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『風と共に去りぬ』Vol.1|ヴィヴィアン・リーとスカーレット・オハラ

ヴィヴィアン・リー
ヴィヴィアン・リー 女を磨くアイコン 映画女優
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女性の最も美しい部分と、最も恐ろしい部分を兼ね備えた女優

20世紀で最も美しい女優は誰かという話題が出ると必ず名前が挙がるのが、ヴィヴィアン・リーです。そして、その次に出る言葉が「彼女はスカーレット・オハラを演じるために生まれてきた」です。

ただの悪女にしかなり得ないスカーレットのキャラクターの複雑さを、ヴィヴィアンは、自分の気持ちに正直で、自由奔放、打たれれば打たれるほど強くなっていく生命力の強さを併せ持つ女性として見事に演じあげたのでした。魂を注ぎ込んだ芝居とでも言うのでしょうか。男性さえも惚れ惚れさせる気迫が、この作品の彼女にはあります。

特に右の眉が持ち上がる時の表情のうつくしさ。左右非対称だからこそ美しさが増す。それはまさに伝統的な日本の陶器のようであり、京都の庭のようでもある。女性とは手の加えられた左右非対称な存在なのである。それは決して左右対称に近づけるために手を加えるべきものではない。整った美は、直ちに倦怠と居心地の悪さを感じさせる。人間とは、アンバランスなバランスにこそ心踊らされ、夢中になるものなのです。そして、ヴィヴィアン・リーの存在には、その美の真髄が全て詰まっています。

左右の眉の非対称さが生み出す魔性。

左右の眉の非対称さが生み出す魔性。

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舞台女優とは、衣裳に負けない女優

私は映画スターではなく女優です。ただ映画スターであることだけでは、うわべだけの偽りの人生です。偽りの価値と宣伝のために生きているだけです。(それに比べて)女優は人生すべてを費やすに値する仕事なのです。

ヴィヴィアン・リー

舞台で演じることに情熱を燃やしていたヴィヴィアン・リーが、もう一つ情熱を燃やしていたのは、撮影当時不倫関係にあったローレンス・オリヴィエとの恋愛でした。7才年長である成熟した男性との交流が、彼女に年齢以上の成熟を与えました。シェイクスピア劇において、衣装に負けない俳優の存在感を示す人であった彼のアドバイスは、この作品のヴィヴィアンの全てに影響を与えました。

だからこそ、英国の上流階級の娘が、南北戦争時代のアメリカ南部の上流階級の娘を演じることの障壁を乗り越え、19世紀の物語絵巻に感情移入させる説得力を生み出すことに成功したのでした。

彼女には、「すばやくころころと変わる表情」がありました。歴史劇を演じるために女優に求められる要素。それは間違いなくこの表情の要素です。それは日本映画を引き合いに出すならば、伊藤大輔監督、中村錦之助主演の『反逆児』(1961)において徳姫を演じた岩崎加根子や、黒澤明監督の『』(1985)において楓の方を演じた原田美枝子の歴史的名演に象徴されます。

そして、何よりも、日本を代表する大女優・八千草薫様が回想しているように、彼女には、王立演劇学校で磨き上げられた「白鳥が湖上をすべるような素晴らしい歩き方」が出来る人だったのです。アシュレーが結婚することを聞いて動揺し、大邸宅の前のゆるやかな坂道を、スカートの裾を手に持ち、小走りに駆け下りた瞬間、ヴィヴィアン・リーはスカーレットになったのでした。

スカーレット・オハラ スタイル1

ホワイトガーデンドレス
  • ホワイトドレス、スカートが大きく広がるクリノリンスタイル、ラッフルパフスリーブと8重のフリル
  • 赤のヘアリボン
  • 赤ベルト
  • レッドシューズ
  • 首もとのブローチがワンポイントとして効いています

このドレスを着て山野を優雅に歩くことが出来るヴィヴィアン。

スカーレット・ルックPART1ホワイト・ドレス

クリノリン・スタイル。ファッションの歴史を学ぶお時間。

スカーレット・ルックPART1で台本を読むヴィヴィアン・リー。

台本の中のト書きをおさらいしているヴィヴィアン・リー。

そして、衣裳テスト写真を撮る。なぜかとてもキュート。

Gone With The Wind (1939) Opening Scene
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過ぎ去った熱狂=ファッションの歴史

クリノリン・スタイル。

着物のように絵になるクリノリン・スタイル。

ファッションとは何か?それは機能性に対する複雑な感情の歴史です。日々移り変わる心です。ある時は、スニーカーをベースにした、カジュアルで機能的なクールさを生み出す着こなしに喜びを感じ、ある時は、ヒールの高い靴をベースに、白を中心にした機能性以上に視覚を重視したエレガントなスタイルに喜びを見い出す。時には、ある部分を多めに露出し、女性らしさの演出に全神経を注ぎ込み、グラマラスなムードに身を委ねる。

ファッションとは、セルフ・クリエイションを楽しみ修行出来る場でもあり、自宅の全身鏡の前は、感性を磨く練習台なのです。ファッションとは、過去の遺産でもあり、人類の英知の遺産でもあります。生き残るファッションは、常に機能的なものだけ(トレンチコートやジーンズ、スーツのように)ですが、得てして重要なものは滅び去った機能性のないファッションに秘められているのです。

