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エルメス

【エルメス】カレーシュ(ギ・ロベール)

エルメス
©Hermès
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カレーシュ

原名:Caleche
種類:オード・トワレ
ブランド:エルメス
調香師:ギ・ロベール
発表年:1961年
対象性別:女性
価格:100ml/23,320円
公式ホームページ:エルメス

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「カレーシュ」誕生への道のり

©Hermès

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美しい四輪馬車が当時のリュクサンブール公園を、金色のなごやかな光と影を背に、コトコトとゆっくり走る情景が想い起こさせるそこに生まれる幻想の香り、松の匂い、革の雰囲気をもつ香り、黄昏どきの柔かい光の中に、やがて満ち満ちた甘いジャスミン、アンバーとムスクのちょっぴりした調和、西洋杉のエッセンスに、花の優しさが加わり、不思議に若いセンスのあるお嬢さんに向く匂いをかもし出す。

『世界の香水と化粧品物語』平田満男(1982年)

1920年代にシャネルをはじめとするファッション・メゾンが香水を作り出し、成功を収める中、エルメスやルイ・ヴィトンといった高級皮革ブランドも香水市場の参入を図りました。しかし、成功せず、その頃に作られた香りは現存していません。

エルメスが本格的に最初の香水を創造したのは、1943年「」という名の香りによってでした。さらに翌年1944年に「オー ドゥ ヴィクトリア(Eau de Victoria)」が、パリの本店でVIPのお客様に対して限定販売されました。

以後、「オー ドゥ エルメス」「ドブリ」というフレグランスが誕生しました。この時期、20世紀初頭に独占的に香水を発売していたゲラン、ウビガン、ロジェ・ガレといったフレグランスメゾンのうちゲラン以外はすっかり影を潜めていました。

エルメスの香水市場参入の成功のはじまりは、1951年にエルメス〝中興の祖〟三代目エミール・エルメス(1871-1951)が亡くなり、〝エルメスの香水〟を生み出すという彼の遺志を引き継いだ二人の義理の息子ロベール・デュマジャン=ルネ・ゲラン、特にジャン=ルネの香水に対する情熱が生み出したものでした。

1961年にエルメスのはじめての女性用フレグランス「カレーシュ」によって、エルメスのフレグランスは、シャネルの「No.5」やディオールの「ミス ディオール」と対抗しうる存在として本格化することになるのでした。この香りは、1960年に「マダム ロシャス」を完成させたギ・ロベールにより調香されました。

それは、当時のエルメスの顧客の多数を占めていた男性客に向けての香りを作るべきという社内の風潮に対して、「エルメスが香水メゾンと呼ばれるようになるためには、メンズ香水ではなく、ウィメンズ香水で傑作を生み出さないとダメだ!」と考えたジャン=ルネの英断によるものでした。

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エルメス初の女性のための香水

1997年 ©Hermès

1995年 ©Hermès

「マダム ロシャス」と同じで、柔らかな花のような香水というアイデアでしたが、私はよりシプレなものを生み出そうと考えました。

「フリュイ ヴェール(Fruit vert)」という1930年の香りから触発されたこの香りは、軽めのグリーンシプレの貧弱なフローラルノートをアイリスとベチバーを強め、ジャスミンにスズランのリッチなアクセントを加えてみました。

さらにマンダリンのタッチがベルガモットのトップノートを目覚めさせ、サイプレスがベチバーに更なる含みを与えてゆくのです。

ギ・ロベール

「カレーシュ」とは、エルメスの象徴である帆付きの四輪馬車を意味する言葉です(1900年にのちの三代目エミール=モーリスは、ロシア皇帝ニコライ二世から馬具一式を作るように注文を受ける。そして、1945年にエルメスのロゴに採用された)。ちなみにパリから四輪馬車の姿が消え始めたのは1920年代のことでした。

1961年5月18日に、ボルドーの大型客船の上と、翼をつけたスフィンクスがディスプレイされたパリ・エルメス本店にて、華やかなカクテル・パーティと共に「カレーシュ」は一般販売されました。この時まで、こういった形で、香水が宣伝されることはありませんでした。

この香りは現在に至るまで継続してエルメスで販売されております。1992年にはもう少し濃度を高めたヴァージョンである「カレーシュ ソワ ド パルファン」、2003年にはファブリス・ペルグランによる若い女性向けの「カレーシュ オー デリカート」と、年間テーマの〝地中海〟に合わせ「カレーシュ フルール ド メディテラネ」(ローズ、ジャスミン、ミモザが強調されたもの)が1000本限定で発売されました。

