セイコーが最も輝いていた時代

インドの伝説的テニス・プレイヤーであるビジャイ・アムリトラジが、ボンドの助手として登場。

時速100キロは出るオート・リクシャーによるカーチェイスが素晴らしい。特にすごいのが、突然現れる青いガチ自転車です。

5枚刃のすごい短剣で攻撃されるボンド。しかし、この武器は、攻撃者自身を刺す可能性も高くはないか?

ゴビンダが写真で持っているのがこの武器です。

タキシードの下にはスケスケの白いドレスシャツ。

Qの前ではいつも甘えん坊なジェームズ・ボンド君。またその姿が、ボンド・ムービーの定番の癒しなのです。

セイコーのデジボーグ。

右後ろに座っている水色シャツの美女の胸元を激写するボンド。

セイコーの液晶TVウォッチ。

本作では珍しくボンドは二着のタキシードを着用。

ターバン姿のゴビンダ役のカビール・ベディは、ボリウッドの大スターです。

巨象をバックに満面の笑みを浮かべるロジャー・ムーア。
ジェームズ・ボンド・スタイル4 ホワイトタキシード
- ダグラス・ヘイワードによるアイボリー・ディナー・ジャケット、リネン製、1つボタン、ピークラペル、ダブルベンツ
- ブラック・トラウザー、サテンストライプ付き、カマーバンド付き
- フランク・フォスターによるコットンシャツ
- オニキスのカフリンク
- 黒いサテンのボウタイ
- ブラック・パテントレザー・スリッポン
- セイコー・デジボーグG757
この時代、セイコーは、世界制覇を企めるほどの成功を収めていました。1964年にはオリンピックのオフィシャルタイマー(公式時計)に採用され、1998年の長野オリンピックでも採用されたのですが、2020年の東京オリンピックでは、セイコーは選ばれず、なんと(現在のボンドムービーのスポンサーである)オメガが選ばれたのでした。
ちなみにセイコーと言えば、和光なのですが、銀座の本店はもはや概観以外は人々の興味を呼ばないアイテムで溢れかえっています(客層も時代の波から取り残されている高齢の富裕層のみ)。大阪などにあるミニ和光は、カビの生えたものしか置いていません。今のセイコーの凋落を見てしまうと、このバブル期直前のセイコーの成功が懐かしいです。
それにしても、ロジャー・ムーアのセイコーに対するコメントが面白いのです。「ロレックスは映画に出しても何もくれなかったが、セイコーは腕時計をくれた」とのことです。
ちなみに秘密兵器のひとつ=強酸仕込みの万年筆としてモンブランの万年筆も登場します。
もう一着のボンド・タキシード

本作のボンドはやけに正装が多い。

そして、敵にもてなされ、ゲテモノ料理の登場と相成るのです。

敵はボンドを思う存分もてなし、その財力を見せ付けるのです。
ジェームズ・ボンド・スタイル5 ブラックタキシード
- ダグラス・ヘイワードによるブラック・ディナー・ジャケット、ウール×モヘア製、1つボタン、ノッチラペル、ダブルベンツ
- ブラック・トラウザー、サテンストライプ付き、カマーバンド付き
- フランク・フォスターによるクリーム色のシルクのフロントプリーツドレスシャツ
- 黒いサテンのボウタイ
- ブラック・パテントレザー・スリッポン
この作品が、インドを舞台にしているにも関わらず、イマイチその荘厳さが伝わらないのは、ピーター・ラモント(1929-)というプロダクションデザイナーの能力の問題でしょう。
かつてボンド・ムービーにおいて抜群の世界観を作り出していたケン・アダム(1921-2016)がプロダクションデザインを担当した『007 ドクター・ノオ』『007 ゴールドフィンガー』『007 サンダーボール作戦』 『007は二度死ぬ』『007 ダイヤモンドは永遠に』『007 私を愛したスパイ』『007 ムーンレイカー』は、ケンのデザインが生み出すボンドムービーと他の大作アクション映画の世界観の明確な違いが、その高い教養と芸術性を(過敏なまでに)反映させた結果であることが分かります。
一方、ピーター・ラモントのセットは、他の大作アクション映画と同じ世界観を生み出すだけで終わってしまっています。ケン・アダムの喪失は、その後のボンドムービーがつまらなくなった理由の大きな要素のひとつでした(特に敵役のカリスマ性の喪失を生み出した)。