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【エルメス】オー デ メルヴェイユ(ラルフ・シュワイガー/ナタリー・ファイツァー)

エルメス
©Hermès
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オー デ メルヴェイユ

原名:Eau des Merveilles
種類:オード・トワレ
ブランド:エルメス
調香師:ラルフ・シュワイガー、ナタリー・ファイツァー
発表年:2004年
対象性別:女性
価格:30ml/10,670円、50ml/16,390円、100ml/23,320円
公式ホームページ:エルメス

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さぁ!天よ、我に力を与え給え!

©Hermès

この香りにおいて私はソルティーなものを作りました。今でこそ塩は、香水の話に出て来るようになりましたが、20年前はそれほど一般的ではありませんでした。

まず最初に塩には匂いがないので、塩の感じ方を翻訳する必要がありました。そのため海水浴の印象に焦点を当て、塩辛い肌を香りで表現することにしました。

ラルフ・シュワイガー

一人の天才デザイナーがエルメスを去り、新たな天才デザイナーがエルメスに現れた時、この香りのプロジェクトは始動しました。1998年AWから2004年SSまでマルタン・マルジェラが、ウィメンズラインのクリエイティブ・ディレクターをつとめ、2003年に退任しました。

そして、2003年に、ジャン=ポール・ゴルチエが2004年AWから2011年SSまで同ポジションに就くことになりました。香水について自分自身のブランドにおいても成功を収めていたゴルチエは、早速、1994年から2000年までカルティエの香水部門の責任者だった女性と一作目のウィメンズ・フレグランスの創造に取り掛かるのでした。

彼女の名をヴェロニク・ゴーティエ(2010年よりロレアル社のアルマーニ・ビューティのグローバル・プレジデントに就任)と申します。当時のエルメスの香水部門の責任者であり、同時進行で、ジャン=クロード・エレナを専属調香師にするレールを敷いた人です。

かくして「不思議の国の水」という名のこのフレグランスは、フローラルを一切使用せず、女性らしさを表現するという画期的な試みに挑戦し、2004年4月に世界発売されたのでした。

今も脈々と受け継がれているエルメスの香水の凄さは、すべての香りが、市場の流行を全く気にしていないところにあります(つまりは媚びない、物真似をしないということです)。この画期的な香りは、ラルフ・シュワイガーナタリー・ファイツァーによって調香されました。

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エルメス版『ファンタジア』

©Disney

この香りの創造に大いなる影響を与えたのは、1940年のディズニー映画『ファンタジア』の中で、ミッキーマウスがデュカスの「魔法使いの弟子」に合わせて天空の星を操るシーンです。

すべての世界観は、〝エルメスの世界〟に見事に移植されていきます。エルメスというブランドがラグジュアリーである所以は、エルメスの手に触れると、すべては〝オレンジ色のエレガンス〟に包まれていくところにあります。

この香りは、まさにエルメスのウェア、バッグ、アクセサリー、香水を身に纏いし女性が、世界を揺り動かす自信に包まれていく姿を表現しているのです。それはまさに「エルメスの魔法を使う女性」を生み出す〝不思議な水〟なのです。

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〝アンブロキシドの香り〟をトレンドにした香水

©Hermès

アンバーグリスには、アンバーの樹脂っぽさ、ウッディ、ダーク、そして、インクやタバコの匂いを含んだ塩辛い甘さなど、さまざまな側面があります。私のアイデアは、それを私なりに再現することでした。

ラルフ・シュワイガー

「不思議の国の水」という名のこの香りの主役は、2004年当時においても、既に幻の香料と言われていた〝マッコウクジラの腸内に発生する結石〟であるアンバーグリス(龍涎香)でした。より正確に言うと、アンバーグリスを連想させる合成香料アンブロキシドを中心に、一切フローラルを使用せずに女性のフレグランスを生み出そうということでした。

アンブロキシドにより、海水浴の後の塩辛い肌の感覚と静かに長く残る匂い、そして、肌だけでなく、布や毛皮にも長く残ることを念頭にこの香りは創造されました。

このアンブロキシドを中心にした香りの構築が、シャネルの「ブルー ドゥ シャネル」(2010)やディオールの「ソヴァージュ」(2015)を生み出す、ゲームチェンジャーの役割を果たしたのでした。

