フレンチ ラバー
原名:French Lover
種類:オード・パルファム
ブランド:フレデリック・マル
調香師:ピエール・ブルドン
発表年:2007年
対象性別:男性
価格:10ml/8,250円、50ml/29,040円、100ml/42,460円
販売代理店ホームページ:ラトリエ デ パルファム
価格:2200円 |
その男性の持つ自然な魅力を呼び覚ます香り
マスキュリンな香りをすぐに連想させるアニマリックな香りの上に植えられた植物のような香りです。
ピエール・ブルドン
まず最初に、何よりもこの香りが興味深いのは、普段香水をつけない男性のために生み出された香りであり、その男性の持つ自然の匂いの中から、魅力的な香りを呼び覚ましていくという非常に野心的なコンセプトにあります。
2000年にジャン=クロード・エレナが調香した「アンジェリーク スーラ プリュイ」は、アンジェリカという、白い花を咲かせるために2年を費やすセリ科の二年草をイメージして生み出された史上初めて作られたジントニックの香りでした。
この香りが発売されるとすぐにたくさんの男性からインテンス・ヴァージョンを生み出してほしいという要望がありました。さらには、マル自身もこの香りをより進化させた、アンジェリカとシダーウッドを主役にしたメンズ香水を作りたいという考えがありました。
そして、ようやくプロジェクトを始動しようとした矢先である2004年に、エレナが、エルメスの専属調香師になることが急遽決定し、マルの香りをもう作ることが出来なくなったのでした。
かくして、ピエール・ブルドンの登場と相成る訳です(勿論、律儀なマルはエレナに断りを入れた上で、ピエールを起用した)。この「フランス人の恋人」という意味のウッディ・アロマティックの香りは、フレグランスリソース(Fragrance Resorces)社のピエール・ブルドンによって2007年に調香されました(エドモン・ルドニツカの弟子)。
香りが完成する2日間は、二人にジャン=ルイ・シュザックも加わり、ラボに缶詰状態になって完成に漕ぎ着けたのでした。
マルのイメージは、自身がティーンエイジャーの頃につけていたホルストンの「Z14」(1974)のオーデコロンのように、街中で、一番女性がいる場所を颯爽と歩きたくなるような香り、つまりは、シャツをオープンして、胸毛を露出しているようなプレイボーイタイプの香りでした。
より正確に言うと、マルは、叔父のルイ・マルが作った『鬼火』という映画の中に出てくるモーリス・ロネ(1927-1983)のような男性像を香りに求めました。マルは、このモーリス・ロネを見ると、自分の父親を思い出すのでした。そこには、やりすぎていない男の色気が存在するのです。
ちなみに、この香水を作っている頃に、マルが息子と一緒に『鬼火』を見ていたとき、息子が呟きました。「この人(モーリス・ロネ)と同じ格好しているね」と。そして、マル自身もハッとしたのでした。知らないうちにマルが同じスーツ、ネクタイを着けるくらいに影響を受けた作品なのでした。
嵐を呼ぶ男のための香り
私はこの香りは、「ミス ディオール」の男性ヴァージョンだと思います(特にベチバーの側面が)。
ピエール・ブルドン
ピエールとマルの母親は「ミス ディオール」を愛用していました。そして、ピエールの父親は、マルの祖父のアシスタントとしてディオールで働いていました。やがて、マルの母親が入社し、彼女のボスになりました。この香りには、二人のファミリー・ストーリーの側面もありました。
当初この香りの名前を「アンジェリーク/ボア」か「アンジェリーク・インテンス」にしようかとマルは考えていました。そんなある日、試作品〝34C〟を身に纏い、テキスタイル・デザイナーの友人キャロライナ・アービングとランチに出かけたとき彼女がこう言ったのでした。
「何?この香り?本物のフレンチ・ラバーのようね」と、かくしてこの香りの名は決定されたのでした。
アメリカでは「嵐の森(ボア ドランジュ)」という名前で発売されているこの香りは、間違いなく「嵐を呼ぶ男」たちのための香りです。つまり、今の日本では非常に身に纏いにくい香りということです。
まず、何よりも草食系の男子にとって、この香りは、ただの悪臭にしかなりません。さらに、(自宅で女装してそうな)自己愛が強い美少年にとっても、この香りは、匂いすら感知できないことでしょう。つまりは、白いドレスシャツにスーツをさらりと着こなせる鍛え上げられた肉体を持つ情熱的な男性のためだけに生み出された香りなのです。
