アメリカ版『セーラー服と機関銃』。その片手には、うさぎのぬいぐるみ
21世紀のファッション・アイコンとしての地位を、固めつつあるナタリー・ポートマン(1981-)。『スターウォーズ』シリーズにおいて、オードリー・ヘプバーンのアン王女の系譜をそつなく受け継いだ、彼女の始まりは、クリスティーナ・リッチら2000人の少女の中から役柄を勝ち取った1994年の『レオン』からでした。撮影(1992)当時ナタリーは11歳でした(撮影中に12歳になった)。
公開当時、世界中の男性の父性愛と同世代の少女の憧れを射止めた少女マチルダは約30年経った今では、大人の女性さえも魅了する〝不滅のファッション・アイコン〟となったのでした。
『タクシー・ドライバー』のジョディ・フォスター以来となる衝撃的なショートパンツの少女ルック。ミリタリージャケットとショートパンツの組み合わせをはじめて提案したのが『マチルダ・ルック』なのでした。
『マチルダ・ルック』はこうして生まれた。
マチルダには、後少し経つと大人の女性になる少女なのです。私の仕事は、マチルダを下品に汚すことではなく、その美しさを守ることでした。
マギャリー・ギダッチ
『マチルダ・ルック』を生み出した人、それは、リュック・ベッソンの『グレート・ブルー』(1988)の衣装も担当したマギャリー・ギダッチでした。
彼女は、ナタリー・ポートマンがマチルダ役を演じることになる前から、殺された弟の復讐に燃える12歳の殺し屋マチルダのスタイルを完璧に決めていました。
まず最初に、擦れたレザーブーツから始まり、「大人と子供の間のようなぶかぶかのフライト・ジャケット」、そして、ルイーズ・ブルックス(1906-1985)からインスパイアされたボブ・カットは決めていました。
つまり『マチルダ・ルック』とは、思春期の少女のみが、持ちうる無防備さが生み出す危うい雰囲気をひとつのファッション・スタイルへと昇華したものなのです。その極めてボーイッシュなショートパンツスタイルからむき出しになるカモシカのような脚。細い太ももから発散される禁断のシグナル。エンジニアブーツによって示される躍動感。
発散される若さ。大人の男性の心を掻き乱す〝美しき日々〟。当人はそんなことをまったく知らないのか、知ってなのかは、計り知れないところにこのファッションの怖さの本質はあります。
ヴィダル・サスーンのヘアサロンから出てきたばかりかのような頬の高さで切り揃えた、前髪ぱっつんのスタイリッシュボブ=マチルダ・ボブ。ネグレクト少女がこんなに素敵なヘアスタイルでいるはずがないのですが、そういった所が、この時代のリュック・ベッソンのファッション感覚の真骨頂とも言えます。
『レオン』の魅力は、マチルダのような現実にはあり得ない神話の人物を、現実にいるかのように見せることなのです。そして、そう見せることが出来たのは、やはりナタリー・ポートマンという奇跡の存在によってなのでした。
「大人になっても人生は辛いの?」
孤独の殺し屋レオンに、孤独の少女マチルダが尋ねる。「大人になっても人生は辛いの?」。
この台詞がこの少女が生きる地獄を伝えてくれています。彼女は大人から愛されたことがなく、ただ7歳の弟と一緒に涙を流しながら生きてきたのです。そして、弟が殺された時、彼女は12歳にして、もう失うものをなくしたのです。
マチルダのファッション1
ボーダーニット×ショートパンツ
- 白色のかぎ編みカーディガン
- ラウンドネックの赤茶と紫とグレイのショート丈のボーダーニットシャツ
- 太陽モチーフの黒チョーカー
- サイドにスカルが付いたブラウンレザーベルト
- カットオフしたショートデニムパンツ
- アニメ柄のレギンス
- こげ茶色のエンジニア・ブーツ
少女も少年も同じような格好が出来るマチルダ・ルック
少女だからこそ、ブラジャーを着用せずに直接ランニングシャツが着れる。しかし、案外成熟した女性にもこのルックはとても似合う。
健康美と退廃の美が奇妙に同居するアンドロギュヌス・スタイルの典型です。そして、このスタイルをマチルダという美少女に持ってくるところが実に上手いのです。ファッション・アイコンを生み出す作品は、絶対にファッションがストーリーの足を引っ張りません。
必要以上にファッションが目立ってもダメなのです。
マチルダのファッション2
グランジ・ルック
- 白色のかぎ編みカーディガン
- 黒のレースアップのクロップドトップ
- 太陽モチーフの黒チョーカー
- 蛍光グリーンの縁取りの白×黒ボーダーショートパンツ
- 白のルーズソックス
- 茶色のエンジニア・ブーツ
- リュックサック
作品データ
作品名:レオン Léon / The Professional (1994)
監督:リュック・ベッソン
衣装:マギャリー・ギダッチ
出演者:ジャン・レノ/ナタリー・ポートマン/ゲイリー・オールドマン