究極のフレグランスガイド!各ブランドの聖典ページ一覧にすすむ
その他のブランド

【クリニーク】ケーレックス(ソフィア・グロスマン)

その他のブランド
©clinique laboratories
この記事は約6分で読めます。

ケーレックス

原名:Calyx
種類:オード・パルファム
ブランド:プリスクリプティブ → クリニーク
調香師:ソフィア・グロスマン
発表年:1986年 → 2013年
対象性別:女性
価格:不明

スポンサーリンク

シルヴィ・シャンテカイユという女性

シルヴィ・シャンテカイユとエスティ・ローダー

エスティローダーにかつてプリスクリプティブというコスメブランドが存在しました。1979年から2010年にかけて存在したブランドであり、1980年代から90年代初めにかけて大変人気がありました。

すべてのはじまりは、ダイアン・フォン・ファステンバーグが「タチアナ」というフレグランスを1975年に大ヒットさせたことからはじまります。その時、敏腕を発揮したフランス人女性の名をシルヴィ・シャンテカイユ(1946-)と申します。

ダイアンは、1977年に、シルヴィと共にニューヨークのマディソン・アベニューにニッチ・コスメショップをオープンしました。そして、エスティ・ローダーは、彼女の能力にいち早く目をつけ、1979年に彼女を引き抜き、プリスクリプティブというブランドを立ち上げたのでした。

シルヴィは、18年間クリエイティブ・ディレクターとして活躍し、80年代には、百貨店ではじめてカスタムブレンドファンデーションを販売し、大成功しました。しかし、90年代にMAC、ボビーブラウンが台頭し、人々はメイクアップに激しいカラーを求めるようになりました。

シルヴィ自身も、植物由来成分の高品質なコスメラインの創造に意欲を示していたので、1997年に退職し、娘のオリヴィアと共に「シャンテカイユ」というコスメブランドを創業したのでした。

アンジェリーナ・ジョリー、ジェニファー・アニストン、ジュディ・デンチ、ジェニファー・ロペスが愛用するブランドとしてアメリカでは絶大なる人気を誇る高級コスメブランドとして今ではすっかり定着しています。

スポンサーリンク

地球上に存在する最高のフルーツの香り

香りの広がり方、寿命、残り香など、あらゆる技術において素晴らしいとしか言いようがない香りです。しかし、何よりもケーレックスが本当に凄いのはその独特な美学ゆえです。それは嵐によって半分に裂かれた若木が、本能で生きようとする、生々しくも、過剰なまでに鮮やかなグリーンの新鮮さを表現しているのです。

あなたがこの香りの前に立つと、湿った風に乗る新鮮な植物細胞の匂いを感じ取ることでしょう。これは高精細度テレビ(HDTV)のような香水です。香りをコピーしたのではなく、香りで生態を再現した、奇妙なまでに、素晴らしい、新鮮なものなのです。

チャンドラー・バール

そんなシルヴィ・シャンテカイユが、ソフィア・グロスマンを起用し生み出したのが、恐らく地球上に存在するフルーツの香りの中で、10本の指に入る名香と言い切っても差し支えない香り「ケーレックス」なのです。

ケーレックスとは、イチゴやカキで言うヘタの正式名称であり、花のつぼみの根元にある小さな花びらのような構造物のことで、花が咲き始めるときにそのつぼみを保護する役割を果たす萼(がく)の意味です。この香りの調香についてソフィアは1992年にこう回想しています。

「ケーレックスはとてもクレイジーで、とてもワイルドで、全く新しいカテゴリーを生み出しました。会社からは、何かスパークリングするような爽快な新しい感覚が欲しいと要望されました」

ソフィアはこの頃、イスラエルへと旅行し、オレンジとグレープフルーツの木を見下ろすホテルの部屋に滞在していました。この時、南国のフルーツアコードに柑橘系を重ね合わせるというアイデアが浮かびあがったのでした。

「ケーレックスは私の作品の中でも最も豊かな表現力を持つ香りです。それは私の全く別の面を示す香りです。時々、調香が行き詰まり自分に自信が持てなくなったとき、私はこの香りを自分にスプレーするようにしています。そうすると、すぐに自信が生まれてくるのです。」

