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【ディオール】プワゾン(エドゥアール・フレシェ/ジャン・ギシャール)

クリスチャン・ディオール
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クリスチャン・ディオール
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プワゾン

原名:Poison
種類:オード・トワレ
ブランド:クリスチャン・ディオール
調香師:エドゥアール・フレシェ、ジャン・ギシャール
発表年:1985年
対象性別:女性
価格:50ml/13,750円、100ml/20,570円、エクストレ・ドゥ・パルファン 15ml/31,350円
公式ホームページ:ディオール

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感想(17件)

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1977年のYSLの『オピウム革命』のさらに上をいく、革命始動。

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1980年代を代表する革命的なフレグランスの誕生のきっかけは、「もっとも香水に相応しくない名をつけた香りを創造しよう」というパルファン・クリスチャン・ディオールの社長モーリス・ロジェの構想からはじまりました。

1968年以降、パルファン・クリスチャン・ディオールは、モエ・エ・シャンドンに買収され、その傘下にありました。そして、モエ・ヘネシー・グループとなっていた1981年にアラン・シュヴァリエが新会長に就任した時、低迷していたディオールのフレグランス部門に対してテコ入れが開始されたのでした。

かくしてモーリス・ロジェが、1981年に大手サノフィから引き抜かれ、社長に就任したのでした。そんな彼にとって、果たさなければならない二つの宿願がありました。ひとつは、1977年に発売されたイヴ・サンローランの「オピウム」を凌ぐセンセーショナルな香りを創造すること。そして、もうひとつの宿願は、アメリカ市場(世界の香水販売の40%を占める)において、かつて「ミス ディオール」が巻き起こしたようなディオール旋風を再び巻き起こすことでした。

プワゾン」前夜のディオールは、ヨーロッパにおいては、No.1かNo.2のコスメ販売のシェアを占めていたのですが、アメリカにおいてはトップ20にも入らない状況でした。そんな状況を変えるべく、モーリスは、1982年9月にディオールのフレグランス開発に取り掛かるのでした。

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『全てのものは毒であり、毒でないものなど存在しない』

パルファン・クリスチャン・ディオールの当時の社長モーリス・ロジェ

全てのものは毒であり、毒でないものなど存在しない。その服用量こそが毒であるか、そうでないかを決めるのだ。

パラケルスス

モーリス・ロジェは、すっかり過去の存在になっていたディオールのフレグランスを復活させるために、「オピウム」以上に、ドラマティックかつインパクトのある名前の香りを生み出すことが、世界中の人々の興味を再び惹き付けるために大切なことと考えました。

つまり、中身の液体からはじめるのではなく、まず最初にフレグランスの名前を決定することからはじめたのでした。

モーリスはこの時主流となっていた市場調査を一切行わずに、最初から最後まで、自分の感性を信じました。そして〝完全に現代的でありながら、神話的な力が深く吹き込まれた香水を作らないといけない〟と決意したのでした。

ナスターシャ・キンスキー、リチャード・アヴェドン、1981年。

1981年にリチャード・アヴェドンが撮影したナスターシャ・キンスキーの写真からイメージを膨らませ、〝愛とは惜しみなく奪う誘惑である〟という悪魔的なテーマで、当初〝ヴェノム(VENOM)〟の名でほぼ決まっていました。しかし1983年春に、神の啓示のように〝プワゾン(POISON)〟という名が降りてきたのでした。

それはポール・ヴァレリーの「香水は心の毒薬」という言葉と結びつき、モーリスに「これしかない!」と確信させるに至ったのでした。

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間違いから生まれた『ディオールの毒』

ガイコツに見えるようになっています。©DIORBEAUTY

『All is Vanity』(1892)チャールズ・アラン・ギルバート

まずプワゾン(=毒)という名前の魔力が、香りにミステリアスで、非日常的で、刺激的な感触を与えた。もちろん、毒々しい黒いイメージではなく、もっともっと神秘的で謎めいたイメージです。

