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『魔界転生』Vol.3|沢田研二と千葉真一と若山富三郎

深作欣二
深作欣二
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スーパーシンガー・ジュリー VS 世界のサムライ・サニー千葉

『復活の日』(1980)に続く角川春樹プロデュース作品である『魔界転生』は、当初、後に『極道の妻たち』(1986)を撮ることになる五社英雄が監督する予定でした。しかし、銃刀法違反で捕まり、テレビ・映画界から追放され、松田優作で『海燕ジョーの奇跡』を撮る話が流れた深作欣二が監督することになりました。

『魔界転生』は、元々『おぼろ忍法帖』という名前で山田風太郎が書いた伝奇小説でした。天草の乱に敗れた(小西行長の遺臣)森宗意軒と由比正雪が、天草四郎を筆頭に、宮本武蔵、荒木又右衛門、柳生宗矩、宝蔵院胤舜などを魔人として蘇えらせ、「転生七人衆」として率い、徳川の天下を潰乱に導こうとする中、隻眼の剣手、柳生十兵衛が立ち向かう内容でした。

沢田研二(1948-、以下ジュリー)と千葉真一(1939-2021)の配役がすぐに決定し、天草四郎VS柳生十兵衛をハイライトに企画が進められました。それは『柳生一族の陰謀』(1978)から、二つのテレビ時代劇でも十兵衛を演じてきた千葉真一にとって集大成でもありました。

さらに原作では登場しない細川ガラシャと伊賀の霧丸のキャラクター出演のアイデアを出したのは深作監督でした。彼は、今までにない時代劇を撮影しようという意気込んで(一年間の準備期間を経て)撮影にのぞんでいました。

一方で、映画主演四作目となるジュリーが、はじめての時代劇となるこの作品にかける気持ちも並々ならぬものがありました。二条城近くにある京都国際ホテル(1961年に開業し、2014年12月に閉館、現三井ガーデンホテル京都三条プレミア)に宿泊し、1981年2月25日から40日間の太秦の東映京都撮影所での撮影のため、人気の絶頂を誇っていたにも関わらず、他のスケジュールを一切入れずに、撮影に臨んだのでした。

これは当たりましたよ。配収十億超えてますからね。元は四、五億ぐらいのもんだったでしょう。それが十億の大台に乗ったと。

深作欣二

東京のパレスホテルでジュリーは初チョンマゲ・スタイルをお披露目しました。

志穂美悦子が天草四郎と細川ガラシャのニ役を演じ、千葉真一と真田広之と共に、1982年7月、新宿コマ劇場で『魔界転生』の舞台劇が行われた。

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ジュリーが演じる天草四郎のバテレン・ルック

1981年公開時のポスター。何気に天草四郎は首を掲げています。なぜか『ミスター・ロボット』(1983)がたくさんいます。

刀剣を携えてはいるが、天草四郎の武器は、髪切丸(島原の乱で殺された女たちの髪の毛を集めた剣)です。

ジュリーのアンドロギュヌス的魅力。

公開当時話題になったブルーのシャドーを入れたジュリーの魔界メイク。

山田風太郎もジュリーを大絶賛していたという。

「ジュリーに断られたら、外国の美少年に頼むつもりだった」角川春樹

「人間がこの世にある限り、私は必ず戻ってくるぞ!」

注目すべきは、衣装デザインを人形作家の辻村ジュサブロー(辻村寿三郎)が手がけたことです。

西洋の黒魔術と日本の忍法を合体させた魔界堕ちのパワーを操る妖人を演じるのなら、角川春樹がこの人しかいないと太鼓判を押した存在がジュリーでした。深作監督は、彼に出演してもらうために、DJをつとめるラジオ番組に出演依頼を送り、それを読んだジュリーが即決したのでした。

演じる天草四郎時貞のバテレン風着物は、絽の着5枚で約250万円かけて作られました。袖に桜を散らした、淡い朱色と紫色のグラデーションの女物の中振袖に、金色の宝相華文様のはかまを合わせ、古代切をはぎあわせた大きな立ち襟が特徴的なバテレン風の陣羽織が重ねられています。

この墨色の陣羽織には、草や花とともに、霊魂を思わせるゆらめく白い炎がジュサブローの手描きであしらわれています。和と西洋の融合、さらに女性の着物を男性の陣羽織に転生するというアイデアで生み出された衣装です。

十兵衛の野性味に対して、天草四郎は、ジュサブローの人形浄瑠璃の世界を見事に体現した、幽玄さに満ちたスタイルに包まれています。女性の着物のテイストもミックスされたアンドロギュヌス・テイスト溢れるこの衣装を着こなすジュリーの存在感は、ただただ人間とは思えない物の怪の幽玄美を感じさせます。

