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【シャネル】ベージュ(ジャック・ポルジュ)

シャネル
©CHANEL
シャネル
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ベージュ

原名:Beige
種類:オード・パルファム
ブランド:シャネル
調香師:ジャック・ポルジュ
発表年:2016年
対象性別:女性
価格:75ml/33,000円、200ml/57,200円
公式ホームページ:シャネル

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ベージュ・カラーの持つ魔性

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私はベージュに安心感を感じます。なぜなら、それは永遠の優雅さの象徴でありながら、最もナチュラルな色だからです。それは決して時代遅れにならない色なのです。

ココ・シャネル

2007年にシャネルのプレステージ・コレクションとして「レ ゼクスクルジフ ドゥ シャネル」がスタートしました。そして、2008年9月に「ベージュ」(オード・トワレ)が、シャネルの3代目専属調香師ジャック・ポルジュの調香により発売されました。

「ベージュ」は、ココ・シャネルが最も愛したカラーです。それは人間の肌のカラーであり、パンプスや口紅においても、清楚さから妖艶さまでののふり幅を持つ、魔性の力を発揮するカラーです。

さらにファッションのスタイリングにおいて、ベージュはかなり手強いカラーです。それはまさにファスト・ファッションにおける天敵とも言えるカラーであり、ラグジュアリー・ブランドにとっては踏み絵とも言えるカラーです。

つまりは無限のバリエーションを持つからこそ、無限の凡庸性と可能性を持つカラーなのです。

そして、もしある女性がこのカラーの力を手にしたならば、それは万人に愛される存在になったも同然と言えます。要するに、自分の奥様には、あまり上手にベージュを手なずけてはほしくないほどに、人類史上最強にモテてしまうカラー、それがベージュなのです。

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1931年に生み出された幻の香り

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この香りのオリジナルは、エルネスト・ボーにより調香され1931年に発売されました。1940年に通称「トリコロール・コレクション」のうちのひとつとしても発売されました。オリジナルの香りは、アンバーグリスとオークモスをベースに、トップノートにアイリスとヴァイオレット、ミドルにジャスミンとローズを配したフローラルの香りでした。

2008年に生み出された「ベージュ」のどの部分に、このオリジナルの要素が色濃いのかは、言及されていないので分かりません。

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すなおで自然な感じの女性の、きめの細かい素肌を誕生させる香り

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花蜜がふんわり甘く苦いサイヨウサンザシと爽やかにグリーンなフリージア、南国の温かさを呼び覚ますココナッツのようなプルメリアのフルーティフローラルブーケに、ふんわりと甘い花蜜のようなハニー(蜂蜜)を添えた〝白い花束とイエローゴールドの輝きが混ざり合い〟、ベージュの煌めきを解き放つようにして「ベージュ」ははじまります。

ちなみにサンザシとフリージアからは精油が抽出できません。どうやらこのフローラルブーケの中には、ジャスミンや百合、イランイランの花も混じり合っているようです。

一方で、アルデハイドとアニスにより甘すぎない絶妙な調整が施されています。その甘すぎないシルキーなベージュの表現が、クールビューティーのためのベージュという、シャネルのファッションが見せてくれる本来の姿を伝えてくれています。それでいて、時折みせる表情が、実に優しいのです(ここがこの香りのキラー・ポイント!)。

このハニーには、明らかに女性がもっとも心安らぐ香りであるフェイスパウダー(ヘリオトロープ)を思わせるパウダリーさがあります。その花粉のようなパウダリーさの中に、太陽の光のような花蜜のクリーミーな甘さが、溶け合い、円やかに、伸びて、やがて輝きとなってきらめくオーラがほとばしるのです。

女性が本質的に花の香りに強く惹きつけられるのには単純な理由があるらしいです。それは花のつぼみには人体と同じ匂いがするからです。この香りこそが、それであり、肌に馴染むというような生易しいものではなく、蜜蜂が花の蜜に集まるように、人を集める蜜肌を生み出していく、すなおで自然な感じの柔らかい女性のきめの細かい素肌の香りです。つまり、香る肌ではなく、控えめなエレガンスで静かにまわりを魅了する、自然に引き寄せられる肌の匂いを生み出す香りです。

「ベージュ」の素晴らしさは、身に纏うものの心持ち一つで、カメレオンのように香りの伝わり方が変わるところにあります。例えば、秋から冬にかけて身に纏うと、高嶺の花のような、クール・ビューティの近づきがたい美しさを演出することが出来ます。でありながら、一旦、至近距離にターゲットが入ると、逃れようのない、磨き上げられた成熟した知的な女の色香を感じてしまうのです。

ガーデニア」が、あなたがもっともっと美しくなる「シャネルの白」で包み込む、やさしさの甘いオーラの香りなら、「ベージュ」は、まわりに崇拝者を生み出してゆく、落ち着いた「シャネルのベージュ」で包み込む、忍び寄るように魅了させる香りと言えるでしょう。

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〝心臓を守るハーブ〟サイヨウサンザシ(ホーソン)

