1964年公開。しかし、撮影は1962年に行われていました。
ユベール・ド・ジバンシィが衣装を担当したオードリー・ヘプバーン(1929-1993)の主演作の中で、最も知名度の低い作品と言われるのが本作『パリで一緒に』です(1979年の『華麗なる相続人』と言う人もいるでしょうが…)。
オードリー、パリ、ジバンシィ、コメディという王道の組み合わせが、奇跡的に失敗したこの作品の最大の問題点は、物語の設定のつまらなさと、期待されていた(『麗しのサブリナ』から)11年ぶりの共演者ウィリアム・ホールデン(1918-1981)がすっかりアルコール中毒で冴えない状況であったためと言えるでしょう。
そして、もし監督が当初予定されていたブレイク・エドワーズ(『ティファニーで朝食を』)だったならば、この作品は間違いなく『グレートレース』(1965)のような愉快なものになったことでしょう。
『大いなる幻影』(1937)、『バーバレラ』(1968)、『007 私を愛したスパイ』(1977)の名カメラマン、クロード・ルノワールが当初、撮影監督を担当していました。しかし、オードリーの要求により、『麗しのサブリナ』(のちに『シャレード』『おしゃれ泥棒』『暗くなるまで待って』を撮影)を撮影したチャールズ・ラングに途中で交代されました。
撮影は1962年7月から11月にかけて行われたのですが、映画が公開されたのは1964年4月でした。それだけこの作品は、パラマウント社にとって失敗作であることを予感させていたのでした。ちなみにこの作品の撮影終了の2日後に、オードリーの代表作の一つになる『シャレード』の撮影が始まったのでした。
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撮影当時33歳だったオードリー・ヘプバーン。
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劇中劇のタイトルは、『エッフェル塔を盗んだ娘』。
オードリーの衣装と香水は、ジバンシィ。
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左から、ウィリアム・ホールデン、ユベール・ド・ジバンシィ、オードリー、メル・ファーラー(当時のオードリーの夫)。
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オープニング・タイトル
本作のオードリーの衣装と香水はユベール・ド・ジバンシィによるものとクレジットされています。
しかし、ここで一つ疑問が生まれます。この作品の中に香水瓶は登場しません。そして、もちろん映像からは香りを嗅ぐことは出来ません。であるにも関わらず、〝香水はジバンシィからの提供〟と記載されているのです。
ちなみに、この撮影の間中、オードリーが身に纏っていた香水は、1957年にジバンシィが彼女のために創り出した「ランテルディ」でした。
映画の中で、どんなにそのファッションが魅力的であろうとも、その映画の中の主人公が魅力的でなければ、彼女の着るファッションは輝きを放つことは出来ません。つまり、この作品は、ジバンシィにとっても不幸な作品でした。
オープニング・ファッション
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全編シャーベット・カラーのジバンシィを着るオードリー。
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50年代後半から60年代半ばにかけて流行カラーだったミントグリーンのスカートスーツ。特にヒッチコックが愛したカラーでした。
60年代に入ると、テレビも雑誌もカラー化が進んでいきました。そして、ファッションも、そんな時代の空気に反応するかのように、よりカラフルになってゆきました。
この作品のオードリーのファッションはそんな時代の空気を運び込んでくれるように、当時としては衣服に使用することの珍しいシャーベットカラー(もしくはパステルカラー)で彩られた5着のジバンシィに身を包んでいます。
退屈なドタバタ喜劇であるストーリーを度外視して、オードリーのファッションだけを見てみると、オープニング・スーツをはじめ、どれもオードリーの〝洗練〟〝活発さ〟〝モード感〟〝カワイイ〟といった魅力をスパイラルさせる見事なデザインでした。
特にこのスカートスーツの鳥かごのようなシルエットが美しく、平面的なジャケットと立体的なスカートのアンバランスなバランスは、やはりオードリーだからこそ着こなせる〝選ばれしモード感〟に満ち溢れています。
ガブリエル・シンプソンのファッション1
パリジャンシックなスカートスーツ
- デザイナー:ユベール・ド・ジバンシィ
- 3/4ラグランスリーブ、ミントグリーンのノーカラーのスカートスーツ、2つのフェイクポケット付きのウールインバーテッドプリーツスカート、ジバンシィ62SS
- 白のクローシェ、ラッカーで麦わら帽子風に、ジバンシィ
- インナー白のノースリーブカットソー、ホワイト・シルクリネン、ジュエルネックライン
- 白のロンググローブ、エルメス
- エクリュカラーのキトンヒールパンプス、レネ・マンシーニ61SS
- 白のレザーハンドバッグ、エルメス、エクリュカラー、62年にオードリーが購入した私物
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60年代に流行したノーカラーのスカートスーツ。
