それはファッションショーを凌駕するファッションショーだった。
5500着もの衣裳がウォルター・プランケット(1902-1981)の指揮により、撮影の一年以上前からデザインされ、作られました。プランケットはデザインを始める前に映画の舞台となるアトランタへ頻繁に訪れて、原作者のマーガレット・ミッチェルから話を聞き、 南部を取材して当時の衣装の一部をサンプルとして持ち帰って衣装に使う素材の選択を入念に行っていました。
これだけの衣装を準備しても、群集シーンの衣装の4割はレンタルだったという事実が本作のスケールの大きさを示しています。
古きよき南部の時代を再現するために、ソフトなオーガンジーやチュールといったロマンティックな素材が使用されました。
「もう二度と飢えに泣きません」とスカーレットが宣言してから以降は、ベルベット生地の素材がふんだんに使われます。まだ本格的なファッションショー(1950年代以降より本格化)が行われる前の時代に、この作品は、19世紀のアメリカ南部のオートクチュール・ファッションの魅力を紹介したファッションショーの役割を果たしていました。1939年にして、テクニカラーで作られ、公開され、世界中の人々は、その衣装の華やかさとバラエティの豊かさに圧倒されたのでした。
この作品が、実質的に、動く服に色を与えたはじめての映画なのです。つまり、ファッションショーの概念の元祖とも言えます。そして、この年(1939年)9月にヒトラーがポーランド侵攻のT4作戦を発令し、第二次世界大戦が始まるのです。

ウォルター・プランケットによると、クラーク・ゲイブルの衣裳は、大きな頭のバランスを取るために肩パッドを入れたスーツをデザインした。

ウォルター・プランケットによりフィッティングをするヴィヴィアン・リー。
スカーレット・オハラ スタイル17
デイドレス
- 緑のパイピングがセンスよく施されたホワイトドレス
スカーレット・オハラのファッションの多くに緑が使用されているのは、緑の大地に根を張るように、彼女もタラに根を張るという意味をこめてなのです。

ヴィヴィアン・リーにはグリーンが似合う。

そして、クラーク・ゲーブルの男っぷりの良さ。彼の存在感もスカーレット役を輝かせるためには絶対に重要な要素でした。

ドレスに重要なのは「自然と戯れる」サイドシルエット。
ヴィヴィアン・リーのコンプレックス
なんと私の宝塚時代からの夢が叶ったのだ!ヴィヴィアン・リーと握手することができたのだ!そして、私と同じように彼女の手がとても大きなことを知り、親しみを覚えました。
八千草薫(イタリアと合作した『蝶々夫人』の宣伝活動のため1955年にイタリア各地を移動していた彼女は、イギリスで『十二夜』の舞台を見に行き、ヴィヴィアンと会いました)
彼女の肉体は、ある一点を除いては申し分なく魅力的でした。それは他のパーツと比べると大きな手でした。だから、ヴィヴィアンは、手をポケットに入れたり、手袋をはめたり、組み合わせたりして、目に付かないように気にしていました。
『風と共に去りぬ』の撮影現場はヴィヴィアンにとって辛いものでした。信頼関係を築いていたジョージ・キューカーが監督を更迭され、代わりにヴィクター・フレミングが就任したのですが、絶えずぶつかり合い、メラニー役のオリヴィア・デ・ハヴィランドと共に夜にこっそりと前監督のキューカーと会って、演技指導を受けていたのでした。
ヴィヴィアンは、原作の中でスカーレットをネコと比べて描いていた点に注目し、チェシャー・キャットのにやにや笑いや、飢えたネコの目、ネコの爪のような手の動きを練習しました。苦労の甲斐もあり、1939年12月のニューヨーク・タイムズには、「リーが演じるスカーレットの不条理な言動が、間接的にリーの演技力を見せつけたといえる。彼女はまさにこの役を演じるために生まれてきた女優であり、他の女優がこの役を演じることなど想像もできない」という賞賛記事が掲載されました。
スカーレット・オハラ スタイル18
グリーンガウン
- グリーンベルベットドレス。金刺繍入り

ゴージャスを服にしたような金刺繍のガウン。

女王陛下が着るような贅沢な衣装です。

ウォルター・プランケットによるデザイン画。
スカーレット・オハラ スタイル19
ストライプドレス
- 白と黒のストライプドレス、中にペールピンクのスカート(ペチコート)。襟と袖に半透明のホースヘア
- キャプリーヌも同じ柄、首元に黒リボン

ついに結婚した二人。ヴィヴィアン・リーは、げっぷを連発しながらレットの求婚を承知するシーンが気に入っていた。

壮絶とも言えるスリーブのラインです。

衣服のボックスまでストライプです。

ドレスの全体像がよく分かる写真。
スカーレット・オハラ スタイル20
ボンネットドレス
- ホワイト・スリム・ドレス
- ブルーベルベットのジャケット、白のシフォン付き、ラッフルカフス
- 白地にスパンコールのヘッドドレス
- 水色のボーダーアンブレラ

私が密かに気に入っているドレスの一つです。

メイクアップのためのテスト撮影。
作品データ
作品名:風と共に去りぬ Gone with the Wind (1939)
監督:ヴィクター・フレミング
衣装:ウォルター・プランケット
出演者:ヴィヴィアン・リー/クラーク・ゲーブル/オリヴィア・デ・ハヴィランド/レスリー・ハワード
- 【風と共に去りぬ】スカーレット・オハラという女の一生
- 『風と共に去りぬ』Vol.1|ヴィヴィアン・リーとスカーレット・オハラ
- 『風と共に去りぬ』Vol.2|ヴィヴィアン・リーのウディングドレスと喪服
- 『風と共に去りぬ』Vol.3|ヴィヴィアン・リーの夕陽の中での下剋上宣言
- 『風と共に去りぬ』Vol.4|コロンを飲むヴィヴィアン・リー
- 『風と共に去りぬ』Vol.5|ヴィヴィアン・リーとウォルター・プランケット
- 『風と共に去りぬ』Vol.6|ヴィヴィアン・リーとアカデミー主演女優賞
- 『風と共に去りぬ』Vol.7|オリヴィア・デ・ハヴィランドという天使
- 『風と共に去りぬ』Vol.8|オリヴィア・デ・ハヴィランドとアカデミー賞