究極のフレグランスガイド!各ブランドの聖典ページ一覧にすすむ
ヴィヴィアン・リー

『風と共に去りぬ』Vol.4|スカーレットの夕陽の中での下剋上宣言

ヴィヴィアン・リー
この記事は約13分で読めます。

ヴィヴィアン・リーのスカーレット・オハラは『女優の教科書』

スカーレットが、お母さんが死んで、私がどんなに悪い娘になったか見ることができなくてよかったわっていうところがあるでしょう。つまり、あれが本当の私よ。

ヴィヴィアン・リー

222分ほぼ全編に渡り出演しているヴィヴィアン・リー(1913-1967)が演じるスカーレット・オハラ。19世紀のファッションを見る楽しみ以上に、あらゆる女優の方々にとっても、女性として生きる人々にとっても、彼女の表情と所作は、色褪せることのない、現代の女性にとっての教科書と言えます。

そこにオリヴィア・デ・ハヴィランド(1916-2020)が演じるメラニー・ハミルトンの表情と所作、そして生き様を対比させたなら、もう女性にとって他には何もいらない『美のバイブル』になることでしょう。

激しい何かを感じさせるヴィヴィアンの生命力と、安らぎを与える聖母マリアのようなオリヴィアの生命力。動と静の女性の両面の魅力をひとつの映画の中で対比できるのもこの作品の数多くある魅力のうちのひとつです。

『風と共に去りぬ』を象徴するシーン。レット・バトラーの第一候補はゲイリー・クーパーでした。

しかし、ゲイリー・クーパーは本作は大失敗すると考え、出演を断りました。

スポンサーリンク

スカーレット・オハラのファッション8

南北戦争中のファッション
  • アースカラーのコットンシャツ、ウッドボタン、ロングスリーブ
  • エプロン
  • ロングスカート

南北戦争も南軍の敗北が濃厚になり、スカーレットのファッションも急激に質素なものになってゆきます。

彼女はメアリーと共に南軍の看護婦をつとめます。未亡人であることと同じくらい看護婦であることが大嫌いだということがよく伝わります。

看護婦のボランティアをしていても、クリノリンスタイルです。

照明のセッティングを待つヴィヴィアン・リー。

このドレスの全体像が分かる写真。

スカートの雰囲気がよく分かります。

スポンサーリンク

壮大なアトランタの大火シーン

南北戦争の敗北は決定的なものとなり、アトランタが敗残兵で溢れ返る中、北軍が押し寄せてきます。

撮影当時25歳とは思えない貫禄。そして、膨大なエキストラの数。

CGのない時代なので、すべて本物の人間が横たわっています。

本作の撮影準備のために2年半を費やし、90のセットが作られ、53軒の実物大の建物が建てられ、コスチューム・デザイナーのウォルター・プランケットが5500着もの衣裳をデザインし、作らせたのでした。

そして、まだスカーレット役は決まっていなかったのですが、1939年末の映画公開に間に合わせるために、1938年12月10日の土曜の夜にアトラントの大火のシーンから撮影がはじまったのでした。一回きりのチャンスとなるこの撮影のために、『キング・コング』(1933)と『小公女』などで使用された古いセットを燃やし、2400人のエキストラが動員され、113分のフィルムが使用されたのでした。

このシーンの撮影をヴィヴィアン・リーとローレンス・オリヴィエが見学していました。この時、ヴィヴィアンは、セルズニックと明るく笑顔で会話した後に、突然、無言になり、炎が彼女の顔を照らす中、涙を一筋流したと言われています。

そして、この表情を見て、セルズニックは「スカーレットがここにいる!」と感じたと後に回想しています。「緑の目が端正なふるまいとはうらはらに、いきいきと輝いている」

このアトランタ大火の後、タラに戻ったスカーレットの有名なシーンとなります。「神よ!私はこの試練に絶対に負けません!(As God is my witness, I’ll never be hungry again!)家族に二度とひもじい思いはさせません!きっと生き抜いて見せます!たとえ盗み、騙し、人を殺してでも!神様に誓います!二度と飢えに泣きません!」と夕日の中、握りこぶしを振り上げ宣言するのです。

このシーンの撮影は休憩なしで22時間ぶっ続けで行われました。そのリアルなヴィヴィアン・リーの疲労感が映像を通して伝わってきます。

スポンサーリンク

スカーレット・オハラのファッション9

極貧ルック(クリノリンの消滅)
  • ラベンダー更紗ドレス、ダブルパフスリーブ、フロントには16個のブラックボタン
  • パメラ帽=麦藁帽子、かなり大きなブリム、グリーンベルベットリボン

