香りの美学

目に見えないファッション




    グッバイ・イエロー・ブリック・ロード

    彼女のあなたに対する想いは、手紙よりも、振りかけた香水に込められている。
    ― クリスチャン・ディオール

    どこに香水をつけるべき?それは、キスをされたいところにつけるの。
    ― ココ・シャネル

    香水とは何か?ファストフード・ショップやフードコートでデート出来た学生時代には必要のないもの。赤ちゃんをあやす時には決してつけてはいけないもの。それは、100円ショップやファストファッション・ストアに行く時もつけない方が良いかもしれない。

    香水に相応しい場所はどこですか?恋人とのデートの時。オシャレな人と同席する時。高級レストラン。高級ホテルのロビーにて。ファストファッションと呼ばない衣服を見に行くとき。東京なら銀座・表参道・六本木、大阪なら梅田・心斎橋、京都なら四条河原町などのファッション感度が高いと言われている場所で最低1時間以上滞在する予定がある時。

    どうやら香水とは、目に見えないファッションらしい。そして、あなたを記憶させるものとして、その効果は全くありませんが、昔の恋人が、ふとその匂いをどこかで嗅いだ時に、あなたを想い出さずにはいられないものです。香水、それは、想い出作り。恋人が見つかるたびに好きな香水を変える女性がいました。なぜそうするのか?と私が尋ねたところ、その答えは、「匂いで昔の恋人を想い出せるからよ」ということでした。

    ある女性は、「香水の容器を集めることが大好き」と言っていました。また、ある別の女性は、「男性を振り向かせる匂いの反応を楽しむのよ」と言います。私はそのどれも香水を嗜好するにあたり欠かせない要素だと思います。一人で本を読むときに自宅で、香水をふりかける事も、ありなんです。つまるところ、香水とは、私がそうなりたいと願う気分へと運んでくれるドロシーの黄色い道なのです。



    香水とは何か?

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    香水とは、大自然から得る神の恵みである天然素材から抽出した天然香料と、人間の生み出した英知の結晶である科学的に作り出した合成香料を使い生み出すものです。

    5月から6月にかけてのバラ園や、7月のラベンダー園を歩くと、それぞれの品種から、自然の織り成す生き生きとした香りの脅威を堪能することが出来ます。果物屋では、桃やマンゴーなどの鼻孔よりも、胸を貫くような子供の頃の想い出を呼び覚ます匂いがあります。南国で遭遇するココナッツの匂いは、一瞬にしてあなたを開放的な空気に導いてくれます。コーヒーショップから漂う豆を焙煎している匂い、ラーメン屋の外から流れる大きな鍋でスープを煮る匂い、味噌汁、白米、牛肉・・・551の蓬莱の肉まんの匂い、そういった食品が生み出す食欲を刺激する匂い。これら全てが調香師にとっての神であり、先生なのです。

    実際、香水というものは、大抵の場合、その名の花からその成分のすべてを採取しようとするような芸術家は、品格もなければ権威もない。粗悪な作品しか作り出すことができない。なぜかというに、花の蒸留から得たエッセンスは、地上に咲き誇る生きた花の香りそのものとは、きわめて遠く、きわめて曖昧な類似性しか示さぬものだからである  『さかしま』 J.K.ユイスマンス 澁澤龍彦訳

    2016年9月15日、調香師ジャック・キャヴァリエが生み出したルイ・ヴィトンの7種類の香水(100ml30000円から)が販売されます。このビッグメゾンによる70年ぶりの香水販売は、それまで香水に興味のなかった人々に対しても、香水に興味を持つきっかけを生むパフューム・レボリューションの始まりとなるでしょう。ルイ・ヴィトンというラグジュアリー・ブランドの持つ影響力は、良きにつけ、悪しきにつけ、日本のファッション文化において絶大です。

    価格の安い香水とは名ばかりのトイレの芳香剤のようなものは売れなくなり、真に香水と呼ぶに値するものを、見分ける能力が私たちにも必要とされています。一般的にラグジュアリー・ブランドが発売する香水は、その小売価格に対して、平均して5%程度が香料の占める金額であり、他は、調香師の知名度に応じた契約費、容器のデザイン代金及び製造費、包装費、宣伝広告費、マージンなどです。つまり高ければ良いという訳でもありません。

    しかし、その香水に対する的確な情報と、それ以上に自分の嗅覚と視覚的感性を磨いたならば、最良の香水を選ぶ楽しみを知ることが出来ます。まずは色々な香水をムエット(試香紙)に吹きかけ嗅ぐ喜びから始まり、小さなセロファンのスリーブに入れたムエットにより、その香りの変化を楽しみ、これだ!と思うものを購入し、それを身につけ、人々に驚きを与えることに自分自身も感動を覚え、よりシーン、季節ごとに香水を使い分ける。ファッションごとに香水をローテーションしてみる遊び心を生み出し、感性を研ぎ澄ますことさえ出来るのです。



    腰を落ち着けて香水と向き合うこと

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    1920年に販売された香水の広告。

    香水をつけない女性には未来はない  ―  ココ・シャネル

    私はこの言葉にもう1つ追加します。「香水をつけない女性と男性には未来はない」と。

    モノが溢れすぎました。ファッションに関わるモノが特に溢れています。溢れんばかりのモノに包まれて幸せを感じることが出来るのならば、ラグジュアリー・ブランドで働く販売員の皆様は、すごく満ち足りているはずです。しかし、現実はそうではありません。いくら素晴らしいものに囲まれようとも、それを自分にとって愛着をもって使うことが出来なければ、そのモノに対する喜びは生まれません。

    一方で、大した知識もなくお金があるから手当たり次第にブランド品を購入する人も、ある種同じで、結局愛着のないモノに囲まれ、「なんとなくこれが好き」という感覚から抜け出せない人になってしまいます。その行き着く果てがブログやインスタでブランド品を陳列する人々です。

    そうなりたくない私達。すでにそうなっている私達にとって、モノに触れる喜びを再生するための、ファッションの入り口として、なぜ香水なのか?それは香水こそ、目に見えないファッションであり、比較的安価に最上のエレガンスを(しかも選ぶために香りを嗅ぐのはタダ)追求することが出来るからなのです。ここで香水を語るときに欠かせない「悲劇」をご紹介しましょう。

    1789年7月14日フランス革命が勃発し、ルイ16世とマリー・アントワネットの国王一家はヴェルサイユ宮殿からパリのテュイルリー宮殿に身柄を移されました。ミラボー伯爵が、立憲王政の確立のため協力するのですが、1791年4月2日に急死し、マリー・アントワネットは愛人のフェルセン伯爵の協力の下、6月20日、一家と共にパリを脱出し、オーストリアへの亡命を図ります。しかし、国境付近のヴァレンヌで拘束されてしまいます。

    庶民に変装するためにみすぼらしい衣服を身に着けていたマリー・アントワネットでしたが、彼女が愛用していたジャン=フランソワ・ウビガンの香水の匂いにより、通りがかりの人に身元がばれるきっかけになりました。マリー・アントワネットはそれ以降、処刑までの間、タンブル塔で幽閉された時でさえもウビガンの香水を愛用していました。悲劇なのですが、なぜか私の心に惹きつけられる香水に関する逸話です。

    香水探求の旅を始めましょう。新しいものだけが、素晴らしい時代は、もう終わりました。そして、古いものの良さを知るためには、知性が求められます。なぜこれからの女性にとって、男性にとって、香水の知識はマストなのか?それを探求していきましょう。



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