ボア タリスマン
原名:Bois Talisman
種類:オード・パルファム
ブランド:クリスチャン・ディオール
調香師:フランシス・クルジャン
発表年:2025年
対象性別:ユニセックス
価格:50ml/25,300円、100ml/45,100円、200ml/63,140円
公式ホームページ:ディオール
素肌に溶け込む、バニラに磨き上げられた〝お守りの木〟

©DIORBEAUTY

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ムッシュ・ディオールは、非常に迷信深い人で、お守りを大切にする人でした。どんな時も霊能者に相談していて、時には1日に2、3回も相談していました。
一方、私も重要な会議の時は、ポケットに角砂糖を入れていました。この習慣は25歳の頃からで、最後にポケットに角砂糖を入れたのは、クリスチャン・ディオールのインタビューでムッシュ・アルノー氏(LVMH)に会った時でした。私の中で角砂糖とは、幸運を掴む方法なんです。
フランシス・クルジャン(以下すべての引用は彼からのもの)
ディオールの「ラ コレクシオン プリヴェ クリスチャン ディオール」は、2004年に「コローニュ ブランシュ」「オー ノワール」「ボア ダルジャン」という3種類の香りからはじまりました。そして、2009年に4作目「アンブル ニュイ」が発売され2017年までコンスタントに新作がリリースされていました。
このコレクションが、2018年に「メゾン クリスチャン ディオール」として一新され、その三年後に、ディオールの初代専属調香師フランソワ・ドゥマシーが退任し、2021年10月に二代目調香師に就任したフランシス・クルジャンが、はじめて生み出したMCD時代の香りとして「ディオリビエラ」が、2023年7月4日のオートクチュール・ショーに先駆けて、6月2日に発売されました。
その後「ニュールック」を経て、2024年9月6日に「エスプリ ドゥ パルファン」5部作が発売され、2025年2月7日にコレクション名は「メゾン クリスチャン ディオール」から「ラ コレクシオン プリヴェ」の名に戻り、原点回帰しました。
この時、同時に発売されたコレクションの新作が「ボア タリスマン」でした。〝お守りの木〟と名付けられたこの香りは、クリスチャン・ディオールとフランシス・クルジャンの幸運のお守りからインスピレーションを受けて生み出された香りです。
ムッシュ・ディオールとクルジャンの迷信が結びつき、香りとなる。

フランシス・クルジャン ©DIORBEAUTY

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それはクルジャンが、将来のフレグランスの原点となり得るムッシュの思い出を探しているときに発見したニュースフィルムからはじまりました。それは1955年11月7日に、エドワード・R・マローのインタビューを受けたムッシュの姿を、米テレビ局CBSが撮影したものでした。
その中にムッシュ・ディオールがいつも肌身離さず持ち歩き、毎日何度も触れていた様々なラッキーチャームが登場しました。
四つ葉のクローバーとスズランが描かれたゴールドのメダルや、クチュリエとなる運命を決定づけた象徴的な金色のスター。そして最後に取り出したのが、幸運を祈って一日何度も触れるという小さな木のかけら、この映像を見たクルジャンが「私と似ている」と感じたインスピレーションから生まれました。
- ムッシュ・ディオールは、コレクションを発表する時に、ドレスの裏地と記事の間にスズランや木のかけらをそっと忍ばせていました。
- フランシス・クルジャンは、24歳の時の「ル マル」のコンペの時より、大切なイベントにおいて、ジャケットの下襟やポケットの中にお守りとして角砂糖を忍ばせていました。
まったく同じ時代を共有していない二人の迷信が情熱的に結びつき、生み出していくひとつの香り、それは木と砂糖(バニラ)が素肌に張る結界、実に神秘的な甘い香りです。
「ボア タリスマン」のコードネームは〝ボア・ヴァニーユ〟でし。まず最初に、私は8人のフレグランスラボチームに問いかけました。「迷信をどのように香りで表現したらようでしょうか?」と。
三種類のバニラとシダーウッドのハーモニー

©DIORBEAUTY

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「ボア タリスマン」は、私たちの2つの迷信の驚くべき出会いから生まれた香りです。私がポケットにこっそり忍ばせていた角砂糖と、ムッシュ・ディオールがいつもポケットの中で触れていた小さな木片が重なりました。
この木片の素材は明らかでないため、そのアイデアからムッシュがスケッチに使っていた鉛筆へつながり、シダーウッドを選びました。砂糖のイメージは濃密なバニラへとたどり着き、その全てのファセットが余すことなく紐解かれます。こうして奇跡的なデュオが形成され、「ボア タリスマン」が誕生しました。
とても不思議な香りです。はじまりから終わりまで、砂糖水のような豊潤なバニラで磨き上げられていくパリっとドライなシダーウッドの香りが流れる水のように広がってゆきます。
すぐにスモーキーなキャラメルのようなバニラの側面が立ち上り、木に炎が燃え移り〝燻る木と、幽玄たるグルマン〟の神秘性に全身が包み込まれていくのです。やがて
- バニラインフュージョン・・・バニラビーンズを半分に切り、開くとバニラの種が現れます。これをアルコールに18ヶ月間漬け込み、約50℃で温めて抽出するアルコール浸漬法
- バニリン・・・バニラ独特の香りと味を生み出す合成香料
- CO₂バニラエキス・・・1990年代初頭に発明された、鞘も含めて純粋な香りを採り出すことができる超臨界二酸化炭素抽出法。。非常に革のような強い香りで、少し土っぽい香りがする
といった三種類のバニラのハーモニーが生み出す、肌にも心にも優しい大地の感触を感じさせる植物のバニラ=バターのような滑らかなバニラの多面性が、シダーウッドと絶妙なバランスで〝香りの結界〟を張ってゆくのです。
「完全にユニークでありながら、誰にでも理解できるものでなければならない」というクルジャンの揺るぎない姿勢で生み出されたこの香りは、イヴ・サンローランの「ベイビーキャット」とよく比較されます。
香水データ
香水名:ボア タリスマン
原名:Bois Talisman
種類:オード・パルファム
ブランド:クリスチャン・ディオール
調香師:フランシス・クルジャン
発表年:2025年
対象性別:ユニセックス
価格:50ml/25,300円、100ml/45,100円、200ml/63,140円
公式ホームページ:ディオール
トップノート:バニラ
ミドルノート:シュガー
ラストノート:スモーク、シダーウッド