現在の「カレーシュ」はマン社で作られているものです。

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実はとても官能的な香りである。

1971年 ©Hermès

2004年 ©Hermès

エレガンスや個性は、今日のマーケットが香水に求める主な品質ではありません。だからこそ、「カレーシュ」は稀有な存在なのかもしれません。

この香りのよさは、ベッドでこそ、最も感じることが出来ると私は信じています。

ギ・ロベール(20世紀末のインビューにて)

香水を武器だと考える女性には、到底理解できないでしょう」という大胆なキャッチコピーと共に発売された「カレーシュ」は、ベルガモットとレモンが苦味と酸味を激しくエレガントに弾け合わせる中、マンダリンとオレンジフラワーが、颯爽とスポーティかつ陽気にアルデハイドと溶け合んでいくようにしてはじまります。

まるでカレーシュが現役だった19世紀末のパリを、美しい馬車で駆け巡る美しい女性たちのもとへと運んでくれるようです。

時間と共に、穏やかなオークモスの風に乗って、エジプト産ジャスミンとブルガリアンローズを中心にアイリス、スズラン、イランイラン、ガーデニアがパウダリーフローラルの閃光を解き放ち、優しく車輪のように回り、カレーシュに乗る紳士淑女のロマンティックなパリの空気に包まれてゆきます。

そして、オークモスとサイプレスとクリーミーなマイソール産サンダルウッドによる上質なレザーの手袋のようにしっくりとくるフィット感にを感じた後、消える前に、シダーウッド、ハイチ産ベチバーが加わります。それは馬車を引く馬のネック部分に巻きつけたカレが、風になびくように、フローラルシプレのソーピィーな甘やかな静かな余韻に満たされていくのです。

この香りは、蒸し暑い夏に、汗だくになる人々の間を、汗ひとつ流さず涼しい顔をして通り過ぎてゆく上品な女性のようです。そよ風に愛される女性の香りとも言えます。

単一の香りが支配しないほど繊細で調和のとれたシプレの香りは、通常、オークモスなどアーシィーさが主張しすぎるため女性には使いづらいと感じることが多いので、この問題を避けるため、ジャスミン、アイリス、ローズが煌くアルデハイドにより引き立てられるように作られています。

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エルメスの19世紀のエレガンスを体現したボトルデザイン

©Hermès

©Hermès

エルメスの香水について、業界歴の長いちょっと手厳しいパリジェンヌが〝コンパクト、ハンサム、近づきがたい、抑制された、男性的、幻想の反対〟と、きっぱりと言った。エルメスのフレグランスは簡単なものではない……親しみやすいものでもない。一般的な意味でのフェミニンさではない。彼らは、つまりエルメスは「人間よりも動物が好き」なのです。

チャンドラー・バール

シャネルNo.5とよく比較対照される香りです。No.5が、シャネルのファッションのように華やかであるならば、カレーシュは、エルメスのレザーバッグのように職人気質がある控えめながらも慎ましやかな品格と自然体の女性の官能を示す香りです。

ボトル・デザインは、カレーシュのランプをモデルにしたアニー・ボメル(僅か14歳でエルメスに入社した、エルメスのショーウィンドー装飾家)によるものです。

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「カレーシュ」を「弱々しいアルデヒド調」と呼び、「この香水は高温での洗いすすぎを3度繰り返したように、試香紙にできる染みは薄い。」

「ここに至ってはほとんどすべての命が流れ出てしまっているが、化粧室の棚に置かれたこの女性用香水を、そうとは知らず手にとってしまった男性は、いい香りで悪目立ちしない男性用として使うかもしれない。」と3つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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香水データ

香水名:カレーシュ
原名:Caleche
種類:オード・トワレ
ブランド:エルメス
調香師:ギ・ロベール
発表年:1961年
対象性別:女性
価格:100ml/23,320円
公式ホームページ:エルメス


トップノート:アルデハイド、サイプレス、オレンジ・ブロッサム、マンダリン・オレンジ、ネロリ、シチリア産ベルガモット、レモン
ミドルノート:トスカーナ産アイリス、ガーデニア、エジプト産ジャスミン、イランイラン、スズラン、ブルガリアンローズ
ラストノート:サンダルウッド、トンカビーン、アンバー、ムスク、オークモス、ハイチ産ベチバー、シダー