究極のフレグランスガイド!各ブランドの聖典ページ一覧にすすむ

【セルジュ ルタンス】ドゥプロファンディス(深き淵より)(クリストファー・シェルドレイク)

セルジュ・ルタンス
セルジュ・ルタンス
この記事は約5分で読めます。
当サイトではアフィリエイト広告を利用しています

ドゥプロファンディス(深き淵より)

原名:De Profundis
種類:オード・パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:クリストファー・シェルドレイク
発表年:2011年
対象性別:ユニセックス
価格:100ml/40,150円
公式ホームページ:セルジュ・ルタンス

スポンサーリンク

21世紀最高のゴシック・フレグランス

©Vogue

©Vogue

死が私たちの中に忍び込むとき、その息吹は喪服の黒い縮緬をはためかせ、葬儀の花輪や十字架をくわえ、グラジオラス、菊、ダリアの花を波立たせます。それが聖地やガラパゴス諸島の花輪になったり、ニースのカーニバルの山車になったりするのなら、なおさらである!

もし柩が、豊かな花々に囲まれた故人をフランスの終の棲家へと運び、祭壇係、神父、葬儀屋、典礼係、墓守を率いて、彼らが悪徳商法に歓喜するような祝宴を開いていたらどうだろう。それはもう、神々しいことです!

フランス語では、美、戦争、宗教、恐怖、生と死はすべて女性的であり、挑戦、戦闘、芸術、愛、勇気、自殺、めまいは男性的な領域にとどまる。明らかに、死は女性である。彼女の不在は、奇妙な寡婦の状態を強いる。しかし、美は罪なくして成就することはできない。

菊の花は、この台詞を書くための唯一の口実である。菊の花は、永続的に保有される墓地を生命に引き渡し、この棲家でおなじみの菊の花は、死が墓地を出て、私たちにその花を提供するように誘う。De Profundis Clamavi(深淵より叫びぬ)

セルジュ・ルタンス公式サイトより

2018年11月にセルジュ・ルタンスより発売された、限られた店舗でのみ販売されている新しいプレミアムコレクション「グラットシエル コレクション」。「グラットシエル」とは、フランス語で「摩天楼」「超高層ビル」の意味です。

その黒のファセットガラスボトルのシルエットは、エンパイアステートビル、クライスラービルなど20世紀初頭から1930年代にかけてニューヨークに出現した世界初の高層ビルをモチーフにしたデザインです。2011年にクリストファー・シェルドレイクにより調香された「ドゥプロファンディス」も、このコレクションのひとつとなりました。

〝ドゥプロファンディス〟とは、ラテン語で〝深い淵の底から、どん底から〟の意味であり、1895年から1897年にかけて男色の咎により投獄されたオスカー・ワイルド(1854-1900)の獄中記のタイトルも同じです。

セルジュ・ルタンスが引退を考えていた時期に生み出され、21世紀最高のゴシック・フレグランスと言われている香りのひとつです。地獄にいちばん近い菊の香りです。

悲しみがあるところに、聖地がある。

オスカー・ワイルド

スポンサーリンク

ボードレールの『悪の華』の香り

©Vogue

1節【都に上る歌。】深い淵の底から、主よ、あなたを呼びます。
2節 主よ、この声を聞き取ってください。嘆き祈るわたしの声に耳を傾けてください。
3節 主よ、あなたが罪をすべて心に留められるなら/主よ、誰が耐ええましょう。
4節 しかし、赦しはあなたのもとにあり/人はあなたを畏れ敬うのです。
5節 わたしは主に望みをおき/わたしの魂は望みをおき/御言葉を待ち望みます。
6節 わたしの魂は主を待ち望みます/見張りが朝を待つにもまして/見張りが朝を待つにもまして。
7節 イスラエルよ、主を待ち望め。慈しみは主のもとに/豊かな贖いも主のもとに。
8節 主は、イスラエルを/すべての罪から贖ってくださる。

『旧約聖書』詩篇130篇

「深淵より叫びぬ」

神よ、わが愛する唯一のものよ、わが魂の陥ったこの暗い深淵の底に在って、み情けを乞い奉る。ここは見渡す限り船に鎖された寒々とした世界、夜もすがら漂うは畏怖と冒険。

熱のない太陽は続けて六月も頭上にかかり、残る六月は夜が地を被い続ける。ここは極地にも増して荒涼の土地、――― 動物もいなければ、小川もなく、青草も森もない!

それさえあるに、凍てついた太陽の冷酷な残忍さ却初の「混沌」に似た底知れぬ夜の醸す怖ろしさに優るものは何処にもあるまい。

冬眠の麻痺に落込む熊のある下等動物が羨ましくなるほどに時の流れはのろくさい!

『悪の華』ボードレール 堀口大學訳

しかし、この香りがイメージとしているのは、明らかにボードレールが1857年に出版した『悪の華』の中の同じ名前を持つ詩からです。それは「動物もいなければ、小川もなく、青草も森もない!」という神秘的な香りなのです。

〝死〟を連想させる香料だけで生み出したこの香りの主役は〝露に濡れた菊〟です。剣のひと突きのごとく鋭い花と葉と茎がひとまとめになり我が身に降りかかるように香ります。身に纏うのではなく、不幸のように、死神のように、この香りは降りかかるのです。

クリーミーな百合とスパイシーなカーネーション、研ぎ澄まされたヒヤシンスが〝濡れそぼった菊〟に溶け合い、抗し難い妖しげな緑の匂いを解き放ちます。

そこに、かぐ人もない孤独に生きて、秘密のように甘い香りを放つ冷たいヴァイオレットと湿ったダリア、墓石に絡みつくツタ、そして、インセンスが風に乗って、墓場の腐敗した(インクのような)土の香りも追加され、〝暗黒への招待状〟が素肌の上に配られてゆくのです。

慟哭のようなインドールと精錬のカモミールに見守られながら、雨に濡れるローズの蕾が、みずみずしさを解き放つことなく苦い緑の涙を流しながら、朽ち果ててゆく。この香りの世界には、一切人工的なものが存在しない、悲痛なまでに美しい荘厳な空気に支配されています。

寝る前に振りかけると、かなりの確率で悪夢にうなされることになる香り。そして、日本女性が身にまとうとこの香りは、とんでもなくクールビューティーな『お竜参上』の香りとなります。


スポンサーリンク

香水データ

香水名:ドゥプロファンディス(深き淵より)
原名:De Profundis
種類:オード・パルファム
ブランド:セルジュ・ルタンス
調香師:クリストファー・シェルドレイク
発表年:2011年
対象性別:ユニセックス
価格:100ml/40,150円
公式ホームページ:セルジュ・ルタンス



シングルノート:ヴァイオレット、ダリア、グリーンノート、土壌のチンキ、プラムツリー、菊、インセンス、アルデハイド