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【ゲラン】ナエマ(ジャン=ポール・ゲラン)

ゲラン
ゲラン ジャン・ポール・ゲラン ブランド 調香師 香りの美学
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ナエマ

原名:Nahema
種類:パルファム
ブランド:ゲラン
調香師:ジャン・ポール・ゲラン、アン・マリー・サジェ
発表年:1979年
対象性別:女性
価格:30ml/38,500円

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感想(3件)

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ジャン=ポール・ゲランが最も愛した香り

Nahema Advert

私の創造した香りの中でも、マスターピースと呼ぶべきものは、「ベチバー」と「ナエマ」でしょう。

ジャン=ポール・ゲラン

まず最初に、この香りは、1979年に発売され、特にアメリカ市場において、それまで広告力によって香水を売るということを拒否し続けていたゲラン帝国が、ついに広告のために大変な予算を組み、その1/3を「ナエマ」のためだけに費やした香りでした。

ゲランの四代目調香師ジャン=ポール・ゲランの野望は明確でした。それは、中高年の上流婦人の香りとして認識されていたローズの香水に〝若さ〟を取り戻すことでした。

しかし、アメリカの人々はまだオリエンタル・ローズを受け止めることが出来ませんでした。あまりにも早すぎた〝ダマセノンにより生まれた革命的なピーチローズの香り〟は、全く市場で認められず、ゲラン一族はその損失を埋めるために、不動産の一部を売らなければならないほどの失敗作になったのでした。

フレグランス業界の重鎮マイケル・エドワーズが、1999年に『パヒュームレジェンド』を出版した時に紹介した1889年から1992年の45の香りの中に「ナエマ」は含まれていませんでした。その理由は、ジャン=ポール・ゲランとの5回のインタビューで彼は、「ナエマ」については決して話したがらなかったからでした。

つまり、彼にとって不遇の娘である「ナエマ」は、誰にも立ち入らせたくない聖域の中に存在する〝最愛の香り〟だったのです。

カトリーヌ・ドヌーヴを称えしローズ

Scenes D' Art 1968 Benjamin Ou Les Mémoires D'un Puceau Real Michel Deville

彼女は、ローズが散りばめられた金箔が塗られた檻の中で佇んでいました。ホワイトシルクのドレスを着て、太陽の光を背に浴び、光り輝くブロンドヘアを見て、私は完全に彼女の魅力に前にひれ伏したのでした。

ジャン=ポール・ゲラン

カトリーヌ・ドヌーヴが最も愛していると回想する役柄を演じた作品は、1968年に作られた『めざめ(17歳の童貞少年が数々の誘惑の末に童貞を失う物語)』という日本人にはピンとこない作品でした。この作品は、ブランデーの醸造で名高いヘネシー家の城でロケが敢行されたことから、当時フランスで大いに話題を呼んだ作品でした。

ゲランが生み出す20世紀の香りには、いくつものストーリーがあります。そして、この香りにも、カトリーヌ・ドヌーヴに捧げられたローズの香りという一面とは別のストーリーがあります。

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千夜一夜物語、283夜目のおはなしの香り

1980年。

この香りは、ローズの持つ、激しさと優しさの二元性を描いた香りです。

ジャン=ポール・ゲラン

この香りに関する最も有名なストーリーは、千夜一夜物語には存在しない283夜目の物語をゲランが生み出したという所にあります。

その物語の中でシェヘラザードが語るのは、とあるサルタンの双子の王女ナエマ(火の娘の意味)とマハネ(水の娘の意味)の物語でした。瓜二つの美しい外見とは、全く逆の性格を持つ二人の女性は、年老いた予言者から二つの小箱を渡されます。

そして、予言者はこう言いました。「この箱にはあなた達の運命が示されています。そして、その中身は転々と移り変わっています。しかし、注意してください。いったんその秘密が明かされると、もうそれを変更することは不可能になるでしょう。」

そして、時が経ち二人の前に、一人の王子が現れます。二人は同じ男性を愛してしまいます。穏やかに運命に任せるままのマハネに対し、ナエマは自分の運命を知るためにマハネの小箱を盗み、二つの小箱を開けるのでした。マハネの小箱からは水(=従順さ)が、ナエマの小箱からは灼熱の炎(=情熱)が出てきました。

彼女には、マハネ以上に王子を愛しているという自負がありました。しかし、その愛の炎は、全てを焼き尽くすんだということを知り、何もいわずに、二人の前から姿を消したのでした。

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マイヤ・プリセツカヤの舞うボレロを香りに!

マイヤ・プリセツカヤ

カトリーヌ・ドヌーヴ、イヴ・サンローラン、マイヤ・プリセツカヤ

Maya Plisetskaya – Bolero (choreography by Maurice Béjart)

この香りが作られる前に最後にゲランでローズの香りが作られたのは、1934年にジャック・ゲランにより作られた「ゲラローズ」でした。1975年にジャン=ポール・ゲランに誘われ共に働くことになったアン・マリー・サジェ(1989年まで共作する)は、ある日の朝、二人が共作する香りについてアイデアを出し合っていました。

そして、ふと彼女はジャン=ポールに尋ねたのでした。「なぜゲランは新しいローズの香りを作らないのですか?」。この問いかけからこの香りの創造ははじまりました。

ジャン=ポールは言いました。「シャネルはジャスミンの香り、そして、ゲランはローズの香りですね。でも親近感の沸くようなローズの香りは作るのは簡単だが、とても退屈です」。

かくして、約4年かけ、500回以上の試香が行われ生み出される「ナエマ」の創造の旅がはじまりました。まず最初に二人はゲラン家が所有しているレ メニュルにあるローズガーデンで80種類以上あるローズの研究から開始しました。

