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フレデリック・マル

【フレデリック マル】ミュージック フォー ア ホワイル(カルロス・ベナイム)

フレデリック・マル
©FREDERIC MALLE
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ミュージック フォー ア ホワイル

【特別監修】Le Chercheur de Parfum様

原名:Music For a While
種類:オード・パルファム
ブランド:フレデリック・マル
調香師:カルロス・ベナイム
発表年:2018年
対象性別:ユニセックス
価格:10ml/7,920円、30ml/21,780円、50ml/27,720円、100ml/39,600円

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暗闇の中から現れる、毛皮越しの美脚の香り

©FREDERIC MALLE

音楽において、傑作を生み出すときに、適当に扱われる音符はない。それは香水においても同じです。

フレデリック・マル

フレデリック・マルヘンリー・パーセルの「ひとときの音楽」(劇音楽『オイディプス』より)からインスパイアされた香りとして、2018年に発売された「ミュージック フォー ア ホワイル」は、カルロス・ベナイムにより調香されました。

ちなみにマルがこの香りの名を思いついたのは、ロサンゼルスをドライブしていた時でした。ちょうどパーセルのこの曲が流れ、音楽と自分たちがやっていることに類似性を見つけたのでした。

そして、この曲の一節こそが、まさにこの香りのテーマのすべてを伝えていると言ってよいでしょう。「ひとときの音楽は、あなたの心の悩みをしばし和らげてくれるだろう」。

この香りのイメージは、〝美しき獣が放つ抗い難い魅力〟です。それはパリのリヴ・ゴーシュ(左岸)のパーティで、素肌に毛皮のコートを着た絶世の美女が、人々の羨望の眼差しを背に受けながら、暗闇の中から艶やかな背中と生脚をちらりと魅せる魔性の瞬間です。

彼女はその瞬間、世界をわが手に、その姿を端っこで見ている小娘が、次に彼女の座に駆け上っていくのです。この香りは、マリリン・モンローも出演したベティ・デイヴィスがとんでもなく素晴らしい『イブの総て』(1950)という映画の世界観そのものです。

暗闇の中から光り輝くものが現れる瞬間。謎だからこそ人々を魅了するその時。まったく異なる物を並べることで、そこから悪魔が目覚めるのか、それとも天使が降臨するのかを自らの肌の上でとくと確かめよという、フレデリック・マルらしい〝天国と地獄を決める賽の目を数えているような香り〟なのです。

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ラベンダーとパイナップルが愛憎を覚える瞬間

シャーロット・ランプリング、1977年、ヘルムート・ニュートン。

ヘルムート・ニュートンの写真が好きな人たちは、この香水に共感を覚えるでしょう。

フレデリック・マル

マルとカルロス・ベナイムは2009年にカフェ・ソサエティ(Cafe Society)という名のキャンドルを生み出しました。それはカルロスのマルにおける最初の作品でした(ジュラシック・フラワーと共に)。

カフェ・ソサエティは、ユニークでノスタルジックな香りのするキャンドルでした。それは嗅ぐ者をセンシュアルなパリジャンたちのいるディナーへと誘います。パチョリ、アンバー、ラベンダーがパーティーの暖かな空気を運び、消え去らない幸福の記憶を生み出すのです。

その時、カルロスはとても面白いラベンダーのアコードをマルに紹介していました。それはシンプルでありながら、とても大胆で興味深いものでした。そして、2人は、この構造を香水に利用し、もっとも洗練された現代的な形で、本格的なラベンダー香水を作ろうと考えたのでした。

まず最初に、ラベンダーに甘味を足すことにしました。しかし、バニラを足すと甘すぎて、香りを複雑にしすぎてしまうため、バニラの代わりにベルトール(Veltol)を入れることにしました。さらにアンバー、ラブダナムを加え、少量のシナモンを加え香りに重みも与えました。

最初のフォーミュラにはわずかなレモンを入れていたので、フレッシュさを増やすために、ベルガモットとマンダリンを加え、比率を調整していきました。

しかし、このままでは現代的な洗練されたラベンダーの香水には到底ならないと考えた2人は、ラベンダーの香りの中に含まれるカプロン酸アリル(allyl caproate、わずかな酸味とフルーツの皮表面の果肉のような香り)を加えていこうと話し合いました。

カプロン酸アリルとは、実は天然のパイナップル(イチゴ、ジャガイモ、マッシュルームなど)に存在する化学物質で、パイナップルのアコードを作るときに使われるものでした。そして、それはシトラスやパチョリ、特にベルトールと相性の良いものでした。