1986年にプリスクリプティブから発売されたケーレックス(2009年に販売終了)と、2013年にクリニーク(エスティローダー・グループ)から発売されたケーレックスの違いは一言で言うと、その香りの複雑さと、身に纏いやすさにあります。

スポンサーリンク

世界ではじめてのトロピカルフルーツの香り

©clinique laboratories

©clinique laboratories

キューバやバハマ、サムイ島あたりのトロピカルフルーツマーケットで感じる、衛生状態が良くない南国のフルーツ(グアバ、マンゴー、パパイヤ)の、酸味がかった臭気がムンムンとしている芳香からこの香りははじまります。

すぐに(熱帯雨林の滝から降り注ぐ霧のような)スペアミントと新緑の香りが包み込んでゆきます。そんな南国フルーツとフレッシュグリーンな香りに、グレープフルーツの苦味のある爽快感が、ムンムンの中にキラキラがあるという不思議なバランスを生み出してくれます。

そして、この香りの非凡な瞬間が訪れます。捉えどころのないマリーゴールドと冷ややかなスズランを中心にリリー、フリージア、ネロリといった透明感溢れる花々の香りが、熟しきったトロピカルフルーツに溶け込んでいくのです。

さらにその後から爽やかに吹き抜けるジャスミンとローズが、ベースのオークモスと呼応しながら温かくもパウダリーグリーンな甘美なる風を運んでくれるのです。

Nose Shopなどにあるニッチ・フレグランスを愛する香水愛好家の皆様に、何としてでも手に入れていただきたい名香です。ニッチ・フレグランス好きにも垂涎の香りと断言できます。

タニア・サンチェスは『世界香水ガイド』で、「ケーレックス」を「グアバローズ」と呼び、「時折、二流の香水の束を吟味しながら、その香水たちの存在意義を空しく探し、問題は自分にあるのではないかと思うことがある。批評精神がついには楽しみを消し去ってしまい、快楽を追っていた日々が終わりを告げるのではないかと。もっとも、ここにあげるボトルはいつだって目が覚めるほどすばらしい。」

「(ソフィアの他の名作と同様)大胆でシンプルな作りをしている。食欲をそそるような熟れ過ぎのグアバの香りが演じるフルーティーさと、粉っぽいローズのフローラル、それにネロリとオークモスのグリーン。トップからボトムまで、ぱりっとした清潔感とローズの甘さを完璧なバランスで保ち続け、どちらかに完全に溶け込んでしまうことがない。」

「グロスマンはアイデアを必ず完璧なものにするコツを心得ている。これ以上何も足すことも、引くこともできない。それは、音程のぴたりと合った合唱からひとりひとりの声を特定できないのに似ている。」

「しかも、グリーンの香調の香水で、これほど寄り添ってくれるものはほかに思い当たらない。たとえば、シャネルの「クリスタル」やグッチの「エンヴィ」には、どうしても色っぽさがある。」

「80年代の香りとしてはケーレックスは驚くほどフレッシュでモダンな香気を放っている。おそらくこの香水が霊感を与えたことで、次世代のフルーティーですがすがしいフローラルが生み出されていったが、まだ真に磨きをかけられたものは現れていない。これは一生つけることのできる、数少ない香水。」と5つ星(5段階評価)の評価をつけています。

スポンサーリンク

香水データ

香水名:ケーレックス
原名:Calyx
種類:オード・パルファム
ブランド:プリスクリプティブ → クリニーク
調香師:ソフィア・グロスマン
発表年:1986年 → 2013年
対象性別:女性
価格:不明


トップノート:グリーンリーブス、グアバ、パッションフルーツ、グレープフルーツ、パパイヤ、マンゴ、マンダリン・オレンジ
ミドルノート:スズラン、マリーゴールド、リリー、フリージア、ネロリ、ジャスミン、ローズ
ラストノート:オークモス、ベチバー、オリスルート、サンダルウッド