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【カルティエ】ルール ペルデュ(マチルド・ローラン)

カルティエ
©Cartier
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ルール ペルデュ

原名:L’Heure Perdue XI
種類:オード・パルファム
ブランド:カルティエ
調香師:マチルド・ローラン
発表年:2015年
対象性別:女性
価格:日本未発売

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13まで数字が存在する〝香りの時計盤〟の『11』の香り

2009年のマチルド・ローラン様 ©Cartier

このコレクションをはじめた理由は、香水の偉大なテーマであるバニラに取り組むためでした。ほぼすべての人にとって、バニラは子供時代の思い出です。それは母親と結びついています。そして、ついにその時がやって来たのでした。

肉のような、肌のような、バニラのような、子供の頃のような、シルクのような、とても豊かで親密な香りのする香水を作りたいと思いました。天然香料に頼らない〝香りの芸術〟を生み出したかったのです。

バニリンが19世紀初頭に発見されて以来、一般的なバニラの香りづけに天然のバニラは使われておらず、幼少期のケーキなどのバニラの最初の思い出を結びつけるものが、バニリンであるということは意外に知られていません。

そして、素晴らしい香水は人の手によって作られたものであり、自然から生み出されたものではない。私は天然香料に関するマーケティング戦略にうんざりしています。バニラは100年前から合成だった、と言うのはとても勇気のいることです。しかし、はっきり言おう。誠実さと透明性こそが〝カルティエのブランド哲学〟なのです。

私たちは香水に何を入れたかをはっきりと言います。自然を素晴らしいものと考え、合成分子を危険なものと考えるのは愚かなことです。大切なのは、香りを嗅いだときに湧き起こる感情なのです。

マチルド・ローラン

アルデハイドがなければシャネルの「No.5」は誕生しませんでした。ヘディオンがなければディオールの「オー ソバージュ」、エチルバニリンがなければゲランの「シャリマー」もなかったのです。

ハイジュエリー・ブランド、カルティエが、2009年からスタートしたブランド初のラグジュアリー・コレクション「レ ズール ドゥ パルファン〝香水の時間〟」は、通常の12までではなく、13まで数字が存在する〝香りの時計盤〟です。

13の親密な香りを表現する13の時間。それはかつて経験したことがある感情への道しるべのように全感覚に広がる〝香りのアート〟のコレクションとして、2015年に11番目に発売されたのが「ルール ペルデュ」です。こちらの香りのみ日本未上陸です。

〝ルール ペルデュ=失われた時間〟は、数字の〝11〟が振り当てられている香りです。マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』のマーマレードが生み出す〝プルースト効果=失われていた記憶がある匂いによって突然呼び覚まされ、感情を揺り動かす現象〟をテーマにしたこの香りは、カルティエの専属調香師マチルド・ローランにより調香されました。

私が作りたかったのは、子供を持つ母親の肉体の感覚なのです。

マチルド・ローラン

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〝失われた帝国〟を見つけ出すための〝見えないタイムマシーン〟

©Cartier

まるでアルセーヌ・ルパンが最後の瞬間に愛する人を救うために秘密の通路から現れるように…

アラン・デュカスがすでに有名なシェフになっていた頃、アルザスの有名レストランでただの客として食事をしたときに、彼は「自分が何を食べているのか理解できなかった」ので、すぐにその料理が運ばれてきた厨房で見習いとして働き直すことにしたのだ。

「ルール ペルデュ」の香りを嗅いで、同じように感じる調香師もいるのではないだろうか。そう考えると、私に出来ることは、歴史的な名香を通じて、「ルール ペルデュ」の素晴らしさをお伝えすることだけだ。

トップノートは「ジッキー」の滑らかな静けさから、「アビルージュ」の咽喉越しの良さのヒントへとスライドしてゆく。フルーティ(グレープフルーツ)、アイリス、ハーバル(タラゴン、バジル)のノートが、名前を挙げるのもはばかられるほど速く通り過ぎていく。そして、ヘリオトロピンのパウダリーなノートが突然、控えめなトランペットを鳴らし、香りはおいしそうにオリエンタルなドライダウンへと落ち着く。ミモザの綿毛の上のジャンドゥーヤ。とにかくすごい香りだ!

ルカ・トゥリン ★★★★★

この香りには、ノートの記載がありません。歴史上初めて発表されたノートが存在しない香りなのです。

マチルド・ローランが、紅茶にマドレーヌを浸したようなミルキーな香りによって〝見えないタイムマシーン〟を生み出そうとした「ルール ペルデュ」は、「美は自然だけに存在するのではありません。合成香料がなければ、現代香水の偉大な芸術作品のどれもが存在しなかったでしょう。不当に評価を下されてきた合成香料に正当な評価をもたらす時がやってきたのです」という思いを反映した香りです。

そんな〝失われた時を求める〟この香りは、アーモンドのようなヘリオトロピンの立ち上るような優しい甘さからはじまります。さあ、天然香料神話を超える、人工香料伝説の幕が切って落とされるのです。

そして、すぐにグレープフルーツとアイリス、ハーブを泡立たせるアルデハイドがアーモンドの香ばしさに溶け込み、そこにミルキーなバニリンが注ぎ込まれてゆくのです。

はじまりから終わりまでシアーに、愛撫するように、ほとんど母性的な輝きを放つこの香りは、何も言われなかったら、100%合成香料で生み出された香りとは思わないはずです。まるで懐かしい空間に浸されていくような、手の届かないアーモンドチョコレートの余韻に満たされていくようです。

それは、どこか1967年に誕生したカルティエの伝説の時計「クラッシュ」の誕生と相通ずるものがあります。スウィンギング・ロンドンの風が吹き込むカルティエ・ロンドンに、顧客様が自動車事故で破壊されたベニュワールを持ち込んだことからインスピレーションを受けたという都市伝説と似た〝破壊(クラッシュ)されたバニラ〟の香りなのです。

伝説の時計クラッシュ ©Cartier

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香水データ

香水名:ルール ペルデュ
原名:L’Heure Perdue XI
種類:オード・パルファム
ブランド:カルティエ
調香師:マチルド・ローラン
発表年:2015年
対象性別:女性
価格:日本未発売


シングルノート:バニリン