ラール エ ラ マティエール エクストレ
L’Art et la Matière Les Extraits 21世紀に入るまで、ゲランがずっと秘密にしてきたレシピがあります。二代目調香師エメ・ゲランにより生み出されたゲルリナーデです。ゲルリナーデとは、香水芸術に情熱を傾けてきたゲランだからこそ調達出来る、選りすぐりのベルガモット、ローズ、ジャスミン、トンカビーン、アイリス、ヴァニラのエッセンスを組み合わせて創造する〝ゲラン帝国の血〟であり〝ゲランの精神=刻印〟です。それはゲランの歴代調香師にのみ一子相伝で伝えられてきました。
とここまでが通常のゲルリナーデの説明となるのでしょうが、ここからが、本当のゲルリナーデの真髄に迫る部分です。それは「コミュネル」と呼ばれる、6つのエッセンス自体が、異なる生産者や国からの、同じ植物の異なるエッセンシャルオイルを組み合わせ、異なる側面を生み出すようにブレンドされているところにあります。
この6つのエッセンスそれぞれのスペシャル・ブレンドこそが、ゲルリナーデの真の秘密のレシピなのです。
2005年、パリ・シャンゼリゼ通り68番地のゲラン本店のリニューアルオープンを記念して発売された「ラール エ ラ マティエール(芸術と貴重なる生の素材)」コレクションの〝究極のコレクション〟として、2023年に『ラール エ ラ マティエール エクストレ』が発売されました。日本では10月12日から伊勢丹新宿店で開催される「サロン ド パルファン 2023」で先行販売され、11月1日以降、一部ブティック限定で販売されています。
ゲルリナーデを作り出す〝ゲランの六星〟それぞれに脚光を当てていくこのコレクションの香りひとつひとつに、〝宿命の数字〟=ゴールデンナンバーが振り当てられています。すべての香りは、五代目専属調香師ティエリー・ワッサーとデルフィーヌ・ジェルクにより調香されました。
シルヴェーヌ・ ドゥラクルトのゲラン革命
この〝究極のコレクション〟について語るとき、21世紀初頭に現れたゲラン帝国のジャンヌ・ダルクと呼ばれた女性の存在を忘れてはなりません。
21世紀に入り、すっかり低迷期を迎えていたゲラン帝国の皇帝とも言える四代目調香師ジャン=ポール・ゲランは、2002年に退任しました(以後、コンサルタントとして香りを不定期に調香)。そして、ゲランにおいて、クリエイティブ・ディレクター制度が敷かれることになりました。
かくして1984年以降、ゲラン一筋で働いてきたシルヴェーヌ・ ドゥラクルトの登場と相成ります(メイクアップ&スキンケア・トレーナーとしてそのキャリアをスタートした)。
1992年からISIPCA(イジプカ)で2年間学び、マチルド・ローランと共にジャン=ポールの下で学んだ彼女は、ディレクター就任のための最終試験として、「ランスタン ド ゲラン」(2003年)を見事に完成させ、大ヒットさせました。
そして、その後、パリ・シャンゼリゼ通り68番地のゲラン本店のリニューアルオープンを記念して発売されることになる「ラール エ ラ マティエール(芸術と貴重なる生の素材)」コレクションに取り掛かりました。
失敗が許されないこのコレクションのために、シルヴェーヌは、今までゲランと全く接点のなかった3人の調香師を選抜しました。フランシス・クルジャン、ダニエラ・アンドリエ、オリヴィエ・ポルジュの3人です。そして、〝世界で最も貴重な原料を使い、ゲランのパッションを表現して欲しい〟というコンセプトの下、3種類の香りが2005年に生み出されました。
かくしてゲランの香水において20~30%の売り上げを占めると言われる最高級コレクション「ラール エ ラ マティエール」は、誕生しました。以後、このコレクションは、ゲラン帝国の最も重要なプレステージ・コレクションとして定着していくことになります。
2008年にティエリー・ワッサーの五代目調香師就任を見届け、クリエイティブ・ディレクターのポジションから退任し、2016年までディレクターとして活躍しました。
シルヴェーヌ・ドゥラクルト、彼女こそが、ゲラン帝国を滅亡の危機から救った救世主でありジャンヌ・ダルクなのでした。「エクストレ」の精神の支柱として、20世紀末に存亡の危機を迎えていたゲラン帝国が、彼女や、マチルド・ローランといった女傑たちの活躍により復活を果たしたことを忘れてはならないのです。
復活の剣「ラール エ ラ マティエール」を、〝皇帝の剣〟に。
