ココ マドモアゼル
原名:Coco Mademoiselle
種類:オード・パルファム
ブランド:シャネル
調香師:ジャック・ポルジュ
発表年:2001年
対象性別:女性
価格:50ml/16,500円、100ml/23,100円
公式ホームページ:シャネル
シャネル、21世紀のはじめの一歩
1978年にジャック・ポルジュがシャネルの三代目調香師に就任し、1983年にカール・ラガーフェルドがクリエイティブ・ディレクターに就任して以降、シャネルは香水・ファッションの分野において見事に復興を遂げ21世紀を迎えることになりました。
そして、この時点で、シャネルの顧客層の平均年齢は50代半ばから30代後半にまで若返っていました。
この状況を見たシャネルのCEOであるアリー・コペルマンは、これからの時代はより若い世代を取り込んでいかないといけないと考え、20代をターゲットにした香りを生み出すことを計画したのでした。そして、この計画にあたりシャネルらしい禁止事項をひとつ掲げたのでした。
〝どんな場所でもつけやすい軽い香りを作るべからず!〟
シャネルというブランドの恐ろしいところは、軽い香りを好んでつけるようになっていた21世紀の若い女性に対して、〝20代のためのオード・パルファム〟を作ろうとしたところにあるのです。
21世紀に21歳のココ・シャネルがいたならば・・・
21世紀前夜に発売された「アリュール」が、アメリカを中心に爆発的ヒットとなっている勢いに乗り、アリー・コペルマンが、21世紀最初の香りはとんでもない香りを生み出してやろうという情熱は並々ならぬものがありました。そして、その想いは、パルファム&コスメ部門のマーケティング・ディレクターであるジーン・ジンマーマンも同じでした。
二人は、新たなる香りに「ココ」の名が入った香りを作りたいと考えていました。そして、この香りが発売されると同時にオリジナルの「ココ」(1984)を廃盤にしようという考えが二人の中にありました。
「Coco Twist」「Coco Loco」そして、冗談のような「Diet Coco」という新作の名の候補が挙がりはすれどもいまいちどれもピンとこない中、広告部門の副社長であるローリー・パルマが「マドモアゼル ココはどうかしら?」と提案したのでした。
コペルマンは一般的なアメリカ人はマドモアゼルという言葉を知らないと躊躇したのですが、ジンマーマンはジャック・エリュ(シャネルのアートディレクター)と共に「ココ マドモアゼル」にすれば響きも良いし覚えやすいのではと提案し、この名が、21世紀最初のシャネルの香りの名に決定したのでした。
そして、いよいよ香りの調香がスタートする時に、コペルマンとジンマーマンは、ジャック・ポルジュにこう伝えたのでした。「もし今、21歳のココ・シャネルがここに蘇えり、21世紀を生きることになったらどんな香りをつけたいだろうか?さぁ、そんなココのための香りを創ってください」
「チャンス」と姉妹のような関係
私はたっぷりと時間をかけてこの香りを生み出したわけではないことを白状しなければならない。
しかし、振り返ってみると、「ココ」はもうすっかりバロックすぎて古めかしい香りだったので、全く違う軽やかに明るくフレッシュな香りを作りたいと考えていました。
ジャック・ポルジュ
ちなみにこの頃のジャック・ポルジュは「チャンス」(2003)の調香に全力投球していました。そのため両方の香りには、フルーツパチョリという共通点が生まれました。とても意外なことなのですが、二つの香りは姉妹のような関係なのです。
この香りのためにジャック・ポルジュは、パチョリ・クールという特製パチョリの香料を使用しました。それはカンファーとかび臭さを取り除き、クリーンにしたパチョリです。
このパチョリがフルーツ(ライチのようなピーチ)に絡み合い神秘的な甘さを生み出す前にこの香りは、まずはジューシーなオレンジと鋭さのある苦みばしったベルガモットなどのシトラスカクテルが、アルデハイドと爆発するようにしてはじまります。
すぐにクリーミーなバニラを背景に漂わせながら華やかに甘くみずみずしいターキッシュ・ローズが、フルーティーなミモザとクリーミーなイランイラン、そして、豪華絢爛たるジャスミンが混じりあうフローラル・ブーケに香り全体は包まれていくのです。
そして、そこにフルーツパチョリも溶け込むことにより、きらきらと輝くように秘密のような甘い香りを放ちます。
ドライダウンもまた圧巻です。ベチバー、オークモスが存在感を増す中、クリーミーなホワイトムスクが甘いトンカビーンとシャープなパチョリを包み込んでいくようにクリーンな透き通るような甘さへと導いてくれるのです。
二つの意味を持つ「ココ マドモアゼル」
さてこの「ココ マドモアゼル」という名には、二つの意味が込められています。