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帽子とジャケットの生地感が良く分かる写真。
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鈴蘭のような帽子と、Aラインのスカートスーツの見事なバランス。
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ボタンは、オードリーの顔のパーツと調和が取れる大きさがチョイスされています。
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作中登場するとても可愛いゴールド・コンパクト。
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ジャケットのボタンの並びが素敵な、スカートスーツです。
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オードリーの角ばった上半身に丸みを生み出す、肩パッドの入っていないジャケット。
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今回のオードリーのヘアスタイルは、短く刈った前髪を下ろして、長めの髪を中心で膨らませて、後ろでまとめ上げています。
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鈴蘭のような帽子は、ジャケットを脱ぐと、さらにオードリーに若さを与えてくれているようです。
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ウィリアム・ホールデンと休憩中のオードリー。
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丁寧に作られているスカートスーツのインナーのカットソー。
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肩にホワイトシェル・ファスナー。
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帽子を脱いで、ベットに横たわるオードリー。
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バッグを持ってAラインに立つ、オードリーがよくするポーズ。
素敵なエルメスのハンドバッグ
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50年代から60年代にかけてのハンドバッグは、美しいデザインのものが多いです。
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ブランドロゴや無駄な装飾が一切ないハンドバッグ。
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ハンドバッグのもう一方の側面にフラップがあります。
オードリーの私物であるこのエルメスのハンドバッグは、2008年から2018年にかけてセリーヌの黄金時代を築いたフィービー・ファイロのフィナーレを飾る形で、2017年春夏に登場した〝幻のハンドバッグ〟クラスプを連想させます。
両方に共通するのは、とても洗練された流行に流されない超然とした女性を演出してくれる佇まいです。
ボーイフレンド・カーディガン
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オードリーとカーディガンとエッフェル塔。奥で座っているのが監督のリチャード・クワイン。
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衿と袖がガーター編みのぶかぶかのカーディガン。
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恐らくリチャード・ベンソンの物と思われるカーディガン。
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オードリーがプレッピーを着る意外性。
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よく見るととても繊細なディテールを持つカーディガンです。
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ぶかぶかの袖がとてもキュート!
映画がファッション業界に強く影響を与える理由。それはある時代の〝生きていたファッション〟を残す遺跡であるという一点に尽きます。
リチャード・ベンソンのものと思われるカーディガンを着てリラックスするガブリエル。女性の気持ちを自分に傾かせるための最短距離となる方法は、自分の衣服をさりげなく彼女に来てもらうことです。
男性と女性の愛情は、何かを共有した瞬間に生まれるものなのです。この戦法に最も有効なものが、ライダース・ジャケット、カーディガン、ボタンダウンシャツ、セーター、サングラスなのです。
作品データ
作品名:パリで一緒に Paris When It Sizzles (1964)
監督:リチャード・クワイン
衣装:ユベール・ド・ジバンシィ
出演者:オードリー・ヘプバーン/ウィリアム・ホールデン/トニー・カーティス/マレーネ・ディートリッヒ