ギークシックの教祖、クラレンス・ウォリー
これは私が初めて書いた脚本です。この脚本の前にもいくつか脚本を書いたが、どれも30ページを超えることはなく、完成しなかった。そんな私が、自分のストーリーとキャラクターに完全に夢中になった初めての脚本だった。
クエンティン・タランティーノ
90年代に、50年代のロカビリー・ファッションに身を包むイケてない主人公クラレンス。クリスチャン・スレーター(1969-)の持ち味を最高に生かした傑作『ジミー・ハリウッド』(1994)をご覧いただければよく分かるように、彼の持ち味は、飄々とした、気のいいヤツなんです。
そんなモテるという言葉とは縁のない青年が、かわいい女の子に惚れられ、カラテ映画を一緒に見たその後に、アチョーと蹴りを入れられた瞬間、<オレはこの瞬間のために生きてたんだ!>と覚醒してしまうのです。
25歳まで童貞だったオタク青年が、暴走するその姿は、もしかしたらソニー千葉の三本立ての映画の合間に眠りこけたクラレンスの夢なのかも知れません。しかし、たとえそうであっても、21世紀のファッションシーンは、オタクの思い込みと勘違いパワーで生み出されるという預言者の役割をクラレンスは果たしたのでした。
そうなのです。90年代に、ファッションは、DVDやインターネット、携帯電話の発展により、オタクにとって最も有利な分野へと変貌を遂げていったのでした。そんなオタクの時代遅れな拘りが、21世紀にモードとして化ける流れを示して見せたのが、この作品のクラレンス・ウォリーだったのでした。

二人のファッションの方向性を象徴する一枚の写真。

左端は、スターになる寸前のブラッド・ピット。

エルヴィス・プレスリーを愛する男たちの必需品=アロハシャツを着るクラレンス。

デニス・ホッパー、カッコ良し!
クラレンス・ウォリーのファッション6
アロハ・ルック
- レッドオレンジ色のキャンプカラーのアフロシャツ、半袖にスリット、パームツリーと岩に打ち寄せる波と帆船が描かれている
- 白のカットソー、半袖、クルーネック、左胸にパッチポケット
- リーバイス501 オリジナルフィット
- ホワイトバックス
- 黒の細ベルト
- シルバーのエルヴィス・サングラス、プラスチック製にメタリック塗装
雪の降る街デトロイトから雪の降らない街ハリウッドにやって来たクラレンスとアラバマ。エルヴィス・プレスリーを愛するカラレンスは、デトロイトでは着ることが出来なかったエルヴィスを象徴するファッション、アロハシャツに袖を通すのでした。
さらに、サングラスが必需品となるかの地において、1970年代にエルヴィスが愛用するようになっていたドイツのアイウェアメーカ、NEOSTYLE(ネオスタイル)のゴールドの「Nautic 2」パイロット・サングラスのレプリカ・サングラスをつけるようになりました。

エルヴィス・サングラスとバービー・サングラス

他人の読んでいた雑誌のエルヴィス特集について語り始め、その他人を夢中にさせるクラレンス。

エルヴィス談義に夢中になっている間に、アラバマは地獄を味わっていた。

ブロンソン・ピンチョットのプロデューサー巻き。

映画の中ではジーンズをロールアップしていない。

タランティーノは、脚本には、赤いマスタングに乗ると書いていた。

『ブルー・ハワイ』(1961)のエルヴィス・プレスリー。
クラレンス・ウォリーのファッション7
ロカビリー・ジャケット
- 50年代風ロカビリー・ウインドブレーカー、ネイビーブルーのストライプ
- レッドオレンジ色のキャンプカラーのアフロシャツ、半袖にスリット、パームツリーと岩に打ち寄せる波と帆船が描かれている
- 白のカットソー、半袖、クルーネック、左胸にパッチポケット
- リーバイス501 オリジナルフィット
- ホワイトバックス
- 黒の細ベルト
- シルバーのエルヴィス・サングラス、プラスチック製にメタリック塗装

柔らかい素材のジャケットを、アロハシャツの上に着る。・

いよいよ、物語はメキシカン・スタンドオフに向けて疾走していきます。

ちなみに結婚指輪は、エルヴィス・プレスリーが着用していたことで有名な金の馬蹄形をイメージした指輪です。

生き残った2人は、死体の山を越えてメキシコへと去っていくのでした。
タランティーノ、25歳、童貞青年の夢。

最後にメキシコで見せるマルチプリントのビーチウェアと眼帯。
最近改めて観て、オレはすっかり感動してしまったんだ。これは25歳当時(1988年)の、まるで芽が出なかったオレ自身を描いた作品なんだ。もちろん実際には、クールな売春婦に会ったことなんてないんだけどね。そもそも、まったく女っ気がなかったんだ。でも、自分を理解してくれる彼女がいるっていうのは、当時のオレにとってはいちばんの夢だったんだよ。
クエンティン・タランティーノ
この作品の脚本は、無名時代のクエンティン・タランティーノが交通違反切符の罰金を支払えず、刑務所に3日間滞在した1988年のどん底の環境の中で書かれました。
映画公開寸前になって、本作の題名は『True Romance』から『Reckless Hearts(無鉄砲な心たち)』に変えられようとしたので、タランティーノは大反発しました。
ちなみにタランティーノは、迷惑になると考え、撮影現場には一度も足を運びませんでした。
作品データ
作品名:トゥルーロマンス True Romance(1993)
監督:トニー・スコット
衣装:スーザン・ベッカー
出演者:クリスチャン・スレーター/パトリシア・アークエット/ブラッド・ピット/ゲイリー・オールドマン/デニス・ホッパー/クリストファー・ウォーケン/マイケル・ラパポート
- 【トゥルー・ロマンス】獰猛なファッションだけが生き残る
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.1|スーパーヘビー級マフィアと戦うパトリシア・アークエット
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.2|パトリシア・アークエットの元祖コギャル・ファッション
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.3|ナイスボディじゃない女性の守護神 アラバマ・ウィットマン
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.4|クリスチャン・スレーターとエルヴィス・プレスリー
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.5|クリスチャン・スレーターとM65フィールドジャケット
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.6|クラレンス・ウォリーのアロハシャツ
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.7|ブラッド・ピット=なんの役にも立たない男
- 『トゥルー・ロマンス』Vol.8|ゲイリー・オールドマンの狂気