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【キリアン】ビヨンド ラブ(カリス・ベッカー)

キリアン
キリアン
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ビヨンド ラブ

【特別監修】Le Chercheur de Parfum様

原名:Beyond Love
種類:オード・パルファム
ブランド:キリアン
調香師:カリス・ベッカー
発表年:2007年
対象性別:女性
価格:日本未発売

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禁じられたチューベローズ

ヘネシー一族の女性たちはみなチューベローズの香りを愛していました。ル ガリオンの「チューベローズ」、ディオールの「プワゾン」、ロベール・ピゲの「フラカ」、キャロンの「チューベローズ」といった具合にです。そんな彼女たちに気に入ってもらえるような香りとしてこの香りを作りました。私にとってのこの香りのイメージは舞踏会の前にイブニングドレスや宝飾を身につけて髪を整えている母や祖母の姿なのです。

キリアン・ヘネシー(そして、一族の女性たちは皆、この香水に乗り換えた)

キリアン・ヘネシーは2007年10月に「バイ・キリアン」(現在は「キリアン」)という名でブランド創業するにあたり、6作品からなるコレクション「ルーヴル ノワール —愛が描く甘い誘惑の世界—」を発表しました。このコレクションは、三つのテーマに分けられています。

ビヨンド ラブ(愛の彼方に)」には「Prohibited(禁じられた愛)」という副題がついています。Les Ingenues(無邪気な者たち、ポール・ヴェルレーヌの詩)のテーマで生み出された、初めて誘惑する女性のための香水です。

つまりは、「禁じられた愛の彼方に」という名の香りなのです。往年のハリウッド女優の持つ魔性の魅力(ファム・ファタール)を投影した香りです。

フルーティー・フローラルの香りは、かつて、「楽園の彼方(ビヨンド パラダイス)」の香りを生み出したカリス・ベッカーにより調香されました。日本未発売の香りです。

この香りの創造にはすごい逸話があります。通常、カリスが最初に作るプロトタイプを基に、キリアン・ヘネシーが色々指示を出し、何百ものテストが繰り返され、作品は誕生するのですが、この香りに関しては、キリアンがプロトタイプを香ったその瞬間に「このままでお願いします!」とカリスに頼み、商品化されたのでした。

「ビヨンド ラブ」では、ジャスミンをはっきりと際立たせたかったので、私が思い描いていたものを見つけるためにあらゆるジャスミンの香りをカリスは試させてくれました。例えば、「ジョイ」や「ジャスマン ドゥ ニュイ」など、他のジャスミン系の香水を再現するのではなく、他のどの香りとも明らかに異なることを目指したからです。

だから、私が望まないものを明確にした上で、カリスはさまざまな方向性を模索し始め、そのドラフトを私に見せてくれたのでした。

キリアン・ヘネシー

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愛の彼方に存在する「魔性の女」の花園


愛を冒険のように楽しむ女性のためのこの香りは、チューベローズの香りに往年のハリウッドスターのファム・ファタールのようなブラック&ホワイトのオーラを纏わせた香りです。

キリアン・ヘネシーが一族の女性たちのために作り上げた香りだけあって、この香りは素材の高級感と実用性に特化しており、芸術的なチューベローズを生み出そうというケレン味は一切存在しません。

見るものを惹きつけて離さない華やかさとは、卓越した照明技術と、オートクチュール・ドレスを着た類まれなる美女によって生み出されるものなのです。つまりは最も美しく甘い芳香を放つ、闇夜のチューベローズの香りに、光と影のコントラストを生み出すように照明を当て、より美しく華やかにした香りなのです。

四種類のチューベローズ(アブソリュート、コンクリート、グリーンアコード、ペタルアコード)のコントラストにより、メントールの効いたグリーンノートが際立つ、白く煌くようなクリーミーなチューベローズの香りからこの香りははじまります。