シルヴェーヌが誕生させたゲラン帝国復活の剣「ラール エ ラ マティエール」を、〝皇帝の剣〟へと研ぎ上げたのが『ラール エ ラ マティエール エクストレ』でした。
それは〝ゲルリナーデ〟をひとつひとつ究極の形で、世界に向けて解放していく〝香りの芸術をもっと自由にする〟試みです(安易な再解釈ではなく、ゲルリナーデの歴史の延長線上にある、ゲランの精神を大切にしたコレクション)。
五代目専属調香師ティエリー・ワッサーとデルフィーヌ・ジェルクにより調香された6つのエクストレは、ゲルリナーデを生み出す6つの素材=ヴァニラ、ローズ、ベルガモット、アイリス、ジャスミン、トンカビーンが〝皇帝の剣〟へと研ぎ上げられた形で、ゲランを愛する人々の手に委ねられてゆきます。
人それぞれに愛の形があるように、自分の愛の一部として、育てていって欲しいという願いで生み出された6つのエクストレ。だからこそ、この香りは、人それぞれの感じ方を生み出してくれます。
アフター・コロナ時代に向けての、『自由への道』を創造してくれる香り。自分の人生の中に、いつもローズの輝きや、ジャスミンの煌めきなど、いつも心に太陽を与えてくれるコレクションなのです。
6つの〝宿命の数字〟=ゴールデンナンバー
ここで、6つのエクストレの研ぎ上げられた特長を、それぞれの香りに振り当てられた〝宿命の数字〟=ゴールデンナンバーと共に解き明かしてゆきましょう。
イリス パリダ エクストレ 6
ゲランとアイリス(アイリス・パリダのイリスバター)のランデブーは、1906年に三代目調香師ジャック・ゲランによる「アプレロンデ」からはじまりました。続く、1912年の「ルールブルー」で頂点に立ち、以来ゲランのシグネチャーとなっています。
アイリスの香りが持つ素晴らしさは、クラシック音楽やバレエを鑑賞するひと時とよく似ています。その瞬間、自分の中に眠る〝美しさに対する憧れ〟が呼び覚まされ、劇場を後にするとき、誰もが白鳥のような美しい首を持った気分にさせられるものです。
最高級のイリスバターの品種は、アイリス・パリダです。この香りの名についている「6」が、ゲランのアイリスのゴールデンナンバーです。それはイリスバターを手にするためにかかる期間を示しています。
アイリス・パリダがフレグランスの世界で極めて貴重なアイリスとされている理由は、イタリアの太陽の下、3年間の生育を必要とし、さらに3年間その根茎を乾燥させないといけないという6年の時間をかけてイロンを豊富に含むパウダリーなイリスバターが採られるからです。
ヴァニーユ プラニフォリア エクストレ 21
ゲラン帝国を興隆へと導いた三代目調香師ジャック・ゲランは、1921年にサンスクリット語で、〝愛の宮殿〟を意味する香り「シャリマー」を生み出しました。1925年4月28日から開催されたパリ万国博覧会で発表されたこの香りは、世界で最初のオリエンタル・ノートでした(現在、ゲランでは世界初のアンバーフレグランスと呼んでいます)。
「シャリマー」誕生のきっかけは、「ジッキー」(1889)にもっとたっぷりヴァニラを加えたらどんな香りがするだろうとふと考えたことでした。このシャリマーにより、ゲランはアメリカ市場進出を果たすことになり、世界帝国を築き上げることになりました。以後、ゲランにとってヴァニラとの関係は切っても切れないものとなりました。
ゲラン帝国の伝説のヴァニラは、ウッディでレザリーでスパイシーな魔性のオーラを放つ、約2世紀に渡る秘伝のヴァニラ=ヴァニラチンキです。このヴァニラチンキの産地は、最も豊潤なヴァニラが生まれ育つとゲランが考える環境がある、マダガスカル島の北部東海岸です。
「21」は、ゲランが厳選したプラニフォリア種から採取されたヴァニラビーンズから、香りを浸出するためにアルコールの中で冷やされる21日間が由来である、ゲランのヴァニラのゴールデンナンバーです。さらには、「シャリマー」が創作された1921年にもかけています。
ジャスミン グランディフローラム エクストレ 30
ゲランが花の香料にはじめて二酸化炭素抽出法を活用したこの香りは、二酸化炭素抽出したインド産のジャスミングランディフローラム・アブソリュートと、マイクロリキッド抽出されたグラース産やカラブリア産、エジプト産のジャスミングランディフローラム・アブソリュートをブレンドした〝素肌の上でとろけて匂い立つジャスミン〟です。
ちなみに、ルイ・ヴィトンの二酸化炭素抽出されたジャスミンはグラース産なのですが、同じLVMHグループのゲランの二酸化炭素抽出されたジャスミンは、インドのケララ州産です。このジャスミンは、ジャン=ポール・ゲランが実際に足を運び、専属契約した農園のものが使用されています。
