アリアーヌ巻きと真知子巻き
本作『昼下りの情事』のラストシーンで、アリアーヌがシフォンスカーフを頭に巻いたスタイルが、アリアーヌ巻きと呼ばれ、1957年の冬に大流行しました。この年を境に、それまで日本で大流行していた真知子巻きと人気を二分する頭巻きスタイルとなりました。
ちなみに真知子巻きとは、『君の名は』(1953)で岸恵子扮する真知子が、スカーフを肩から一周させ、頭と耳をすっぽり包み込むスタイルです。
一方、アリアーヌ巻きは少し複雑で、まず薄手の無地のシフォンスカーフを三角に二つ折りしかぶります。そして、前で結び、交差させて、首の後ろまでスカーフの先を持っていき結び、後ろに残るスカーフの三角の先をコートで隠すのです。
このアリアーヌ巻きが世界的に流行したのは、その巻き方がオシャレだっただけでなく、キャサリン・ヘプバーン主演の『旅情』(1955)においてもそうであったように、1950年代は、列車というものが永遠の別れを人々に連想させる時代だったこともあり、別れに際して、一房の花という、多くを相手に渡さないからこそ本当に伝わるその想いに、人々は共感を受け、アリアーヌに自己投影した結果だったのではないでしょうか。
オードリーが手に持つ白いカーネーションの花言葉は、本作で流れる『魅惑のワルツ』の原題であるFascination(魅惑)です。それは「私のあなたへの愛は永遠に生きます」という意味でもあるのです。カーネーションを一房持つオードリーには、〝凛とした花の蕾のような健気さ〟を感じさせました。
オードリーとルイ・ヴィトンのはじめての共演
オードリー・ヘプバーンの映画にはじめてルイ・ヴィトンが登場します。それはパリ・リッツの廊下に置かれたトランクです。この頃のルイ・ヴィトンは、ファミリー・ビジネスだったので、日本人はほとんど知らない鞄職人のブランドでした。
ちなみに、ルイ・ヴィトンのパリ本店に日本人が殺到するようになるのは、1970年代のことであり、アンリ・ヴィトン会長の下、外部のコンサルタント会社から引き抜かれた秦郷次郎(1937-)がルイ・ヴィトン・ジャパンの初代社長に就任し、日本初上陸したのは1978年のことです。
アリアーヌのファッション9
フローラルワンピース
- デザイン:ユベール・ド・ジバンシィ
- デイドレス、ショートスリーブ、ボートネック、フレアスカート、ピンクのバラをホワイト・オーガンジーにシルク糸で刺繍、ジバンシィ1956SS
- バレエシューズ、ボウ付き
- 白のショートグローブ
オードリーのコート姿がはじめてスクリーンに登場した瞬間
ジバンシィのコートとオードリーの相性はとても良く、のちに『ティファニーで朝食を』『シャレード』『おしゃれ泥棒』でも披露されます。オードリー・ヘプバーンが、21世紀の私たちに伝えてくれるもの。
それは、「若さとは、自分の肉体を見せびらかすものではない」ということです。どれほど絞り込まれた肉体であっても、それをひけらかし、自慢した途端に、その努力は水の泡となってしまいます。それは、そういった人からは、品格が失われてくるからです。
〝消費させる女の肌〟と共に生きるのではなく、ひけらかさずに、露出しすぎずに、女性のシルエットの素晴らしさをさりげなく示すことが、真のスタイルであることをオードリーは教えてくれます。
アリアーヌのファッション10
ウールコート
- デザイン:ユベール・ド・ジバンシィ
- ステンカラーコート、ウエストに大きなボタン二つ、大きめの丸衿つき、ハイウエストに切り替えのあるダブルボタンのコート
- 白のショートグローブ
- 薄手の無地のシフォンスカーフを「アリアーヌ巻き」
- ベージュのローヒールパンプス
同時期に撮影されたオードリーフォト
作品データ
作品名:昼下りの情事 Love in the Afternoon (1957)
監督:ビリー・ワイルダー
衣装:ユベール・ド・ジバンシィ
出演者:オードリー・ヘプバーン/ゲイリー・クーパー/モーリス・シュヴァリエ