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【イヴ サンローラン】M7 エムセット(アルベルト・モリヤス/ジャック・キャヴァリエ)

イヴ・サンローラン
©YSL Beauté
イヴ・サンローラン
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M7 エムセット

原名:M7
種類:オード・トワレ
ブランド:イヴ・サンローラン
調香師:アルベルト・モリヤスジャック・キャヴァリエ
発表年:2002年(現在廃盤)
対象性別:男性
価格:50ml /7,500円、75ml/10,500円

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早すぎたトム・フォードのウード革命

©YSL Beauté

イヴ・サンローランの「M7」は核戦争の燃えた残骸がフレグランスになっているようなものです。

チャンドラー・バール

「世界よ!目覚めよ!」と言わんばかりにトム・フォードが2002年にフレグランス業界において仕掛けた早すぎた作戦=別名『M7ウルトラ作戦』。それは一度その香りを身に纏うと、半ば無意識のうちに半永久的にウードだけを求め彷徨う、そんな人間を増殖させようという恐ろしい作戦でした。

2000年から2004年にかけてイヴ・サンローラン リヴ・ゴーシュのデザイナーに就任したトム・フォードが(「Nu」の次に)ローンチした最初の男性用フレグランス「M7」。この香りは〝世界中の素敵な男性たちを私の足元に跪かせたい〟という壮大な男のロマンから生まれた香りでもありました。

この香りの誕生により、フレグランスにおける、ウード=沈香の扉は開かれたと言ってもよいでしょう。(シトラスとウードのブレンドという分野を開拓した)

トム・フォード好みのスタイリッシュな男性のフェロモンとエレガンスを兼ね備えた香りであり、ボトル・デザインもトム自身と写真家のダグ・ロイドにより考案されました。そして、この香りには、想像を絶する予算がかけられていました。

名前は、イヴ・サンローランの「7番目のメンズフレグランス(the 7th YSL masculine)」という意味が込められています。今では考えられないアルベルト・モリヤスジャック・キャヴァリエのコラボレーションにより調香されました。

あまりにも全てが斬新過ぎ、時代の先を行きすぎたため、セールス的に大失敗しました。以後、トムの『M7ウルトラ作戦』は、自身のブランド設立→プライベート ブレンドにより達成されることになるのでした。

ちなみに、サンローラン時代のトム・フォードの香りの裏には、シャンタル・ルースという凄腕のフレグランス・ディレクターの存在があり、この「オピウム」「パリ」「ロー ドゥ イッセイ」を生み出した女性により、トム・フォード自身のフレグランスIQは磨かれたといっても過言ではありません。

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イヴ・サンローランと三島由紀夫

イヴ・サンローラン自身による1971年のメンズ香水「YSL POUR HOMME」広告のためのヌード。フォトグラファー:ジャンルー・シーフ

スモークは多くの香水を満たします。しかし、いくつかは不発となります。イヴ・サンローランの「M7」は、焼けたゴム、金属、焦げたポリエチレンなどを連想させる炎上したルノーのエンジンのような香りでなければ、もっとうまくいったかもしれません。それは赤信号の点滅のように警告的な香りだった。

チャンドラー・バール

発売当時、オールヌードの男性広告に話題が集まりました。マーシャルアーツのチャンピオンであり、モデルのSamuel de Cubberを起用し、フランスで初めて男性のオールヌードの広告が掲載されました。

一方、アメリカでは下半身を切った形で掲載され、GQは掲載すらしない程の賛否両論を生みました。

当時トム・フォードはこうコメントしています。「香水は肌の上に纏うんだぜ。なのになぜボディを隠す必要があるんだい?」と。更に、1971年に、イヴ・サンローランが『プール・オム』のキャンペーン広告で披露したヌード広告に対するオマージュの意味があると言及しました。

日本人のイメージだと、本当に男らしかった昔の日本男児。1968年の三島由紀夫先生でしょうか。

日本人のイメージだと、本当に男らしかった昔の日本男児。1968年の三島由紀夫先生でしょうか。

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ウードを世界に広めた男=アルベルト・モリヤス


シャンタル・ルースに対してトム・フォードは「ただ野性味のある男性的な香りではなく、本当に目の前に私のような男性が現れる香りを望んでいます」と、リクエストしました。

このとてつもない要求に対する答えを示してくれたのが、アルベルト・モリヤスでした。彼は、それまで西洋の香水にメイン香料として使用されたことのなかったアガーウッドという木が生み出す官能性にずっと目を付けていました。

