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ノンブル・ノワール (ジャン・イヴ・ルロワ)

    香水名:ノンブル・ノワール Nombre Noir 香水
    ブランド:資生堂
    調香師:ジャン・イヴ・ルロワ
    発表年:1982年(現在廃盤)
    対象性別:女性
    価格:15ml/30,000円(オード・パルファムは60ml、15,800円)





    (1982年)ときどき出かけていたパリのギャラリーラファイエットで、香水売り場の一角にぴかぴかの黒いアーチがあるのが目にとまった。それは「資生堂」という初めて聞く日本の会社のために新しく設けられたコーナーで、同社が初めて手がけた「洋風」のフレグランス、「ノンブル・ノワール」が陳列されていた。黒い服を着た販売員が、八角形の黒いガラス瓶に入った見本のそれを私の手に吹きかけてくれたのをいまも憶えている。

    その香りは斬新な驚きだった。それはいまも変わらない。香水は声の音質と同じように、実際に話される言葉とは別の何かを独自に語ることができる。ノンブル・ノワールは「花」と言っていたが、その言い方が天啓だった。ノンブル・ノワールの核となる花は薔薇とスミレの中間だが、どちらの甘さもまったくなく、背景には厳粛な、気高いといってもいいほどの葉巻箱のシーダーの香りがあった。同時にそれは乾いた香りではなく、液体に濡れてみずみずしくきらめき、深い色彩がステンドグラスのように輝いていた。

    ノンブル・ノワールの声は、年齢よりおとなびた子供の声のように、生き生きとしていると同時にハスキーで、抑揚があり、ほんの少し移り気だった。そこには、故意に装った無邪気さがあり・・・私はその場で、高価な半オンス入りの黒い小さな四角い瓶を買い求めた。瓶にはSLというイニシャルが書かれていた。「セルジュ・ルタンス」というミステリアスな名前のイニシャルだった。数ヵ月後に別れた女友達がその瓶をもっていってしまったすぐあとに、その香水は販売中止になった。当時は知る由もなかったが、私は結局、再びその香りをかぐまでに20年も待つはめになったのだ。

    香水はそれ以前からずっと好きだったが、このときは恋をした。・・・ノンブル・ノワールが私を匂いの秘密を探求する長い旅に、15年におよぶ旅に向かわせたのだった。

    『香りの愉しみ、匂いの秘密』 ルカ・トゥリン

    トップノート:アルデヒド、ベルガモット、マジョラム(シソ科)、パリサンダー・ローズウッド、コリアンダー
    ミドルノート:ダマスク・ローズ、オスマンサス、ジャスミン、ニオイイリス、イランイラン、リリー・オブ・ザ・ヴァレー、ゼラニウム、カーネーション
    ラストノート:ベンゾイン、トンカ・ビーン、アンバー、ムスク、蜂蜜、サンダルウッド、ベティバー

    「香りの帝王」ルカ・トゥリンが、最も影響を受けた香りであり、世界のあらゆる香りの中の5つの偉大なる香りのひとつとまで言い切ったオリエンタル・シプレーの香り。

    当時、資生堂がこの香りに注ぎ込んだ情熱は、そのキャッチコピーから理解できます。「女が、ひとつ、謎めく。黒の調和!ノンブル・ノワール、黒。謎。女。セルジュ・ルタンスの夢。初めての日仏合作フレグランスです。」そして、このフレグランスは、「不幸を呼ぶ香り」でした。

    1968年にクリスチャン・ディオールのメイクアップ・ラインを担当したセルジュ・ルタンス。彼は、この時期に、旅をした日本とモロッコからクリエーションのインスピレーションを得ていました。その後1980年以降、資生堂で、イメージクリエーターに起用され、「資生堂のはじめての西欧向けの香水」として彼自身はじめてフレグランスをプロデュースすることになります。

    セルジュ・ルタンス

    「黒は、すべての色を集約した最高の色」と言い切り、黒以外の服を着ることはないルタンスが、名づけたフレグランスの名は、「ノンブル・ノワール=黒い番号」=「廃番」。黒一色で統一したボトル・デザインと絹を折り紙のように織り込んだパッケージ(池田修一と共に)。

    発売当時、高価な天然のオスマンサス(金木犀)とブルガリアンローズの微量香気成分ダマスコンを使用し、凝りに凝ったボトルの製造費を加えると完全に赤字のフレグランスでした(そのボトルは今ではオークションに出品されるたびに2000ドル以上の価格で取引されている。)

    発売後すぐに、一部のボトルの液体漏れと、天然のジャコウ(動物香料)が手に入らなくなるという二つの不幸により、販売中止(以降、合成香料のムスクがジャコウの代用となる)になったため「幻の香水」と呼ばれるようになります。

    ダマスコンの香りを保持する役割も果たすオスマンサスが、最も高価な口紅のような芸術的な香りへと導いてくれます。そんな『漆黒の薔薇』の香りを生み出そうとした野心作。しかし、それらの分子は、感光性であるため、黒いボトルで光によって分解されることを防がないといけません。つまり本当のノンブル・ノワールの香りは、最初の一回目の密閉されたボトルの開閉後のみ知ることができるという「実用性からは程遠い一回分で販売すべき香り」でした。

    資生堂は不良ボトルの回収のために全力を尽くし、すべてを回収後、破棄したと言われています。そして、資生堂の調香師だったジャン・イヴ・ルロワは、この香りにのみ名前を残し、失意の中、2004年に自殺しました。



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