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【シャネル】シコモア(ジャック・ポルジュ/クリストファー・シェルドレイク)

シャネル
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シコモア

原名:Sycomore
種類:オード・パルファム
ブランド:シャネル
調香師:ジャック・ポルジュクリストファー・シェルドレイク
発表年:1930年、2008年、2016年
対象性別:ユニセックス
価格:75ml/33,000円、200ml/57,200円
公式ホームページ:シャネル

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11番目の「レ ゼクスクルジフ ドゥ シャネル」

©CHANEL


2007年にシャネルのプレステージ・コレクションとして「レ ゼクスクルジフ ドゥ シャネル」がスタートしました。そして、その11番目の香りとして、2008年にシャネルの3代目専属調香師ジャック・ポルジュクリストファー・シェルドレイクにより調香されたのが「シコモア」(オード・トワレ)でした。

ココ・シャネルの「N°5」からはじまる香水との深い結びつきだけでなく、彼女の人生のさまざまなエピソードを香りで表現していくこのコレクションは、一般的に愛される香りの創造ではなく、ココが21世紀に生きていたら「こんな香りを創造したかったのでは」という高貴なる推測の下で生み出された香水芸術の極みです。

「シコモア」は、最初の10作品と一緒にすでに完成していた作品でした。

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シコモア=エジプトイチジクは、不滅の魂を納める〝生命の樹〟

エジプトイチジクの樹と一体化している冥界での死者の守り神ムトから、食物を与えられるセンネジェム夫妻。エジプト・ルクソールのディル・アル・メディーナのセンネジェムの墓。

私はオーヴェルニュ地方で唯一の活火山の噴火口なの。

ココ・シャネル

「シコモア」とは、エジプトイチジクという古代から栽培されているイチジク属の常緑樹であり、ハート型の葉が特徴的です。

古代エジプトでは、生命の樹として崇拝され、古代エジプト王朝のミイラの棺はこの木からできています。ちなみに旧約聖書で7回、新約聖書で1回登場しています。

古代より神聖なる樹として、無限のパワーを解き放ちながら古代のエジプト人、ギリシャ人、ローマ人の栄枯盛衰を静かに見守ってきました。そして、1883年8月19日、獅子座の星のもとオーヴェルニュの救済院で生まれたココ・シャネルが幼少期をこの過ごしたこの火山の街にも沢山のシコモアの木立がありました。

シコモアとは、ココの無限のパワーと、死してもなお時代に影響を及ぼす、不滅の魂を納める棺のような存在なのです。

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シャネルの幻のウッディ・フレグランス

1930年の幻の「シコモア」 ©CHANEL

木を使った外箱のアイデアは、時を経ても素晴らしいと思います。

クリストファー・シェルドレイク

1926年に、史上初めての女性のためのウッディ・フレグランスである「ボワ デ ジル」を誕生させたココ・シャネル(1883-1971)は、ウッディ・フレグランスの集大成を作りたいという宿願を果たすべく、シャネルの初代専属調香師エルネスト・ボーの協力の下、1930年に「シコモア」を発表しました。

ヴァイオレットとタバコを主役に据えたバルサミック・ノートが特徴的な「シコモア」は、全く評価されず、すぐに市場から消えてしまいました。

2008年に復活した「シコモア」は、オリジナル版のフォーミュラを再現したものではなく、香りもまったく違う、いわばオリジナル版をオマージュした香りです。森林の香りの集大成を生み出すべく、上質なスモーキーさで知られるハイチ産のベチバーを使用しています。

ちなみにジャック・ポルジュが1984年に創造した「ココ」もまた、オリジナルの「シコモア」にインスパイアされ生み出された香りです。そういう意味において「ココ」は、この香りの母とも言えます。

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1930年のオリジナル版に最も近い「シコモア」

©CHANEL

©CHANEL

©CHANEL

1930年にエルメスト・ボーが生み出した「シコモア」に最も近い現在発売されている香りが「シコモア パルファム」です。2022年に四代目調香師オリヴィエ・ポルジュにより蘇り、現在15ml/40,700円で発売されています。

EDP版よりも、スモーキーさは控え目な、ベチバーとシダーのハーモニーに、レザー風味のバニラとアイリスが加わり、生き生きとした、より豊かで円やかな、素肌の上でうっとりと引き伸ばされていくようなベチバーの香りです。

50mlのバカラ クリスタル ボトルに詰められた20個限定コフレ(€10,000)も発売されました。

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『影の男』シェルドレイクの真骨頂

クリストファー・シェルドレイク

この香りは、ヨーロッパの人間にはどこか懐かしい匂いでもあるんです。非常に心地よくて、落ち着く感じ、成分としてベチバーの作用なんですけどね。

ハイチ産の最高級のベチバーを蒸留し、根の青臭さ、土臭さは捨てて、キャラメルとチョコレートに似た香りを残しておく。そのベチバーに、サンダルウッドとピンクペッパーを加え、さらにトップノートに一瞬だけグレープフルーツが香るようにしてあります。

さらにムスクをほんの少し。結果、とても豊かで丸みのある香りになりました。

クリストファー・シェルドレイク

この香りを創造するにあたり、ジャック・ポルジュは、セルジュ・ルタンスの数々の香りを調香し、ベチバーを魔法のように使いこなせるクリストファー・シェルドレイクに大きな役割を与えました。