「30」は、このジャスミンが二酸化炭素で抽出されるときの温度である30℃が由来である、ゲランのジャスミンのゴールデンナンバーです。
トンカ サラピア エクストレ 75
ゲランにとってのトンカビーンとの出会いは、実に運命的なものでした。それは1889年に二代目調香師エメ・ゲランが、トンカビーンに含まれるクマリンを初めて香水に使用し、「ジッキー」を誕生させたのでした(ゲランは、世界初の〝モダンフレグランス〟と呼んでいる)。
トンカビーンと言えば、干草や桜餅、杏仁豆腐のようなバルサミックな甘い香りが特徴です。大人のグルマンを作りたいとき、トンカビーンさえあれば、テーラードスーツにもイブニングドレスにも合う香りが生み出せるものです。
「75」という数字は、ゲランのトンカビーンのゴールデンナンバーです。それは、サラピアツリーから収穫されるトンカビーンが、最大75%を占める天然成分のクマリンを含んでいることから由来しています。このトンカビーンには、アーモンドのような香ばしさがあるのが特徴です。
ベルガモット ファンタスティコ エクストレ 11
ゲランとベルガモットのランデブーは、1853年に、ピエール=フランソワ・パスカル・ゲランが、皇帝ナポレオン3世との婚約を祝してウジェニー皇后に献上した「オー インペリアル」に、生き生きとした爽やかさをもたらすためベルガモットを選んだことからはじまりました。
そして、70年ちかくもの間、ゲランの至宝の剣ともいえるカラブリア産のベルガモットは、ジャンフランコ・カプアが率いる、並外れた品質を誇るカプア1880社のベルガモット・ファンタスティコ(レモンの木とビターオレンジの木を接ぎ木してできたベルガモットの木から実る)が使われてきました。
このベルガモットの美しさを最も純粋な形で人々の素肌に届けるために、二人の調香師は、通常よりも早摘みである11月初旬に収穫してもらい、さらに絶妙な香り立ちを保つために、抽出する寸前まで銅製のタンクに密閉するようにしました。
「11」は、早摘みであるという意味を示すゲランのベルガモットのゴールデンナンバーです。この早摘みによって、このベルガモット・ファンタスティコ(純粋に果皮のみ使用)は、太陽に愛されたばかりのアンバーの温かみを伴った、生き生きと弾けていく独特な苦味を解き放ってゆくのです。
このベルガモット・ファンタスティコを中心に、カラブリア地方のさまざまな生産者のベルガモット精油がスペシャルブレンドされているのです。
ローズ センティフォリア エクストレ 1
ゲラン帝国にとってローズはもちろん〝花の女王〟です。まるで運命のドミノを倒していくように、ローズウォーター、ブルガリア産ダマスクローズ・エッセンス、グラース産センティフォリア・ローズ(ローズドゥメ)といったそれぞれが全く違うバラの香りが、30%に濃縮されたエクストレとなり、重ねることで高まるバラの美しさを広がらせていくのです。
「1」は、ゲランが1828年に創業した初日からグラース産のセンティフォリア・ローズを香料として用いていたことに由来する、ゲランのローズのゴールデンナンバーです。
毎年5月の1ヶ月間、夜明けに手摘みされたこのローズは、素晴らしい香りが損なわれないように、24時間以内に現地でアブソリュートとして抽出されます。つまり一日で香りを抽出するという意味の「1」でもあるのです。
さあ、あなただけのゲルリナーデ・フュージョンを!
ゲルリナーデを生み出す6つの素材をそれぞれ手に入れるということは、あらゆる手持ちの香りに、ゲルリナーデのエッセンスを溶け合わせることが出来るということです。一番理想的なのは、「ラール エ ラ マティエール」との組み合わせなのですが、他ブランドのアイリスの香りに、アイリスを組み合わせるなど、アレンジしても楽しめます。
これはあまり知られていないことなのですが、香りのコンバイニングの概念を作り出したのは、ジョー・マローンでもトム・フォードでもなく、ゲランが1999年に発表した「アクア アレゴリア」のミクソロジーからでした。つまり、ゲラン帝国は、香水を組み合わせるという、香りとの新しい向き合い方においても、先駆者であったわけです。
そんなゲランが創造した「ラール エ ラ マティエール エクストレ」、それは分かりやすく言うと、ドラゴンボールZのフュージョンのようなものなのです。