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ルイ・ヴィトン

【ルイ ヴィトン】アポジェ(ジャック・キャヴァリエ)

ルイ・ヴィトン
この記事は約11分で読めます。

アポジェ

【特別監修】カイエデモードが崇拝するフレグランス・スペシャリスト様

原名:Apogée
種類:オード・パルファム
ブランド:ルイ・ヴィトン
調香師:ジャック・キャヴァリエ
発表年:2016年
対象性別:女性
価格:100ml/45,100円
公式ホームページ:ルイ・ヴィトン

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ルイ ヴィトンのスズランの香り

©LOUIS VUITTON

©LOUIS VUITTON

私が地球上で最も愛している香りは、母が愛した香りです。その名を〝ディオリシモ〟と言います。

そして、この香りは、私が世界で最も魅力的なスズランの香りだと考える〝ディオリシモ〟に挑戦したスズランの香りなのです。

ジャック・キャヴァリエ

ジャックの母親は香料成分のブレンダーとして、1952年から1962年にかけてエドモン・ルドニツカの助手を務め、「ディオリシモ」の調香にも関わっていました。

2016年9月に、ルイ・ヴィトンが、70年ぶりにフレグランス=レ パルファン ルイ ヴィトン(一挙、7種類の香り)を発売しました。全ての香りを調香したのは、2012年にルイ・ヴィトンの専属調香師に就任したジャック・キャヴァリエです。

そのうちのひとつである「アポジェ」は、フランス語で「絶頂、最盛期」を意味します。再生と幸福のシンボルでもあるスズランに焦点を当てたこの香りは、ジャック・キャヴァリエが日本を訪問したときに生け花から受けたインスピレーションを香りにしたものです。

それは生け花そのものを単一で〝再現した香り〟ではなく、生け花が持っている〝静寂〟や〝佇まい〟、そして、その中にある凛とした印象などといった〝生け花の精神〟を投影させた香りです。

愛は人生を完全にするものであり、その頂点(アポジェ)である。

ジョルジュ・サンド(ジャック・キャヴァリエがこの香りを創造する過程でインスパイアされた一文)

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スズランは〝アンコンディショナルラヴ〟を象徴する花

©LOUIS VUITTON

スズランは〝アンコンディショナルラヴ=無条件の愛〟を象徴する花です。それは繊細で控えめで儚げな花です。動物的な香りと生き生きとしたフレッシュさのバランスの見事な研究です。清潔なリネンのように心地よいスズランの香りは、ムスクとの決闘で官能の高みへと昇華していくのです。

ジャック・キャヴァリエ

「レ パルファン ルイ ヴィトン」全七作品を通してのテーマは〝人生の旅、そして、感情(エモーション)の旅〟です。

羅針盤(ローズ デ ヴァン)を手にしたあなたが乱気流(タービュランス)に出会おうとも、記憶の中に大切に閉まっておけるハードトランク(ダン ラ ポー)があれば、最高に幸せな瞬間(アポジェ)はあなたの人生に何度も何度も波のように訪れます。

そうです四つ目の香り「アポジェ」は、長い旅路の果てに到達した大自然の中で、生き生きとした緑、豊かなる水をたたえた湖の静けさを前にして、時を忘れ、心に静けさが宿っていく瞬間=絶頂の瞬間を表現した香りです。さあ、ここから自分自身を再発見する旅への誘いがはじまるのです。

実に興味深いのが「絶頂、最盛期」というテーマを四つ目(全七作品の中)に持ってきている点です。それは〝どことなくはかなさ〟を感じさせます。人生の旅の真ん中で一度クライマックスが来る訳なのです。ただし〝最高に幸せな瞬間〟が訪れても、その後に来るのは絶望ではなく、悲しみでもなく、『無償の愛(コントロモワ)』なのです。

私が思う日本人女性とは〝清潔感〟や〝奥ゆかしさ〟。それを香りで表現したのが「アポジェ」です。つまり、君たち日本人女性の為に作った香りなのです(と女性スタッフの方を向く)。

それはスズランの単一の香りではなく、一つの作品として「アポジェ」とは日本人女性に捧げた香りなのです。

ジャック・キャヴァリエ(グラース研修時にスペシャリストの皆様に繰り返し仰られた言葉)

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生け花からインスパイアされた香り

©LOUIS VUITTON

日本の生け花にヒントを得て作られたスズランの香りです。昔、東京を訪れた際に、東京で最も偉大な華道の大家にお会いする機会がありました。この稀有な体験に触発され、私は生け花へのオマージュとしてこの香りを生み出しました。

