究極のフレグランスガイド!各ブランドの聖典ページ一覧にすすむ
エルメス

【エルメス】ロンブル デ メルヴェイユ(クリスティーヌ・ナジェル)

エルメス
©Hermès
この記事は約6分で読めます。

ロンブル デ メルヴェイユ

原名:L’Ombre Des Merveilles
種類:オード・パルファム
ブランド:エルメス
調香師:クリスティーヌ・ナジェル
発表年:2020年
対象性別:ユニセックス
価格:30ml/11,220円、50ml/17,160円、100ml/24,530円
公式ホームページ:エルメス

スポンサーリンク

『オー デ メルヴェイユ』の歴史

©Hermès

私はずっとその香りが好きでした。花を使わずにこれほどの女性らしさを与えることに畏敬の念を抱いていました。2004年に誕生して以来、「オー デ メルヴェイユ」は私の心の中で特別な位置を占めていました。

それは驚くほど独創的であり、色々な可能性を秘めた香りです。だからこそ私はフォーミュラを徹底的に調べ上げました。そして、その仕組みと深い謎を理解し、その精神と構造、世界観に敬意を払いつつ、観察のフェイズを経て、新たなる創造の旅へと進む決心を固めたのでした。

恐れずに、その香りに没頭することによってのみ、さらに遠くまで行くことが出来るのです。

クリスティーヌ・ナジェル

2003年にマルタン・マルジェラの後任としてエルメスのウィメンズラインのクリエイティブ・ディレクターに、ジャン=ポール・ゴルチエ(2004年AWから2011年SSまで)が就任しました。そして、彼の就任を祝うように、翌2004年に「オー デ メルヴェイユ」(=不思議の国の水)が発売されました。

同年エルメスの専属調香師に就任したジャン=クロード・エレナは、翌2005年にラルフ・シュワイガーと共に「パルファム ドゥ メルヴェイユ」を調香し、温かみのあるワインのような香りを生み出しました。

そして、その第三弾として2006年に発売されたのが、キャラメル・ブール・サレ(塩バターキャラメル)からヒントを得て生み出された「エリクサー デ メルヴェイユ」でした。

更に第四弾として2010年に「オー クレール デ メルヴェイユ」、第五弾として2012年に「アンブル デ メルヴェイユ」が発売され、2016年にエルメスの二代目専属調香師に就任したクリスティーヌ・ナジェルが「オー デ メルヴェイユ ブルー」を第六弾の香りとして生み出したのでした。

そして、2020年6月に発売された第七弾の香りがこの「ロンブル デ メルヴェイユ」です。ここで非常に興味深い事実を挙げると、これらのフランカーの創造は、すべて調香師自身の判断により決定されたという事実です。

スポンサーリンク

クリスティーヌのミネラルノートの極み

©Hermès

この香りによって、お香のほのかなアロマに包まれた、柔らかく上質なカシミアのヴェールのような、優美な瞬間を提供したいと思いました。

影のない光はなく、光のない影もありません。絵画や写真では、影が顔を浮かび上がらせることもあります。隠れたものを明らかにするためには、ダークトーンが必要な場合があります。そのために、トンカビーンの官能性、シトラスを強調するための軽くて空気のようなお香、そして、ブラックティーをバックボーンとしました。

不思議の国への空想の旅のために、キアロスクーロで元々の構造の別の側面を見つけ、新しいコントラストを楽しむことが出来るのです。

クリスティーヌ・ナジェル

2011年にエタ リーブル ド オランジェの「アルシーブ 69 イノセンスの終わり」においてクリスティーヌ・ナジェルが開始したミネラルノートの旅は、2014年のジョー マローン ロンドンの「ウッド セージ & シー ソルト コロン」を経て、この作品に到達しました。

「ロンブル デ メルヴェイユ」において、この香りは、水から幻影になったのでした。キアロスクーロ(明暗のコントラスト)がテーマである本作は、ウッディとオリエンタルのコントラストをインセンスとトンカビーンによって表現した香りです。ブラックティーが光です。

私は自分の直感に従い、香水には完璧さではなく、主にバランスを求めます。香水に個性を与えるのは、奇抜なものです。過剰なプロポーションは、私が求める感覚を与えてくれます。ロダンの彫刻では、手や足もプロポーションが崩れていることが多く、そこから真実味のあるイメージと感情が生まれてゆきます。

クリスティーヌ・ナジェル

スポンサーリンク

天国にいちばん近い木炭の香り

©Hermès

私は、木炭のような新しい素材を使って、オリジナルのフォーミュラに陰影をつけることを選びました。夜のように黒いトンカビーンは、官能的で深みのある香りをもたらします。軽やかなお香の香りが、シトラスフルーツを引き立てます。

私が求めたのは、素材そのものを表現するのではなく、その軽さ、香りの渦巻き、わずかな空気で変容するほど軽い煙など、物質よりも素材の痕跡を追求することでした。

また、紅茶のスモーキーな面を追求し、繊細なお香と結びつけることで、ある種の融解と融合を表現しました。「ロンブル デ メルヴェイユ」の真のバックボーンである墨のウッディな芳香が、他の光り輝くノートを暴いてくれるのです。

クリスティーヌ・ナジェル

まず最初にこの香りの全体的なイメージは、クリスティーヌが、インドを訪れた時、女性が着ていたサリーのドレープの優美さでした。オリジナルと同じく、この香りにもフローラルは一切使用されていないのですが、完全にユニセックスの香りです。

洗い立てのシャツを連想させるホワイトムスクと、深くて暗い、心を奪われるような美しいブラックティーのひんやりと冷たいスモーキーな輝きからこの香りははじまります。ほのかにベリーとアニスを感じることが出来ます。

そして、ゆっくりとインセンスが現れ、ブラックティーの中に注ぎ込まれてゆくのです。以下、3つの主要な香料は決して溶け込まず、お互いの魅力を引き出しあっているのがこの香りの特徴です。

やがて、官能的なトンカビーンが、バニラのような側面をチラつかせながらクリーミーな甘みを加えてゆきます。そして、ふいにミネラルノートとアンバーグリスの塩辛い香りが蜃気楼のように漂いはじめるのです。

ミンティ、バルサミック、ティー、ソルティー、スウィート、ソーピィー、そして、オレンジといった要素が、繊細に香り立ち、心の中に潜む闇に、太陽をもたらすのではなく、暗黒の安息をもたらしてくれる〝ブラック・インセンス〟です。「元気を出して!」と言われることに疲れた時に抜群の癒しを与えてくれる静謐なる香りです。

調香師は新しい香りを作るとき、何ヶ月も、あるいは何年もかけて、自分が完璧だと思うバランスに仕上げていきます。それは、真の創造物であるがゆえに、単独で身につけることを念頭に置いて生み出されています。

だから、重ねづけせずにこの香りだけを感じて欲しいのが本音です。この香りの美しさは、複雑な純粋さにあり、重ねることでその繊細さ、彫刻されたような洗練さが損なわれてしまうのです。

クリスティーヌ・ナジェル

スポンサーリンク

香水データ

香水名:ロンブル デ メルヴェイユ
原名:L’Ombre Des Merveilles
種類:オード・パルファム
ブランド:エルメス
調香師:クリスティーヌ・ナジェル
発表年:2020年
対象性別:ユニセックス
価格:30ml/11,220円、50ml/17,160円、100ml/24,530円
公式ホームページ:エルメス


トップノート:ブラックティー
ミドルノート:インセンス
ラストノート:トンカビーン