バンブー ハーモニー
原名:Bamboo Harmony
種類:オード・パルファム
ブランド:キリアン
調香師:カリス・ベッカー
発表年:2012年
対象性別:ユニセックス
価格:50ml/36,850円
販売代理店ホームページ:ラトリエ デ パルファム
平安時代の貴族文化を感じさせる香り
私はバンブー(竹)、ホワイトティー、わずかなフィグ(イチジク)の香りを持つ「バンブー ハーモニー」が大好きです。それは竹の生えている庭でホワイトティーを飲んでいるような心が安らぐ感情にしてくれます。
ドライダウンのオークモスは、香りをロングラスティングにします。ジーンズとTシャツといったリラックスした週末によく「バンブー ハーモニー」を纏っています。
キリアン・ヘネシー
平安時代の初期に誕生したであろうということ以外は、作者も謎である日本最古の物語『竹取物語』のかぐや姫をイメージして作り上げられた「バンブー ハーモニー」は、「アジアン テイルズ —瞑想のような、東洋へのボヤージュ—」コレクションの一つとして2012年に発売されました。
古来から東洋において、竹は人間の完全性の象徴だと考えられてきました。特に竹は中国文化において、書道の筆の主な材料であるため、「芸術」「美の極致」さらに「教養人」を象徴したモノであると考えられてきました。
わずか三ヶ月で〝究極の美少女〟に成長したというかぐや姫の香りは、竹林の中で飲むホワイトティーをイメージした香りです。1999年に〝究極のディオール美女〟の香り「ジャドール」を創造したカリス・ベッカーにより調香されました。
お茶の香りに常に付きまとう〝正統派〟〝清潔感〟という感覚に対して、キリアンというフィルターを通した『竹取物語』。平安時代の人たちは、明かり一つない真っ暗な夜に〝香り〟で愛する人を探し、逢いに行っていたという話があるのですが、そういった奥ゆかしさと相反する大胆さのようなもの(恐らくフィグリーフのミルキーさがアクセントになっている)を感じさせる香りです。
私が「バンブー ハーモニー」を作ったときというのは、ちょうど「アラビアン・ナイト」コレクションが終わった時でした。このコレクションはウードを中心に置いていたため、すべてが本当に強い香りでした。
なので、私はスピリチュアリティの感情や瞑想の瞬間、何かとても平静な気持ちをもたらすような香水を必要としていたのでした。
キリアン・ヘネシー
八月十五夜に月の世界へ帰る
日曜の朝の匂い、それはパンケーキ、ベーコン、新聞紙に、「バンブー ハーモニー」を一吹きしたもの。週末は、これが私の香りです。なぜなら、とても軽やかなミモザとホワイトティーの香りだからです。
この香りは間違いなく私の香水の中で最も軽い香りです。週末に起きるとき、私は前の晩に出かけていたので、シャワーに飛び込んだ後、クリーンでリフレッシュできるような香りが必要になります。「バンブー ハーモニー」は、そんな時に、一日中そんな感情をキープしてくれるのです。
キリアン・ヘネシー
そんな〝竹取物語~竹の調べ~〟の香りは、かぐや姫のあっと驚く生誕を連想させる、フレッシュなベルガモットとジューシーなビガラードが、一筋のネロリの閃光を浴び、光り輝くようにしてはじまります。
すぐに、朝露に、にほいそめたる竹林のグリーンの瑞々しさと、いとうつくしくも物憂げに甘い花蜜のようなミモザが現れます。そして、ホワイトティーが、薄靄が立ちこめる神秘のスパイスのヴェールで覆っていくように、ゆっくりゆっくりと注ぎ込まれてゆくのです。繊細で柔らかく滑らかで、それでいて贅沢で上品な香りに包まれてゆきます。
やがて、ホワイトティーにシンクロするようにスモーキーなマテ茶が加わり、グリーンミルキーな官能的な感情を呼び覚ますフィグリーフと、ほのかにソーピィーなオークモスが、芳しく、苦く、酸っぱく、時に甘く、至純至高の精髄とも言えるグリーン・ハーモニーを奏でてゆくのです。それはまるでかぐや姫の世界を取り巻いている華麗なる平安貴族の恋愛絵巻を広げていくようです。
