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『007/ロシアより愛をこめて』Vol.1|ショーン・コネリーとグレースーツ

ジェームズ・ボンド
ジェームズ・ボンド 女性目線の男磨き
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なぜこの作品がボンドムービー史上不動のNo.1人気を誇るのか?

それは、ごく端的に言うなられば、この作品によって「ジェームズ・ボンド=スーツ」のイメージを植えつけたからでした。

本作中、ほぼ95%、ボンドは、スーツもしくはタキシードを着て登場します。ここまで徹底的にフォーマルに決めているボンドが見れる作品は、この作品以外には存在しません。60年代に生きた人々は、この作品によって、「スーツ姿で戦う男」の魅力の虜になりました。

男にとって最も戦闘に向かないファッションが、スーツ・スタイルです。そんなスーツの本質を全く無視して、スタイリッシュさのみを演出したところに、ボンドシリーズの勝利はありました。ボンドガールや秘密兵器、強力な敵と白猫の要素さえも、その演出を光り輝かせるためのアクセサリーのようなものでした。

今見ると、ショーン・コネリーが着ているスーツは、シルエットが抜群に魅力的というわけでもありません(しかもほとんどグレースーツ!)。であるにも関わらず、いつの間にか、スーツを着て戦う男たちに支配されるこの世界観に、私たちは何か新鮮なものを見せ付けられているかのような感動を覚えるのです。「楽なものを楽に着る生き方」と「楽ではないがカッコいいものを着る生き方」の違いがそこにはあるのです。

この左手の添え方。タキシードにワルサーLP53。

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ロバート・ブラウンジョンから学ぶファッション美学。

From Russia with Love Opening Title Sequence

美とは整った顔立ち以上に、その人の強さ、人柄、個性から生まれるものなんだ。

フランソワ・ナーズ

アナログとデジタルが絶妙に融合しているオープニング・タイトル。1970年にドラッグにより急死するロバート・ブラウンジョン(『ゴールドフィンガー』の金粉オープニングタイトルも彼の手によるもの)が生み出したポップアート。ここ最近のボンド・ムービーのオープニングが退屈極まりないのは、完全にデジタルに支配された空間がそこにはあるからです。

私たちは人間です。それは本質的にデジタルに支配された空間に対する居心地の悪さと、倦怠感に満ちていく種族なのです。今、人々が、ファッションに対して感じる居心地の悪さは、ほとんどこの要因によります。この衣服はデジタルに支配されているのか?それとも、アナログの要素が程よくミックスされているのか?

ファストファッションの店に行くと、一つ気づかされることがあります。そこに集まる人々のファッションのスタンスに多くの共通点が認められることです。間違いなくこれはファッションと呼ぶには値せず、コンビニでおにぎりを買うような行為に過ぎないのだということを。まがりなりしもファッションと名のつくものであるならば、販売員というものが存在し、あるアイテムについての説明が必要なはずなのですが、ここにはそういった空間も存在せずに、整理整頓された生活着を思い思いに選んでいる<まさにカゴの中に押し込む>風景が存在するのです。

もうそろそろ、ファストファッションという呼び方を変えませんか?ファストクローズで良くないですか?ファッションという言葉は、個性を生み出す言葉なのです。

そして、ファストクローズから生み出される個性は存在しません。そこにあるのは、インスタやまとめサイトで、この着こなしがこなれているやらイケてるといった陳腐な横並び主義しか存在しません。そもそもファッションから生み出される個性とは、そんな盗み見する類のものから生まれるものではないはずです。

アンソニー・シンクレア再び。

2代目ボンドガール、ダニエラ・ビアンキとショーン・コネリー。

この作品においてボンドが着たスーツは、『007/ドクター・ノオ』のボンド・スーツを担当したアンソニー・シンクレアにより仕立てられたものでした。

彼のスーツは、1950年代に退役軍人のためのスーツをテーラリングしている時に編み出されたコンジット・カットと呼ばれるものでした。その特徴は、当時、ダブルのスーツが主流だったサヴィル・ロウにおいて、シングルで砂時計のようなシェイプを生み出し、筋骨隆々の肉体美を、スーツを通してエレガントに演出するシルエットを創造するものでした。

テレンス・ヤングとダニエラ・ビアンキ。1966年1月。

このコンジット・カットをボンドの公認スーツとしたのは、実際に自分自身が、アンソニー・シンクレアの上客であった監督のテレンス・ヤングでした。その着こなしの素晴らしさは、上の写真を見ていただければご理解いただけることだと思います。彼こそが、ボンドスタイルを生み出した男だと言っても過言ではないのです。

現在の金額でいうと総額300万円~350万円の予算を、本作のボンドのコスチュームのために割くことになりました。ちなみにターンブル&アッサーのシャツは当時の価格で1枚30ドル(今の貨幣価値で言うと大体45000円~60000円)でした。

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ジェームズ・ボンド スタイル1

ミッドナイトブルー・タキシード
  • テーラー:アンソニー・シンクレア
  • ディナージャケット、シングル、一つボタン、サテン・ショールラペル、ガントレット・カフス、ベントレス
  • ホワイト・フォーマルシャツ、スプレッドカラー、フロントプリーツ
  • ミッドナイトブルーサテンボウタイ、バットウィング型
  • 白のリネンのハンカチーフ
  • 黒パテントレザー、プレイントウ・オックスフォード

