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【エルメス】地中海の庭(ジャン=クロード・エレナ)

エルメス
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地中海の庭

【特別監修】カイエデモードが崇拝するフレグランス・スペシャリスト様

原名:Un Jardin En Mediterranee
種類:オード・トワレ
ブランド:エルメス
調香師:ジャン=クロード・エレナ
発表年:2003年
対象性別:ユニセックス
価格:100ml/20,350円
公式ホームページ:エルメス

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感想(1件)

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記念すべきエルメスの「最初の庭」

©Hermès

喜びは利己的なもの。贅沢とは、分かち合うことである。あらゆる芸術的な職業と同じように、香水製造が目指すのも、なにより感覚に喜びを与えることだ。人間としてそして調香師として、まず自分が喜びを感じなければ、人に喜びを与えることはできない。驚かせる喜び、想起させる喜び、暗示する喜び、そして、すこしずつ謎を解かせる喜びだ。香水は、匂いの書いた物語。そしてときに、思い出の書く一篇の詩なのである。

2003年、私はエルメスの香水「地中海の庭」をつくった。きっかけを掴んだのは、チュニジアの地中海沿岸にあるレイラ・マンシャリの家の庭だった。若い女性がいちじくの葉をちぎって、微笑みながら匂いをかぐ。それが最初に生まれた物語のかたちだった。いちじくの葉の匂いが、地中海を象徴する記号となった。

ジャン=クロード・エレナ(以下、一部を除き、全ての引用は彼の著書『香水』から)

ジャン=クロード・エレナエルメスの関係は、1998年にカルティエの「デクラレーション」を調香した時、その香水部門の責任者(1994-2000)だったヴェロニク・ゴティエが、2000年にエルメスの香水部門の責任者(2000-2008)になった時からはじまりました。

「デクラレーション」は、これまでラグジュアリー・ブランドが香水を作るときに必ず行っていた、市場調査(=消費者テスト)に基づいて調香師に香りを作らせるのではなく、自由な環境で香りを作らせた先駆的なファッション・フレグランスでした(当時、ラグジュアリー・ブランドが販売するラグジュアリー・フレグランスという概念は存在しませんでした)。

ゴティエが入社した当時、エルメスは「カレーシュ」(1961)「ヴァンキャトル フォーブル」(1995)といった定番の香りは存在するものの売り上げは芳しくなく、シャネルの香水部門の1/10程度の売り上げしか上げる事が出来ていませんでした。

そして、シャネルが2001年に「ココ マドモアゼル」で莫大な利益を上げたことにより、エルメスはシャネルのように専属調香師を置くことを決定したのでした。かくしてゴティエは、世界中の美しい庭園からインスピレーションを受け取る香りをエルメスの〝新しい香りの幕開け〟にしたいと考え、エレナに調香を依頼したのでした。

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レイラ・マンシャリのチュニジアの庭

レイラ・マンシャリの庭

レイラ・マンシャリの庭

ヴェロニク・ゴティエは、すでに最初の庭園の香りについて決めていました。創業150周年の1987年よりエルメスは年間テーマを発表しており、2003年のテーマは、La Mediterranee(地中海)でした。ゴティエは、香水の名前を「地中海の庭」にしようと最初から決めていたのでした。

パリのフォーブール・サントノレ街にあるエルメス第一号店のウィンドウ・ディスプレイを1978年から2013年までのあいだ年四度に渡り手がけていたレイラ・マンシャリ(1927-2020)のチュニジアの自宅の庭を、香りのイメージとしてのでした。

2002年に、ゴティエから庭園の香りの調香の依頼を受けたエレナは、当時、ドイツのシムライズ社に勤めていました。まずは香水についてほとんど知識がなかった当時のエルメス社長ジャン・ルイ・デュマの理解度を深めるために、調香師としての自分の仕事をビデオ撮影させることに同意しました。

そして、その動画を見て感動したデュマは、庭園の香りを作るために、「とにかく、現地の空気を感じて、新しいエルメスの香水を作って欲しい」と全面的な支援を約束したのでした。

一方、エレナはゴティエの紹介により、レイラと会うことになりました。エレナはすごくナーバスになり、会う前にラデュレのチョコレートを食べに行って神経を落ち着かせたのでした。

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いちじくの葉からヒントを得たエレナ

レイラ・マンシャリの庭

更にデュマは、現地に行かなくても作れると考えていたエレナを説得し、エレナは3日間チュニジアに滞在することになりました。

しかし、滞在中に特に何のインスピレーションも受けなかったエレナは、帰国前夜のパーティに出席し、そこでシャンパンを運ぶための大皿の上に添えられたいちじくの葉に目を留めました。

ウエイトレスの女の子が、仕事の合間に、そのいちじくの葉を手に取り、鼻に近づける姿を見たのです。その瞬間、マネキンのようにただ美しかっただけの彼女の表情が生き生きしたのでした。

