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【アレキサンダー マックイーン】キングダム(ジャック・キャヴァリエ)

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©Alexander McQueen
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キングダム

原名:Kingdom
種類:オード・パルファム
ブランド:アレキサンダー・マックイーン
調香師:ジャック・キャヴァリエ
発表年:2003年
対象性別:女性
価格:30ml/6,900円、50ml/8,500円、100ml/13,000円

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マックイーンのファースト・フレグランス

Louise Kasprikという一人のモデルで撮影された。フォトグラファー:ニック・ナイト ©Alexander McQueen

©Alexander McQueen

アレキサンダー・マックイーンのブランド初フレグランス「キングダム」は、〝もう一度、私の心を貫いて(Pierce My Heart Again)〟のジョリー・グラハムの詩と共に、2003年3月17日(マックイーン自身の34歳の誕生日)に世界一斉発売されました。

事のきっかけは、2000年12月、グッチ・グループがマックイーンの持株51%を買収し、ブランドの拡大を開始し、マックイーン・パルファムズ(YSLボーテ傘下)を設立したことからでした。そして、この時、YSLボーテの総帥シャンタル・ルースの下で、フレグランスのディレクターをつとめたのが、若き日のキリアン・ヘネシーでした。

オリエンタル系のウッディー・スパイシー・フローラルの香りは、キリアンが1995年にソルボンヌ大学の卒業論文のためにインタビューをして以来、彼のメンターであるジャック・キャヴァリエにより調香されました。

しかし、「キングダム」は、華やかなローズとジューシーなジャスミンの中に香り立つクミンという強烈な個性ゆえに、全く売れず、即廃盤となりました。時は過ぎ、今では、官能という言葉では生温い、肉欲の香りとして伝説となっているフレグランスです。

ちなみにマックイーン・パルファムズ(マックイーンの香水部門)は、のちにP&Gに買収され、本作は、より無個性な形で再調香され、販売されました。世のオークションに出回っているものの多くは、このヴァージョンです。

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アレキサンダー・マックイーンの精神とは?

2002年FW ©Alexander McQueen

2002年FW ©Alexander McQueen

アレキサンダー・マックイーン(1969-2010)を理解するとき最も分かりやすいのが、1996年のデヴィッド・ボウイとの対談でしょう。以下そのハイライトをピックアップしていきます(丁度マックイーンがジバンシィのヘッドデザイナーになった時でした)。

ボウイ:ある色で特定のジャケットを作ってほしいとキミに頼んだら、タペストリー生地でまったく違うものが送られてきたことがあるんですが、とてもきれいだったよ。

マックイーン:ジバンシィのルールに従うことはできない。僕は僕のやり方でしかできないんだ。だから彼らは私を選んだのであって、それを受け入れられないのであれば、他の人を雇うしかないでしょう。私は、他の誰でもない、私自身のルールと要求に従って働くことだけは間違いないので…どうやら私はあなたと少し似ているようですね!

私にとっては、沈みゆく船を救うようなものです。それはジョン・ガリアーノが原因ではなく、メゾンが原因です。今のメゾンは、自分がどこに向かっているのかわかっていないようですし、結局のところ、偉大な名前ではなく、素晴らしい服に頼らざるを得ないのです。

マックイーン:私はマルキ・ド・サドを崇拝しています。そして多大なる影響を受けています。彼は偉大な哲学者であり、最も恐ろしい存在でもあります。

私が服を作る理由。それは、着ている人が自分に自信を持てるようにしたいだけなんです。なぜなら僕は自信がない人だから。僕は本当にいろいろな意味で自信がないのですが、だからこそ、少しの自信がデザインする服に凝縮されるのでしょう。私は、人間としてとても不安な人なのです。

マックイーン:私の好きなデザイナーは川久保玲です。彼女の服しか買わないし、デザイナーとして自分のために買う服はコムデギャルソンしかないんだ。去年はコムデギャルソンのメンズウェアに1000ポンドくらい使ったよ。