スズランの香りは、ローズ、ジャスミン、そして、少しスパイシーなガイアックウッドで再現しました。スズランの効果はすぐに現れ、その日の終わりまでずっと続きます。

ジャック・キャヴァリエ

「アポジェ」。それは光とよろこびにつつまれながらも、表面的には凛とした姿勢を決して崩さない和服を着た日本人女性の〝静の美学=静寂、佇まい、洗練、透明感、研ぎ澄まされた感覚〟をスズランに投影した香りとも言えます。

瑞々しさや清潔感、清廉な印象を与えるこの香りは、柑橘系が与えるものとは違った〝純白〟を思わせます。

ホワイトムスク(ヘルベトリド)が広がり、透き通るような仄かに甘い空気に包まれながら、早朝の森の中を散歩しているような清々しい香りから「アポジェ」ははじまります。それはまるで心の中に新鮮な空気を取り込めるような清らかな気持ちを呼び覚ます香りです。

少し経ち、ふと気がつくと美しい緑に囲まれていることを知ります。〝絶頂〟とは、二つの花々の〝絶頂〟を意味します。それは通常、合成香料の組み合わせで生み出されるスズランの香りを、天然のジャスミンとメイローズの〝絶頂〟の瞬間により生み出しているのです。

つまりは天然のグラース産ジャスミンとグラース産メイローズの〝絶頂〟を、ルイ・ヴィトン独自の二酸化炭素抽出法により抽出しているのです。

二酸化炭素抽出法によるグラース産ジャスミン・アブソリュートは、別名〝コートダジュールのホワイトゴールド〟と呼ばれ、1kgあたり約13,000ユーロ(200万円)します。

インドールの効いた、茎から滴り落ちるフレッシュグリーンなスズランのひんやりとした甘さが、瑞々しさや清潔感、清廉な空気で香り全体を包み込んでくれます。

そんな天然のスズラン・アコードの魅力を支えていくように、その背後で、透き通るようなジャスミンとローズ、マグノリアが消えては現れ、現れては消えてゆきます。そこには、花から感じられる、静寂、佇まい、洗練、透明感、研ぎ澄まされた感覚という言葉が透かして見えるようです。

そして、絶頂が永遠に続けば良いという願いをこめて、ミルキーなサンダルウッドとスモーキーなガイアックウッドが、スズランに魔法をかけようと試みます。この香りの魅力的なクライマックスは、〝覚めない夢〟を生み出そうとするこの瞬間にあるのです。

かくして、スズランの(金属のような)冷たさではなく、和服を着て凛とした中にも存在する穏やかで奥ゆかしい〝しなやかな美しさ〟と、フランス人が思う日本人女性の(木の)温かい余韻に包まれていくのです。

ちなみにジャック・キャヴァリエが明確に述べているように、この香りと「ローズ デ ヴァン」にはレザー(天然と合成)は一切使用されていません。

〝花のような香りがする〟とキャヴァリエが感じるルイ・ヴィトンのヌメ革からエッセンスを抽出したのがレザーインフュージョンですが、やはりどこまで行ってもレザーはレザーの温かさや滑らかさを感じさせます。

一方、「アポジェ」は日本の生け花が着想源になっており〝水辺に咲く白くて小さな花の香り〟を感じさせるため、レザーインフュージョンはあえて使用されていません。

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〝人生の中で最も幸せな瞬間〟が何度も感じられる香り

1956年4月19日のグレース・ケリーのロイヤルウエディング。

ルイ・ヴィトンにおいて、「アポジェ」は、ウエディングする予定の女性に理想的な香りです。7つの香りから成る〝人生の旅、の並びでちょうど真ん中に位置するこの香りは、〝人生で最も幸せな瞬間〟を描き出します。女性にとってのその〝瞬間〟とは結婚であり、それを祝福するような香りです。

グレース・ケリーがロイヤル・ウエディングで持っていたブーケがスズランでした。スズランは純潔や幸福の象徴であり、女性にとってのその瞬間こそがここに集約されているのです。

白のウエディングドレス、レース、ベール。誰よりも一番幸せな瞬間(とき)。そんな幸せを「アポジェ」をワンプッシュするたびに何度も感じられるのが、この香りの魅力なのです。

だからこそ、「アポジェ」は、実はクライマックスや絶頂の香りではないのかもしれません。なぜならどちらも〝あとは下降する〟事を予測してしまう言葉の響きを持ってしまうからです。

〝人生の旅の中で最も幸せな時間〟という意味ならば、何度でも喜びを味わえるのです。「アポジェ」とは、淑やかな祝福の香りなのです。

ちなみにクリードの「フルリッシモ」は、グレース・ケリーが御成婚の時に、クリード家が彼女に捧げた香りである。
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「ディオリシモ」「ミュゲ ポースレン」との比較

@DIORBEAUTY

ここまでの香りの説明は、カイエデモードが崇拝するフレグランス・スペシャリスト様の協力により生み出された賜物です。特に、以後のすべての文章は、スペシャリスト様の日々の経験から紡ぎ出された貴重な言葉をもとに作成させて頂きました。

