エリザベス・テイラー

エリザベス・テイラー4 『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない』1(2ページ)

    作品名:ヴァージニア・ウルフなんかこわくない Who’s Afraid of Virginia Woolf? (1966)
    監督:マイク・ニコルズ
    衣装:アイリーン・シャラフ
    出演者:エリザベス・テイラー/リチャード・バートン/ジョージ・シーガル/サンディ・デニス



    醜い美魔女になるためにするべきこと。

    『クレオパトラ』(1963)のエリザベス・テイラー。

    絶世の美女クレオパトラを演じたリズ・テイラーが、その2年後に醜い中年女を演じました。

    両作品の衣装デザインを担当するのはアイリーン・シャラフです。

    本作が、映画史的に重要な点は、60年代半ばまでアメリカ映画を支配していたヘイズ・コードという時代遅れな検閲システムを打ち崩し、『俺たちに明日はない』(1967)から始まるアメリカン・ニューシネマの扉を開いたことでした。

    しかし、ファッションという観点から見れば、〝醜い中年女〟が主人公の本作は、全く魅力のない作品に見えます。しかし、実際は本作ほど、ファッションという概念において、思惟的な作品は存在しないのです。ファッション・デザイナーとヘアメイクが、60年代当時最高峰の美の化身とまで言われたエリザベス・テイラーを、ただ醜いのではなく、醜い美魔女に変身させたのでした。

    「もし50代のベティ・デイヴィスが原作者の意向どおりに、主人公のマーサを演じていたら、退屈な作品になったかもしれない」とワーナーの首脳部に言わしめた、本作の魅力は、間違いなく、「美しい存在が、醜い存在へと転換する姿」を見る刺激であり、美女が醜い中年女を演じたのではなく、実際のところは、何かが欠けている美魔女を演じている点に面白さがあるのです。

    リズ・テイラー改造計画は、『クレオパトラ』の衣装デザイナー・アイリーン・シャラフ(1910-1993)と、ヘアドレッサーのシドニー・ギラロフ(1907-1997)、そして、『素晴らしき哉、人生!』(1946)、『ジャイアンツ』(1956)、『リオ・ブラボー』(1959)、『マイ・フェア・レディ』(1964)、『グレート・レース』(1965)、『ダーティハリー』(1971)などのメイクアップを担当したワーナーの主任メイクアップ・アーティストのゴードン・バウ(1907-1975)の3人と、リズ自身の力によって為されました。

    まずリズ・テイラーは、太りやすい体質なので、普段は節制していたことを辞めることから始めました。ここぞとばかりにイタリア料理や、アイスクリームなどの甘いものを大量に取り、14キロ体重を増やし、70キロ台になりました。そこに、シドニー・ギラロフが白髪交じりのぼさぼさのウィッグを装着させ、ゴードン・バウがラバーを使った老化メイクアップを施し(但し二重顎は天然のもの)、更にけばけばしいマスカラとリップを塗りたくりました。そして、最後に、アイリーン・シャラフが、52歳のマーサ(リズは撮影当時33歳)という、だらしなく太った、底意地の悪い中年女の役柄に相応しい衣装を用意したのでした。



    ブルガリのエメラルド・ブローチ

    『クレオパトラ』で出会った二人は、1964年3月15日にモントリオールで5度目の結婚式を挙げる。

    前夫エディ・フィッシャーと分かれた9日後の挙式だった。

    3月という季節にマッチした春の祭典ウエディングドレス。

    リズ・テイラーこそ、ヘッドドレスの似合う最後のハリウッド女優でした。

    このブルガリのブローチでバートンはリズにプロポーズした。

    エリザベスが知っている唯一のイタリア語は、ブルガリだ。

    リチャード・バートン

    ブルガリ公式ホームページ

    『クレオパトラ』ではじめて衣装を担当してもらってから、リズ・テイラーが信頼することになった衣装デザイナー・アイリーン・シャラフ。リチャード・バートンとの1964年3月15日の結婚式のために、ウエディング・ドレスのデザインを彼女に依頼しました。

