1960年度ミス・ユニバース第二位
21世紀において、ボンドガールのステイタスはその歴史の積み重ねの中で飛躍的に高くなりました。そして、今ではソフィー・マルソーを皮切りに、ハル・ベリー、エヴァ・グリーン、レア・セドゥ(&モニカ・ベルッチ)といった第一線で活躍する女優がボンドガールを演じるほどになりました。
そんなボンドガールが最もボンドガールらしかった時代。つまりジェームズ・ボンドのアクセサリーとしてボンドガールが存在した時代において最も人気のある人が、ダニエラ・ビアンキなのです。
実際のところ、ダニエラが演じたタチアナ・ロマノヴァの役柄は、アクセサリー的なものではありませんでした。
実は彼女の役柄こそ、21世紀の女優達が演じたボンドガールの原型とも言えるものでした。それはチャーミングさと苦悩も兼ね備えた人間的な魅力に満ちたボンドガールでした。この役柄が、シリーズを追うごとにアクセサリー化していくのです。
ダニエラ・ビアンキが最も人気があり、今ではボンドガールとして神話的でさえもあるその理由は、彼女のチャーミングな個性をストーリーに見事に絡め合わせた点にあります。それは現在のセレブ達が(好感度アップのために)とってつけたように演出するあのうっとおしくも白々しいものではなく、イタリアンで庶民的な雰囲気を感じさせるチャーミングさなのです。
更に神話要素の二点目は、彼女のボディラインです。それは現代においても、理想とされる女性の造形を兼ね備えています。
黙っていると生命が吹き込まれていないお人形のような絶世の美女。それが笑ったり話したりするとひとたび魅力的な表情に変わるそのギャップ。後に記載する「サイドの髪をひげのようにする=マドモアゼル・ムスタッシュ」スタイルこそ、その典型的なシーンです。

1960年度ミス・ユニバース。右から二番目。

顔が小さく、足が長い。
ボンド・ムービー史上、最も若いボンドガール
ダニエラ・ビアンキ(1942-)は、撮影当時、21才でした。彼女は、父親がイタリア軍の大佐という裕福な育ちであり、8年間バレエを学び、1960年度ミスユニバース第二位に輝いています(ちなみに前年度のミスユニバースは日本人の児島明子だった)。
本作のタチアナ役は、シルヴァ・コシナをはじめとする200人もの候補者の中から勝ち取ったものでした。しかし、実際のところ、彼女は女優業にはあまり興味がなく、撮影中は大好物のチョコレートを食べながら、イタリア小説を読んでいるマイペースな女性でした(良くも悪くも育ちの良いイタリア女であり、ソフィア・ローレンと同じラツィオ生まれ)。
監督から叱られても、気にもしないその図太い神経にショーン・コネリーも好感を持ったと言われています。映像の中にも、そんなダニエラのマイペースな雰囲気がよく出ています(オリエンタル・エクスプレスで偽造夫婦の旅券を貰うシーンなど)。
ダニエラは、1968年にジェノヴァの海運王と結婚し、女優業を引退し、悠々自適な生活を生きることになります。10代でミスユニバース2位になり、21才にしてボンドガールに選ばれ、そして、イタリアの海運王と結婚したその人生は、もしかしたらボンドガールの中でも最高の幸せを掴んだプリンセス・ブライド・ストーリーだったのかもしれません。
ボンドガール スタイル1
イエロースカートスーツ
- モスイエローのスカート・スーツ、金ボタン4つ(上から2つ目だけを止める)、袖にも金ボタン一つ、Aラインスカート
- 白のすけすけのブラウス
- 7cmヒールのブラックパンプス
この初登場シーンは今見ても、可愛らしくてたまりません。なんなんでしょうこの天使っぷりは・・・オバさんに脚を触られた時の表情なんかは、絶妙です。撮影中に、そのマイペースなムードですっかりショーン・コネリーさえも手玉に取っていたダニエラ・ビアンキ様。あなたこそが、007史上最高の美女であり、007の女王陛下です。

60年代とは、モス○○○なカラーが流行した年代でした。

イスタンブールの坂を歩くビアンキ様。

スカートスーツの全体のシルエットが良く分かる写真。

左右非対称なこのヘアスタイルをタチアナカットと呼ぶ。

イタリア女の凄み。絶対に21歳に見えません。

ローザ・クレッブ大佐からセクハラされるタチアナ。

ジャケットでセクハラ防御網を敷こうとするタチアナ。
ナジャ・レジンという女
英国海外情報局のトルコ支局長ケリム(ペドロ・アルメンダリス)のガールフレンドとして登場するこの女性を覚えているでしょうか?
この女優の名をナジャ・レジン(1931-2019)と言います。セルビアのベオグラード生まれの彼女は、1960年代にイギリスのテレビドラマを中心に活躍しました。007シリーズは、本作と『007/ゴールドフィンガー』に出演しています。
作品を見ている限りでは、ただのお色気要員なのですが、実際の彼女の人生を紐解くと、それはまさに『北斗の拳』のリンのような壮絶な地獄を生き抜いてきた女性だったのでした。というのも、彼女の父親は、1941年10月、ナチスドイツにより処刑されているのです。
それも、ドイツ兵1人の殺害行為に対して、100人の住民を処刑するというクラリェヴォの虐殺の被害者であり、高校教師であり、命を免れることも出来た父親は、同僚や学生を見逃しに出来ず、自分も銃殺される列に加わったのでした。そして、ナジャはその父親の最後の姿を9歳のときに目撃していたのでした(5000人以上処刑された)。
そんな女性だということを知って見ると、何か実に感慨深いものがあります。
ボンドガール スタイル2
ストライプシャツワンピース
- グレーストライプのロングスリーブシャツワンピース
- 白のパテントレザーベルト
- ベージュのハイヒールパンプス
- キャメル色のミニクラッチ
- 白い手袋

かなり魅力的なワンピースなのですが、作中ではあまり活躍しない衣装です。

ブロンド美女には、水色がとても似合います。

ブルー・モスクをバックに歩くタチアナ。
ボンドガール スタイル3
コクーン・コート
- 水色のシフォンスカーフをアリアーヌ巻き
- ベージュのコクーンシルエットのロングコート。4つのフラップポケット
- モスイエローのスカート(スタイル1のもの)
- ベージュのローヒールパンプス

もうここまで来てしまうと、ジバンシィかディオールのファッション・モデルのようです。

しかし、このコクーンコートがとてもステキです。
作品データ
作品名:007/ロシアより愛をこめて From Russia with Love (1963)
監督:テレンス・ヤング
衣装:ジョセリン・リカーズ
出演者:ショーン・コネリー/ダニエラ・ビアンキ/ロバート・ショウ/ロッテ・レーニャ