そして、二つのティーの余韻に照らされながら、オークモスは、ヒカリゴケとなり、かぐや姫が月の都に帰ってゆくように、肌の上からすべては消え失せてゆくのです。何よりも美しいのは、この香りの喪失感が、とてもファンタジックな所にあるのです。
全てがクリアに見えるような透明感ではなく、まるで御簾が一枚かかっているような、バンブーハーモニーには〝靄がかかった〟ような、少しムスキーさを覚えるような幻想的な雰囲気があるのです。
和をテーマにした香りでありながら、フランス香水の壮大さも感じさせる〝本当に宇宙に戻っていくかぐや姫伝説〟を肌の上で体感し、身も心も、どこか遠い世界へとすうっと抜けるように失われていく香りです。
その一因は、ティー・フレグランスで滅多に使用されないフィグリーフやオークモスを使っていることと、ロングラスティングを齎すオークモスにより、通常のティー・フレグランスと比べて持続時間が長いことによるものです。
ヴァイオレットの代わりにミモザを使用した〝新しいお茶の香り〟
一見、ホワイトティー(白茶)とマテ茶の組み合わせは、全く関係が無いように思われますがそうではありません。なぜなら、マテのアブソリュートは、多くのティー・フレグランスに使用されているからです。
元来、茶葉からエッセンスを抽出しても、お茶の香りがするわけではありません。そのためいくつかの香料を組み合わせてティーノートを作る必要があり、マテはその代表格なのです。
したがって、この香りの香料としてホワイトティーを謳っているのですが、それはティーアコードのことであり、ホワイトティーアコード+マテによって、よりお茶っぽいイメージにしているのです。
通常、ティーアコードのフォーミュラは、ジャスミン+ベルガモット+ヴァイオレットなのですが、この香りにおいて、ヴァイオレットと同じくパウダリー感のあるミモザを代わりに使うことでより現代的にしています。さらにジャスミンはホワイトフローラルなので、ネロリを代わりに使っているのです。つまりは、キリアン流に進化させたティーアコードなのです。
ミモザを使ったすごい所は、これまでのヴァイオレット(イオノン)を使ったティーノートからの脱却にあるのです(ミモザはヴァイオレットっぽい香りも含んでいる)。
カリス・ベッカーの「トミーガール」との比較
ティーの香りと一口で言ったところで、ティ―への感じ方が国によって違います。それはイギリスとフランスにおいてさえもかなり違います。イギリスでは、ティー(紅茶)=ブラックティーで、茶葉そのものの香りを重視するのに対し、フランスではフレーバーティーのような色々な香りづけを楽しむものが人気です。
さらにロシアでは、ジャムが溶かされたり、アップルパイなどのお菓子が一緒に出てくるのが常です。そんなヨーロッパの人々が感じるグリーンティーとは、日本の緑茶とはかけ離れています(パルファン・サトリの「ヒョウゲ」からはしっかりと抹茶を感じることができる)。
カリス・ベッカーはかつて「トミーガール」という伝説のティー・フレグランスを創造しました。この香りはシトラス+ヴァイオレット+ジャスミンでティーの香りが構築されています。しかし、実際のところ、紅茶の香りではなく、正確にはアップルティーのような香りがし、ロシア出身のカリスらしい濃厚なティー+アップルの香りなのです。
これに対し、「バンブーハーモニー」は静謐で、澄み切った香りです。「トミーガール」が、ティーを飲んでいる欧米っぽさを感じさせるのなら、「バンブーハーモニー」にはアジア・日本を連想させる儚さがそこにあるのです。
香水データ
香水名:バンブー ハーモニー
原名:Bamboo Harmony
種類:オード・パルファム
ブランド:キリアン
調香師:カリス・ベッカー
発表年:2012年
対象性別:ユニセックス
価格:50ml/36,850円
販売代理店ホームページ:ラトリエ デ パルファム
トップノート:ネロリ、ベルガモット、ビガラード(ダイダイ)
ミドルノート:ティー、ミモザ、スパイス類、バンブー(竹)
ラストノート:オークモス、マテ、フィグリーフ