パトリシア・アークエットは美人ではない。
『トゥルー・ロマンス』は、クエンティン・タランティーノにとって、女性との《真実の愛》が無縁だった時代に描かれた脚本を基に作られた作品でした。
それは、男が戦う映画ではなく、女が男と戦う映画でした。そう言い切ってしまっていいほどに、パトリシア・アークエット(1968-)扮するアラバマ・ウィットマンは、その夫クラレンスよりも戦っていました。しかも、敵役の男(=後に『ソプラノズ』でスターになるスーパーヘビー級マフィア、ジェームズ・ガンドルフィーニ)によって容赦なくボコボコにされ、血まみれになりながらも、戦い抜くのです。
この血みどろのアラバマを見ていて感じるのが、《100パーセント女》のカッコよさです。レンタルビデオ店の店員だった、25歳の童貞青年タランティーノが描いた夢=100パーセントこんなダメなオレに尽くす女、それがアラバマなのです。
無名時代のタランティーノは、もし彼の周辺で少女誘拐事件なんかが起きたら、いの一番にFBIにマークされそうなほどに挙動不審なヤツだったのでしょう。
そんな彼が思い描いた、通常の女性の観念から見れば歪みきった〝理想の女性像〟を、臆面もなく、一切ぶれることなく、パトリシア・アークエットが忠実に再現したからこそ、この作品は今までに存在しなかったタイプの〝永遠のアイコン〟を生み出すことが出来たのでした。
全てを物語るのは、撮影にあたり当時24歳だったパトリシアが、監督のトニー・スコットにお願いした事柄です。それは戦うシーンの撮影の前には、「闘魂ビンタしてください」というお願いでした。
ただギャアギャア叫ぶだけの演技ではなく、まるで子どもを血まみれになって産むように、男を殺す女を演じたパトリシアに、女性は《100パーセント男に尽くす女》ってカッコいい~という童貞青年の妄想にまんまと付き合わされる喜びを感じることになるのです。

この作品の題名はずばり《真実の愛》だ!

80年代のマドンナ風ファッションのアラバマ。
「好きな俳優は、バート・レイノルズよ」

1972年にコスモポリタン誌でヌードを披露し、一躍セックスシンボルに上り詰めた男バート・レイノルズ。

『ジョニー・ハンサム』のミッキー・ローク。
好きな色は黒、好きな俳優は、バート・レイノルズ。好きなものは、ミッキー・ローク。
アラバマ・ウィットマン
パトリシア・アークエットの実の姉の名をロザンナ・アークエット(1959-)と申します。彼女よりも9歳年上で、『グラン・ブルー』、そして『バッファロー’66』でヴィンセント・ギャロの憧れの女ウェンディ・バルサムを演じた、小鹿のようなルックスが魅力的な美人女優です。
一方、パトリシアは、姉妹とは思えないほど、全てにおいて姉に劣るスペックを持つ女性でした。ちなみに身長は164cmのロザンナに対して、パトリシアは156cmです。
TOTOのような人気ロックバンドがロザンナの名を取って「Rosanna ロザーナ」を作ったり、ギャロ様でさえも高嶺の花と崇拝する絶世の美女である姉に対して、パトリシアは、人懐っこい笑顔が魅力的な、(男性から見れば)すぐになんとかなりそうな女性でした。
パトリシアの凄さは、そんな姉を追いかけずに、(フレディ・クルーガーを追いかけ)全く逆の方向に走っていったところにあります。
「あたしはコールガールよ。でも汚れきっちゃいない!あたしは、好きな男のためなら・・・その男に100パーセント尽くす女なのよ」と自分の口で言い切ってしまう強さがある女。
そして、さらりと「まだ4日目でお客はあんたで3人目よ!」と数字を出して、本当か嘘か分からないことを言ってのける、風俗嬢がカモを落とすときに良く使う上等文句をペラペラと並べ立てるこのシーンを見て、世界中のコールガール(=風俗嬢)が、そのハートをがっちり鷲掴みにされたことでしょう。
キーになるシーンは、ソニー千葉と『男たちの挽歌2』。これだけは言えるのですが、夫婦円満の秘訣とは、夫の趣味に妻が付き合えるかという一点のみです。男性にとって、自分の嗜好に付き合ってくれる女性こそが、自分にとっての女神なのです。
ここに女性と男性の明確な違いがあるのです。逆に女性は自分の趣味に旦那が興味を持っていようが、持っていまいが全く意に介さない生き物なのです。
アラバマ・ウィットマンのファッション1
コールガールスタイル
- フェイクファーのレオパルドコート
- レッド・ホルターネックミニドレス
- 黒の網タイツ
- ピンクのボックス型ハンドバッグ
- ブルーのフェイクレザーショートブーツ
- ショッキングピンク×黒のストライプ手袋
- 赤のチェリー&ハートイヤリング
- レオパルド柄のブラジャー
90年代の「安っぽい豊かさ」という概念を最も完璧に要約しているスタイルです。

