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【ゲラン】シャマード(ジャン=ポール・ゲラン)

ゲラン
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シャマード

原名:Chamade
種類:パルファム
ブランド:ゲラン
調香師:ジャン=ポール・ゲラン
発表年:1969年
対象性別:女性
価格:30ml/40,000円
公式ホームページ:ゲラン

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カトリーヌ・ドヌーブとサガンの香り

1980年 ©GUERLAIN

1971年 ©GUERLAIN

彼女(リュシール)は自分自身に偽るよりも恋人(アントワーヌ)に嘘をつくほうが良かった。

『熱い恋』フランソワーズ・サガン

1962年に四代目ゲラン調香師として20代半ばにして「シャンダローム」を発表したジャン=ポール・ゲラン(1937-)が早速次作のアイデアを膨らませている翌年1963年に、ジャック・ゲラン(1874-1963)が死去しました。

祖父ジャックへの哀悼の気持ちと、四代目としての新たなる決意を込めて題材を探していた中、フランソワーズ・サガンが、1965年に発表した『熱い恋』にジャン=ポールは心が奪われました。

『熱い恋』の原題は、「ラ・シャマード」。そして、1968年にこの小説は、カトリーヌ・ドヌーヴ主演により映画化されました(日本では『別離』という名で公開された)。

このサガンの小説からイメージを膨らませ、1969年に生み出されたのがこの「シャマード」なのです。7年の月日を費やしたこの作品のために、ジャン=ポールは、1300回以上の試作を重ねたのでした。

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史上初めてブラックカラントが使われた香り

1989年 ©GUERLAIN

1971年 ©GUERLAIN

彼女は眼をあけた。風が突然、決意したように、寝室にはいってきたのだった。

風はカーテンを帆に変え、大きな花瓶の花を床の方へかしげさせ、いま彼女の眠りに襲いかかっていた。

それは、春の、最初の風であった。林や、森や、土のにおいがした。

パリ郊外や、ガソリンで充満した街路を気ままに吹きぬけて、風は、かろやかに、誇らしげに、暁のなかを彼女の寝室にやってきた。

彼女が目をさます前に、生きる喜びを彼女に知らせるためだった。

『熱い恋』フランソワーズ・サガン

シャマードとは、ナポレオン時代において、軍隊の退却を示す太鼓を叩く音(=降伏の合図)という意味です。それは、新たなる愛を確信し、高まる心臓の鼓動の意味でもあります。

つまり「シャマード」とは、その愛に降伏した瞬間に一変する世界を表した香りなのです。

フレグランス史上はじめてブラックカラントバッド(カシス)が使用された香りです(ヒヤシンスがブラックカラントに恋に落ち、完全降伏する香りとも言えます)。

この香りを調香するということは、グリーンノートとフルーティーノートとアルデハイドの大戦争の中に飛び込むようなものだったはずです。

ジャン=ポールの天才性の秘密は、ガルバナムとブラックカラントという到底仲良くなれそうにない水と油な香料を、ヒヤシンスとローズによって仲直りさせたところにあります。

ティエリー・ワッサー

炸裂するガルバナムの香りに爽やかなヒヤシンスが絡み合うグリーンノートからはじまります。彼女の名は、リュシール、30歳。金持ちで豊かな教養を持つ50歳のシャルルの愛人として悠々自適に暮らす女性です。

そんな彼女が、(トロピカルフルーツと硫黄が付け合わされた)甘酸っぱいブラック・カラントとも言えるアントワーヌと出会うのでした。同じく30歳の彼は、42歳のブルジョワ・マダムのツバメです。

さぁ、二人の間に、アルデハイドとヘディオンにより、多彩な陰影を織りなすジャスミン、ローズ、スズラン、ライラック、イランイランの香りがパウダリーさを伴いながらふんわりと降り注ぎます。特に涼しげなスズランがブラック・カラントとヒヤシンスの豊かな香りを引き立てています。そして、降伏の銅鑼の音(=ゲルリナーデ)が二人の間に響き渡るのでした!

かくして、グリーンとフルーツがフローラルに包まれながら結びつき、この愛の瞬間を、バニラとサンダルウッドによって、より甘美なものに変えていくのでした。

この香りにおいて2つの香料が史上初めて使用されています。

  1. Sulfox 硫黄のようなフルーティーな香料(フィルメニッヒ社)
  2. ブラックカラントバッド のちに「ファースト」などにも使用されている

スムーズなグリーン・トップノートが数時間、いや数日間にわたって奇跡のように現れる。それはとても傲慢な香水です。しかし、エレガンスと詩情を描き出したマスターピースと言えます。

ルカ・トゥリン

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タマネギの涙よ、と誤魔化す。女のやせ我慢の美学の香り

1974年 ©GUERLAIN

1982年 ©GUERLAIN

私はその人の名をあなたに伝えることは出来ないが、この香りは、とても美しい一人の女性を念頭において生み出した香りです。

ジャン=ポール・ゲラン

レイモン・ゲランの遺作である、ハートを逆さにした(モチーフはボッティチェッリの「ヴィーナスの誕生」の貝殻である)ボトルデザインと、恋のキューピッドの矢を模したキャップが、「愛の降伏」をイメージしておりとても素晴らしいです。

更に言うと、このボトルデザインが連想させる半分に切断したタマネギのイメージは、失われた熱い恋の後で流す涙を、たまねぎを切ったから流した涙よと、誤魔化し、やせ我慢する「女の美学」を体現したものでもあるのです。

愛しすぎは、愛していないのと同じこと

フランソワーズ・サガン

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オードリー・ヘプバーンとグレース・ケリー

1956年のアカデミー賞にて、オードリー・ヘプバーンとグレース・ケリーの唯一のツーショット。そして、この年、グレース・ケリーはモナコ王妃になりました。

この香りが、発売されてすぐにオードリー・ヘプバーングレース・ケリーが愛用するようになりました。そして、カトリーヌ・ドヌーヴもこの香りを溺愛するようになったのでした。

ずっとゲランのシャマードだけを愛していた私が、フレデリック・マルに出会い、不貞を犯すようになりました。

カトリーヌ・ドヌーヴ(彼女はマルの著書の序文さえも書いているほどの友人)

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「シャマード」を「パウダリーフローラル」と呼び、「コンコルドがそう評されたように、これも宙に浮かぶ斬新な形だった。」

「重たい幕の後ろで小道具を動かす間、観客を延々と待たせるようなタイプの香水としては、シャマードはおそらく最後のものだろう。ようやくたどりつくドライダウンは、それはすばらしいもので、不思議に潤いのある粉っぽい黄水仙のアコードをもち、指先で花粉をこすり合わせたときの脂っぽい感じがする。」

「現代のシャマードも変わらずすばらしい芳香だが、ドライダウンまでの到達がぐっと早くなり、「ジッキー」でも見られるように微かにフラットになっていて、バニラ調を背景に、よりミルキーで落ち着いたものが感じられる。ともかく、これは傑作。」と5つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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香水データ

香水名:シャマード
原名:Chamade
種類:パルファム
ブランド:ゲラン
調香師:ジャン=ポール・ゲラン
発表年:1969年
対象性別:女性
価格:30ml/40,000円
公式ホームページ:ゲラン


トップノート:アルデハイド、ヒヤシンス、ベルガモット、ガルバナム
ミドルノート:ライラック、ジャスミン、ジャスミン、クローブ、スズラン、ターキッシュローズ、イランイラン、ブラックカラント
ラストノート:トルーバルサム、ペルーバルサム、サンダルウッド、アンバー、ベンゾイン、バニラ、ベチバー

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