グレース・ケリー

グレース・ケリー4 『裏窓』1(2ページ)

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作品名:裏窓 Rear Window(1954)
監督:アルフレッド・ヒッチコック
衣装:イーディス・ヘッド
出演者:ジェームズ・スチュアート/グレース・ケリー/セルマ・リッター



アンチエイジングではなく、タイムレスな輝き。

一切、古さを感じさせない女性の「永遠のスーパーアイコン」としての圧倒的な存在感。

スタイルとスタイリングとエレガンスの完璧な融合。

グレース・ケリー(1929-1982)を最も輝かせた男。それは夫のモナコ大公レーニエ三世ではなく、アルフレッド・ヒッチコックでした。そして、本作は、そんな二人が二度目の遭遇を果たした作品です。

サスペンス映画の傑作が、奇しくも21世紀のモード界に影響を与え続けているという事実。〝本当かうそかわからないファンタジー空間〟を生み出すためにオールロケではなく、オールスタジオ・セット撮影を行ったヒッチコック。生活観を放棄した世界観で繰り広げられるサスペンス劇。それはファッション感度を刺激する空間そのものでした。

非現実的な空間の中で、ヒッチコックが、何よりも拘ったのは、グレース・ケリーの衣装についてでした。まず最初にコスチューム・デザイナーのイーディス・ヘッドに依頼したのは、「マイセンの陶器のような、間単には手に入らない高級品のイメージにしてほしい」というものでした。ヒッチコックが21世紀においても比類なき映像の分野における芸術家の地位を占めているのは、今見ても冴え渡るサスペンス映画の本質を知る喜び以上に、彼の映画の中で、永遠の輝きを見せる〝エレガンス〟を映像上で体現した女優たちを見ることが出来るからなのです。つまり、ヒッチコックという映画監督の存在の素晴らしさは、<エレガンスの本質>が以下の言葉に集約されることを知る人だったことゆえでした。

醜い女性は存在しない。ただ怠けた女性が存在するだけです。   ヘレナ・ルビンスタイン

エレガンスは細部に宿る。だからこそ、ヒッチコックの作品は、サスペンスをファンタジーへと昇華させ、その世界では、人の死さえも、劇的な美女が登場するためのきっかけに過ぎないのです。彼の作品の世界観の普遍性は、リアルの排除にありました。美女が輝くためには生活観の排除は必須なのです。つまりは、リアルを排除し、エレガンスという言葉に、失われたファンタジーを取り戻しているところに、ヒッチコックが21世紀においても、モード界の尊敬を勝ち取っている先見性と普遍性が存在しているわけなのです。

スタジオ内にアパートを作ることによるリアルの排除から生み出されるリアル・ファンタジー。


グレース・ケリー演じるリサ・キャロル・フレモントという女性は「一度着た服は二度着ない人」です。蝶が舞うようなキスで登場するシーンの不自然なカット割りとコマのばしは、彼女の存在感を際立たせており、それは映画史に残るキスシーンと言われています。そして、暗い部屋の3つのランプを点灯していくたびに浮き上がる美。「リサ」「キャロル」「フレモント」と3つのランプに自分の名前を重ね合わせ浮き上がってくる全身像。グレース・ケリーを紹介するときにもっとも使用される映像です。

オードリー・ヘプバーンの数々の名作のメイクアップも担当したメイクアップ・スーパーバイザー、ウォーリー・ウエストモアのメイクも冴えにさえています。エレガンスの表現において必要不可欠なものがメイクアップです。しかし、これは恐るべき真実なのですが、エレガントなメイクアップほど電子器具と相性が悪いものはないのです。