マーク・クロス風のキャンディカラーのボックス型ハンドバッグを持つアラバマ。

お互いの名前のTATOOを彫り合う二人。ビリー・アイドルの『ホワイト・ウエディング』が流れます。

このファッションで二人は結婚届を出したのでした。

撮影開始前の衣装合わせの写真。

ショートボブ。ヘアスタイルのイメージは30年代から40年代のハリウッド女優。

しかし、アクセサリーは80年代風のバービースタイル。
削除されたジャック・ブラックの出演シーン
2001年の『愛しのローズマリー』と2003年の『スクール・オブ・ロック』でスターになったジャック・ブラック(1969-)が無名時代に出演したシーンがカットされました。
このシーン、ソニー千葉の『激突! 殺人拳』のエンディングに興奮して叫び声を上げるアラバマが無邪気でキュートです。
アラバマのボーイフレンドルック

クラレンス・パパの前で無邪気に前転を繰り返すアラバマ(このシーンがとてもかわいい!)。
私は『インディアン・ランナー』でデニス・ホッパーと仕事をしたことがあり、彼に少し恋心を抱いていましたが、それを口にすることはありませんでした。私が彼にキスをして、彼が「彼女は本当にピーチの味がする」と言うシーンがありました。私はある人に、私が子供の頃使っていたリップグロスを手に入れてもらいました。彼が私の唇を舐めて「わあ、本当にピーチの味がする」と言うように仕向けたかったのです。
パトリシア・アークエット
着のみ着のままでクラレンスと結婚したアラバマが、クラレンスのパパと初対面を果たすシーンの服装は、クラレンスの服です(クラレンスがアラバマの衣服が入ったスーツケースではなく、コカイン入りのスーツケースを持って帰って来たため)。
このオーバーサイズなトムボーイな雰囲気が、パトリシア・アークエットの持ち味でもあるのです。全盛期のマコーレ・カルキンに似た、少年のような雰囲気が、彼女の唇にピーチの味を生み出したのでしょう。
「さぁ、パパにキスしてくれ」と言われて、デニス・ホッパー(1936-2010)扮するクラレンスのパパに、ねっとりと舌を絡め合わせディープキスをするアラバマ。このシーンにアラバマという女性の全ての魅力が詰め込まれているのです。
彼女は、無邪気なマリリン・モンロー93年型のような女性なのです。
アラバマ・ウィットマンのファッション2
ボーイフレンドルック
- フェイクファーのレオパルドコート
- ブルーのフーディー・パーカー
- ウォッシュドデニム、ロールアップ
- 黒のコンバースのオールスター

コート以外は、クラレンスの服を着ているアラバマ。
作品データ
作品名:トゥルーロマンス True Romance(1993)
監督:トニー・スコット
衣装:スーザン・ベッカー
出演者:クリスチャン・スレーター/パトリシア・アークエット/ブラッド・ピット/ゲイリー・オールドマン/デニス・ホッパー/クリストファー・ウォーケン/マイケル・ラパポート
- 【トゥルー・ロマンス】獰猛なファッションだけが生き残る
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.1|スーパーヘビー級マフィアと戦うパトリシア・アークエット
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.2|パトリシア・アークエットの元祖コギャル・ファッション
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.3|ナイスボディじゃない女性の守護神 アラバマ・ウィットマン
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.4|クリスチャン・スレーターとエルヴィス・プレスリー
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.5|クリスチャン・スレーターとM65フィールドジャケット
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.6|クラレンス・ウォリーのアロハシャツ
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.7|ブラッド・ピット=なんの役にも立たない男
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.8|ゲイリー・オールドマンの狂気