この瞬間、彼は「地中海の庭」のアイデアを確信したのでした。そして、帰国後、ラボに戻り、僅か3日間でこのフレグランスを完成させたのでした(ただし、すぐにはゴティエに提出せず、2週間後に提出したのでした)。ヘッド・スペースで、庭の空気を採取して忠実に再現することに全く興味がなかったエレナは、メモや記憶を頼りに生み出していったのでした。

ヘッド・スペースは、スナップ写真を撮るようなものだ。それは魂の入っていない写真のようなもので、ひとつの場所のなにかを感情的に明らかにはしてくれない。自然を複製するためのまやかしであり、現実に生じた知覚と感情をぼんやりと表象してくれるだけだ。

ヘッド・スペースを使って具象的な香水や現実の香りを再創造しようとする分析的な方法は、19世紀の香水の作り方を思い起こさせる。19世紀の香水は、バラやクローバーやすみれの良い匂いがする。けれどもそれはただきれいな混合物で、調香でも精神の創造物でもない。

そして、エレナがレイラにその香りを嗅いでもらった時、彼女は呆気にとられながら「これは私の庭の香りそのものだ」というお墨付きを得たのでした。

ここに「庭園」シリーズ第一弾は生まれることになったのです。そして、ボトル・デザインは、エルメスの初めての女性用フレグランスとして1961年に発売された「カレーシュ」のデザインが採用されました。

2003年は、エルメスにとって香水だけでなく、レディース・コレクションにも革命がもたらされた年でした。この年、ジャン=ポール・ゴルチエが2004年秋冬からレディース・プレタポルテのデザイナーをすることが決定したのでした(2011年まで)。

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チュニジアの庭ではなく、地中海の庭の香り。

ミントの葉をこすったときの匂いのするステモンは、プラムのフルーティな香りのするγ-オクタラクトンと組み合わせると、それだけでいちじくの葉を連想させる。そこにイソEスーパーを加えると、木の筋やスパイスのような力強い構成が生まれる。ヘディオンを加えると、新鮮で鮮やかな花のような匂いになる。ステモンとγ-オクタラクトンは強度の強い原料である。それに対してイソEスーパーとヘディオンは、占める割合が大きくないと効果が得られない。この、強度と割合の組み合わせが補い合って、いちじくの匂いを構築するのである。

香水が、地中海の庭の思い出を詠む一篇の詩になる。香水がはっとするほど明るく輝くように、私はカシスとベルガモットのノートを引き立てた。しかしそれで重い印象になり、美食を連想させるドライフルーツやいちじくの特徴は弱まった。濡れてしわになった葉の茂みなど、植物のアコールを優先した。それをオレンジのノートのみずみずしい酸っぱさと苦さで引き立てた。香水のヴォリューム、拡散、オーラもまた大切な要素だ。香水には、長く持つことよりも印象の美しさのほうが重要なのである。

まずは地中海に沿った有名な都市をあげてみましょう。マルセイユ、ニース、ローマ、パレルモ、ヴェネツィア、ナポリ、バルセロナ、バレンシア、ジブラルタル、アテネ、アルジェ、アレキサンドリア、テルアビブ、さらに島々をあげると、キプロス島、ロードス島、クレタ島、シチリア島、マルタ島、コルシカ島などなど。

この香りの名前が「チュニジアの庭」ではなく「地中海の庭」である理由は、それらのイメージが人々に与える直感に導かれた至福の瞬間を生み出すことを目的としているためです。

まず最初に、ミントの葉を摺り合わせたようなグリーンの閃光からこの香りははじまります。そして、すぐ後に地中海全域で、太陽の恵みを一身に受け甘やかされた、塩っ気を帯びたシトラスシャワーと苦みの効いたジュニパーが注ぎ込まれてゆきます。

ここでエルメスの庭シリーズが世界中の人々の心を捉えることに成功した〝何か〟を感じ取ることになります。その〝何か〟とは何か?それは、ごく身近にある「平凡な庭」を想起させる香りが潜められているところにあります。日常の小さな喜びの中にこそ、ほっと安心する、心を豊かにするものがあるのです。

そういった感情が、アロマティックなイチジクの葉と茎と、ほんのり甘やかなその実、さらにグリーンを際立たせるサイプレス、スモーキーな木のくぐもりを感じさせるグリーンレンティクスによって心の中にじんわりと広がってゆくのです。

地中海の中に感じる「近所にある心が休まるお庭」が、水彩画によって描き出された「地中海の庭」のイメージへと昇華していくのです。それはまるで暖かい日差しと冷たい水しぶきをイメージさせる、なよやかなる幽玄な透白感に包み込まれていくようです。