次にそれを身に付ける女性の個性を生き生きと表現する香りが必要でした。着る女性の個性を完全に覆い隠してしまうような、鎧のようなフレグランスにはしたくなかったのです。

驚くべきものでありながら安心感を与えるもの、分かりやすいようで実は深みのあるもの、フレッシュでありながら官能的なもの、といった相反する価値観を反映した香りを作る必要がありました。

モーリス・ロジェ

当時のアーティスティック・ディレクターは、マリー・クリスティーヌ・ヘフラー=ルイシュフレデリック・マルの母親)でした。彼女は、「プワゾン」という名に相応しい香りを捜し求め、IFF、フィルメニッヒ、ジボダンなどの多くの調香師から提出された約780作品の中から相応しい香りを選ぶ作業に邁進していました。

これまで誰も組み合わせたことのない大胆なブレンドを求めるモーリス・ロジェの前に、理想的な試作品がいくつか置かれるようになりました。ルール・ベルトラン・デュポン社(現ジボダン)のジャン・ギシャールは、モーリスに試作品を送る調香師のひとりでした。

1982年にブリーフィングに参加した時、まだ名前も決まっていませんでした。製作の過程においても、悪魔のいたずらのような出来事がありました。ジャン・ギシャールの試作品は、最終選考にまで残り、以後、毎週末にモーリスに調整したバージョンを送っていました。そして、月曜日にモーリスとその香りについてさらに微調整してゆき、完成に向けて磨き上げていくというプロセスを繰り返していました。

そんなある日、研究所は間違って、エドゥアール・フレシェが作っていたものをモーリスに送ってしまったのでした。それはブレンダーが間違って、エデュアールが指示していた1%の濃度ではなく100%の濃度で合成香料ダマスコンを過剰投与された香りでした。

この事に気づいたジャンは、翌週改めて自らのものを送りました。多忙であるモーリスはまだ試作品を確認していませんでした。ジャンから、正しいのはさっき届いたものだと言われたのですが、モーリスは「私が求めていたものは先週送られてきたものです」と言い放ったのでした。

「前代未聞の香りが欲しかった。そのためたくさん失望させられたが、最終的に完全にオリジナルで、既存のどの系列にも属さない、特別なフレグランスに辿り着きました」。かくして、ジャンとエドゥアールは二人で共同作業することになったのでした。二人は完成するまで自分達が作っていた香りの名を教えてもらえなかったので、発売当日「プワゾン」という名を知り、びっくり仰天したのでした。

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手のひらサイズの〝毒りんご〟

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ヴェロニク・モノーも最後までこのボトルの名を知らなかった。©DIORBEAUTY

スパイスとウッドを伴った強いムスクのアコードの上に、フローラルでフルーティなキャラクターを構築していきました。フローラルノートは、チューベローズ、ジャスミン、ローズなど贅沢な香料を使い、ダマスコンとフルーツでアクセントをつけました。

エドゥアール・フレシュ

その他、アルデハイドC18 (ココナッツ)、γ-デカラクトン(クリーミーなピーチ)も過剰摂取されていました。かくしてスパイシーでフローラルな香りと、フルーティでムスキーな香りを併せ持つ、温かく官能的な香りが誕生したのでした。

1983年春に「プワゾン」という名が決まった時、それまでのボトルデザイン案はすべて却下されました。そして、モーリス・ロジェが「プワゾン(毒)ならボトルはリンゴであるべきだ!」 と提案しました。しかし、マリーはその案に反発し、ハンドメイドで作られたアメジスト・ジュエリーをイメージしたボトルデザインを提案したのでした。

綿密に計算されたボトル・デザインは、1920年代の偉大なガラス職人モーリス・マリノのデザインにインスパイアされたものでした。アダムとイブの禁断のリンゴと火山のイメージで創られたアメジストカラーのリンゴ型ボトルは、手のひらにぴったりと収まるようなサイズで、ヴェロニク・モノーによってデザインされました。