この香りは、伝説的な調香師エドモン・ルドニツカと、彼にゆかりのある二人の天才調香師ジャック・キャヴァリエとジャン=クロード・エレナの時を越えた永遠の友情の証と言えます。ちなみにエレナはルドニツカと、父と子ほどの年齢が離れていながら親友関係があり(一時は喧嘩もしたほどの仲)、キャヴァリエの母は、ルドニツカのブレンダーでした。

  1. ディオリシモ(1956年、エドモン・ルドニツカ)
  2. アポジェ(2016年、ジャック・キャヴァリエ)
  3. ミュゲ ポースレン(2016年、ジャン=クロード・エレナ)

何よりも興味深いのは、2016年という同じ年に二人が同時にスズランの香りを発表したことです。

この三つのスズランの中で最も〝青さ〟を感じさせるのは「ミュゲ ポースレン」です。一最も〝熟していない〟香りがします。

その次が「アポジェ」です。それは(他のLV香水と同じように)シンプルな香りの構成+天然香料でありながら天然香料のエグみや渋みや毒っぽい部分がうまく削がれていて、まさに〝洗練された香料〟だと感動すると同時に、シンプルなのにふくよかさがあり、香りに奥行きと幅がしっかりとあるのです。

さらに、〝天然香料でシンプル〟でありながら、一つの作品として単調すぎない香りなのがキャヴァリエの腕の良さです。

それを踏まえて「アポジェ」は「ミュゲ ポースレン」に比べて、スズランだけを感じる香りというよりは、〝生け花からインスピレーションを得た〟物語性を感じさせる香りなのです。

「ディオリシモ」はクラシック音楽のようです。そして、「ディオリシモ」が洋だとすると、「アポジェ」は和なのです。ちなみにペンハリガンの「リリー オブ ザ バレー」は、より生花のスズランに近いイメージとなります。

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繊細な香り「アポジェ」の魅力を失わないレイヤリング

©LOUIS VUITTON

ジョー マローン ロンドントム フォード、ゲランの「アクア アレゴリア」など重ね付けが提唱されている香水以外は、ひとつで香りが完成されているのが本来の香水の魅力であり、ルイ・ヴィトンの香水も基本的にひとつでその世界観が表現できるように作られています。

「アポジェ」の場合はその繊細さが香りの特徴であり良さでもあるので、他の香りと重ねてしまうと透明感が失われてしまう恐れがあるのですが、「アポジェ」のベースにある微かなウッディな温もりに「オー アザール」の繊細なサンダルウッドはとても相性が良いです。

重ねるにしても、同じ場所に重ねて〝混ぜる〟のではなく、「オー アザール」を足元に、「アポジェ」を上半身になど少し工夫は必要でしょう。

イマジナシオン」とのレイヤリングも、「イマジナシオン」のひんやりとした早朝の空気に似た透明感に、「アポジェ」のグリーン感が早朝のキャヴァリエのルーティンである〝アトリエの敷地を歩いている時〟の研ぎ澄まされる神経の香りをより伝えてくれるような気がします。

ルイ・ヴィトンのレイヤリングに関しては、どんな偶然の出会いができるか、実際に店頭に足を運んで信頼のおけるフレグランス・スペシャリストと自分だけのレイヤリングを見つけることをお勧めします。
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ルイ・ヴィトンの男性スタッフの間でも人気のある香り

©LOUIS VUITTON

「アポジェ」はルイ・ヴィトンの男性スタッフの間でも人気が高く、愛用者が多い香りです。そして、男性が身に纏うと〝清潔感〟があからさまじゃなく、さりげなく出てきます。

洗い立てのシャツだけど、糊でパリっとしたシャツではなく、ラフに着こなして少し腕まくりまでしているようなリラックス感のある清潔感が演出されます。

ちなみにグタールの「アン マタン ドラージュ」は、『嵐の後の翌朝に窓を開けた日本庭園に咲いていたクチナシ』の香りなのですが、同じ〝白い花 × 水 × 日本”を思わせる香りが「アポジェ」なのです。

クチナシの「アン マタン ドラージュ」の方がふくよかで艶やかなのでお姉さんのイメージ。可憐で小さなスズランのイメージで妹的。そして、アンマタンの嵐の後というイメージからその弟として「オラージュ」が飛び出てくるのです。

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香水データ

香水名:アポジェ
原名:Apogée
種類:オード・パルファム
ブランド:ルイ・ヴィトン
調香師:ジャック・キャヴァリエ
発表年:2016年
対象性別:女性
価格:100ml/45,100円
公式ホームページ:ルイ・ヴィトン


シングルノート:グラース産ジャスミン、スズラン、中国産マグノリア、グラース産メイローズ、ガイアックウッド、サンダルウッド、ホワイトムスク