やがてオレンジブロッサムとホワイト・キョウチクトウが甘やかに溶け合いながら、すべてを円やかに飲み込んでゆき、レッドシダーと香ばしいピスタチオが独特な澄み渡る余韻を与えながら、地中海の夏を切り取る永遠のイメージが肌の上に残されてゆくのです。

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45分ごとに愛して愛されたくなる香り

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いつも心に太陽と地中海で満たしてくれる奇跡のような香り。それはエルメスのきらめきをあるゆる国の人々の肌の上に蘇えらせ、エレガンスを、日常の小さな喜びに落とし込んだ香りです。だからこそ、ある瞬間、飽きられ、冷たくあしらわれ、忘れ去られ、再び、気まぐれに愛され求められる香りでもあるのです。

〝そのはかなさと軽やかさにおいて驚異的とも言える〟この香りの魅力は『バニシングポイント』にあると考える私は、その良さを完璧に保つために、残香を楽しむのではなく、45分ごとに追加スプレーすることをおすすめします。

チャンドラー・バール

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「地中海の庭」を「トマトの茎」と呼び、「中途半端に伝統的なスタイル踏襲しつつ、異世界の要素を取り入れている。「プレジャーズ」を筆頭に一時期大流行した透明感のあるフローラルと、声高に主張するトマトの茎(ニナリッチが1996年の「レ・ベル」で最初に取り入れた)のグリーン系トップノートはいかにもちぐはぐとした印象だ。」

ジャック・キャバリエの「ルフードゥイッセイ」(1998)をモチーフに、明るく抽象的なラウル・デュフィの水彩画を想わせる効果をもたらしているのは、なんとル フー ドゥイッセイのフォカッチャのノートである。時間が経つにつれて各パーツの微妙なバランスは崩れ、残香は平凡そのもの。」と3つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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最後に、この香りについて一番最初に読んで欲しい文章

©Hermès

最後に、この香りの素晴らしさを誰よりもよく伝えて下さるであろう方に、その魅力と衝撃的な出会いについて教えていただきました。かつてブルーベルのチーフだった、カイエデモードが崇拝するフレグランス・スペシャリスト様です。以下彼女のお言葉となります。

私と「地中海の庭」の出会いは、香水のお仕事に従事する直前の20代前半に遡ります。その頃、私はまだ一度もエルメスの香水に触れたこともありませんでした。ある夏の日の出来事です。待ち合わせの車の助手席に乗った時、この香りにはじめて出会いました。

車中での会話、映画館で観た映画のストーリー、その後で食事した時の会話、そういった全てのものが私の中に入って来ず、私の頭の中、そして心の中に「何この香り!!」とずっと痺れているような、脳震盪を起こしたような状態がずっと続いていたのでした。

私にとって、「地中海の庭」との出会いはそれ程衝撃的だったのです。香水はずっと好きでした。でも、こんな衝撃を受ける程の香りが世の中にあるなんて!と、まさに心の中で何かが爆発したような感覚になり、「香水のお仕事をしたい!」と強く思うようになったのでした。

なので、この香りに出会っていなければ、私は今の仕事に就く事を本気で考えることもなかったかも知れません。そして、この香りに初めて出会った瞬間、頭と心が支配されるような感覚になり「この香りにただただ包まれたい!」と思ったことにより、それまで〝香水をつける事がオシャレ〟だとなんとなく考えていた私の香水との向き合い方が一転したのでした。

私はこの香りを冷静に分析することすら意味がないと感じているほど、「地中海の庭」を愛しています。ただいつも考えるのは、この香りが持つ不思議な魅力です。それは「地中海」と銘打っていながらマリンノートではないというところです。

〝地中海の近く、緑生い茂る素晴らしい庭園〟がまだ見ぬ楽園を思わせるところが、この香りの持つなんとも不思議な魅力です。もしかしたら、それは現実にあるのか無いのかも分からない…生き生きとした自然の生命力‪…その奥に感じるセンシュアリティ…木漏れ日が肌にあたる陽光なのかも知れません。

つまりは、私はこの香りについて、ほとんど語る言葉を持たないほどに夢中です。何年経っても、何十年経っても、付けるたびに新鮮なあのときの感情を蘇らせてくれる香りなのです。

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香水データ

香水名:地中海の庭
原名:Un Jardin En Mediterranee
種類:オード・トワレ
ブランド:エルメス
調香師:ジャン=クロード・エレナ
発表年:2003年
対象性別:ユニセックス
価格:100ml/20,350円
公式ホームページ:エルメス


トップノート:マンダリンオレンジ、ベルガモット、レモン
ミドルノート:オレンジブロッサム、ホワイト・キョウチクトウ
ラストノート:サイプレス、イチジクの葉、ムスク、レッドシダー、グリーンレンティクス、ピスタチオ

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