ヴェロニクは、当初、ディオールが求めるイメージだけをマリーから聞き、名前は教えられずに、火山をイメージしたボトルデザインを考えました。ボトルの内側から湧き上がるパワーを表現したものです。もうひとつのイメージはヴェネチアの花瓶をイメージしたものでした。このふたつを結びつけハンドメイド感が伝わるものがボトルデザインとなりました。

当初、パッケージデザインはアフリカンプリントの予定でしたが、マリーがアメジストと相性の良いエメラルドカラーが、暗黒から浮き上がるようなデザインにすることを決めたのでした。

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悪魔を、つとめて優雅に、あなたの心に招き入れる香り

©DIORBEAUTY

今日、プワゾンでやったようなことは出来ないと思います。現在の香水は味気ない。プワゾンがクラシックになったのは、クラシックな香水がすべて何らかの成分を極端に多く含んでいるからだと思います。

たとえば、アルデハイドを過剰に配合した「No.5」や、ガルバナムを強烈に効かせた「ヴァンベール」(1947)、エチルバニリンが特徴的な「シャリマー」(1925)などがそうです。クラシックな香りは、成分かアコードの過剰摂取により特徴付けられると思います。

エドゥアール・フレシュ

「何も新しいものを発明したわけではない」と言われるこの香りが社会現象になったのは、あらゆるメディアを隅から隅まで活用したフレグランス業界初の本格的なマーケティング戦略の巧みさによるものでした。

毒を以て毒を制す。エレガンスを以てエレガンスを制す。ディオールを以てディオールを制す。ブランドロゴを愛する人々で満ち溢れている、日本の政治も崩壊し、世界秩序も崩壊しつつある今にこそ求められる〝毒〟それが「プワゾン」なのです。

さあ、秘めやかに悪の調べに身を委ねましょう。病める花々を捧げ、いまはしいものの色香に迷い、悪を枕に夢見心地となりましょう。妖艶で、謎めく香りプワゾンのスイッチを押した瞬間、あなたの感情は誇張され〝滅亡のカウントダウン〟がはじまるのです。

しあわせな感情になる香りでも、不幸を身に纏うのでもなく、悪魔を、つとめて優雅にあなたの心に招き入れる香り、それがプワゾンだ。熟したプラムとブルーベリーが、シナモンを溶けこませ、揉みしだかれ、搾り上げられていくような、臨場感溢れる黒ずんだフルーツリキュールの香りからこの香りははじまります。香りの魔界の入り口へようこそ。

とろけて匂い立つオレンジハニーが、きらめくようなアニスとコリアンダーとまぐわいながら、善悪の彼岸へと到達するのです。花々の最も妖しい息吹だけを集めたように、チューベローズとジャスミンを中心にローズ、オレンジ・フラワー、スズラン、カーネーションがこれまでにないほどに艶やかに花粉を撒き、花蜜を滴らせてゆきます。チューベローズが持つミントのような側面を筆頭に、すべての花々の二面性がこの香りの中に存在しています。

それはまるで、いつも清く正しくうつくしい、天使のような笑顔を振りまく貴婦人が、夜会のために、愛する人のためだけに、悪魔のような美しさを解き放ち、妖艶な装いで現れるようです。

そこに、ドレスのスリットから透けて見える引き締まった長い脚に夢中にさせるように、うっとりと美しくも幻想的なフランキンセンスとオポポナックスが甘い肉の香りを広がらせていくのです。

キスへと誘う〝魔性のプワゾン〟は、愛する人さえも悪魔に変えてゆくのです。一斉に広がる悪魔の旋律を奏でるムスクの香りに乗って、バニラとアンバーを中心としたベチバー、ムスク、サンダルウッド、シダー、ヘリオトロープが、信じられないほど繊細でクリーミーな濃厚さで、あなたの心の隙間に染み込んでいくのです。さあ、身に纏うのではなく、心地よく抱きしめられるように、身も心も征服されるひと時を愉しみましょう。

