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【資生堂】沙棗(資生堂)

その他
©Shiseido
その他ブランド調香師資生堂香りの美学
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沙棗

原名:Saso
種類:オード・パルファム
ブランド:資生堂
調香師:不明
発表年:1987年
対象性別:女性
価格:50ml/3,500円

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君、徒(いたづら)に沙棗の香りを身にまとうこと勿れ。

山口小夜子様 ©Shiseido

山口小夜子様 ©Shiseido

1987年に資生堂より発売されたオード・パルファム「沙棗」は、〝シルクロード伝説・美女香妃の香り〟というテーマで生み出された香りです。1980年代、日本は空前のシルクロードブームに包まれていました。

特に、1988年4月23日から10月23日にかけて〝シルクロードの東の終着点〟と呼ばれる正倉院のある奈良県で『なら・シルクロード博覧会』が開催され、さらに同年映画『敦煌』も公開され、シルクロードブームはピークを迎えました。そんな中、発売されたのが「沙棗」です。

一番最初の広告は、山口小夜子様の資生堂における最後の専属モデル活動となりました。〝君、徒(いたづら)に沙棗(さそう)の香りを身にまとうこと勿(なか)れ。〟というキャッチコピーがこの香りの言語化に見事に成功しています。

©Shiseido

さらに1990年に、『敦煌』でツルピア王女役でデビューした中川安奈をミューズに〝いつも、を裏切る香り〟というこちらもまた素晴らしいキャッチコピーによって、この香りの言語化に成功しています。

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シルクロードに咲く花。セルジュ・ルタンスの原風景。

沙棗花

シルクロードのある西域に咲く砂漠の黄色い花〝沙棗花(さそうか)=ヤナギバグミ〟は春に咲く花です。こじんまりした花とは対照的に、甘く官能的な清香を放ちます。

香妃のモデルとされる「容妃」の肖像画。

香妃は、まつげが長く、唇はサクランボウのように赤く、漆黒の髪の毛はふくよかな両肩にたれ、すらりと背は高く、手は白玉の彫刻のように透けて見えた。

『熱河 – 皇帝の都』スウェン・ヘディン

そして、清朝の第六代皇帝の乾隆帝(1711-1799)の妃香妃が愛した花でもあります。この妃は、〝決して花でも、パウダリーでもない爽やかな甘い香り〟と共に現れ、男性のみならず女性さえも魅了したと伝えられています。

元々、乾隆帝が打ち滅ぼしたジュンガル王・アムルサナーの妃であり、西域生まれのウイグル人なのですが、当時50歳の乾隆帝がその美貌に惚れ込み、当時20歳だった彼女を妃にしたのでした。

ウイグル式の宮殿等を彼女のために作り、美しさを保つためにラクダのミルク風呂まで毎日用意させ、故郷から離れた寂しさを和らげようと帝は試みました。しかし、香妃は、常に短刀を胸にしのばせ、亡き夫の復讐を誓い、沙棗花の香りを嗅ぎ、涙を流しながら、決意を強めていたのでした。

そして、最終的に皇太后により、自害を命じられ、亡き夫に殉じ27歳のときに自害したという伝説があります。

そんな〝愛と復讐の香り=沙棗(SASO)〟は、『東洋のプワゾン』『和製プワゾン』とも呼ばれ、バブル期の日本において絶大なる人気を誇りました。

資生堂が生み出した「ノンブル ノワール」(1982)が、この「沙棗」を経て、「フェミニテデュボワ」に到達したと言って良いほど、セルジュ・ルタンスというブランドの原型とも言える香り。それが「沙棗」です。

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資生堂×高砂香料のシルクロード調査団とアンドロステノン

シルクロードを想わせる山口小夜子様

1985年に、香妃の香りの源である、当時、日本人でその香りを嗅いだものがほとんどいなかった〝沙棗〟を求めて、資生堂はシルクロードに調査団(資生堂の研究者二人と高砂香料の三人)を派遣したのでした。

このプロジェクトの責任者を務めていた資生堂の調香師の中村祥二氏は、「期待に胸を弾ませてかいでみたその香りは、私のまったく知らないものだった。花の香りには違いないが、エステル様の、強く甘い果実の香りを伴っている。それに、くせのある動物臭もある。その動物臭は、ビーバーの香嚢から取るカストリウムの、鼻からのどに抜けるような、鋭くて、手につくとたやすくは離れない、持続性と重さのある香りだ。後で分析して分かったことだが、それは桂皮酸のエチル・エステルが50%も含まれる、極めて珍しい組成であった。これが独特な香りに関係していた。このような成分組成の花の香料は、これまでは見出されていなかった」と語っておられます。

