ギャロップ ドゥ エルメス
原名:Galop d`Hermes
種類:オード・パルファム
ブランド:エルメス
調香師:クリスティーヌ・ナジェル
発表年:2016年
対象性別:女性
価格:50ml/42,790円
公式ホームページ:エルメス
ローズとレザーが恋に落ちた香り
エルメスには16種類のインハウス・クラフトがあります。なかでも私が夢中になったのはレザーです。レザーをテーマに香りを作りたいと思いました。エルメスの最高級レザーが保管されている倉庫は、決して一般公開されることはありません。香りのインスピレーションを得るためそこに入ることが許され、わたしは100種類以上ものエルメスのレザーに触れました。
やがて、バターのように柔らかく、しなやかで、心地よい弾力が宿る天然レザー・ヴォー・ドブリスに触ったとき、これだ!と思いました。女性の肌のように柔らかいのです。そして、皮革職人は、このレザーは片面が肉で、もう片面がバラだと表現しました。
なめらかな手触りと気品。エルメスを象徴するこのレザーに乗る騎手として、私はローズを、それもトルコ産ダマスクローズを選びました。香りに張りがあって、革に負けない力があるからです。
クリスティーヌ・ナジェル
私は馬が怖いのですが、馬術のすべてが好きです。エルメスでは、馬が最高の顧客なのです。
クリスティーヌ・ナジェル
2016年2月に初代専属調香師ジャン=クロード・エレナの「オー ドゥ ネロリ ドレ」と共に『コロン エルメス』第三弾の香り「オー ドゥ ルバーブ エカルラット」が発売されました。この香りが、エルメスの二代目専属調香師に就任していたクリスティーヌ・ナジェルのはじめての作品でした。
そして、2016年9月1日に、クリスティーヌの二つ目のエルメスの香り「ギャロップ ドゥ エルメス」が発売されました。その名の意味はフランス語で〝エルメスの全速走行〟です。
この名は2016年のエルメスの年間テーマである〝La nature au galop 自然 ― 軽やかなギャロップ〟に合わせて付けられました。
ジャン=クロード・エレナの影響を受けている香り
私は、ジャン=クロードが教えてくれることなら、いつも何でも受け入れてきました。彼と私はオフィスを共有しており、作業台は互いに向かい合っています。私はよくしゃべる人なんです。私たちは、日々の仕事の中で、お互いを驚かせることができることに、純粋な喜びを感じています。
私たち2人は、それぞれ個人的なクリエイティブな世界で、異なるプロジェクトに取り組んできました。しかし、突き詰めていくと、とても似ているのです。彼からは、間違いを正すような指図は一切ありませんでした。ただ、父親が娘にするように、親身になってアイデアを提案し、アドバイスをしてくれるのです。
彼は私に、香りを嗅ぐ時間、香りを忘れる時間、そして、新鮮な気持ちで香りを取り戻す時間を教えてくれたのです。このようにすると新しい方法で、別の角度から、匂いを再発見することが出来るのです。
クリスティーヌ・ナジェル
不思議な話ですが、ジャン=クロードと仕事を始めたとき、初めての気がしませんでした。変な話ですが、バレンシアガの「ルンバ」やブルガリの「オ パフメ オーテヴェール」、イヴ・サンローランの「イン ラブ アゲイン」、エルメスの「ヴォヤージュ ドゥ エルメス」といった彼の作品に長い間親しんできたので、全く知らないうちに彼のことを知っていたような気がします。
クリスティーヌ・ナジェル
2014年3月に、エルメスの調香師に就任したクリスティーヌ・ナジェルは、ジャン=クロード・エレナ(彼は2004年から)と2年間タッグを組み、各々のエルメスのフレグランスを調香するようになりました。
いわゆる〝エルメスの時間〟の伝承の期間です。つまり「ギャロップ ドゥ エルメス」は、エレナの影響を少なからず受けて生み出された香りなのです。
ローズとレザーという対極の香料を用いて、〝ローズとレザーの間で踊っているような〟躍動感の中から調和を生み出そうと一年の歳月をかけて生み出した野心作であるこの香りは、クリスティーヌ=ローズと、エレナ=レザーのフェミニンとマスキュリンの関係性をも連想させる香りなのです。
通常、ローズとレザーの組み合わせは、レザーがローズを圧倒してしまうのですが、クリスティーヌは、そうならないようにローズの中でも最も強い香りを持つトルコ産ダマスクローズを使用しています。ちなみにレザーは、3〜4週間濾過してレザーインフュージョンしたものを使用しています。
エレナがかつてエルメスで創造したレザーの香り「キュイール ダンジュ」と「ケリー カレーシュ」と全く被ることなく、〝エルメスのレザー製品が生み出すエレガンス〟を体現している香りです。
〝日常の中のレザーとローズのエレガンスを…〟
