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ジバンシィ

【ジバンシィ】イザティス(ドミニク・ロピオン)

ジバンシィ
©Givenchy Beauty
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イザティス

原名:Ysatis
種類:オード・パルファム
ブランド:ジバンシィ
調香師:ドミニク・ロピオン
発表年:1984年
対象性別:女性
価格:不明

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ジバンシィが香水戦線に返り咲いた、ドミニク・ロピオンの出世作

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1980年代初め、女性たちは強くなり、ファッションはパワー・ドレッシングがすべてでした。そして、フローラルやオリエンタルよりも力強いシプレーノートが、自己主張したい女性の守護神として求められるようになりました。

ドミニク・ロピオン

1977年にイヴ・サンローランが巻き起こした「オピウム」旋風は、ラグジュアリー・ファッション・ブランドが販売するフレグランスの概念を一変させました。

この香りにより、はじめて女性が自分のために購入する香水の数が、贈り物として贈られる数を上回りました。それは女性の社会進出に比例した流れであり、高級香水よりも、手の届くハイセンスな香水が爆発的に売れる時代の到来を意味しました。

1960年代には、重要なフレグランスは30種類しか登場しませんでした。しかし、その数は1970年代には倍以上になりました。そして、1980年代には、数えきれない数になっていました。それまで新しい香水はほとんど宣伝しなくても売れていたのが、市場が拡大し、商品も増える中、広告とサンプルに予算を割かずに、人々の関心を集めることは不可能になりました。

さらに、1970年代後半から80年代にかけ「ホワイトリネン」(1978、エスティローダー)や「ジョルジオ」(1981)といったアメリカの香水がフランスの香水よりも売れるようになり、ラグジュアリー・ファッション・ブランドは、「オピウム」に続け!とばかりに、ファッション・フレグランスを沢山生み出していく流れとなるのでした。

ジバンシィは、1957年に「ランテルディ」と、1970年に「ジバンシィⅢ」を成功させたものの、新しい市場に対応出来るフレグランスを生み出せていませんでした。1980年に発売された「オードジバンシィ」も革新的なオーフレッシュでしたが、ヨーロッパ以外ではほとんどインパクトを与えていませんでした。

そんな中、1982年に、ジバンシィのパルファン部門がヴーヴ クリコ ポンサルダンに売却され、ユベール・ド・ジバンシィの弟ジャン=クロード・ド・ジバンシィから社長を引き継いだジャン・クティエールは、ルール・ベルトラン・デュポンの社長であったジャン・アミックから一人の青年を紹介されました。若き日のドミニク・ロピオンでした。そして彼の新しい香りのアイデアに即座に惹きつけられたのでした。

それは「ミス ディオール」のグリーン・アルデヒドと晴れやかなフローラルノートを奇跡的に融合するという野心的なアイデアでした。そして2週間以内にすみやかにロピオンと契約したのでした(デビュー作であるヤードレーの「Lace」(1982)に次ぐ二作目)。

かくして、ユベール・ド・ジバンシィのデザインしたイブニングドレスの特徴である〝抑制されたエレガンス〟を、シプレーに官能的でオリエンタルのひねりを加えることにより反映させた香り「イザティス」が1984年に生み出されたのでした。

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「イザティス=Ysatis」の名の意味。

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ドミニクは、キャリアのはじまりから、ユニークな方法で香りを生み出していました。想像の域を越えるほど大量な最もパワフルな天然香料を使用して、新しいアコードを生み出していました。その自由な環境が、彼にジバンシィの「イザティス」(1984)のような傑作を生み出させたのでした。

フレデリック・マル

「カシュコル(スタンド・アップ・カラー)と背の高い細身のシルエットは、私のオートクチュールのシルエットを思い起こさせます」と、ユベール・ド・ジバンシィが一目見て気に入ったスタイリッシュなボトルデザインは、「ジバンシィIII」のボトルを手がけたピエール・ディナンが、ニューヨークの超高層ビルをイメージし、手がけたものでした。

「イザティス=Ysatis」の名は、普遍的なイメージを生み出すため、敢えて、意味を持たない珍しい女性名が付けられています。ただし、ジバンシィの音とリンクさせるためにYからはじまる名となっています。

香りのコンセプトと名前を決めるのに、1年半かかりました。

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フローラル、シプレー、オリエンタルが織り成す「香水の万華鏡」

©Givenchy Beauty

カーラ・ブルーニ ©Givenchy Beauty

クティエール氏が最初にこの香水について語ったとき、彼はこの香水はさまざまな面を持つ女性のためのものだと言いました。その後、ジバンシィはそのアイデアを『1000人の女性のための香水』という言葉に変換しました。

どうすれば彼らの要求に応えられるのか、最初は理解に苦しみました。最終的に、フローラル、シプレー、オリエンタル・アコードの組み合わせを思いついたのです。最初から最後までイザティスは私のアイデアだった。大体1年半かけて生み出しました。

ドミニク・ロピオン

「イザティス」をモダンな香りと呼ぶなら、フランスの洗練さとアメリカの心地よい “わかりやすさ “を融合させたものと言えます。とてもバランスがいい香りなのです。

ジャン・アミック

ドミニク・ロピオンにとって、『1000人の女性のための香水』への挑戦は、フローラル、シプレー、オリエンタルという3つのまったく異なるアコードを調和させる方法を見つけることでした。その結果、生み出された効果が、「香水の万華鏡」のようなめくるめく香りの変化でした。