ちなみにラルフ・シュワイガーは、フレデリック・マルの「リップスティック ローズ」や、アトリエコロンの「オレンジ サングイン」を調香した人です。

さらにこの香りには、マニラエレミというフィリピン等の熱帯で自生する樹木から採れる、フランキンセンス(乳香)やミルラ(没薬)に近い樹脂から水蒸気蒸留して生成される香料が使用されています。

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一切フローラルを使用せずに、女性の香りを創造する

©Hermès

「目を大きく開けて夢を見つめて!昼間に星を見る女性のために捧ぐ!」というすごいキャッチコピーのこの香りには、トップ、ミドル、ラストノートが存在しません。代わりに三つのアコード〝木の精〟〝海の記憶〟〝星座の輝き〟が、白昼夢が織り成す不思議の世界のように、変則的に回転するように香ります。

1945年にオレンジをエルメス・カラーとして採用したこのブランドにとってオレンジは象徴的な香料です。そんなビターオレンジとレモンの頭上に星よ輝け!と言わんばかりにピンクペッパー、カルダモン、ペッパーに押し出される様に、青空のようなスーっと引き締まるような爽快感からこの香りはシャンパンの栓を抜いたようにはじまります。

すぐに一日ビーチで過ごした後の肌の塩味をふくんだアンバーグリスが現れます。この香りの特徴は、花の祭典によって、女性らしさを表現するということを放棄したミドルノートにおいて、このアンバーグリスとオレンジの周りを、天体の星座が回転するように、予測不可能に3つの要素が回りめぐるところにあります。

  1. イソEスーパーにより生み出されるシダーウッドとアーシィーかつスモーキーなベチバーの涼しげな潮風に揺られる針葉樹林の感触。
  2. (レモンのような)マニラエレミがスパイスに溶け込み、フローラルの代わりに、軽やかで爽やかな女性らしさを演出するアクセント。
  3. パウダリーなヴァイオレットが、甘いバニラのようなベンゾイン、ペルーバルサム、トンカビーンとブレンドされ、生み出されていく凛とした佇まいとエレガンス。

この香りの最大の魅力は、外からは窺い知れない温かさを、魔法の風のように、肌の上に乗せることによってのみ体感できるところにあります。つまりは、上質なカシミヤセーターを着るような、身体のラインに沿って、あくまでも自然なラグジュアリー感を演出してくれるのです。

森林の中から生み出される女性らしさが、オレンジ色のエルメスの芳香と組み合わさり、上品さと高級感を突き詰めたクール・ビューティーな〝感情を失った鉄仮面美女のような〟香りへと静かに昇華するのです。

さぁ、後はあなたが笑うだけ。この香りをつけている女性が、微笑んだならば、世界は彼女のものになる!そんな危険な香りなのです。

エルメス・カラーがアクセントになっている丸みを帯びた特徴のあるボトル・デザインは、セルジュ・マンソーによるものです。魅惑に満ちた新しい視点で世界を見渡せるルーペをイメージしたデザインです。

キャンペーン広告に登場しているのは、ブラジル出身のファッション・モデル・ジェイサ・チミナッツォでした。

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「オー デ メルヴェイユ」を「ソルティオレンジ」と呼び、「これは、各種の原料をブレンドして再構成したアンバーグリスの「発想」に基づいた香水らしい(なぜ本物のアンバーグリスを使わないのかは不明)。」

「心地よいオレンジで始まり、複雑な塩からい残香になる。一度にいくつものフレグランスを嗅いでいるようだ。」「似たような塩っぽい効果は、すでに何年も前にディプティックの「バルジーリオ」が完成させている。そちらのほうがより力強く、興味深い香りだ」と3つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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作品データ

香水名:オー デ メルヴェイユ
原名:Eau des Merveilles
種類:オード・トワレ
ブランド:エルメス
調香師:ラルフ・シュワイガー、ナタリー・ファイツァー
発表年:2004年
対象性別:女性
価格:30ml/10,670円、50ml/16,390円、100ml/23,320円
公式ホームページ:エルメス


トップノート:ビターオレンジ、レモン、マニラエレミ
ミドルノート:アンバーグリス、ピンクペッパー、ヴァイオレット、ペッパー、カルダモン
ラストノート:モミ、オークモス、シダー、マダガスカル産ベチバー