初期のキリアンにおいてフォーミュラは完全公開されていました。
ココナッツ・アコード 10g/エジプト産ジャスミンアブソリュート 20g/チューベローズ・コンクリート 250g/チューベローズ・アブソリュート 300g/グリーン・チューベローズ・アコード 50g/チューベローズ・ペタル・アコード 480g/アンバーグリス・アコード 10g/トンキンムスク 80g

すぐに、ココナッツがチューベローズに熱帯のミルキーな蒸し暑さを与え、エジプト産ジャスミン・アブソリュートが華やかな甘さを加えてゆきます。この二つの香料は、あくまでチューベローズのグリーンの輝きを際立たせる役割を果たすために存在するジュエリーのようなものです。

やがて、最高級のムスクであるトンキン・ムスクがシルク・ガウンのようにチューベローズを優しく包み込んでゆきます。そして、アンバーグリスが、滑らかな柔らかい月の光のように、シルク・ガウン越しに見える裸体を官能的に照らすのです。

こうして、ムスキーなアンバーグリスによって輝くグリーン・チューベローズの余韻に満たされ、キリアン一族の女性は、隙のない洗練されたファッションに、ただひとつだけ〝魔性の媚薬〟を隠し持つことに大いなる喜びを感じるようになったのでした。

このトンキン・ムスクとは、ベトナムのトンキン地方で採れる最高級のムスクを合成したものであり、かなりアニマリックな合成ムスクです。
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「カーナル フラワー」との比較


チューベローズの御三家ともいえるロベール・ピゲの「フラカ」、セルジュ・ルタンスの「テュベルーズクリミネル」、フレデリック・マルの「カーナル フラワー」とよく比較される香りです。

特に、「カーナル フラワー」との比較が興味深いです。アコードも含めるとフォーミュラの88%がチューベローズという、恐らく史上最高濃度である「ビヨンド ラブ」が、純粋なチューベローズの最高峰であるなら、「カーナル フラワー」は、本物のチューベローズよりも本物らしくした香りの最高峰です。それは、最も美しい瞬間を切り取った写真のようなチューベローズの香りではなく、チューベローズの一生、生態を描いた時の流れさえも感じさせる香りなのです。

つまり、前者は、本物のチューベローズを超えるつもりで生み出したものではなく、後者は、本物のチューベローズを超えるために生み出されたものであるという違いなのです。それが「カーナル フラワー」の方が、よりファム・ファタールに感じさせる要因なのかもしれません。

ただし、「ビヨンド ラブ」において、チューベローズの贅沢な香料をこれだけ集め、再現して見せたのは、カリス・ベッカーだからこそ成し得た偉業だと言えます。

かくして、キリアンのファースト・チューベローズは誕生し、ここから、「グッド ガール ゴーン バッド」、「ローリング イン ラブ」へと連なっていくのです。

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「私は「オスカー デ ラ レンタ」「フラジャイル」のようなチューベローズの構成があまり好きではなかった。中心となる香りの翼を刈り込まなければ、いい香りを得られないように思えたのだ。チューベローズはすばらしい香りだが、厳密には清潔で植物的という意味でのフローラルの香りではない。それはバター、ゴム、レザー、血液、そして神も知るそのほかの匂いがする。」

「ルドニツカが「ディオリシモ」のときスズランで試みたように、新鮮な花を手本にして、カリス・ベッカーはインドから輸入した最高のアブソリュートを使い、抽出物と生の花の違いを埋めるためだけに、ほんの少し別の物の香りであるマグノリアやアイリスを使った。その結果、チューベローズのみを表現した香水の最高峰が出現した。」と4つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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香水データ

香水名:ビヨンド ラブ
原名:Beyond Love
種類:オード・パルファム
ブランド:キリアン
調香師:カリス・ベッカー
発表年:2007年
対象性別:女性
価格:日本未発売


シングルノート:グリーンノート、ジャスミン、チューベローズ、アンバー、ムスク、ココナッツ