【ローマの休日】
Roman Holiday オードリー・ヘプバーンが誕生した記念碑的作品。ヨーロッパを代表する名家により統治される或る国の王女を演じる彼女の説得力が、1950年代のローマの観光地の魅力と相俟って、永遠に色褪せぬ輝きを生み出しています。
絶世の美貌に恵まれ、何不自由なくぜいたくな毎日を送っているように見えるアン王女。実際の彼女は詰め込まれた過密スケジュールと全く自由のない毎日にすっかり嫌気が差していました。
そして、或る夜、ついに自由を求めて、訪問地ローマの街へと抜け出すのでした。すっかり睡眠薬が効いてしまい、酩酊しているときに、偶然通りがかったアメリカの新聞社の特派員ジョー・ブラッドレー(グレゴリー・ペック)との出会い。さあ24時間の禁じられた恋のものがたりのはじまりです。
物語のポイント
宮殿を抜け出した王女とスクープを狙う新聞記者が身分を伏せ、お互いに嘘を重ねながら、スペイン広場、トレヴィの泉、パンテオン、コロッセオ、真実の口を訪れていくにつれ、絶対に結ばれない恋と知りながらも、惹かれ合うのです。
いまだにこの作品以上のプリンセス・ムービーは存在せず、日本映画においては、黒澤明監督の『隠し砦の三悪人』(1958)に影響を与えました。この歴史的名作のファッション史における役割は、オードリー・ヘプバーンという存在を生み出した衝撃に集約されます。
その衝撃の一例として最も有名な逸話は、マリア・カラスが1953年に本作を見て、11ヵ月間で31キロの減量に成功したことでした。
本作により新人女優だったオードリーは、1953年のアカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞しました。そして、衣裳デザインを担当したイーディス・ヘッドもアカデミー最優秀衣裳デザイン賞を受賞しました。
オードリーの起用は、『素晴らしき遺産』の中での小さな役柄がきっかけになりました。そして、ロンドンで、ウィリアム・ワイラー監督が直々にオードリーと面談し、1951年9月18日にスクリーン・テストを受けさせ、アン王女役に抜擢したのでした。
イーディス・ヘッドがデザインしたローブ・デコルテの衣裳は、アン王女を象徴する衣裳として、今では、ウエディング・ドレスにおける人気デザインの不動のセンターの位置を占めています。
アン王女が、アーニャとして、早朝のローマの街をぶらつき、ヘアカットした後登場するアーニャのショートカットは、公開当時ヘップバーンカットと呼ばれ、大旋風を巻き起こしました。
そして、上質なブラウスにサーキュラースカートのスタイルに変化を加えてゆきながら、アーニャとしての自由を謳歌するアン王女の姿は、スペイン広場の階段でジェラートを食べるシーンや、べスパで暴走するシーン、真実の口でジョーにだまされびっくりするシーンなどといったファッション史の観点から見てもアイコニックな名シーンを連発することになります。
ファッション・シーンに与えた影響
1953年に公開された『ローマの休日』が、21世紀のファッションに対して、大いなる影響を与えているその理由は、以下の四点によるものです。
- 同じブラウスとスカートの組み合わせから、スタイリングの概念を学ぶことが出来る
- ロングヘアとショートヘアが生み出す、違う女性の魅力
- ローブ・デコルテというドレスが気品を生み出すのではなく、所作が気品を生み出しているというエレガンスの真実
- そして、何よりもオードリー・ヘプバーンの誕生
新しいものよりも、古き良きものを、しっかりと把握することが、ファッションの基礎能力となります。ファッションの本質とは何か?この単純な質問に対する答えがこの作品の中に詰め込まれています。「永遠のファッション・バイブル」それが『ローマの休日』なのです。
作品データ
作品名:ローマの休日 Roman Holiday (1953)
監督:ウィリアム・ワイラー
衣装:イーディス・ヘッド
出演者:オードリー・ヘプバーン/グレゴリー・ペック/エディ・アルバート