そんな代表的な“滅び去った”スタイルのひとつが、「風と共に去りぬ」時代の最先端ファッションだったクリノリンスタイルです。クリノリンスタイルとは、ホースヘアーとコットンもしくはリネンで作られたフープをスカートの下につけて裾を大きく広げたドレス・スタイル(シルエット)のことを言います。1850年代にこのスタイルが紹介され、それまで何重も重ね履きしていたペチコートによって生み出されていたドーム型のシルエットが容易に得られるようになりました。

ヴィクトリア朝時代(1837-1901)のイギリスで爆発的に広まったクリノリンは、ナポレオン第二帝政時代(1852-1870)にパリでも大流行しました。1856年ナポレオン4世を身ごもっていたフランスのウジェニー皇后は、妊娠により崩れたボディラインを隠すためにクリノリンを巨大化しました。そして、それが当時の最先端シルエットになりました。このスタイルはまた、アメリカ南部の上流階級のファッションとしても大流行しました。

ちなみにクリノリンシルエットは、20世紀以降もリバイバルしています。1947年のクリスチャン・ディオールの「ニュールック」の影響を受けて、1950年代から60年代にかけて、ネットペチコートが流行しました。1980年代には、ヴィヴィアン・ウエストウッドのデザインにも影響を与えています。さらに20世紀末から今世紀にかけて、ジョン・ガリアーノアレキサンダー・マックイーンのデザインにも影響を与えました。

映画の持つ力=滅び去ったファッションを蘇えさせる力。

映画のみが、ファッションの歴史を雄弁に語ることが出来ます。しかし、ファッション及びアパレル業界における映画(特にクラシック映画)の地位は、致命的なまでに低く、その理解度は、表面的なレベルにとどまっています(その傾向は年々加速しています)。

ファッション文化が成熟を迎えつつある今、この両産業に関わっている人達には、意識革命が求められます。

それは、多様性に満ちた感性が求められるファッションが、更なる芸術の領域に到達する時代において、避けて通れないことなのです(ファッションが売り上げに支配された時、そのファッションのクリエイション能力は完全に死に絶えるのです。)。

冷酷な言い方をするならば、クラシック映画を知らぬものは、ファッションを語る資格がないというほどに、ファッションは感性の領域から、更なる成熟の段階に到達しているのです。そうです。ファッション誌から知る映画の知識ではなく「本当に鑑賞して理解する姿勢」が求められるのです。

ヴィヴィアン・リーの横顔。

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スカーレット・オハラ スタイル2

グリーンフローラルドレス
  • グリーンの草枝模様がプリントされたホワイトドレス、クリノリンスタイル、グリーンサテンのサッシュベルト
  • グリーンのヘアリボン
  • ゴールド・イヤリング
  • グリーン・シューズ
  • 白のショートグローブ
  • 白のレースショール
  • 麦わらのブリムの広いキャプリーヌ。リボンはもちろんグリーン

何よりも興味深いのは、ガーデンパーティーにおいて、腕を露出している女性はスカーレット・オハラだけだということなのです。そして、それが彼女の役柄の全てを物語っているのです。

つまりは、今で言うところの、誰よりも露出して男性の目を惹きつけることに躍起になっている女性だということなのです。

この作品により、1940年代、このグリーンフローラルドレスはスカーレット・ルック(=バーベキュー・ルック)として、多くコピーされ販売されました。

それはやがてユベール・ド・ジバンシィが行うプレタポルテ・コレクション。そして、ファッションの大衆化への流れを導き出す原動力になりました。

スカーレット・ルックPART2グリーン・フローラル・ドレス

1940年代にコピーされたスカーレット・ルック。

胸元、袖についたラッフルがドレスに生命力をみなぎらせています。

ヴィヴィアン・リーの魅力はこの「アイス・ルック」にある。

劇中は手にレースショールを持っています。

スカーレット・ルックPART2グリーン・フローラル・ドレス

彼女の目には何かが宿っています。

足元にはカメラが移動するレールが設置されています。

ウォルター・プランケットのデザイン画。

ウォルター・プランケットのデザイン画。

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コルセットからの解放!

有名なコルセットシーン。

ヴィヴィアン・リーが可愛らしい有名なコルセットシーン。

有名なコルセットシーン。

園遊会のお昼寝タイム。若い女性たちが皆ドレスを脱ぎ、お昼寝します。

ジャージーを開発しながら、あたしは女の肉体を解放した。ウエストをしめつけず(1930年まで)、新しいシルエットを表現した。他のクチュリエたちの憤慨を尻目に、スカート丈をだんだん短くしていった。

ココ・シャネル

この映画には、ファッションに関する印象深いシーンがたくさん出てきます。その中でも特に印象深いのが、スカーレットが黒人の召使マミーにコルセットを締め付けさせるシーンです。この時代、女性にとってウエストラインのくびれが必須の時代でした。

1906年にポール・ポワレの発表したハイ・ウエストのドレス「ローラ・モンテス」により、コルセットが女性のファッションから取り除かれました。そして、1916年、ココ・シャネルの発表したジャージードレスにより、完全に女性はコルセットから解放されたのでした。

つまりは第一次世界大戦(1914-1918)が、19世紀の終焉を告げ、20世紀の始まりのベルを鳴らしたのでした。女性の肉体は解放され、活動的になり、若々しさに満ち溢れ、自由で洗練された女性像が、豊満な女性の美を駆逐したのでした。

作品データ

作品名:風と共に去りぬ Gone with the Wind (1939)
監督:ヴィクター・フレミング
衣装:ウォルター・プランケット
出演者:ヴィヴィアン・リー/クラーク・ゲーブル/オリヴィア・デ・ハヴィランド/レスリー・ハワード

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