世界はヘルムート・バーガーを中心に回っている!
この映画のシンデレラ・ボーイの名をヘルムート・バーガー(1944-)と呼ぶ。彼は当時ヴィスコンティの寵愛を一身に受けていました。
20代のうちにしか出来ないことその一。それは才能の豊かな中年男女に寵愛されることです。人生とは年長者から学ぶ数だけ、その成長の度合いは高まるのです。
もともとの二人の出会いは、大学在学中の1964年、クラウディア・カルディナーレ主演の『熊座の淡き星影』の撮影のために、トスカーナ地方のロケに来ていたヴィスコンティの撮影現場に居合わせたことからでした。
ヴィスコンティは見物客の中に一際目立つ美青年ヘルムートに目を留め、寒い時期だったので、助監督にマフラーを持っていかせ、翌日にはちゃっかりデートし、すぐに同棲することになりました。そして、1966年にはヴィスコンティ監督の『華やかな魔女たち』でデビューすることになりました。
ヴィスコンティにより、多くの文化的素養を仕込まれたのち、満を持して出演したのが、本作です。この作品におけるヘルムートの演技は何かにとりつかれているとしか言いようのない素晴らしいものでした。
そして、見事にスター俳優の座に駆け上り、ヴィスコンティ作品で順調にキャリアアップしていましたが、1976年ヴィスコンティの死去と共に、ヘルムートのキャリアは低迷します。自嘲気味に、「ヴィスコンティの未亡人」と自らを呼び、1977年3月に睡眠薬自殺を図ります。
「あれ程心から僕を愛してくれる人はもう二度と現れない」とヘルムートは語っていました。
1960年代後半から70年代半ばにかけて、世界の芸術はヘルムート・バーガーと共に回っていました。それは、彼が20代にして、素晴らしい中年男性のパートナーを見つけたからでした。
「才能豊かな中年男女に寵愛される」20代のススメ。さぁ、ヘルムート・バーガーの栄光をキミに!
マレーネ・ディートリッヒが賞賛した女装シーン
ルキノ・ヴィスコンティ。彼は苦もなく人を魅了し、啓発し、支配し、教えこみ、とりこにしてしまうのでした。
マレーネ・ディートリッヒ
「子供の頃より、女装を楽しんでいました」というヘルムート・バーガー。彼はアンドロギュヌス時代のパイオニアでした。ルキノ・ヴィスコンティは、ヘルムートに対して撮影時、執拗にNGを出したという。
特に女装シーンに対しては、マレーネ・ディートリッヒの『嘆きの天使』(1930年)の「ローラ」を唄い踊るシーンを、ドラッグクイーン・テイストで誇張して再現することを要求しました。例のごとく「キミの足にノーマルな男さえも見とれるほどの踊りを見せて欲しい」と要求しています。
苦労の末、この女装シーンは、歴史に残る名シーンとなりました。それはナチスの退廃的な美学を示すシーンであり、その空気を敏感に感じ取り、マレーネ自身が、ヘルムート・バーガーに賞賛の手紙を書き記したほどでした。
さらに『麗しのサブリナ』等で有名な巨匠ビリー・ワイルダーは「全世界の中でヘルムート・バーガー以外の女には興味がない」と評しました。
ヘルムート・バーガーは女装を愛していました。それが全てでした。彼は、マレーネの女装をごく自然体でやってのけたのでした。
ヘルムートが教える、男性が女性に変身するという意味。
深夜突然、生の暴力が、この一族をまるでヤクザ一家の悲劇のような、色も香もない、実も蓋もない、直接的暴力悲劇の結末へ一気に運んでしまうのである。ここがこの映画の最初の狙いであり、文化も教養も地位も、富ですら何の助けにもならず、生の、生粋の暴力の前に一瞬にして崩壊してしまうのだ。
かくてこの劇を推進させる本当の力がはじめて露呈される。それこそはナチスである。文化と文明の画布を、何のためらいもなく、一ト突きで破って突き出された「鉄拳」である。まるであるべきでないものがあり、起るべきでないことが起るという、この苛烈なコントラストに、ナチスの真の特徴があった。もし美しい座敷のまん中で糞をひることが公然と行なわれるにいたれば、全教養体系はあっけなく崩壊するのだ。
三島由紀夫
ひとつだけ言わせて頂くならば、元々女装とは、ムダ毛を処理しないことが大前提なのです。あくまでも男性が女性を超越する意味をこめての女装であり、胸毛も脛毛も腋毛も眉毛もそのまま男性の要素を残しつつ、女性のファッションに身を包み、男性の感性で生み出す背徳の世界観を示すのです。
それが今では、ムダ毛を剃り、豊胸し、整形を繰り返し、金玉を取り・・・どこまでも女性に近づこうとしています。やがて、女性にはなれないことを悟り、「私は所詮オカマよぉ」とダミ声を出してわめき散らかす訳なのです。
しかし、彼女たちは、昔の意味の女装者には敵いません。その答えが、このヘルムートのパフォーマンスの中にあるのです。クロス・ジェンダーとジェンダーを失ってしまったものの違いなのです。これからニューハーフと呼ばれる人々に、厳しい時代がやってこようとしています。
人々は、アンドロギュヌス覚醒を起こしつつあります。女装は進化しました。ムダ毛は処理しましょう。胸がないから美しい。股間の膨らみはさりげなく、エロスよりもアート思考でお願いしますといった具合です。どうやらニューハーフはアンドロギュヌスではありませんでした。
マルティン・スタイル1
マレーネ・ディートリッヒ=バーレスクスタイル
- シルバーのトップハット
- 黒手袋
- 白の羽毛ストール
- 黒のガーターストッキング
- 黒のミドルヒールパンプス
- スパンコールのバーレスク・コスチューム
作品データ
作品名:地獄に堕ちた勇者ども The Damned (1969)
監督:ルキノ・ヴィスコンティ
衣装:ピエロ・トージ
出演者:ダーク・ボガード/イングリッド・チューリン/ヘルムート・バーガー/シャーロット・ランプリング