス ディオール」を男性的に解釈した香り)です。

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アンリ・ルソーのジャングルの絵のような香り

《夢》1910年、アンリ・ルソー

〝グリーン・シンフォニー〟と呼びたい。アン・フリッポに、淡いグリーン(スズラン)と深いグリーン(ガルバナム)を結びつける限りなく黒に近いダークなものが必要だと言いました。

そこで彼女が登場させたのが、パチョリだったのです。さらに紫色のブラックカラントと黄色に近いグリーンのジャスミンも加わり、植物的で、シャープな、写真のようにリアルな香りが誕生したのです。

それはまるでジャングルの理想的な肖像画のようです。

フレデリック・マル

この香りには、アンリ・ルソー(1844-1910)の熱帯のジャングルを舞台にした絵画や、ジェームズ・キャメロン監督の『アバター』の世界観が色濃く投影させています。それはまさに大都会を征服するためのエネルギーを与えてくれる香りなのです。

もし、リアルなジャングルの香りを作ってしまったなら、そこには黄色っぽいものや茶色っぽいものがたくさんあり、湿った臭い空気が漂っています。だけど〝夢のジャングル〟は緑豊かなのです。

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身も心も血液もグリーンに乗っ取られてゆく快感

©FREDERIC MALLE

香りを表現する最も効果的な方法のひとつは、色で表現することです。

調香師と一緒に香りを開発する時に私は特定の香料を提案するのではなく、「もっと濃く」「もっと紫に」などと提案することもあります。そうすることで、解釈の余地を残しながら方向性を示すことができるからです。そして、その結果、私はときどき驚かされるのです。

誰もが色と香りを同一視する能力を持っていると信じています。

フレデリック・マル

「シンセティック ジャングル=現実を超越した合成ジャングル」という名のこの香りは、飢えて渇いた獣のような心に、ぱぁっと広がるようなファンタジックなアロマティックグリーンな香りからはじまります。

それは自然を愛する心を呼び覚ますようでありながら、どこか、大都会の中で安堵している心に不安を与えるほどの〝緑の炎〟の爆発のようです。

バジル、ガルバナムにジューシーかつ樹液のようなブラックカラントとルバーブのような酢酸スチラリルが溶け込んでいくことにより、ただ単にフレッシュグリーンなわけではなく、本当に生命力を感じさせる新緑のエネルギーに肌が包み込まれていくような感覚に囚われてゆきます。

すぐにスズランとヒヤシンスのフレッシュなフローラルブーケが加わります。この香りの素晴らしさと恐ろしさは、昔存在した東宝SF映画『マタンゴ』(1963)の世界観なのです。つまりは、キノコに乗っ取られていくように、全身が、ピリっとした戦慄と共に、緑の植物にものの見事に乗っ取られてゆく瞬間を肉体で体感できるのです。

ああ…最初は、スズランかガルバナムの爆発するようなグリーンの閃光が眩暈を覚えさせ、やがては、もっともっとグリーンに支配されたくてしょうがなくなるのです。しかも、香れば香るほど、このグリーンノートの中に潜む、大地や小花、獣の心までもが感じられるようになってくるのです。

シャープなグリーンになる寸前にクリーミーなグリーンで包み込んでいくところが、アン・フリッポのアン・フリッポたる所以です。彼女は、人間の肌の上に植物園やハーブ園の生命力を生み出せる調香師なのです。

やがて、スズランと樹液の中から、インドールの効いたジャスミンとイランイランが香り立つのです。そして、ガルバナム、パチョリ、オークモスによる温かみのあるレザリーなグリーンシプレに包まれ、身も心も血液もグリーンに乗っ取られてゆくのです。

ディプティックの「ロンブル ダン ロー」の持つ側面を連想させる香りとも言えます。ちなみに、アン・フリッポの第二弾の香りもほぼ完成しているとのことです。

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香水データ

香水名:シンセティック ジャングル
原名:Synthetic Jungle
種類:オード・パルファム
ブランド:フレデリック・マル
調香師:アン・フリッポ
発表年:2021年
対象性別:ユニセックス
価格:30ml/18,150円、50ml/23,650円、100ml/34,100円


トップノート:ガルバナム、ブラックカラント、バジル
ミドルノート:スズラン、ヒヤシンス、ジャスミン、イランイラン、アーモンド
ラストノート:オークモス、パチョリ

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