つまり、マックイーンとは、決して妥協しない人であり、彼が女性のために服を作るのは、女性をより強くする魔法使いのような存在でありたいと望んだからでした。

ビッグメゾンに憧れて、ヘッドデザイナーになったのではなく、救済活動としてジバンシィのデザイナーになりました。だからこそ、LVMHのライバルであるグッチ・グループの傘下に入り、自分自身のクリエイションに専念するという決断をしたのでした。

それは彼自身が、少年時代を〝ピンクの羊〟と形容したように、姉がその夫から暴力を受けているのを目撃しても、恐怖で固まってしまい何もできず、さらには、その男から性的虐待を受けていたのでした。

そんな極めて〝傷つきやすい青年=アンファン・テリブル〟アレキサンダー・マックイーンのファッションに対する精神を忠実に香りに投影したのが、このファースト・フレグランス「キングダム」なのでした。

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あなたのハートを貫いてくれるクミンの香り

©Alexander McQueen

マックイーン1995AW『ハイランド・レイプ』のバムスター

〝キングダム=王国〟について、まず一言。この香りは、所有するのではなく、所有される香りです。

ビターなベルガモットとジューシーなマンダリンが混じり合いながら、弾け出す中、ミントの効いたクミンのアニマリックフゼアな冷たい風に乗り、爽やかなネロリが注ぎ込まれるようにしてこの香りははじまります。ハーブきらめく〝失われた王国〟へようこそ。

晴れ渡る青空に向かっているのか、それとも見たこともない暗闇に引きずりこまれていくのか分からない不穏な幕開けです。(みずみずしく生々しい)ルバーブ、セロリシード、ジンジャー、カーネーションといった脇役がその不思議な世界観の構築に対し、見事な役割を果たしています。

すぐに〝香りのバムスター〟が解き放たれるように、ワインのように華やかなスパイシーローズとインドールと甘さに支配されたジャスミンが広がってゆきます。そして、クミン(とクローブ)は生き生きと〝あなたのハートを貫いてくれる〟のです。それは塩辛くも酸っぱく、香ばしく、抗し難いほどに、本能を刺激する香りなのです。

やがて、クリーミーなサンダルウッドととろけるようにバニリックなアンバーとスモーキーなムスキーウッドが肉体の最も繊細な部分から滑り落ちてきたかのような匂いと共に、あなたの素肌の上に引き伸ばされていくのです。

視線は嘘をつけない、そして、肉体もまた嘘をつけない。心地良い香りに満たされるのではなく、官能的な悪臭に溺れる悦びに目覚めさせてくれる〝キリアンのはじまりの香り〟なのです。キリアン・ヘネシーは〝もう後戻りはできない〟この香りにより、『香りとエロティシズムを芸術の領域へと導く完全犯罪』を行う決心をさせたのでした。

ディオールの「デューン」とよく比較される香りです。

ルビーカラーのハート型のベネチアングラスを使用したボトル・デザイン。そのフォルムは、人間の心臓のようでありながら、スライスされたリンゴのようでもあります。

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「キングダム」を「ヘビークミン」と呼び、「それがここでは香調が多過ぎて「アリュール」のドライダウンは大混雑?答えは、「ひとつが濃過ぎる」。キングダムが世に出ると、クミンの香りを皆が褒め称えた。クミンのせいでぼんやりとくすんだ香りになっている事実を弁解するかのように。無論、そんな弁解は通用しない。」と1つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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香水データ

香水名:キングダム
原名:Kingdom
種類:オード・パルファム
ブランド:アレキサンダー・マックイーン
調香師:ジャック・キャヴァリエ
発表年:2003年
対象性別:女性
価格:30ml/6,900円、50ml/8,500円、100ml/13,000円


トップノート:カラブリア産ベルガモット、シチリア産マンダリン、チュニジア産ネロリ、ミント、レモン
ミドルノート:クミン、セロリシード、ルバーブ、ジンジャー、カーネーション、ローズ、ジャスミン
ラストノート:ムスク、アンバー、オークモス、サンダルウッド