それはアン・マリー曰く「私たちは一緒に作ったというよりも、お互いに競い合ったという感じでした。そして、ジャン=ポールは常に私が出すアイデアより、その先を行くのでした。」

ジャン=ポールがこの香りのテーマとして調香している時に掲げたテーマは、ドヌーヴよりも、千夜一夜物語よりも、当時、モーリス・ベジャールの振り付けでマイヤ・プリセツカヤ(1925-2015)が舞っていた、モーリス・ラヴェルが1928年に作曲した「ボレロ」でした。

私はナエマを音楽の断片のように作りました。ローズがただひたすらひとつのテーマを繰り返すのです。それはまるでモノリシック・パフュームです。その香りのリズムははじまりから終わりまで同じなのです。

ジャン=ポール・ゲラン

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そして、だんだんとナエマに支配されていく・・・

ルネ・マグリット、1960年。

「ナエマ」それは、ゲラン帝国が生み出した「香りのボレロ」なのです。この香りの特徴は、コントラストという要素を徹底的に廃した香りであるということです。

この香りは、アルデハイドのスネアドラムに導かれるように現れるグリーンのフルートからはじまります。旋律に合わせて舞台が明るくなると、そこには花弁だけを動かしているローズの姿があります。

グリーンに交わるようにベルガモットがクラリネットのような旋律を奏で、ローズはピーチに触発され、躍動を開始します。キラキラと輝くようにフルーティーなティーローズが香り立つトップノートがはじまります。

そして、様々な楽器がメロディーを奏でるようにライラック、ジャスミン、ヒヤシンス、イランイラン、スズランといったフローラルが現れ、ローズがその花弁を大きく増殖していく手助けをしていきます。

主役はあくまでもローズです。真ん中の舞踊手が周りの舞踊手たちと連携するように、5つのローズノートが調和します。

メイローズ(センティフォリアローズ)のアブソリュートと精油、そして、ブルガリアンローズ(ダマスクローズ)のアブソリュートと精油、さらに70年代にはじめて使用されるようになったダマセノンです。

ブルガリアンローズ精油の品質には特にこだわり、メタリックな煙草の吸殻のようなローズオキシドと、フィルメニッヒ社によるディオキシカービノル(フランジパニのような香り)が、最高品質で含まれているものが使用されています。

一方、ダマセノンは、通常ローズ精油に0.14%しか存在しないのですが、香りの70%を占める強力なアップルとプラムのフルーティーさを持ちます。そして、このダマセノンの過剰摂取によりナエマは最も純粋な形のバラの濃縮物」となったのでした(後年、IFRAの規制に引っかかる)。

ドライダウンにおいて、ナエマは最高の盛り上がりを見せます。クリーミーなサンダルウッドとバニラ、トンカビーンによるゲルリナーデの真髄がピーチローズと見事に調和されるのです。

現在のゲランの五代目専属調香師ティエリー・ワッサーは、かつてナエマについて「ローズのエキスが全て入っており、これほど高価なものはなく、メチルオイゲノールまで過剰摂取されています。それはまるでローズの大量殺人兵器と言ってもいいほどです」とある意味大絶賛していました。

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1980年代のドラマティックローズ旋風の母「ナエマ」


調香師ソフィア・グロスマンは、この香りが誕生すると同時にこのオリエンタルローズに夢中になりました。そして、彼女は、1980年代の「パリ」(1983)「トレゾア」(1990)といったドラマティックなローズを生み出すことになるのです。

まさに、これらの香りこそが、千夜一夜物語におけるナエマの双子の姉妹であるマハネと言えるのでしょう。

当初、馬蹄型で発売されていたボトルは、1980年には錬金術師が使ったガラスの薬瓶に着想を得たロベール・グラネがデザインしたボトルへと変化を遂げました。それは蒸留器から最初にしたたるエッセンスの一滴をモチーフにしたものでした。

2016年1月ナエマは廃盤になりました。一方、1998年には、この香りのイメージを元にフランスのデルバール社によってひとつのローズの新種「ナエマ」が生み出されたのでした。

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「ナエマ」を「ヴァーチャル・ローズ」と呼び、「ナエマの最初の3分間は、爆発の影響を逆回転で見る感じだ。いくつもの異質な香りの断片が、勢いよく旋風を巻き起こし、完璧な形へと融合する。そして何事もなかったように魅力的な香りを振りまきながらこちらへ向かってくるのだ。」

「専門家の間で、ゲランのもっともすばらしいローズであると見なされているこの香水は、実をいうとローズをまったく使用していない。」

「ゲランの処方は、化学物質であっても、たいてい常識では考えられないくらい贅沢なものなのだが、聞くところによると、ナエマの核を成しているローズとは、多数の表情が結びついた幾何学的な中枢と思われる。それが事実であろうとなかろうと、偶然であろうとなかろうと、この世のものとは思えないナエマの輝きは、並ぶものなき神々しいローズ。まねしたくてもできるものではない。」と5つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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香水データ

香水名:ナエマ
原名:Nahema
種類:パルファム
ブランド:ゲラン
調香師:ジャン・ポール・ゲラン、アン・マリー・サジェ
発表年:1979年
対象性別:女性
価格:30ml/38,500円



トップノート:アルデハイド、グリーンノート、ピーチ、ベルガモット、ローズ
ミドルノート:ライラック、ジャスミン、ヒヤシンス、イランイラン、スズラン、ブルガリアン・ローズ
ラストノート:ペル・バルサム、パッションフルーツ、サンダルウッド、バニラ、ベチバー、トンカビーン

ゲラン ナエマ オーデパルファン(オードパルファム) 100ml GUERLAIN NAHEMA EDP [1828]

価格:19,814円
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