パイナップルの香りは、80年代には香水の生命力を高めるために頻繁に使用されていました。しかし、今回2人が、この物質に求めたのは、生命力(=力強さ)ではなく色味でした。つまりは香り全体に黄色のフィルターをつけたのでした。

最初の試作品の結果は散々でした。マルが妻にそれをつけてもらうと、まるでパイナップルの隣で寝ているようでした。そこで気の遠くなるような微調整を繰り返しながら、ようやく「ミュージック フォー ア ホワイル」は誕生したのでした。

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天国と地獄を決める賽の目を数えているような香り


香水も音楽も大きな力を与えてくれるものであり、どこにでも連れていってくれます。この香りは、シトラスやラベンダーが軽さと明るさをもたらし、ラブダナムがより深みへと連れて行ってくれます。やがてパチョリとアンバーによってダークになり、そして消えていく。この時系列は音楽と同じです。どちらも芸術作品であり、記憶も呼び戻すのです。

フレデリック・マル

さぁ、吹きかけよ!あなたの肌をこの香りの誘惑から守り通すのです。そんな決意の中、スプレーから飛び散るシトラス(ベルガモット、レモン、マンダリン)と熟していないスパイシーグリーンなパイナップルの果汁(どこか焦げたような)からこの香りははじまります。段々とパイナップルは成熟し、甘みを帯びてゆきます(不思議なことに最初からラベンダーだけのときもある)。

そして、(干し草を感じさせる)ツンとした華やかなプロヴァンス産のラベンダーが何も知らずに現れるのです(マル曰く、まさにパリっ子のイメージらしい)。いつものように私の役割はごく平凡にフゼアを導く役割だと考えながら、さも、自分はトップのパイナップルとは無関係だという顔をして現れるのです。

すぐに甘いパチョリと涼しげなゼラニウムが登場します。そして、パイナップルの官能的な姿に見とれ、思いもよらずラベンダーは吸い込まれていくように虜になってしまうのです。

かくしてラベンダーの中にある有機化合物ピネンのフルーティな側面が、パチョリによりフルーティーさを増したパイナップルと見事に調和していくのです。

あくまでも調和であり、決して混じり合わないところが、この香りの芸術性の高さなのです。そして、全ての要素がエチルマルトール(バニラノート)とパチョリにより豊かな温かみと共に引き上げられているのです。

やがて、アンバーとキャラメルがパチョリとバニラを甘く包み込んでゆくようにドライダウンしてゆきます。それはまるであなたの肌の上の、パイナップルとラベンダーが次なるモノたちにその座を奪われる瞬間にただただ恐れおののくような感覚と共に消えていくのです。

クリードの「アバントゥス」とよく比較される香りです。

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キリアンとフレデリック・マルの香りの持つ色気の違い


パイナップルの香りが、目の前の世界にイエロー・フィルターを生み出すように、明るくワクワクするような香りを放ちます。と同時に、不思議な色気をこの香りは生み出してゆきます。

この香りこそが、フレデリック・マルを象徴する色気をはらんだ香りです。キリアンの香りが放つ色気とはまた異なっています。キリアンの香りはすごく若々しく、エネルギッシュで、振り返らせる気満々のアピール力を持っているのですが、このマルの香りは余裕があるというか、モノクロ映画や60年代から70年代の映画を見たときに感じる〝成熟した色気〟があります。


たとえばマリリン・モンローを連想してみましょう。彼女は明らかにキリアンよりもフレデリック・マル的であり、それは彼女が生み出していた大衆イメージ=セックスシンボルの実像とはかけ離れた、かなりの勤勉家で、知的で教養があったことが21世紀においては知られているからかもしれません。

フレデリック・マルの香りが生み出す色気には、知性と教養とそして、何よりも洗練の空気が漂っているのです。だからこそ、カトリーヌ・ドヌーヴは、マルにとっての永遠のスタイルアイコンなのでしょう(つまりはゲランにも共通する色気)。

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香水データ

香水名:ミュージック フォー ア ホワイル
原名:Music For a While
種類:オード・パルファム
ブランド:フレデリック・マル
調香師:カルロス・ベナイム
発表年:2018年
対象性別:ユニセックス
価格:10ml/7,920円、30ml/21,780円、50ml/27,720円、100ml/39,600円


トップノート:ラベンダー、アニス、ベルガモット、マンダリン・オレンジ、フルーティ・ノート
ミドルノート:ゼラニウム、パイナップル
ラストノート:パチョリ、バニラ、ラブダナム、砂糖、キャラメル