    カナリア・イエロー色のシフォンのベビードール・ドレス。ウエディング・ドレスには滅多に使われない大胆なイエロー・ドレスを飾り立てるアイテムは僅かに二つのみ。それは編み込んだアップヘアにヒヤシンスとスズランのヘッドドレスと、18.61カラットのエメラルドとペアシェイプのダイヤモンドに囲まれたブルガリのブローチというシンプルさでした。

    シンプルな装いだからこそ、リズ・テイラーの華やかな美貌は、幸せの絶頂の中で、ジュエリー以上の輝きを放っていたのでした。そんな彼女が、マーサという醜い美魔女を演じたからこそ、この作品は、永遠の輝きに包まれたのでした。



     What A Dump! 「プ」で唾を飛ばすように!

    二人の日常とも言えるようなリアルな演技。リズとバートンの相性は最高でした。

    当時33歳にしてイタリア女のような貫禄。

    監督のマイク・ニコルズとの打ち合わせ。

    ダッフルコート姿でブランコに乗るリズ。

    マーサ・ルック1
    • ベージュ色のダッフルコート
    • 着物のようなネックラインのブラックドレス
    • 黒のパンティストッキング
    • 黒のピンヒールパンプス



    1962年、ブロードウェイにて公演されたエドワード・オールビーのこの戯曲は、初演後すぐに一大センセーショナルを巻き起こしました(1963年度トニー賞演劇作品賞受賞)。当初オールビーは映画化にあたり、ベティ・デイヴィスジェームズ・メイソンの起用を希望していました。そのこともあって、冒頭で、ベティ自身の主演作『森の彼方に』(1949)からの引用のセリフ「What A dump!」を彼女自身が言い放つことを希望していたのです。それは、リズのように唾を飛ばすような言い方ではなかったのですが、後にベティ自身がそのマネをする程に、本作を代表するアイコニックなシーンとなりました。

    エンディングのような静かなオープニングから物語は始まります。そして、くわえ煙草に、醜い美魔女の風体のリズ・テイラーと冴えない中年の夫に扮したシェイクスピア劇の名優リチャード・バートンが現れるのです。「What A dump!」と吐き捨てるリズのちぐはぐなファッションと醜いだけとは言い切れない不思議な容貌に人々は戸惑います。そこには醜さの中にも、リズ・テイラーの眠れる美が秘められているからです。

    しかし、そんな心構えも、冷蔵庫のチキンにかぶりつきながら、話すその姿によって見事に打ち砕かれ、果ては、ゲストの若夫婦が訪問した時に、夫の策謀に引っかかり、ドアを開けた瞬間に、ゲスト二人に向かって「ガッデム・ユー!」と怒鳴ってしまい、取り繕うように髪形を直すその瞬間に、新たなる期待感がリズ・テイラーに対してふつふつと沸き起こるのです。この作品の魅力。それは、ファッションとヘアメイクと女優の演技力の巧みな共犯関係に私達が引き込まれていくところにあるのです。

    主役の二人は、契約上、午前10時以降にセット入りするという条件になっていました。そして、やってきて、二時間かけてヘアメイクを行った所で、ランチタイムとなり、頻繁にやってくる友人達とカクテル付きのランチを取るために外出するのでした。やがて夕方前に戻り、ヘアメイクを直し、撮影に取り掛かるのでした。日によっては、戻ってこない日もありました。契約上、二人を午後18時以降には撮影出来ないので大変でした。

    その為撮影は予定通りに終了せず30日超過し、マイク・ニコルズは途中解雇の危機に立たされました。初めての監督作品であり、経験のないニコルズは自分にこう言い聞かせていました。「このとんま、何も知らないなら、知っているふりをするんだ!」と。そんな彼が本作を撮ることが決まり、膨大な映画を見た中で、最も多くを学んだ映画はリズ・テイラーが主演した『陽のあたる場所』だったのでした。



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