オー ドゥ ルバーブ エカルラット
原名:Eau de Rhubarbe Ecarlate
種類:オーデ・コロン
ブランド:エルメス
調香師:クリスティーヌ・ナジェル
発表年:2016年
対象性別:ユニセックス
価格:100ml/17,600円
公式ホームページ:エルメス
二代目調香師のファースト・フレグランス
ルバーブの茎を昔ながらのシンプルな方法で調理すると、香りがとても豊かに広がってゆきます。私はいつもルバーブの二面性に魅了されてきました。視覚と嗅覚の二面性です。色は緑から赤へと変化し、強い酸味は甘美で柔らかなものへと変貌するのです。
そんなルバーブの持つ楽しさの中に飛び込んで、ファンタジーな空間を生み出したいと思いました。
クリスティーヌ・ナジェル
エルメスのコロン発売30周年を記念し、2009年4月30日に『コロン エルメス』の三作品が発売されました。続いて、4年後の2013年に『コロン エルメス』第二弾として二作品が発売されました。
そして、2016年に『コロン エルメス』第三弾として二つの香りが発売されました。エルメス最後の年となる初代専属調香師ジャン=クロード・エレナの「オー ドゥ ネロリ ドレ」と、2014年に二代目専属調香師に就任していたクリスティーヌ・ナジェルの「オー ドゥ ルバーブ エカルラット」でした。
この香りが、ナジェルの初めてのエルメスのフレグランスでした。
〝スカーレット色のルバーブの水〟と名づけられたこのコロンの主役は、セロリに似たシベリア南部原産の多年草であるルバーブです。この香りが発売された頃、ジンジャー、カルダモンと共にルバーブは注目を浴びつつありました。
ルバーブの香りが流行するきっかけを作った香り
植物であり果実でもあるルバーブの茎。それをパキっと割った瞬間のシャキシャキした独特な感触と酸味を香りに投影する試みがはじめて行われたのは20年ほど前のことでした。
初期の頃、2003年のアレキサンダー・マックイーンの「キングダム」(ジャック・キャヴァリエ)や、2004年の「バーバリー ブリット レッド」(ナタリー・グラシア=セット)で目立つ役割を与えられたのですが、これらの香りは成功を収めることが出来ませんでした。
一方、エレナもルバーブにいち早く目を付け、1998年のイヴ・サンローランの「イン ラブ アゲイン」で使用していました。そして、2003年にザ・ディファレント・カンパニーの「ベルガモット」で使用してから、2004年の「ローズ イケバナ」、2009年の「オー ドゥ パンプルムス ローズ」において、主役ではないのですが、名脇役として、ルバーブをエルメスの香りの世界観作りに役立てていったのでした。
さらに、ナジェルにとってのルバーブも、エレナがはじめて使用した頃と同じくらいの2000年に、カール・ラガーフェルドのために調香した「ラガーフェルド ファム」から使用していました。そして、2010年のジョー・マローン・ロンドンの「イングリッシュ ペアー&フリージア コロン」において、見事に使いこなすことに成功していたのでした。
「オー ドゥ ルバーブ エカルラット」とは、エレナとナジェルをつなぐエルメスのバトンのようなものであり、はじめて二人がルバーブを主役に据えて生み出した香りだったのでした(この香りにエレナが与えた影響は計り知れません)。
そして、この香りにより、ルバーブは、市民権を得ることになったのでした。
新感覚の爽やかさ。エルメスが赤色に染まるとき…
私の最初の作品である「オー ドゥ ルバーブ エカルラット」はとてもカラフルなものでした。それはエルメスの調香師に就任した私の喜びをとてもよく表していると思います。
クリスティーヌ・ナジェル
ルバーブが紅葉のように緑色から赤色に変わるとき、シャキシャキした強い独特な酸味が、柔らかな甘さへと変わってゆきます。その感覚を人肌へと伝道すべく、ルバーブが月琴の響きの如く弾け出すようにしてこの香りははじまります。
それはまるで心の澱みを洗い流す澄んだ冷たい水のようであり、肌を透かして心に注ぎ込まれていくようです。弾けるグレープフルーツに、コクのある野菜スープを注いだような、新しいコロンの到来を予感させる戦慄のフルーティなはじまりです。