美しくメイクアップをして着飾った女性がスマートフォンを持つとどこか滑稽に見えます。しかし、美しくメイクアップした女性が、アナログ環境で佇む姿は本当に絵になります。エレガンスとは結局は待ち姿の優雅さであり、もしくは、待たせた相手に対して優雅さと共に現れる演出なのです。人々が、待ち時間を待たなくなった時代に、人々は、機械に支配され、指を動かし、頭を働かさない習慣にすっかりどっぷりと浸かりはじめています。そんな、人々の財布の紐を緩める企みこそ、インスタグラマーと提携したファスト・ファッション・メーカーの「トレンド押し戦略」です。

美しさとは、他人の意見に振り回されないことです。それがぶれている時点で、もうその人の美は、ただの表面的な塗り絵のような〝真似事の美〟にすぎなくなります。なぜこの時代のハリウッドムービーには、神話的な存在美を持つ女性で溢れかえっているのでしょうか?それはただただ、暇をつぶせる機械に囲まれていない女性がそこに居たから・・・その女優は美しかったのです。



グレース・ケリーが着るニュー・ルック。

白黒写真からカラリゼーションしたグレース・ケリー。

グレース・ケリーのイメージ=それは必ず手袋を付ける。

グレース・ケリーという存在美について、エルメスによって知り、エルメスを忘れたときから始まる。

エレガンスとは、見えかけの優雅さではなく、普遍性の伴った美のことを指します。

同年製作されたオードリー・ヘプバーンの『麗しのサブリナ』のサブリナドレスを髣髴とさせるスカートのシルエットと刺繍。

共演のジェームズ・スチュアートと共に。

この時代の男優がエレガントだったからこそ、女優もまた輝く!

スタジオ内に作られたアパートのセット。そこに作られた人工的な夕陽。

どこまでもテンション高く!グレースを演出するヒッチコック。

イーディス・ヘッドによるデザイン画。

グレース・ケリー・ルック1 ニュールック
  • クリスチャン・ディオールのニュールック・スタイル。
  • 黒のシンプルなフレンチスリーブシャツ。ネックラインが前後V字型に、大胆に深くカットされ、胴部はタイトフィット
  • 対照的に裾が大きく広がったプリンセス・ラインの白のロングスカート。シフォンチュールでレイヤードを出し、スカートには、ビーズ刺繍が施されている
  • 黒のパテントレザーベルト
  • 白の(羽衣のような)シフォン・ショルダーラップ
  • 白のシルク・グローブ
  • 首に一連パールネックレス、パールイヤリング、パールのブレスレットの3点セット
  • 黒のストラップつきハイヒールサンダル
  • 黒のクラッチ

まずグレースの美しさをアピールして、その次に豪華な刺繍で金持ちの娘ということを見る人に納得させる。それがこの衣装のポイントなのです。

イーディス・ヘッド

ディオールのニュー・ルックを象徴する1947年のルックフォト。

ニュー・ルックとエッフェル塔。フォトグラファー:ルイーズ・ダール=ウォルフ。

作中、「1100ドルのドレスよ」とこのドレスについて言及するグレース・ケリー。1954年当時の1100ドルとは、現在の日本円に換算して150万円から200万円です。このドレスの黒と白のバイカラーはヒッチコックがイーディス・ヘッドに指定したものでした。最先端のファッション・モデルという役柄のイメージを観客に伝えるためには、クリスチャン・ディオールのコロール・ライン(8ライン)(1947年SS発表)=ニュールックをグレースに着せなければならないとヒッチコックは主張したのでした。

ニュー・ルックという言葉は、ハーパース・バザーの編集長カーメル・スノーによる命名なのですが、当時のアメリカにおけるディオールのニュー・ルックに対する評価は、「最も優れたエレガンスの象徴そのもの」「モード界の革命」と絶賛される一方で、「実生活に即さないこのような服を、いったい誰が着るというのだろうか」「必要以上の布を使う浪費極まりない作品」という酷評で二分されていました(一枚のドレスに約40メートルのシルクを使用した)。

しかし、この酷評も本作でグレース・ケリーがニュー・ルックを優雅に着こなしたことにより、なりを潜めたのでした。



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