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ロジャー・ムーア6 『007 私を愛したスパイ』1(2ページ)

ジェームズ・ボンド
ジェームズ・ボンド
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作品名:007 私を愛したスパイ The Spy Who Loved Me(1977)
監督:ルイス・ギルバート
衣装:ロナルド・パターソン
出演者:ロジャー・ムーア/バーバラ・バック/キャロライン・マンロー/クルト・ユルゲンス/リチャード・キール

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シリーズ最大のスケールで放つ、華麗なボンドの新しい挑戦!

ボンドムービーのポスターと言えばビキニ姿のボンドガールと、銃を片手にポーズを取るJB。

記念すべき007シリーズ第十弾にして、15周年記念作。そして、三代目ジェームズ・ボンド・ロジャー・ムーア(1927ー2017)の文句なしに最高傑作と呼ばれる作品。それが『007 私を愛したスパイ』です。そこには、現在のダニエル・クレイグによるジェームズ・ボンドしか知らない人々にとっては、想像もつかないジェームズ・ボンド像が存在します。

1.〝世界一の無責任男〟とでも形容すべき、全盛期の植木等と高田純次を足して、10倍増し増し(さらに広川太一郎盛り)にしたかのようなスケールの無責任感。
2.常にユーモアを忘れない心と、究極のゆとりオヤジっぷり。
3.素手の戦闘力が歴代ボンド最弱な分だけ、これでもかと登場する秘密兵器とボンドガールの数々。

つまりは、どんな危機に立たされてもエレガントな物腰でユーモアを忘れずに切り抜ける〝男の幼児性〟をくすぐる理想像がそこにはありました。

この作品ほど、ボンドムービーの魅力が満載された作品は他にありません。世界征服を狙う悪党=ストロンバーグ、魅力的な殺し屋=ジョーズ、魅力的な秘密基地=海中基地アトランティス、魅力的なボンドガール=バーバラ・バック(ここは賛否両論あるでしょうが、私は、全盛期のジャネット・ジャクソンのようなその風貌が素敵だと思います)、魅力的なボンドカー=水陸両用ロータス・エスプリ、魅力的なロケーション=カイロ、サルディニア、魅力的なオープニング・アクション=断崖絶壁パラシュート、そして、魅力的なテーマソング=カーリー・サイモンによる「ノーバディ・ダズ・イット・ベター」です。

武田鉄矢が同時代に歌っていた「あんたが大将」(1977)を英訳したかのようなこの主題歌は、70年代のエキゾチック・エレガンスを象徴するソングとして、今では、世界中の人々をロマンティックな心持ちにさせるスタンダード・ナンバーになっています。

バーブラ・ストライサンドの「追憶」(1973)を作曲し、『スティング』(1974)の「ジ・エンターテイナー」を編曲し、『コーラスライン』の音楽も担当したマーヴィン・ハムリッシュ(1944-2012)が作曲した「ノーバディ・ダズ・イット・ベター」は、モーツァルトの旋律に多大なる影響を受けたナンバーです。そして、この主題歌をバックに、モーリス・ビンダーによる<ルガーで大車輪をしたりする>素晴らしいタイトルバックが流れるのです。

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ストロンバーグと海中基地アトランティス

ストロンバーグを演じるのは、ドイツの名優クルト・ユルゲンス。

沖縄海洋博(1975)に登場したアクアポリスをヒントにして、ケン・アダムによって作られた海中基地アトランティス。

図解化されたアトランティス!超カッケー!