新感覚の爽やかさが、鳥肌を立たせてくれます。まさに心が一瞬で切り替わるようです。気品に溢れていながら、それでいて怖いシーンが予測できるホラー映画を見ているような心地よい戦慄を感じます。
やがてルバーブに、レッドベリー(ストロベリー、クランベリー、ザクロ)の甘酸っぱさを乗せたホワイトムスクが降り注ぎ、天使に翼を与えるように、うっとりするようなジューシーな甘さを加えてゆきます。
そして、戦慄を与えていたルバーブが、不思議なことに、血となり肉となり、甘やかなレッドローズルバーブがジャムのように肌の上を滑らかにすべり落ちるように、全身に活力を与えるように広がってゆくのです。
ホラー映画のヒロインが殺人鬼に追いかけられている戦慄を与えてくれるコロン。でありながら、その殺人鬼に捕まえられた瞬間、実は、片想いしていた人だったという思わぬ愛を全身で感じ取ることができるコロン。
いまだかつてない刺激からはじまるエルメスの愛のものがたりです。2016年、この鮮やかなレッドボトルが、エルメスの香水の新しいものがたりの幕開けを告げたのでした。
クリスティーヌ・ナジェルの挑戦
エルメスは創作に制限を設けません。でも、この最初の香りに関してはひとつだけ制限が設けられていました。それは〝コロンを作る〟ということでした。
エレナによって作り出された『コロン エルメス』の〝コロン特有の柑橘系の香りに頼らず、フレッシュさの中に新しいものを取り入れる〟というテーマはとても難しいテーマでした。そこで私はすぐにルバーブを思い浮かべました。ルバーブは草本植物でありながら果物のように思えるので、特に気に入っています。
ルバーブは、スズランやイチジクのように香りがない無口な植物ですが、色で言えば、緑から赤へ、生だと非常に歯ごたえがあり生き生きとして繊細ですが、加熱すると柔らかく滑らかな食感になり、逆説に富んでいて興味をそそられるのです。私の「コロン」では、まず茎が折れ、青汁が鼻をくすぐる瞬間、次に煮詰まったスイートな面、それらすべてを表現したかったのです。
クリスティーヌ・ナジェル
最後に、この香りにおいてナジェルは、甘さを生み出す有機化合物であるエチルマルトールに安易に頼らずにグルマンの側面を生み出したいと考えました。
ルバーブを見て、唾液が出て、かぶりつきたくなる衝動を感じてもらうために、トップはガルバナムを思わせるグリーンノートからはじまり、ミドルでピンク色のフローラルノートを注ぎ込み、ベースにムスクで質感を出しました。
意外にもこの香りには、フルーティな香料がほとんど使われておらず、パッションフルーツを思わせるピリッとした香りのランタナが少し香る程度です。その結果、刺激的できらびやかで、人を飽きさせることがない五感をくすぐるルバーブが誕生したのでした。
私の香りの想像のヒントは、フルコースの料理を作るように素材と向き合うところにあります。そして、リスクを冒すことが大好きです。この精神は、私のとても大切な友人である〝炎の彫刻家〟アラン・パッサール(パリの3ツ星レストラン『アルページュ』のオーナーシェフ)の影響が強いと思います。
美味しいと感じるものは、鼻にとても良いことが多いのです。パッサールとの出会いは、約20年前、パリで行われたポール・ポワレの香水の発表会の席でした。
ヴァレンヌ通りのランチに誘われ、皿に鼻とフォークを突っ込むたびに恍惚とした気持ちになりました。その後、彼は私の研究室にやって来るようになりました。私は彼とクリエイションについて話したり、サルトにある彼の素晴らしい菜園でエネルギーを充電したり、彼はたくさんのことを教えてくれる人なのです。彼と接することで、制限から自分を解放し、より好奇心を持ち、リスクを冒すことを学びました。
クリスティーヌ・ナジェル
香水データ
香水名:オー ドゥ ルバーブ エカルラット
原名:Eau de Rhubarbe Ecarlate
種類:オーデ・コロン
ブランド:エルメス
調香師:クリスティーヌ・ナジェル
発表年:2016年
対象性別:ユニセックス
価格:100ml/17,600円
公式ホームページ:エルメス
トップノート:ルバーブ
ミドルノート:レッド・ベリー、ランタナ
ラストノート:ホワイト・ムスク