西洋サンザシ(ホーソン)の木

西洋サンザシは、5月に白い花を咲かせます。

秋には赤い球形の 偽果をつけます。

「ベージュ」の特長は、香水史において滅多に主役をつとめることのなかった、〝心臓を守るハーブ〟セイヨウサンザシのまろやかに甘い香りに、蜂蜜をたっぷりと振りかけているところにあります。

ユンケルにも生薬(花、葉、果実を乾燥させたもの)として配合されているセイヨウサンザシは、バラ科の高さ4〜9mの落葉低木でとげが多く存在します。秋には10〜12mmほどの赤い実をつけます。サクランボより少し大きな実はお菓子に、お酒に、生薬に使われています。

キリストが処刑された時のイバラの冠は、セイヨウサンザシであったと言われています。そのためキリストの血によって清められたとされ、中世ヨーロッパでは厄除けの木といわれるようになりました。

セイヨウサンザシの花言葉は「希望」「ただ一つの恋」です。イギリスではメイフラワーとも呼ばれ、1620年にジェームズ1世による弾圧を恐れてアメリカに渡ったピューリタン(清教徒)たちが乗った船の名が、メイフラワー号と名付けられたのも、この花言葉が由来でした。

L・M・モンゴメリの『赤毛のアン』の中にも、セイヨウサンザシを愛するアンの描写があります。1979年に高畑勲が監督した伝説のアニメ『赤毛のアン』においても〝しろいはなのみち〟と歌われている情景は、セイヨウサンザシを指していると言われています。

ちなみにジャック・ポルジュはこう発言しています。「サンザシは、過去を蘇らせる花である」と。それはマルセル・プルーストを引き合いに出しているのです。

私の記憶では、サンザシが好きになりはじめたのはこのマリアの月(5月)でだった。教会の祭壇に飾られている白いサンザシをみて、その枝は葉の縁飾りで一段と美しくなり、その葉の上には、ちょうど新婦のウェディングドレスのすそのように、まぶしいくらいの純白の蕾が小さな花束になって、ふんだんにばらまかれている。

「失われた時を求めて」マルセル・プルースト

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シャネルが生み出したツートン・スリングバックシューズ

2.55バッグとツイードスーツとシューズ、1960年。©CHANEL

ジーナ・ロロブリジーダとシャネル・モデルたち、1964年。©CHANEL

シャネルシューズ、デザイナーはレネ・マンシーニ、1963年。©CHANEL

このシューズは、1957年にココ・シャネルによってデザインされ、シューズ・メーカー、レイモンド・マッサーロにより生み出されました。当時としては画期的なツートンカラー(バイカラー)のスリングバックシューズです。

ベージュとブラックという配色の妙が、朝から夜まで使える20世紀の〝シンデレラ・シューズ〟として、一瞬にして、世界中の女性の心を捉えました。そして、シューズ市場に何百万ものコピーシューズを溢れさせることにもなりました。

ココ・シャネルらしいのは、この一足のシューズで、ファッションのカラーコードの常識さえも変えてしまったところにあります。「ベージュとブラックが入った服を選ぶのがこれからの流行です」と言い放ち、ベージュを一瞬にしてモード・カラーの位置に引き上げたのでした。

シャネルとベージュの歴史において、あまり語られることのない偉業のひとつです。

この「ベージュ」は、2016年9月に、オード・パルファム・ヴァージョンが発売され、これが現行品となっています。

この香りを見事なベージュ・ファッションのアンサンブルに合わせると、主張の強いファッションに対して、控えめなエレガンスの結界を張り巡らしてくれます。100人中99人(ルカ・トゥリンは100人中1人に入る)に好印象を与える香りです。

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「なつかしのフランス」と宣言し、「ベージュが売り出されると聞いたとき、どうしてシャネルはそんな冴えない名前を選んだのかとふしぎに思った。」「そして結局は、ベージュという名には不釣り合いな、おもわず笑ってしまう香水が発表されるに違いないと思っていた。しかし違った。ベージュはまさに、廃棄されリサイクル集積所に積まれたコンピューターのモニターの色。」

「時代遅れで陰鬱な「マ・グリフ」「レールデュタン」「クリマ」などを足して平均値をとった香りだ。しかも、凡庸さを補う高級な原材料も使われていない。素材の高級感こそシャネルの命なのに。まったくの駄作だ。」と2つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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2014年に誕生した、色彩豊かな「ベージュ パルファム」

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2014年にジャック・ポルジュにより調香された「ベージュ パルファム」が、現在も15ml/40,700円で発売されています。まるでプルメリアとセイヨウサンザシとフリージアの花蜜と蜂蜜とスパイシーなバニラで満たされた、極上のバスオイルに全身が包み込まれていくようです。

それは、明らかにEDPより艶やかに、ローズやジャスミン、イランイラン、ミモザの存在を感じさせる色彩豊かなフローラルブーケが、肌で瞬時に花開くように、天国にいちばん近い蜂蜜に溺れる花々を素肌に広がらせてくれます。

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香水データ

香水名:ベージュ
原名:Beige
種類:オード・パルファム
ブランド:シャネル
調香師:ジャック・ポルジュ
発表年:2016年
対象性別:女性
価格:75ml/33,000円、200ml/57,200円
公式ホームページ:シャネル


シングルノート:セイヨウサンザシ、フリージア、プルメリア、蜂蜜