この稀有な花の香りを、中国から手に入れた香料を使用し、再現したのでした。

さらにアンドロステノンという80年代当時大いに話題になった揮発性ステロイドがこの香りには含まれています。それは雄豚の唾液から発見された物質であり、雌豚を欲情させる物質として人間からも汗として分泌されており、男性の不快な体臭の原因となる物質です。

人によってはバニラのような甘い香りに感じるこの物質をあえて含ませているところが、この香りの最大の特徴です。

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〝沙棗〟が生む魔界へと転生してゆく香り。

映画『魔界転生』(1981)の佳那晃子様。

映画『魔界転生』(1981)の佳那晃子様。


艶やかな黒い髪が揺れる後ろ姿と共に、閨房に消えていった女性の残り香に引き寄せられるように、消えゆくシトラスにフルーティなアルデハイドが掻き混ぜられてゆくように、ワインのような酔わせる甘さからこの香りははじまります。

シルクロードの伝説の美女・香妃が、時空を越え、日本の安土桃山時代の細川ガラシャ様(1563-1600)となって現れたように、それも『魔界転生』のガラシャ様のように、もっとも清純なるものが、もっとも妖艶なるものになり転生するように香りが移り変わってゆくのです。

さあ、朱塗りの魔界に引きずり込まれるように、アンバーとムスクが、閨房のシルクの布団をはだけさせ、透き通るようなガラシャ様の白い脚を露にしてゆきます。かようにして、女性にとっても男性にとっても効し難いスペルバウンドが生み出されてゆくのです。

めくるめく恍惚たらしむる官能の渦の中、甘い花蜜のようなイランイランとインドールの効いたジャスミン、華々しくも馥郁なローズ、可憐なるお嬢様の横顔を想わせるスズランが寄せては返す波のように立ち上る中、オリスルート(アイリス)とヴァイオレットが、ガラシャ様の全身から漂う、パウダリーな清純の極みを発散してゆくのです(このあたりから浮遊感たっぷりなソーピィーさに包まれてゆきます)。

〝君、徒(いたづら)に沙棗(さそう)の香りを身にまとうこと勿(なか)れ。〟の言葉が、心と肌で実感することが出来る至福の時が静かに訪れます。

世界の生き血を飲みつくすような驕慢な妖艶さと、岩間に清水を湧き出させ、砂漠に花を匂わせるような清純さの間で、はっきりと今日の自分がどちらに向かって進んでゆくのか決めていくことが出来るのです。

どちらに転ぼうとも〝和の世界観〟から一歩たりとも踏み外さないところが「沙棗」の恐ろしいところです。その眼差しを直視したとき、誘惑しているのか、醒めているのか、物の怪に憑かれているのか捉えどころがありません。

〝花の香りでも、果実の香りでも、緑の香りでも、木の香りでもない媚薬にして清香〟それがこの香りを的確に言い表す言葉なのでしょう。やがて、トンカビーンがフローラルの中で存在感を明らかにし、サンダルウッドとベチバーを従え、ガラシャ様の首に掛けられた十字架がオリエンタルな閃光を放つのです。

そして、ドライダウンと共に、閨房は全開され、ケイ皮酸エステル(強いバルサム臭)とシベット、ムスクのアニマリックな咆哮が、まろやかに、見事なまでのまろやかに舞い立つように、清純さと妖艶さの間を駆け抜けてゆくのです。

空前のフレグランス・ブームが到来する前夜の2015年に、ひっそりと廃盤になったこの香りが、今再び復刻すれば、香水愛好家の多くは、迷うことなく〝沙棗が生む魔界〟へと足を踏み入れることでしょう。

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香水データ

香水名:沙棗
原名:Saso
種類:オード・パルファム
ブランド:資生堂
調香師:不明
発表年:1987年
対象性別:女性
価格:50ml/3,500円

トップノート:アルデハイド、フルーティノート、ヒヤシンス、グリーンノート、ベルガモット、アマルフィレモン
ミドルノート:イランイラン、ジャスミン、オリスルート、ローズ、スズラン、ヴァイオレット
ラストノート:ベチバー、シベット、ムスク、サンダルウッド、アンバー、ベンゾイン、トンカビーン、バニラ

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