かくしてシャネルの創るベチバーとして、他に類を見ない「ラグジュアリー・ベチバー」の香りを創造することに成功したのでした。

それは大地を連想させる天然香料の良さを突出させることではなく、3種類のベチバーを駆使し、そのスモーキーな糸によって、〝見えないシャネルのツイードスーツ〟を創るという大それた試みでした。つまりエレガントな女性のための色鮮やかなベチバーを生み出したのでした。そのために、ジュニパーとサンダルウッドが実に効果的な役割を果たしています。

ちなみにベチバー精油は、その根茎から採取された後、熟成されればされるほど香りの質は増します。この香りのベチバーは18ヶ月から24ヶ月熟成された最高級のものです。

そして、3種類のベチバー精油とは、軽やかで癖のない精油が抽出される水蒸気蒸留法と、(チョコレートのような)パチョリに似たアーシィな精油が抽出される溶剤抽出法と、グレープフルーツのようなフレッシュな精油が抽出される二酸化炭素抽出法によって抽出されたものです。

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いつもあたらしい喜びに包まれる〝ドレスアップしたベチバー〟

今回ジャックが一番に考えたのは「女性に好かれるウッディノート」であること。「レ ゼクスクルジフ」は基本、使い手の男女を問わないのですが、今回に関しては、男性は二の次です。

クリストファー・シェルドレイク

森の奥深くに存在する数々の樹と葉と土が未練がましく 秘密のような香りを 底知れぬ孤独のうちに放っている。そんな孤独の森の美しい香りを人々に届けようという気持ちでジャック・ポルジュとクリストファー・シェルドレイクが調香に挑んだこの香りは、〝森とシャネル〟という最もかけ離れた世界観をひとつのボトルに濃縮させた怖ろしい作品とも言えます。

そんな孤独の森の美しい香りは、泡立つアルデハイドと甘く震えるピンクペッパーに背中を押されるように弾き出された3種類のベチバーがクリーミーなサンダルウッドになだめ透かされるようにして、(ほのかにスパイシーなダークチョコの香ばしさを伴わせた)森に差し込む光の輝きのようにきらめきながらはじまります。

はじまりから、木の力強さ、樹皮のざらざらした質感、枝のパチパチという音が感じられます。そんな澄みきった空気のようなフレッシュなベチバーは最初から最後までこの香りの世界の中心に立っています。

やがて針葉樹の清々しい香りが、タバコとヴァイオレット、ヘーゼルナッツの香りと共にやって来ます。さらに雨上がりのアーシィーな土の香りも漂います。

それはまさに木と葉と土と水のハーモニーに満たされていくようです。そして、最後に、インセンスが森全体を包み込むことにより、「シコモア」はただの森の香りの再現ではなく、透明なスモーキーブーケとでも呼びたい孤独の中で不滅の美しさを放つ、孤高の森の精神性を体現することに成功するのです。

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「これをつけて喜びに身もだえしないようなら、医者に診てもらったほうがいい」ルカ・トゥリン

©CHANEL

まさに〝森とシャネル〟という対極の世界を、野生から貴族主義へ、ピュアから雄大さへという、ココ・シャネルの一生(孤児からファッション界の貴族へ)に投影したベチバー・フレグランスの最高峰です。それでいてフェミニンなところもなお素晴らしいです。

苦みとスモーキーさに包まれた大自然のベチバーではなく、とても洗練されたラグジュアリー・ホテルの一角に作られた森のような庭園のとても明るくて心地よい香り。大都会を見下ろすことが出来る空中にある森林公園の香りとも言えます。

2016年9月には、オード・パルファム・ヴァージョンが発売され、これが現行品となっています。

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「シコモアも、ベルトラン・デュショフールの「タンブクトゥ」に権威という名の光沢を加えたものだ。それはミンティ・リコリスにパチパチと燃える焚き火から放散される香りを組み合わせたものだ。」

「シャネルの調香師ジャック・ポルジュとクリストファー・シェルドレイクは、このアコードならベチバーの抱える大きな問題(少量では構成があやしくなり、過剰では差別ができない)を解決できると考えた。」

「ベチバーはアニシックとスモーキーという2つの香調をもつ。だがタンブクトゥの2つの香りでうまくわきを固めてやり、サンダルウッドをたっぷり加えると、ベチバーもやっと然るべきところに落ち着く。すべて合わすと、変わっているがとてもナチュラルなアコードとなり、匂いを嗅ぐたびに段々と深みのあるオリーブになっていく。」

「タンブクトゥには緊張感や謎めいたところがあるが、シコモアはあえてそこを敬して遠ざけた。ひたすらフレッシュで最高に健康的で、申し分ないほどの豊かな力強さがずっと続く。これをつけて喜びに身もだえしないようなら、医者に診てもらったほうがいい。」と5つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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香水データ

香水名:シコモア
原名:Sycomore
種類:オード・パルファム
ブランド:シャネル
調香師:ジャック・ポルジュ、クリストファー・シェルドレイク
発表年:1930年、2008年、2016年
対象性別:ユニセックス
価格:75ml/33,000円、200ml/57,200円
公式ホームページ:シャネル


トップノート:アルデハイド、ピンクペッパー、ベチバー
ミドルノート:タバコ、ヴァイオレット、ジュニパー
ラストノート:サイプレス、サンダルウッド