メアリーと看護婦のボランティアをしているスカーレット。

最初のガーデンパーティーに登場したようなパメラ帽。

パメラ帽のバックシルエット。

何不自由ない生活から一転して極貧生活へ。

クリノリンは消滅しています。

そして、スカーレットのファッションは、豪奢なダブルパフスリーブ以外は完全に奴隷の女の子と全く同じ状況になってしまうのでした。

お互いの衣裳の柄がよく分かる写真。

極貧生活の中、タラで懸命に生きるオハラ家の三姉妹。

レット・バトラーに助けられるスカーレット。

この作品が今でも新しく感じるのは、この衣裳にチェンジしてからのスカーレットの逞しさ故です。

1952年9月日本で初上映され、日本中の映画女優は、ヴィヴィアン・リーに夢中になりました。


メイクアップのためのテスト撮影。

メイクアップのためのテスト撮影。こちらは涙を流した後のメイクです。

煙草片手に衣裳テスト写真。撮影中、ヴィヴィアン・リーは1日に4箱のタバコを吸っていました。

さすがにタバコ片手はまずかったので撮り直し。

実際に使われた衣装。様々なコンディションで14着作られました。

ウォルター・プランケットによるデザイン画。

スポンサーリンク

スカーレット・オハラのファッション10

極貧ルックPART2
  • ラベンダーコットンドレス(恐らく同じ生地)

同じ生地ですが、ダブルパフスリーブではなく、生き抜くために必要な服装になっています。

だんだんと逞しい女主人になっていくスカーレット

そして、最後に自宅に残る贅沢な生地であるカーテン地を使ってドレスを作り、レット・バトラーに会い、金の無心をしようと決意するのでした。

スポンサーリンク

2時間23分32秒、映像を独占し、アカデミー主演女優賞を勝ち取る。

この作品が今でも新しく感じるのは

生命感に満ち溢れたファッションゆえ。

南北戦争によって裕福な暮らしから極貧生活に急転直下していったオハラ家。戦争に勝った北軍の新政府により土地に重税をかけられ四面楚歌な状況の中、スカーレットは、レット・バトラーにお金を借りようと考えたのでした。

そして、彼に会うときに、気品を失わないために、奇跡的に焼け残っていたグリーンのカーテンでこしらえたドレスを着るのでした。ピーターパンのようなアンドロギュヌス性を秘めたドレスです。

ベルベットのカーテンの生地が生み出すドレープ感が美しく、帽子の羽根飾り、カーテンタッセルを利用したサッシュ。スカーレットがグリーンの衣装に身を包むとき、それは、何かを手に入れるためには手段を選ばないという決意の現われでもあるのです(バーベキュードレスと同じく)。

それは「どんなことをしてでも生き残ってやる!そのためには嘘も、盗みも人殺しもするでしょう!」と神に誓うスカーレットの意志の強さと、実生活における1935年のヴィヴィアン・リーの発言「いまにきっと、私はローレンス・オリヴィエと結婚するわ」がオーバーラップします。彼女は実生活でも、目標の達成を神に誓って生きてきた人なのでした。

このシーンの撮影は鬼気迫る環境で行われました。ヴィヴィアンはほぼ24時間休憩なしで撮影に望みました。更に撮影終了後、わずか4時間の睡眠を取った後、南北戦争の前にピティおばさんを訪れるシーンを演じ上げたのでした。

ちなみに、監督のヴィクター・フレミングは原作に忠実にスカーレットを同情の余地のない女性として演じさせようとしていたのですが、ヴィヴィアン・リーは、原作者のマーガレット・ミッチェルより独自のスカーレット像の解釈を個人的に認められていました(そして、スカーレットを常に冷酷なものにしようと演出していたフレミングに対抗するため、毎日ヴィヴィアンは原作本を持ち歩いていたのでした)。

この人間としての深みのあるスカーレット像の創造により、ヴィヴィアン・リーは、2時間23分32秒ずっと映像を独占していても、観客を惹きつけることに成功したのでした。

スポンサーリンク

スカーレット・オハラのファッション11

グリーンカーテンドレス(クリノリンの復活)
  • ベルベットのグリーン・カーテンから作ったドレス、左肩のみケープレット、カーテンロープを巧みに利用した双頭タッセルベルト
  • 雄鶏の尾羽のようなジョッキーハット風ヘッドドレス、たくさんのフェザー

両手でドレスを持ち上げることは、当時の上流階級においては、淑女にあるまじき所作でした。

スカーレットは二度目の結婚をし、再び裕福になります。

スカーレットと召使のマミー。

このドレスの全体像が分かる写真。

メイクアップのためのテスト撮影。

こういう写真が、ひとつの映画にかかる動力と情熱を伝えてくれます。

ウォルター・プランケットによるデザイン画。

ウォルター・プランケットによるデザイン画。

作品データ

作品名:風と共に去りぬ Gone with the Wind (1939)
監督:ヴィクター・フレミング
衣装:ウォルター・プランケット
出演者:ヴィヴィアン・リー/クラーク・ゲーブル/オリヴィア・デ・ハヴィランド/レスリー・ハワード