ヴィヴィアン・リーのスカーレット・オハラは『女優の教科書』
スカーレットが、お母さんが死んで、私がどんなに悪い娘になったか見ることができなくてよかったわっていうところがあるでしょう。つまり、あれが本当の私よ。
ヴィヴィアン・リー
222分ほぼ全編に渡り出演しているヴィヴィアン・リー(1913-1967)が演じるスカーレット・オハラ。19世紀のファッションを見る楽しみ以上に、あらゆる女優の方々にとっても、女性として生きる人々にとっても、彼女の表情と所作は、色褪せることのない、現代の女性にとっての教科書と言えます。
そこにオリヴィア・デ・ハヴィランド(1916-2020)が演じるメラニー・ハミルトンの表情と所作、そして生き様を対比させたなら、もう女性にとって他には何もいらない『美のバイブル』になることでしょう。
激しい何かを感じさせるヴィヴィアンの生命力と、安らぎを与える聖母マリアのようなオリヴィアの生命力。動と静の女性の両面の魅力をひとつの映画の中で対比できるのもこの作品の数多くある魅力のうちのひとつです。
スカーレット・オハラのファッション8
南北戦争中のファッション
- アースカラーのコットンシャツ、ウッドボタン、ロングスリーブ
- エプロン
- ロングスカート
壮大なアトランタの大火シーン
本作の撮影準備のために2年半を費やし、90のセットが作られ、53軒の実物大の建物が建てられ、コスチューム・デザイナーのウォルター・プランケットが5500着もの衣裳をデザインし、作らせたのでした。
そして、まだスカーレット役は決まっていなかったのですが、1939年末の映画公開に間に合わせるために、1938年12月10日の土曜の夜にアトラントの大火のシーンから撮影がはじまったのでした。一回きりのチャンスとなるこの撮影のために、『キング・コング』(1933)と『小公女』などで使用された古いセットを燃やし、2400人のエキストラが動員され、113分のフィルムが使用されたのでした。
このシーンの撮影をヴィヴィアン・リーとローレンス・オリヴィエが見学していました。この時、ヴィヴィアンは、セルズニックと明るく笑顔で会話した後に、突然、無言になり、炎が彼女の顔を照らす中、涙を一筋流したと言われています。
そして、この表情を見て、セルズニックは「スカーレットがここにいる!」と感じたと後に回想しています。「緑の目が端正なふるまいとはうらはらに、いきいきと輝いている」。
このアトランタ大火の後、タラに戻ったスカーレットの有名なシーンとなります。「神よ!私はこの試練に絶対に負けません!(As God is my witness, I’ll never be hungry again!)家族に二度とひもじい思いはさせません!きっと生き抜いて見せます!たとえ盗み、騙し、人を殺してでも!神様に誓います!二度と飢えに泣きません!」と夕日の中、握りこぶしを振り上げ宣言するのです。
このシーンの撮影は休憩なしで22時間ぶっ続けで行われました。そのリアルなヴィヴィアン・リーの疲労感が映像を通して伝わってきます。
スカーレット・オハラのファッション9
極貧ルック(クリノリンの消滅)
- ラベンダー更紗ドレス、ダブルパフスリーブ、フロントには16個のブラックボタン
- パメラ帽=麦藁帽子、かなり大きなブリム、グリーンベルベットリボン
スカーレット・オハラのファッション10
極貧ルックPART2
- ラベンダーコットンドレス(恐らく同じ生地)
2時間23分32秒、映像を独占し、アカデミー主演女優賞を勝ち取る。
南北戦争によって裕福な暮らしから極貧生活に急転直下していったオハラ家。戦争に勝った北軍の新政府により土地に重税をかけられ四面楚歌な状況の中、スカーレットは、レット・バトラーにお金を借りようと考えたのでした。
そして、彼に会うときに、気品を失わないために、奇跡的に焼け残っていたグリーンのカーテンでこしらえたドレスを着るのでした。ピーターパンのようなアンドロギュヌス性を秘めたドレスです。
ベルベットのカーテンの生地が生み出すドレープ感が美しく、帽子の羽根飾り、カーテンタッセルを利用したサッシュ。スカーレットがグリーンの衣装に身を包むとき、それは、何かを手に入れるためには手段を選ばないという決意の現われでもあるのです(バーベキュードレスと同じく)。
それは「どんなことをしてでも生き残ってやる!そのためには嘘も、盗みも人殺しもするでしょう!」と神に誓うスカーレットの意志の強さと、実生活における1935年のヴィヴィアン・リーの発言「いまにきっと、私はローレンス・オリヴィエと結婚するわ」がオーバーラップします。彼女は実生活でも、目標の達成を神に誓って生きてきた人なのでした。
このシーンの撮影は鬼気迫る環境で行われました。ヴィヴィアンはほぼ24時間休憩なしで撮影に望みました。更に撮影終了後、わずか4時間の睡眠を取った後、南北戦争の前にピティおばさんを訪れるシーンを演じ上げたのでした。
ちなみに、監督のヴィクター・フレミングは原作に忠実にスカーレットを同情の余地のない女性として演じさせようとしていたのですが、ヴィヴィアン・リーは、原作者のマーガレット・ミッチェルより独自のスカーレット像の解釈を個人的に認められていました(そして、スカーレットを常に冷酷なものにしようと演出していたフレミングに対抗するため、毎日ヴィヴィアンは原作本を持ち歩いていたのでした)。
この人間としての深みのあるスカーレット像の創造により、ヴィヴィアン・リーは、2時間23分32秒ずっと映像を独占していても、観客を惹きつけることに成功したのでした。
スカーレット・オハラのファッション11
グリーンカーテンドレス(クリノリンの復活)
- ベルベットのグリーン・カーテンから作ったドレス、左肩のみケープレット、カーテンロープを巧みに利用した双頭タッセルベルト
- 雄鶏の尾羽のようなジョッキーハット風ヘッドドレス、たくさんのフェザー
作品データ
作品名:風と共に去りぬ Gone with the Wind (1939)
監督:ヴィクター・フレミング
衣装:ウォルター・プランケット
出演者:ヴィヴィアン・リー/クラーク・ゲーブル/オリヴィア・デ・ハヴィランド/レスリー・ハワード
- 【風と共に去りぬ】スカーレット・オハラという女の一生
- 『風と共に去りぬ』Vol.1|ヴィヴィアン・リーとスカーレット・オハラ
- 『風と共に去りぬ』Vol.2|スカーレット・オハラ役のオーディション
- 『風と共に去りぬ』Vol.3|スカーレットのウエディングドレスと喪服
- 『風と共に去りぬ』Vol.4|スカーレットの夕陽の中での下剋上宣言
- 『風と共に去りぬ』Vol.5|コロンを飲むヴィヴィアン・リー
- 『風と共に去りぬ』Vol.6|ヴィヴィアン・リーとウォルター・プランケット
- 『風と共に去りぬ』Vol.7|スカーレットの伝説のワインレッドガウン
- 『風と共に去りぬ』Vol.8|アカデミー主演女優賞を獲得したヴィヴィアン・リー
- 『風と共に去りぬ』Vol.9|オリヴィア・デ・ハヴィランドという天使
- 『風と共に去りぬ』Vol.10|オリヴィア・デ・ハヴィランドとアカデミー賞