フレデリック・マルによる〝ミスター・ディオール〟
香水はマグネットのようなものでなければなりません。たとえば、ベッドで女性と一緒にいる時、服は脱ぐことは出来ても、香水は脱ぐことは出来ません。彼女はあなたの香りに惹かれているからベッドに一緒にいるはずです。あなたも然り。香水とは、四次元の話なのです。
フレデリック・マル
60年代のフランス映画に出てくる美しき男たちのエキスが二酸化炭素抽出された香りとでも言うべきでしょうか、『さらば友よ』のアラン・ドロンとチャールズ・ブロンソンのような香りです。
そんな「フランスの美しい男たちの香り」は、アンジェリカの根っこに含まれているという、男性には分からず、女性には敏感に分かるエグザルトリドというムスク(麝香)のような大環状合成ムスクと、アンジェリカの持つナチュラルなアロマティックな側面と、スパイシーな側面という三つの側面の繊細なバランスの上に生み出された香りです。
まず最初に、透き通るように鋭いジュニパーに引き寄せられて、とても洗練された樹脂のようなほのかに甘いガルバナムとピメントによる強烈なスパイシーグリーンの香りからはじまります。俗にシャネルの「No.19」のメンズ・ヴァージョンと呼ばれるオープニングです。
すぐにハーバルでアロマティックなアンジェリカの芳香が、甘くもスモーキーなインセンスの風に乗り、シダーとベチバーといった森の香りが溶け込んでゆきます。
この香りの面白さは、アンジェリカとは通常一緒に調香されない、イリスフロレンティーナ(イリスパリダよりも高級な最高級のアイリス)が加えられ〝男性の肌のぬくもりを感じる女性の気持ち〟を理解させてくれるような〝父性〟を感じる仄かな花の香りに包まれていくところにあります。
それはまるで、嵐が到来したかのように、打ち砕かれた大地や、吹き飛ばされた草木と葉の香りがするのですが、時が経ち、嵐が過ぎ去り、そのあとで一輪のアイリスの花が健気に咲いているようなヴィジュアルイメージを連想させます。
ポイントは、アニマリックを出すためにムスクやカストリウムを使用せずに、IFFの合成香料トリモフィックス(ウッディアンバー)とジボダンのカラナル(アニマリックアンバー)を使用しているところにあります。この香料が、汚臭とフェロモンの垣根であり、大人の男性の魅力を若々しく演出してくれる動力源となっています。
そして、この香りには「アンジェリーク スーラ プリュイ」では使用されていなかったパチョリとガルバナムが使用されています。
スーツにブーツを合わせる男の香り
本当に素晴らしいメンズ・アイテムというものは、ファッションにしてもそうなのですが、誰にでも合うものではなく、自分がそれに合うように努力する必要があります。この香りもその類いのメンズ・アイテムであり、身に纏ってもサマになる男性は『蘇える金狼』(1979)の時の松田優作くらいかもしれません。
マル自身はこの香りについて、『イグアナの夜』(1964)のリチャード・バートンを連想させると言っています。「妥協なく男らしく、男の本質そのものであり、ダークかつ野生的」と表現しています。
ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「葉巻の匂いの中でもいちばん鼻につき、いちばんおもしろい側面でもある、酸っぱくて鋭いノートは、吸いかけの冷えた安いシガリロに顕著だ。どの分子のせいなのかはよく知らないが、ピラジンではないかとも思っている。」
「この作品には、床から拾い上げた昨日着ていたシャツの臭いがある。沁み込んだ煙や乾いた汗のようなもので、今日も着ていいかと迷ってしまう。はっきりしているのは、フレンチ ラバーの人生には女が必要(洗濯乾燥機も)だけということだ。」と4つ星(5段階評価)の評価をつけています。
香水データ
香水名:フレンチ ラバー
原名:French Lover
種類:オード・パルファム
ブランド:フレデリック・マル
調香師:ピエール・ブルドン
発表年:2007年
対象性別:男性
価格:10ml/8,250円、50ml/29,040円、100ml/42,460円
販売代理店ホームページ:ラトリエ デ パルファム
トップノート:ピメント、ガルバナム
ミドルノート:インセンス、シダー、アンジェリカ
ラストノート:オークモス、ベチバー、ホワイトムスク
価格:2200円 |