そう、私はものの状態を〝転換〟させることが好きなのです。木を扱うときは水のように、花を扱うときは花の強さをとらえるというように…
クリスティーヌ・ナジェル
私は自由なクリエイションが出来る状況を思う存分楽しむために、最高の原料を選び出しました。この香りは、今まで私が作った他のどの香水とも違います。
私はこの香りを誰かが着ていると、〝あ!ギャロップを着てるんだね〟と言ってもらえるような、忘れがたいもの、一度嗅ぐと、この特徴を完璧に記憶する香りを生み出したかったのです。
クリスティーヌ・ナジェル
この香りが、何よりも野心的なのは、女性用フレグランスに〝レザー〟の香りを選んだところにあります。洗練された深いトルコ産ローズにマルメロが絡み合い、優雅なレザーと、官能的なアニマル・ノートが三位一体になり〝女性の健康的な躍動する美〟を称えているのです。
それはまるで、薔薇で出来たサドル(鞍)、もしくはレザーの花びらの薔薇の香りのようです。
そんな〝レザーサドルの上に乗ったダマスクローズ〟の香りは、甘酸っぱくてジューシーなマルメロの香りが、明るい太陽の煌きと共にあなたのもとに従者つきの馬車でお迎えするようにしてはじまります。洋ナシとアップルとメロンにローズウォーターが降り注ぐような繊細なマルメロがそこにあります。
すぐにスパイシーなサフランの風に乗って、レザーとローズが鐙(あぶみ)がカチカチなるように、元気いっぱいにやって来るのです。さあ、乗馬をはじめましょう!
スモーキーなサフランレザーと緑豊かなマルメロローズのコントラストが一体感を生み出してゆきます。そして、だんだんと明るい太陽の下から、鐙を踏みしめ、サフランとホワイトムスクの砂塵の中を突き進んでゆき、胸いっぱいの優雅さに満たされてゆくのです。
レザーとローズのバランスは肌の上で常に変化してゆきます。どちらの香りも他を圧倒することはありません。それぞれが交互に現れ、その動きはまるで岸辺の波のようです。レザーとローズのどちらかがリードするわけでもないワルツのようです。一般的に香水は、ノートが順番に現れる直線的なものなので、技術的には非常に珍しいことなのです。
クリスティーヌ・ナジェル
やがて、オスマンサスの柔らかさによって、ソフトにクリーミーにレザーとフルーティローズがたゆたうように肌の上にエレガントに舞い落ちるのです。〝日常の中のレザーとローズのエレガンス〟を見事に肌の上に到来させる〝抑制された官能とエレガンス〟の香りです。
ちなみにこの香りを男性が身に纏うと、とても洗練された色気のあるレザーとシガーの香りに包まれていきます。でありながら、〝夜〟ではなく、〝太陽に愛される男性〟のイメージへと導いてくれます。
史上もっともエルメスらしいフレグランス
私はエルメスの〝女性らしさ〟に魅了されています。大胆で、エレガントで、感触の良さに基づいた、とても興味深いものです。エルメスのショップに行かないとわからないのですが、エルメスのアイテムを身につけると、ある種の〝魅力〟ある種の〝ルック〟が生まれます。
エルメスに愛される女性は、エレガントで華やかでありながら、心地よい質感と選び抜かれた素材によって、健康的な印象も与えます。ピエール=アレクシス・デュマは、「私たちは女性の日常生活をサポートしています」と語っています。
私たちはイブニングウェアではなく、日常的に着られる服を作っています。そして、これらはすべて、私が香水に込めようとしている価値観なのです。
クリスティーヌ・ナジェル
鐙(あぶみ)のフォルムに象られたボトルに、オレンジのレザーコードが結ばれたかなり洗練されたボトル・デザインは、1930年8月1日に全米初のエルメスブティックがニューヨークにオープンした記念に作られたフラコンをモチーフにしています。
それは200人のゲストにだけプレゼントされ、決して販売されることはありませんでした。ちなみにこのショップは、世界大恐慌により31年末に閉店しました。
キャンペーン・フィルムのコンテンポラリー・ダンスの振り付けは、アンジュラン・プレルジョカージュによるものです。モデルはオティリア・シモンです。
2019年には、ロサンゼルス出身のデザイナー、イニ・アーシボングにより、ウィメンズの時計の最新作として「ギャロップ ドゥ エルメス」が誕生しました。
香水データ
香水名:ギャロップ ドゥ エルメス
原名:Galop d`Hermes
種類:オード・パルファム
ブランド:エルメス
調香師:クリスティーヌ・ナジェル
発表年:2016年
対象性別:女性
価格:50ml/42,790円
公式ホームページ:エルメス
トップノート:サフラン、マルメロ
ミドルノート:オスマンサス(金木犀)、トルコ産ダマスクローズ
ラストノート:レザー、ホワイトムスク