やはりボンドムービーの悪役には、世界制覇の野望こそ相応しいものです。地球の7割である未開拓の海を開拓し、地球を「海の惑星」に変えようとした男ストロンバーグは、黄金銃を持つ男ではなく、手に水かきを持つ男でした。演じるのは、『素直な悪女』(1956)『眼下の敵』(1957)『史上最大の作戦』(1962)のドイツの名優クルト・ユルゲンス(1915-1982)です。

さらに、ユルゲンスの重厚感に見事にマッチしたストロンバーグの海中基地アトランティスの造形が圧巻です。そのオリジナル・モデルは、沖縄海洋博に登場した半潜水型浮遊式の構造物アクアポリスでした。それは1975年に未来の海上生活都市のシンボルとして、123億円(2年の歳月)をかけて広島で建造され、沖縄に移送されました。そして、2000年に本来の目的である海上生活都市のシンボルとしての役割を果たすことなく、解体されました。

本作のために、幻の沖縄ロケが一週間ほど行われたのですが、その映像は、アトランティスの水槽の熱帯魚の映像としてのみ使用されました。ボンドムービーの素晴らしさとは、大真面目に、こういった暴走する幼児性が突き抜けた瞬間にやってくるのです。そして、この感覚こそが、ダニエル=ボンドに欠けている空気なのです。

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ジェームズ・ボンドのスキーウェア

マクドナルド・カラーのスキーウェア。

ボンドムービーこそが、スキー・アクションのパイオニアです。

そして、断崖絶壁を飛ぶJB。

と同時にユニオン・ジャックのパラシュートが開く!そして、ボンドテーマがファンファーレのように鳴り響く!

ジェームズ・ボンド・スタイル1 スキーウェア
  • ボグナーの黄色のジャンプスーツ、ターンダウンカラーとBファスナー付き、ベルト
  • 2本のラインの入ったレッドスキーブーツ
  • 赤リュック
  • ブラックグローブ
  • イエローゴーグル
  • レッド・スキー帽
  • セイコークオーツLC


本作のボンド・ウォッチは、日本製のデジタル・ウォッチであるセイコーのクオーツLC(Seiko 0674 5009)でした。そこにはMからの指令を受信する機能が搭載されていました。

ちなみに、文字板と針にかわって、時刻表示に世界初の6桁液晶ディスプレイ(時・分・秒を常時表示)を採用した、全電子ウオッチ「06LC」は1973年10月に発売されました。

「ボクを早く撃ち殺してごらん!」と言わんばかりのマクドナルド・カラーのド派手なスキー・ウェアで、白銀を疾走するボンド。どこか『死亡遊戯』のブルース・リーのトラックスーツにも似たそのカラーリングで、断崖絶壁からジャンプすると同時にパラシュートが開き、そのパラシュートがユニオン・ジャックであるという、歴代ボンド・ムービーの中でも、間違いなく3本の指に入るオープニング・シーン。それは、当時、今までのボンド・ムービーのオープニング・シーンの中でも最高額である50万ドルの予算をかけてスイス・アルプスとカナダ・バフィン島のアスガード山で撮影されました。

このシーンほど、国旗がファッションに与える高揚感を示すシーンはありません。そして、ファッションに国旗を取り入れるということは、一歩間違えればとんでもないほどに野暮ったくもなるという事も教えてくれるシーンです。ほんの一瞬に花開くように、見せるからこそ、国旗はファッションとして成立するアイテムなのです。

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KGBのスキーウェア

セルゲイを演じるのは〝ボンドに最も近かった男〟マイケル・ビリントン。

素晴らしいカラーリングのスキーウェア。セルゲイのみラインの入り方が違います。

オープニング・シーンでボンドを追いかけるマイケル・ビリントン扮するセルゲイ達KGB精鋭部隊のスキーウェアのデザインがまた美しいです。黒と赤のみで構成されたバイカラー・スポーツスタイルは、ボンドのマクドナルド・バイカラー・スキーウェアよりも遥かに洗練されていました。

こちらのスキーウェアもボンドのものと同じくボグナーから提供されたものでした。このシーンの撮影を担当したのが、『女王陛下の007』(1969)のスキー・シーンを撮影したウィリーボグナージュニア1942-)です。彼は1977年に父親の死後、ボグナー社を引き継ぐことになります。そして、『007 ユア・アイズ・オンリー』(1981)、『007 美しき獲物たち』(1985)のスキー・シーンも撮影したのでした。