去年マリエンバートで』風なセットでのオープニング・シークエンス。

タキシード姿で銃を撃つ姿は60年代初め人々の目にはとても新鮮でした。

このオープニングによって、タキシードと言えばボンドのイメージを生み出した。

ジェームズ・ボンド スタイル2

唯一のカジュアルウェア
  • ブルーのギンガムチェックのボタンダウンシャツ、2つのパッチポケット、シルバーの金属ボタン
  • 水色の水泳パンツ、かなりタイト、コインポケットつき
  • ロレックスサブマリーナー6538

前作『007/ドクター・ノオ』にも出演したパター・ガール=シルビア・トレンチ(ユーニス・ゲイソン)が再び登場します。ボンドと逢瀬を楽しんでいる時に、マネーペニーから連絡があり、ボンドに「昔の案件を処理している」と言われ、「もう私は昔の案件!?」と軽く怒ってみせる役柄です。

この時にボンドが着ているシャツが少し大きい作りに見えるのは、元々発注していたシャツを監督のテレンス・ヤングが気に入らなかったため、自分が着ていたシャツを脱いでボンドに着せたためでした。

ユーニス・ゲイソンは、当初レギュラーの予定でした。しかし、この作品で、最後の出演となります。

それにしてもこの車に備え付けられた電話。当時は、余程の大金持ちのみが所有できるものでした。

ロレックス・サブマリーナー6538

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ジェームズ・ボンド スタイル3

MI6オフィススーツ
  • テーラー:アンソニー・シンクレア
  • ダークネイビーブルー・ウールスーツ、シングル、2つボタン、ナローラペル、シングルベント、サイドアジャスターつきスーツパンツ
  • ターンブル&アッサーペールブルー・ポプリン・シャツ、ターンバック・カクテル・カフス
  • ネイビーブルーシルクネクタイ
  • 白のリネンのポケットチーフ
  • ブラックレザー、3アイレット・プレイントウ・ダービー、ブラッチャー
  • ジェームス・ロック & カンパニーのオリーブブラウン・フェルト

60年代に2つボタンが流行したのは、アメリカにおいてであって、イギリスでは70年代まで2つボタンはほとんど受け入れられませんでした。アンソニー・シンクレアはそういう意味において、孤高のテーラーだったとも言えます。

ちなみにこのスーツの時に、ボンドがはじめてQ(デスモンド・リュウェリン)と対面しました。

マネーペニー(007のさくら)とジェームズ・ボンド。

前作に続きM(バーナード・リー)もレギュラー化しました。

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ジェームズ・ボンド スタイル4

イスタンブール到着時のスーツ
  • テーラー:アンソニー・シンクレア
  • チャコールグレーのデュピオーニ・シルク・スーツ、シングル、。低めの位置に2つボタン、ナローラペル、シングルベント、サイドアジャスターつきスーツパンツ
  • ターンブル&アッサー、ペールブルー・ポプリン・シャツ、ターンバック・カクテル・カフス
  • ネイビーブルーのシルクネクタイ
  • 白のリネンのポケットチーフ
  • ブラックレザー・3アイレット・プレイントウ・ダービー、ブラッチャー
  • ジェームス・ロック & カンパニーのオリーブブラウン・フェルト

公開当時、スクリーンで、ボンドがイスタンブールで5種類のスーツにチェンジしていたことが分かる人はいなかったはず。さらにVHSで自宅で鑑賞できるようになってからは尚更、ダークグレーとライトグレーの二種類のスーツを着ているなとしか認識できなかったはずです。

DVDとブルーレイ時代が、ファッション業界にもたらした最大の恩恵は、過去の映画の中から、ファッションの歴史を学んでいく膨大な教材が与えられたということです。

ジェームズ・ボンドは何気に左利きなのだ。

ショーン・コネリーはここでもまだ2つ目のボタンをしめちゃってます。

ジェームズ・ボンド スタイル5

イスタンブール滞在スーツ
  • テーラー:アンソニー・シンクレア
  • グレンチェックの綾織りのスーツ、シングル・ジャケット、低めの位置に2つボタン、スリムノッチラペル、シングルベント
  • ターンブル&アッサー、ペールブルー・ポプリン・シャツ、ターンバック・カクテル・カフス
  • ネイビーブルーのシルクネクタイ
  • 白のリネンのポケットチーフ
  • ブラックレザー・3アイレット・プレイントウ・ダービー、ブラッチャー

本作はメキシコの名優ペドロ・アルメンダリスの遺作です。

撮影時、すでに末期癌だった彼は、撮影終了後、ピストルで自害して果てました。代表作は、1948年の『三人の名付親』。

グレンチェックがよく分かる写真。

ジェームズ・ボンド スタイル6

イスタンブール・ロマキャンプスーツ
  • テーラー:アンソニー・シンクレア
  • チャコールグレー・フランネルスーツ、シングル、低めの位置に2つボタン、ナローノッチラペル、サイドベンツ
  • ターンブル&アッサー、ペールブルー・ポプリン・シャツ、ターンバック・カクテル・カフス
  • ネイビーブルーのシルクネクタイ
  • 白のリネンのポケットチーフ
  • ブラックレザー・3アイレット・プレイントウ・ダービー、ブラッチャー



作品データ

作品名:007/ロシアより愛をこめて From Russia with Love (1963)
監督:テレンス・ヤング
衣装:ジョセリン・リカーズ
出演者:ショーン・コネリー/ダニエラ・ビアンキ/ロバート・ショウ/ロッテ・レーニャ

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