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美少年同士のキス

目をつぶってキスを待つ真田広之の姿と、ジュリーの眼差しの妖艶さ。

ジュリーのキスを受け、スーパースターの道を継承され、スター街道をまっしぐらに走ってゆくことになる真田広之。

呪いの闇に巣くうものよ。毒持てる蛇、禍々しき悪魔よ。今こそ現れて禍の力を貸せい。姿を見せよ。来たれ。復讐するは我にあり。我これを報いん。エロイムエッサイム、我は求め訴えたり・・・

天草四郎時貞(沢田研二)

尺八の山本邦山菅野光亮のジャズがフュージョンする妖艶な調べに全編包まれる中、ジュリーと真田広之(1960-)のキスシーンが話題になりました。

このシーンの美しさは、ただのセンセーショナリズムではない真実味に溢れています。それは、元々はキスシーンまでは台本になかったが、二人のアンドロギュヌス的な迫真の美しさを深作監督が感じ取り、「キスしちゃおうか?」と言う一言から生まれました。

それに対して、ジュリーも「分かりました」と即答したのでした。

このキスシーンが、あったればこそ、天草四郎=ジュリーのイメージは永遠のものとなりました。そして、真田広之はこの時から俳優として一皮剥けたのでした。ジュリーのキスによって大人の役者への道を歩みだすことになるのです。美青年が美少年を大人にした瞬間でした。

そして、もう一人、長崎の映画館で、このシーンに心を動かした13歳の少女がいました。そして、彼女は真田広之の大ファンになりました。彼女の名を原田知世といいます。

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レザーを着たサムライの誕生

魔界に堕ちた宮本武蔵(緒形拳)と闘う柳生十兵衛。

上下ともレザーで作られたサムライ・ルック。

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それはまるでセルジオ・レオーネの世界から抜け出てきたようです。

魔除けの梵字スタイル。サムライ・スピリッツ。

レザーの質感がよく分かる写真。

江戸城が炎に包まれるクライマックスは、実際に燃えるセットで撮影されました。

天草=ジュリーの対極を成す柳生十兵衛=千葉真一。映画は1人のスターだけでは生み出せない。この作品の恐ろしいところは、どんよりとした空気に包まれている妖しき者たちを主人公にしているにも関わらず、出演者すべてから(もちろん煩悩僧侶・室田日出男も含めて!)迸る情念を感じるところにあります。

人間が作った時代劇。「情け無や親父殿」「無念」などの短い言葉が言霊となって伝わってきます。

台詞が生きている映画。私達が日本映画を見るときに、まず重要なことは、ファッションセンスが良い、主役が美形、であること以上に、生きた映画であることです。この作品の登場人物は、皆、言葉が生きています。だから、ファッションも生きます。そして、尺八の音色もすんなりと耳に入ってきます。

十兵衛の衣装は、木綿や麻を使わずに、上下ともレザーで作られ、従来の時代劇にはない野性味に溢れる“セルジオ・レオーネ”テイストを生み出すことに成功しています。

レザーを着たサムライにも違和感を感じません。真っ白メイクの物の怪たちに対しても不思議な躍動を感じます。アニメには出来ないこと。それがこの映画にはあります。

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若山無双。もっとも美しかった男、若山富三郎様。

佇まいのすべてが美しい人間国宝。

物の怪の動きにも、至宝の芸を感じさせます。

若山無双。この動きは、ゲームには再現できまい。

この作品は、沢田研二、千葉真一、真田広之といった美しい男たちに満ちた映画でした。しかし、最も美しかった男、それは、柳生但馬守宗矩を演じた若山富三郎様(1929-1992)でした。

炎に包まれた江戸城天守閣での十兵衛との親子対決における富三郎様の殺陣には、『子連れ狼』時代を通過した果てにある円熟味を感じさせます。省略の美学。白装束で戦う男の美学。その対決シーン以外においても、全ての登場シーンにおいて、“跳ぶ”姿勢まで美しく富三郎様が空気を支配していました。

静をもって動を制する。物の怪と化してからは、全く瞬きをせずに、殺陣をします。その緩急の付け方。それは〝間の美学〟なのでしょう。更に太刀先が速く、力強い。この人の前には、当時のジュリーも真田広之も立つことは出来ないオーラに包まれています。まさに炎をも包み込むオーラです。

そんな富三郎様の前に立てる唯一無二な人こそ千葉真一なのです。本物の炎のセットの中で、命がけで臨んだ撮影。日本人にはどうしても、命がけが似合います。これはもはや日本人の一つの特性とも言えます。生死の狭間で生み出す作品にのみ日本人は日本人だけにしか感じ取れない何かを創生することが出来るのです。

作品データ

作品名:魔界転生 (1981)
監督:深作欣二
衣装アドバイス:辻村ジュサブロー
出演者:千葉真一/沢田研二/佳那晃子/真田広之/若山富三郎