ダニエラ・ビアンキのショートボブとカジュアルエレガンス
ダニエラ・ビアンキ(1942-)扮するタチアナ・ロマノヴァのうち巻きのショートボブのヘアスタイルは、現代においても全く違和感のないヘアスタイルです。
このヘアスタイルに、60年代を象徴する〝心が躍るようなカラフルな色使い〟のカジュアルエレガンスなファッションが組み合わされているのです。
タチアナが、今でも、歴代ボンドガールの中で、世界中の同性からみてNo.1の人気を誇るのは、時代のトレンドに左右されない圧倒的な美貌だけでなく、その天真爛漫で自由奔放な〝お転婆娘=お嬢様〟と、『エースをねらえ!』のリアル〝お蝶婦人=貴婦人〟のオーラを併せ持つ、存在の素晴らしさにあると思います。
この人だけが、ジェームズ・ボンドさえも振り回されてしまいそうな〝女性上位のオーラ〟を持ち合わせているのです。

時代を超えた美貌を持つ人。

小顔で、とても脚が長い彼女の身長は170cmです。どこか高千穂ひづる様に似ています。
ボンドガールのファッション6
タートルネック
- ライトブラウンのロングコート、ブラウンのファーが襟にトリム
- ブルーグレーのハイゲージのタートルネックのセーター
- ベージュのスカート
- ブラウンのローヒールパンプス
- ブラウンのベスト

今でも素敵なブルーグレーのタートルネック。

後ろから見たタートルネック。腕周りの丈感が素敵です。

少しメンズライクなファーコートです。

昔のオリエント急行の食堂車は寒かったのだろうか?

当時21歳でありながら、ファー慣れしています。

ファーの雰囲気が良く分かる写真。

エレガント野宿。

イスタンブールのスレイマニエ・モスク

腕時計がとても素敵です。

この腕時計。

ジェームズ・ボンドと。

ブラウンのローヒールパンプス。

設定はギリシャですが、実際はスコットランド西部で撮影されたシーン。上から茶色のベストを着て、ボートチェイスを繰り広げます。

後ろから見たベスト。

前と後ろで素材が違います。

ポケットの位置もまた素晴らしい。
ボンドガールのファッション7
ザ・60年代ルック
- イエローノースリーブシャツ、ボートネック
- 黄緑のウールスーツ、ノーカラー
- 黄緑のハイヒールパンプス
本作においてコスチューム・デザインを担当したのが、後にミケランジェロ・アントニオーニ監督の『欲望』(1966年)とジャンヌ・モロー主演の『マドモアゼル』で伝説となったジョセリン・リカーズ(1924-2005)でした。

二人は実際に撮影のためにヴェネツィアを訪問することはありませんでした。

60年代特有のシャーベットカラーのスカートスーツ・スタイルです。

カトリーヌ・ドヌーヴ風のアップスタイル。

メイクアップも他のシーンよりも濃いめに。

首元に帯があることが分かる、バックシルエット

戦うボンドガール。素敵なカラーバランス。

コロナが明けてそろそろ開放的なオフィスルックがトレンドになりそうな予感がします。
裏ボンドガール→ロッテ・レーニャ

ノーラペルスカートスーツ。

どこかジュディ・デンチのMルックを思わせます。

有名な靴に仕込んだナイフ。

靴を脱いで、疲れた足を休ませるロッテ・レーニャ。
腕時計のリューズを引っ張るとワイヤーが伸び、それが殺人兵器になるロバート・ショウと、靴に仕込みナイフを装着した女ローザ・クレップ(スペクターのNo.3、原作ではレズビアン設定)が登場します。この悪役を演じる人こそ『三文オペラ』(1931)の名優ロッテ・レーニャ(1898-1981)なのです。彼女は20世紀の名作曲家クルト・ヴァイルの妻であり、その役柄と同じく激動の20世紀を生きた人でした。
ロッテは、第一次世界大戦後の不景気のドイツでのナチズムの台頭。そして、亡命という風に40代に至るまでは(夫と共に)経済的にも不安定な日々を生きてきた人でした。芸術のために身を捧げてきた彼女が、娯楽大作の悪役を演じるからこそ、冒険活劇に大人の味わいが生まれるのです(その点はロンドン王立演劇学校出身のシェイクスピア俳優ロバート・ショウも同じく)。
これがスーパーモデルのような美女だと、ただカッコいいだけの、薄っぺらな世界観に包まれることになります。007の魅力は、中年(ボンド)と高年(主に悪役)とそして、若年(ボンドガールと殺し屋)というクロス・ジェネレーションのエレガントな〝愛と殺しのキャッチボール〟な世界観にあるのです。
伝説の鉄拳面接

この後、ロバート・ショウの腹にパンチを一発入れる。

わずか一発のパンチで面接は終了。

『スパルタカス』(1960)に登場する剣闘士学校にインスパイアされた訓練学校を歩くクレップは、メンズライクなレザーバッグを持っています。
ロッテの演じるローザ・クレップの永井豪のマンガに出てきそうな鬼婆ぶりが実に素晴らしく、衣装も一見地味に見えて、かなりモード色の強いものになっています。女性の美しさはありませんが、杉村春子先生のようなその風貌が、ボンドムービーの中で悪役を嬉々と演じているようでもあり、実に頼もしいのです。
ロバート・ショウへの腹への一発といい、最後のボンドへの腰の引けた蹴りといい、恐らく戦闘力はボンドムービー史上最弱だったのかもしれないのですが、『ロシアより愛をこめて』はこの人の存在があったからこそ、歴史に残る作品になったのではないでしょうか。
そして、彼女こそ21世紀のM=ジュディ・デンチと並ぶ裏ボンドガールの一人なのです。

左からダニエラ・ビアンキ、イアン・フレミング、ロイス・マクスウェル、ロッテ・レーニャ、ショーン・コネリー。
作品データ
作品名:007/ロシアより愛をこめて From Russia with Love(1963)
監督:テレンス・ヤング
衣装:ジョセリン・リカーズ
出演者:ショーン・コネリー/ダニエラ・ビアンキ/ロバート・ショウ/ロッテ・レーニャ