本来マドモアゼルは、フランス語で、若い未婚の女性に対する敬称です。だからと言って「ココ マドモアゼル」が、若い女性向けに作られたシャネルのフレグランスなんだと考える必要はありません。
それを「マドモアゼル」という名ではなく、「ココ マドモアゼル」にしたのは、生涯独身だったココ・シャネルが、マドモアゼルと呼ばれていた事実を重ね合わせたからでした。このフレグランスは、年齢に関係なく、独身で、恋と仕事に生きる女性のためのフレグランスなのです。
そこには、子供に対するウケや、男ウケの要素など、一切入り込む余地はありません。ただただマドモアゼルの人生を突き進む戦士のための香りなのです。
さらに若き女性にとっては、人生に対する宣戦布告の香りともいえます。それは脆弱な男性・女性を叩き落とす蚊取り線香の役割を果たす孤高の香りとも言えます。
という風に、これだけの香りであるならば、このフレグランスは、日本では、よほどの上流階級か、高級ホステスにのみ許される香りにしかなりえなかったでしょう。しかし、そうならなかったのは、二つ目の意味が存在したからでした。
それは「ココ マドモアゼル」を略して「ココマド」と呼ばせるポップな解釈です。まるで平凡な日常の中で、周りに気を使いながら生きている自分自身が、本当の自分である時間が許される瞬間を生み出す「マドモアゼル・タイム」を作り上げてくれる「ココロのマド」を開く香りでもあるのです。
だからこそ、この香りは、既婚女性=マダムにとっても、素晴らしく重宝される香りなのです(ミューズである、キーラ・ナイトレイも2013年に結婚しても尚ミューズを継続している)。
尤もシャネルが提示するこのフレグランスに重ね合わせた女性像は、「重なり合う二面性。気まぐれなのに愛される。悪戯っぽくて刺激的。無邪気にみえて大胆」なのですが、こんな女性なんて、少女マンガや日本のTVドラマくらいにしか存在しないでしょう。
今もアメリカでもっとも人気のある香りのひとつ
ジャック・エリュの提案により、ココ マドモアゼルのミューズとして2001年から2006年にかけてケイト・モス、そして、2007年から現在にいたるまでキーラ・ナイトレイがつとめています。
ココ マドモアゼルはシャネル社において発売当時から、ココの売り上げの二倍は売れるだろうと予想されていました。そして、結果はその予想を遥かに上回り(6倍も!)、初年度に2100万ドルを売り上げました。
2010年には、N°5がずっと死守してきた世界で最も売れている香水の地位を奪いました。ジャック・エリュによる、独特な色彩を放つシャンパンピンクの液体が透過しているボトル・デザインも素敵です。
ちなみにこの香りがあればこそ、後に「ナルシソ ロドリゲス フォーハー」「ミス ディオール シェリー」などのフルーツパチョリの香りは生まれたのでした。
ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「この香水は偶然から生まれたため、本来なら「チャンス」と命名されるべきものだ。シャネルは宣伝が効いている内に「ココ」の人気に便乗できるようにと、これを脇役として作り上げた。大して手を掛けなかったので、聞いたところによると、これが華やかな成功を収めたとき、シャネルは周囲と同様に驚いた。」
「ココ・マドモアゼルやその同類は、「エンジェル」で初めに試みられた手法をシステマティックに応用している。それは、濃く男性的といってもいいようなスパイシーオリエンタルのベースを、とがったフローラルの香調と合わせる方法である。エンジェルはふしぎなほど両性具有で、怖いくらい度を超した効果があった。ココ・マドモアゼルはこうしてできた。香水屋がこの方法を好むのは、それが簡単だからである。」
「「エリタージュ」と「アリュール」を同じ割合で合わせてかき混ぜ、評価する人を呼んでくる。これはレスピーギの「ローマの噴水」がクラシック音楽のベストセラーであるのと同じ理由で成功した。華やかで印象的で、押しつけがましくない。平凡になるのは簡単だが、大物になるのはむずかしい。この香水はスカラ座に初めて行く女性たちと似ている。すっかり日焼け色にして、化粧も髪もばっちり決める。嬉しいことにこのスタイルは廃れてきた。」と4つ星(5段階評価)の評価をつけています。
ココ マドモアゼル香水広告フォト集
香水データ
香水名:ココ マドモアゼル
原名:Coco Mademoiselle
種類:オード・パルファム
ブランド:シャネル
調香師:ジャック・ポルジュ
発表年:2001年
対象性別:女性
価格:50ml/16,500円、100ml/23,100円
公式ホームページ:シャネル
トップノート:オレンジ、マンダリン・オレンジ、オレンジ・ブロッサム、ベルガモット
ミドルノート:ミモザ、ジャスミン、ターキッシュ・ローズ、イランイラン
ラストノート:トンカビーン、パチョリ、オポポナックス、バニラ、ベチバー、ホワイト・ムスク