かくして、フィルメニッヒ社のラボが一丸となってアガーウッド(ウード)の香料を生み出してゆき、ジャック・キャヴァリエと共にこの香りが創造されたのでした(この香りには本物のウードが使用されていると言われている)。

つまりは、アルベルト・モリヤスこそが、欧米社会に向けて、ウードという「天国の門」を開いた人なのです。そして、2007年のトム・フォードの「ウード ウッド」により、この門は決して閉ざされることのない門となったのでした。

ちなみにマイケル・エドワーズは、欧米の香水市場ではじめてウードが使用されたのは、1990年にバレンシアガの「バレンシアガ プールオム」においてであると報告しています(ほとんど気づかない程度に使用されていた)。

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時代を切り開いたウード・フレグランス

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©YSL Beauté

この香りは「Nu」の男性版としての位置づけであり、お香の香りの前で静かに正座していたアガーウッドが、今まさにその眠りから目を覚ましたような猛々しいイメージです。

男性の力強さを徹底的に追及したかのような、弾けると言うより、射精するようなベルガモットとローズマリーのランデブーから「M7」ははじまります。すぐに甘いマンダリン・オレンジとスパイシーなカルダモンが溶け込み、薬草のシロップのような香りになります。

すぐに薬草の香りは魔法のように消え、入れ替わるようにウード(アガーウッド)が登場します。そして、ラブダナムと混じり合いながらチェリーコークのような香りに包まれてゆきます。

やがて、サクサクとアーシーなベチバーとアンバーが加わり、荘厳にして優雅なスモーキングジャケットを着た男性が手に持つバカラグラスに並々と注がれた濃厚かつクリーミーなチェリー酒のような香りとなります。

「さぁ早くあなたのお口で飲み干して!」と言う声が液体から聞こえてきそうなほどに甘くて円やかな酔わされそうな香りに包まれてゆきます。ここにスモーキーなフランキンセンスが注ぎ込まれてゆきシガーのような香りを放ちます。


どんどん渦巻くようなクリーミースモーキーなオリエンタルウードの香りの中に、パウダリーなマンドレイク・ルートが現れます。このマンドレイクとは、古代から魔術や錬金術の原料として登場する毒草の根茎です。

そして、ドライダウンに向かい、アンバーが力強く、ウードが減退する中、クリーミーなサンダルウッドとムスクが、オリエンタルウードに永遠の輝きを与えてゆくのです。

ウードと同じくらいにハーブとアンバーのブレンドがこの香りのキーであり、セルジュ・ルタンスの「アンブルスュルタン」(1993)を強く思い出させるのもそのためです。

女性を愛する男性の前に、圧倒的なセックス・アピールを誇る自信に満ち溢れた男性が全裸で立っている。その彫刻のような美しさと、獣のような体毛のコントラストにドキっとしてしまい目のやり場に困ってしまう。そんな衝撃に打ちのめされる様な香りです。

2004年にフランカーとして「M7 フレッシュ」(チャンドラー・バール曰く「火炎放射器による死臭を取り除いた軽やかなスモークの香り」)が発売されるも全く売れず、2006年に発売された「ロム」と入れ替わるように、廃盤となりました。

2008年に、YSLボーテはグッチグループからロレアルに売却され、2011年に「ラ・コレクション」にて、「M7 オーデ アブソリュ」として、外観だけではなく、香りもアレンジされ再販されました。

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「M7」を「ウッディな沈香」と呼び、「沈香はもともと複雑な香料だ。ハチミツやタバコ、葉、爽やかなミント、カストリウムの動物様ノートがすべて混ぜ合わさっている。M7はそのベースを巧みに包み込んでいるが、沈香がもともと備えている、人を憂鬱にさせる不快な香りを完全に隠すことは不可能だ。」と5つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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香水データ

香水名:エムセット
原名:M7
種類:オード・トワレ
ブランド:イヴ・サンローラン
調香師:アルベルト・モリヤスジャック・キャヴァリエ
発表年:2002年(現在廃盤)
対象性別:男性
価格:50ml /7,500円、75ml/10,500円


トップノート:イタリア産ベルガモット、シチリア産マンダリンオレンジ、ローズマリー
ミドルノート:ウード(アガーウッド)、ベチバー
ラストノート:アンバー、ムスク、マンドレイク・ルート