ジャン・パトゥのジョイを愛した女
彼女が身の回りに潔癖であったのは気ちがいじみていた。白い手袋を何ダースも持っていて(あるときはきれいに洗濯して、一組ずつ紙袋に包まれた75組の手袋が衣裳戸棚のいちばん上の引き出しに入っていた)、しみがついた手袋をはめないですむように、いつもきれいなのを一組、ハンドバッグに入れていた。
彼女はいつも香水を持って歩いていて、からだの匂いを防ぎ、部屋の匂いを防ぎ、息の匂いを消すのに使っていた。
『ヴィヴィアン・リー』アン・エドワーズ
ヴィヴィアン・リーが一番最初に愛した香水は、母親のガートルードが愛用していたアトキンソンの「ホワイトローズ」でした。やがてキャロンの「ベロージア」を愛用するようになり、そして、ローレンス・オリヴィエと交際するようになったヴィヴィアンが、オリヴィエから贈られた最初のプレゼントが、ジャンパトゥの「ジョイ」でした。
以後、オリヴィエと離婚しても、彼女はこの香りを愛し続けたのでした。
ちなみにはじめてマーロン・ブランドとヴィヴィアンが会話を交わしたとき、ブランドは彼女にこう質問しました。「どうしていつも香水をつけてるのですか?」。ヴィヴィアンは「いい香りでいたいから。あなたは違うの?」と答えました。
その質問に対してブランドは、自分は風呂にも入らないと答え「僕はただ唾を空中に吐いて、その下を走り回るだけさ」と答えました。
この作品には、実に興味深い香水に対する名言があります。
安物の香水ほど遠くまで匂うものよ。
ブランチ・デュボア

ブランドと演技プランについて打ち合わせするヴィヴィアン。

ヴィヴィアンの周りには絶えず「ジョイ」の香りが漂っていました。
ブランチ・デュボア・ルック3
フラワードレス
- 花模様のレースドレス
- 一連のパールネックレス

ブランチが破産したことを確かめるスタンリー。

徹底的にブランチの精神世界を破壊しようとするスタンリー。それにはどこかマルキ・ド・サドの世界観を連想させるものがあります。

「だれだって、ほかのだれにもふれてもらいたくない自分だけのものをもっているのよ」
テネシーの姉ローズ・ウィリアムズ

「ブランチ・デュボアは私自身だ」テネシー・ウィリアムズ

ブランチのモデルは、テネシーの姉ローズ・ウィリアムズでした。
彼女は悪魔のような生きもので、感情があまりにも大きすぎるため、からだの中におさまりきれず、それが狂気のかたちになって噴出してゆくのである。
テネシー・ウィリアムズのブランチ評
テネシー・ウィリアムズ(1911-1983)にはローズ(1909-1996)という姉がいました。彼は2歳年上のこの姉と双子のように仲がよかったのですが、10代はじめから彼女に異変が見え始めます。
性に対して早熟な兆候を見せ始め、メイクアップをして、ヒステリックになるようになりました。そして、段々と症状は手に負えなくなり、卑猥な言葉を絶えず吐き散らすようになりました。1937年以降は、精神病院に強制入院させられ、やがて1943年に母エドウィナの要請によりロボトミー手術が行われました。
姉に対してうんざりしていて係わり合いを持たないようになっていたテネシーは、自分自身の姉に対する情の無い態度と、母親のロボトミー手術の判断が許せず、罪の意識に一生さいなまれるようになります。
この作品におけるブランチ・デュボアという女性は、そんな最愛の姉ローズに対する想いが生み出したキャラクターだったのです。さらに『ガラスの動物園』のローラや『去年の夏 突然に』のキャサリンもローズからインスパイアされ生み出されたキャラクターでした。
本作の舞台劇が売れた1947年以降、テネシーは、ローズが最高の精神的なケアを受けることができる環境を作り、一生彼女の面倒を見続け、自分の死後も、印税が彼女のケアに役立つように気を配りました。
ブランチ・デュボア・ルック4
シフォンガウン
- ブルーとピンクのシフォンガウン
- 一連のパールネックレス
男の人って、手軽に手に入るものはほしがらない、と言って、あんまり待たせられるとその気をなくしてしまう。特に女が三十をすぎていると。
ブランチ・ドュボア

「フランス系の名前よ。デュボアは森という意味、ブランチは白、だからあわせると、白い森。春の果樹園のようよね。」

キム・ハンターとマーロン・ブランドとヴィヴィアン・リー。

ゲイリー・クーパーとヴィヴィアン・リー
ブランチ・デュボア・ルック5
ローブデコルテドレス
- ローブデコルテドレス、チュールスカート
- シフォンケープ
- 真ん中に真珠が収まったハートのネックレス
16歳ではじめて恋を知った。 そしてある日わかったの。いやっていうほど思い知らされたの。だれもいないと思ってふと入った部屋に、だれもいないどころか、二人の男がいた・・・
映画版では削除された、重要な原作の一文
若くしてブランチが結婚した男性は、並みはずれた美少年であり、教養人でした。彼女は彼の全てを崇拝していたのですが、ある日彼のゲイ行為を彼女は見てしまうのでした。
そして、何事も無かったように三人でドライブし、カジノで夜通し酔っ払い、夫とダンスを踊ったときに、ついブランチが言い放った一言により、この青年は、カジノを飛び出し、拳銃を口にくわえ自殺したのでした。そう「見たわよ!なんていやらしい!男同士で!」の一言によって。

美青年に夢中になる中年女性の普遍性。

ミッチを演じたカール・マルデン(1912-2009)もオスカーを獲得しました。

「私は頸が長すぎて、手が大きすぎて、声が小さすぎるのよ」ヴィヴィアンは常のこの3つについて悩んでいました。
ブランチ・デュボア・ルック6
バースデイドレス
- 少女のようなスクエアネック・ワンピース
- 真ん中に真珠が収まったハートのネックレス

「過去に追い付かれて、引き戻されてしまった」真実の過去をスタンリーに暴露され哀しい誕生日を迎えるブランチ。

ワードローブテスト・フォト
作品データ
作品名:欲望という名の電車 A Streetcar Named Desire (1951)
監督:エリア・カザン
衣装:ルシンダ・バラード
出演者:ヴィヴィアン・リー/マーロン・ブランド/キム・ハンター/カール・マルデン