初期の試作品が、結果的に、完成品にかなり近いものだったというこの香りは、フレッシュなレモンを中心としたシトラスの煌めきの中に、イランイラン、オレンジ・ブロッサム、チューベローズの官能的なハーモニーが、アルデハイドとココナッツにかき混ぜられながら溶け込んでいくようにしてはじまります。

何よりもこの香りを最初から最後まで見守る、女神の役割を果たしているのは、太陽の女神=蜂蜜とチューベローズです。それらが滑らかに交わり合い、黄金色に素肌を磨き上げてくれる感覚です。

スマートなスカートスーツ・スタイルの女性を思わせる、キリっとしたスパイスと、肉感的な甘さの絶妙なバランスを感じさせます。まだ冷房が普及していない時代のオフィス街で、冷房の効いたオフィスから颯爽と飛び出て、炎天下を歩いている、そんな女性が、ジャケットを脱いだ瞬間、首筋にひとすじの汗が流れていく、まるでムンムンとした色香とすっきりした洗練が、不思議なエレガンスを生み出していくようです。

フローラル、シプレー、オリエンタルの3つの側面を1つの香りで表現する。つまり私の頭の中では、3つのアコードを3人のまったく異なる女性に見立てていました。奇妙なことに、女性によってイザティスは、異なる側面を認識するだろう。ある肌にはフローラル・アコードが咲き、別の肌にはウッディなシプレーノートが香る。オリエンタル・アコードに対する反応は人によって異なる。ある人はアンバー調のアニマル・ノートが支配的だと感じ、別の人は香水のバニラを強く感じる。

ドミニク・ロピオン

すぐに、ジャスミン、ローズ、アイリスといった、古典的な花が、パウダリーさと青青っぽさ、スパイシーさ、フルーティさをオーケストラのように咲き誇らせる中、野性の本能を呼び覚ますシベットとアンバーグリス、ムスクが注ぎ込まれてゆくのです。

艶やかさの中に、一見、混沌とした雪崩のように、舞い落ちてゆく花々の冷静さと情熱の息吹を全身で受け止め、女の本能が迸るように、フローラル、シプレー、オリエンタルの香りが、強さともろさ、美と壊れやすさのバランスを保ちながら、炎が舞うように素肌に満ち広がっていくのです。

シプレーの成分がフローラルなオリエンタル・アコードと完璧に調和するように、天然のオークモスの代わりに苔のような化学物質エバニールが使われています。そこにヘディオンと合成ムスクのギャラクソリドを大量に使用して、ムスキー・ジャスミンの輝きを強調しています。

やがて、あの最初のひとすじの汗は、まわりを酔わせる濃厚なラム酒へと変わってゆきます。まさに、広告のイメージそのままに、仮面舞踏会とチェス盤のイメージが、ヘンデルのサラバンドとコレルリのラフォリアを経て、香りと素肌の間を駆け巡るのです。

そしてサンダルウッドとバニラ、パチョリの温かさが、シプレーとひとまとめになり、「シャリマー」とは全く逆の方向からやって来た、動物のようにしなやかなエレガントな匂いを、我が身から解き放たれたばかりかのように、華やかさと共に匂い立たせてゆくのです(ちなみに「シャリマー」は、ロピオンが調香師を目指しはじめた時、一番最初に魅了された香りでした)。

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オートクチュールという言葉がピッタリ合う香り

©Givenchy Beauty

発売当時、製作サイドの関係者たちは、この香りが大反響を呼ぶとはまったく予想していませんでした。その革新的なハーモニーは、「ビザーンス」(1987年)をはじめとする多くの香りに影響を与えました。

それにしても、ここまでオートクチュールという言葉が合う香りもなかなか存在しません。この香りを身に着けるためには、500万円以上の予算を組んで、ドレスかスーツ、パンプスかブーツ、腕時計と宝飾品、レザーかエキゾチックレザーの上質なバッグで完全武装する必要があると感じさせます。

この香りがどこからともなく漂ってくると、ほとんどの人がこの香りの主は、上流階級に属する人だと予想することでしょう。90年代に流行する〝透き通るような香り〟の要素は全く存在しない香りなのです。

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「この香りについて懐かしい記憶は「ビザーンス」などと同じ、濃いレモンカスタードノートだった。現在のものは、よい香りだけれど、月並みなウッディ・フローラルになってしまっており、以前のものより面白みに欠ける。」と3つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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香水データ

香水名:イザティス
原名:Ysatis
種類:オード・パルファム
ブランド:ジバンシィ
調香師:ドミニク・ロピオン
発表年:1984年
対象性別:女性
価格:不明


トップノート:アルデハイド、イランイラン、オレンジ・ブロッサム、ガルバナム、ブラジリアン・ローズウッド、ココナッツ、ベルガモット、マンダリン・オレンジ
ミドルノート:チューベローズ、ジャスミン、水仙、カーネーション、ラム、アイリス、ローズ
ラストノート:シベット、ハニー、オークモス、サンダルウッド、クローブ、アンバー、パチョリ、ムスク、ベチバー、月桂樹、バニラ