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クリスチャン・ディオール

【ディオール】ディオラマ(エドモン・ルドニツカ)

クリスチャン・ディオール
©Christian Dior
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ディオラマ

原名:Diorama
種類:オード・パルファム
ブランド:クリスチャン・ディオール
調香師:エドモン・ルドニツカ
発表年:1949年
対象性別:女性
価格:不明

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ディオール生存中に生み出された〝2つ目の香り〟

ディオール1949年秋冬パリ・オートクチュールコレクション

「ディオラマ」は、クリスチャン・ディオールが生前、自分自身のファッションにおける様々なテーマを、全部香りに投影しようとした並外れた香りです。

おそらく不当に無視され、忘れ去られている香りなのですが、フローラルな香りが完璧に調和した他に類を見ない香りです。

フランソワ・ドゥマシー

ディオールの最初のフレグランスである「ミス ディオール」の2年後にあたる1949年に発売された第二のディオールの香りが「ディオラマ」でした。シプレ・フルーティな香りは、エドモン・ルドニツカにより調香されました。

生涯に約20の香水しか生み出さなかったエドモン・ルドニツカ(1905-1996)は、〝芸術的な香水だと自分自身が認めた香りだけが商品化されることを許した稀有な調香師〟でした。

1944年にロシャスの「ファム」(プラムを中心にしたシプレ・フルーティの名香)を生み出し、1946年に念願のプライベート・ラボ「アール・エ・パルファン」を創設したルドニツカは、「ミス ディオール」について

ファムより三年遅れて世に出、ファムの出来栄えに刺激された当時の調香師が戦前のランバンの「スキャンダル」(1931)と、アニマリックに主眼を置き、先人とは違ったものを創造しようとして生み出した見事な香りである。

と評していました。そんな彼が、最初にディオールのために生み出した香り「ディオラマ」とは、フランス語の発音であり、日本ではジオラマと発音している立体的に展示物を展示する方法のひとつです。そして、この香りのコンセプトは、ディオールの世界観を〝香りのジオラマ〟として展示するというものでした。

一般的にこの香りは「ファム」と同じくプラム(ウルソール酸)を使用しながらも、そこに大量のピーチ・アルデヒド(γ-ウンデカノラクトン)を使用していることにより、ゲランの歴史的名香「ミツコ」とも比較される香りです。

ざっくりと言えば、ロシャス「ファム」とゲラン「ミツコ」、そして、ディオールの「ミス ディオール」と「ディオレラ」が、肌の上でゆっくりとそれぞれの魅力的な側面を示してくれるような香りです。

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ルドニツカ様がディオールに初降臨した香り

©DIORBEAUTY

©DIORBEAUTY

私は、ディオラマ以上に、官能性と肉感的な側面を持ちながらも、エレガンスを失っていない女性そのものの香りを知りません。そして、この香りほど、複雑なフォーミュラを持つフレグランスは他にない。それはスパイス・ノート(ペッパー、クローブ、シナモン、ナツメグ、クミン)とアニマリック・ノートが上手く調和しています。そして、更には、ウッド、ヴァイオレット、プラム、ピーチとの奇跡的な組み合わせにより、最初は、人々に混乱を呼び覚まし、やがては虜になってしまうという不思議な効果を生み出すに至るのです。

ジャン=クロード・エレナ

ベルガモットの輝きにより、ディオールの2つ目の香りの到来が知らされます。すぐにプラムとメロンがピーチ・アルデヒドの鍋の中で、甘く腐敗する一歩手前のような芳香を放ちながら掻き混ぜられてゆきます。

そこに、加えられてゆくナツメグ、シナモン、カルダモン、キャラウェイといったスパイス類が、果肉のフレッシュな高揚感と芳醇なジューシーさに、ドライ感を加えてゆきます。

滑らかなフルーツは、アルデハイドの泡の中、インドールのたっぷり効いたジャスミンとガーデニア、スズラン、チューベローズ、ローズ、ヴァイオレットの贅沢なフローラルブーケに包まれていく中、カストリウムとシベット、ムスクといったアニマリックな香りが、この香りの中に潜む情欲の導火線に火をつけてゆきます。

特にカストリウムとベチバー、オークモス、シダーが官能的かつアーシィーなレザーの香りで、肌の上を均しながら、その上にフルーツとフローラルがバターのような滑らかさで溶け込み、全身はうっとりするようなシプレに支配されてゆくのです。

鮮やかで豪奢なファッションと、完璧にセットされたヘアスタイル、一分の隙もないメイクアップを施された貴婦人から漂う〝不機嫌な美女が発する危険信号のような甘い花蜜〟の香りです。

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女性のためではなく、女神に捧げられた香り

©DIORBEAUTY

オベリスクボトルとラグジュアリーなミラーケース ©DIORBEAUTY

彼らの最高傑作は、チェスボードのクイーンを飾るようにデザインされており、四方八方にダッシュしてポーン(歩兵)を噛み砕き、息を切らして一歩ずつ進むキングに追われています。

ベルナール・シャンの「カボシャール」(1959)、ギー・ロベールの「ディオレッセンス」(1969)、ルドニツカの「ディオラマ」は、女神への捧げ物であり、女性へのプレゼントではなかった。

ルカ・トゥリン

ボトル・デザインは、「ミス・ディオール」のボトル・デザインも担当したGuerry Colas(ゲリー・コラス)によるものです。

1986年に一度廃盤になり、2010年に〝クリエイション ドゥ ムッシュ ディオ―ル〟の一つとして「ディオラマ」は、フランソワ・ドゥマシーが再調香されました。

この現行ヴァージョンは、イランイランとベルガモットの香りからはじまり、ジャスミンとローズを中心に、クミンとキャラウェイが溶け込んでゆきます。そして、ピーチとプラムもしっかりと香るのですがシプレの要素はかなり曖昧になっており、オリジナルとは全く違うパウダリーフローラルな香り立ちになっています。

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「現在のディオラマは、すばらしい1949年のオリジナルとはまったく共通点がない(ルカはかつてオリジナルを捜し求め、100ドルで30mlのテスターを手に入れたことがあった)。「ミツコ」の明るいオレンジピール版で、オリジナルではなく「ディオレラ」や「ル パルファム ドゥ テレーズ」のほうに似ているが、それらより劣る。」と2つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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香水データ

香水名:ディオラマ
原名:Diorama
種類:オード・パルファム
ブランド:クリスチャン・ディオール
調香師:エドモン・ルドニツカ
発表年:1949年
対象性別:女性
価格:不明


トップノート:ベルガモット、ピーチ、メロン、プラム
ミドルノート:ジャスミン、ガーデニア、チューベローズ、ナツメグ、クローブ、シナモン、ターキッシュ・ローズ、スズラン、ヴァイオレット、キャラウェイ、ペッパー
ラストノート:ベチバー、ムスク、サンダルウッド、オークモス、ヴァージニアシダー、カストリウム、シベット、レザー