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毒をもって世界を制した香水になる。

©DIORBEAUTY

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1985年9月1日、 1912年に沈没したタイタニック号が北大西洋沖で発見された日に、フランスのヴォー=ル=ヴィコント城において、イザベル・アジャーニをキャンペーン・モデルに、ついに一大キャンペーンの幕が切って落とされたのでした。

そして、まずは先行発売されたパリのギャラリー・ラファイエットの最初の12日間において、50秒に1本売れるという恐ろしい記録を生み出したのでした(1986年3月にシンガポールで発売された時、44秒に1本売れるという記憶を打ち立てた)。

アメリカだけでも900万ドルをかけた史上空前のフレグランス・プロモーションが行われました。それはテレビCMに100万ドルを投入し、本物の孔雀の羽が50万羽購入し、そこに「プワゾン」をつけて人々に配布しました。さらにあらゆる雑誌の中には、合計2300万個の折込無料ムエットが投入されたのでした。

1986年7月4日に焦らしに焦らせてアメリカ上陸した「プワゾン」は、その前からヨーロッパへ渡航したアメリカ人のお土産リストの上位を飾っていたのですが、発売後、爆発的な売り上げを記録し、マンハッタンの最高級レストランにおいては、「ノー・スモーキング、ノー・プワゾン」と掲示されたほどでした(ジョルジオ ビバリーヒルズの「ジョルジオ」やカルバン・クラインの「オブセッション」と同じ扱いを受ける)。

一方、バブル景気を謳歌していた日本に、1986年5月に上陸した「プワゾン」は、ボディコンお姉様達が、一晩で全てを使い切るほどに降りかけていました。

最終的にディオールは18ヶ月の世界的なキャンペーンに4000万ドルを費やしたのですが、このキャンペーンは見事に成功したのでした。以後、今に至るまでディオールは、大々的なキャンペーン。1987年にその人気はピークに達し、「プワゾン」は名実共に、毒をもって世界を制した香水になったのでした。

最後に、再処方に再処方を繰り返した現在販売されている「プワゾン」には、身に纏う自分自身さえも戦慄を覚えるチューベローズの官能的な艶やかさは失われ、そのチューベローズを妖しく輝かせていた謎めいた花々の煌めきも消え失せ、記憶の中にまで残るようなオポポナックスも消滅しています。

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「プワゾン」を「過剰なチューベローズ」と呼び、「プワゾンの試香はどことなく、帰宅ラッシュ時にM1エイブラムス主力戦車を試乗するのに似ている。周りの車は道をあけてくれるようだし、もしどけないのなら、砲塔をぐるりと回転させてお遊びではないことを知らしめるまでだ。」

誰もが目の敵にしたがるのがこの香水で、80年代を特徴づけた野獣であり、私にとってはいくつかの友情と、大切な取引先を一件犠牲にした香水だ。」

「さらに、史上間違いなくもっとも華やかで、シロップのように甘いチューベローズであり、個人的には「アマリージュ」、そして「彼に忘れられない一夜を」といった部類の、オスカー デ ラ レンタの初作品を葬ると思っている。香水コレクターなら誰だって持っているべき、ただし絶対にディナーへはつけていかないでもらいたい。」と5つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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香水データ

香水名:プワゾン
原名:Poison
種類:オード・トワレ
ブランド:クリスチャン・ディオール
調香師:エドゥアール・フレシェ、ジャン・ギシャール
発表年:1985年
対象性別:女性
価格:50ml/13,750円、100ml/20,570円、エクストレ・ドゥ・パルファン 15ml/31,350円
公式ホームページ:ディオール


トップノート:コリアンダー、プラム、ブルーベリー、アニス、ブラジル産ローズウッド、オレンジハニー、ピメント
ミドルノート:カーネーション、ジャスミン、アフリカ産オレンジ・フラワー、チューベローズ、オポポナックス(ミルラ)、シナモン、フランキンセンス、ローズ、スズラン
ラストノート:ベチバー、ムスク、サンダルウッド、ヴァージニア産シダー、アンバー、バニラ、ヘリオトロープ

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